異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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曜力艦アフェランドラ、大海を統べしは神座の業編

  喜ぶ部分が違う2

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「うーむ、やっぱ華やかさが無いな。我らが男湯は」
「何を言っとるんだ。さっさとこっちに来い」

 入るなり簡素な脱衣所にわびしさを感じてしまったのだが、マグナは特に何も感じていないようで、さっさと風呂場のドアを開けていた。
 ……そういえば、マグナって女湯に入っても別に照れもしなかったよな。

 今は職人モードだからかもしれないが、しかし前に銭湯で一緒に風呂に入った時も女性には目もくれなかったしなあ……。男性が好きオスが好きって言うよりも、単に異性に興味が無いだけなのかね。
 勿体もったいない、本当に勿体もったいない。頭が良くてイケメンでその上こんなに気が使えるのに、どうして本人にその気がないんだろう。神様ってのは本当に意地悪だ。

 俺がこのスペックなら絶対に女の子にアタックしてモテモテハーレムを築いて……いや俺の世界では外聞が悪いか。でもファンクラブとか作られてみたい。いやでも俺の世界の女子は一度怒ると怖いから、やっぱこの世界でハーレム作りたい。
 ……ってそうじゃなく。

「とにかくお前は勿体ないな!」
「風呂は取りやめにするか?」
「ワーッごめんなさいごめんなさい!! 土下座するから入らせてくださいぃ」

 俺が悪かった、ハーレムの事を考えた俺が悪かったんだ。
 両手を合わせて深々と頭を下げると、マグナは「ふふっ」と笑った。

「お前は本当に調子が良いな。まあいい、こっちだ」
「へへへ……」

 土下座する前に許してくれるし、やっぱマグナは優しいなあ。
 思う存分相手の甘さに甘えつつ風呂場に入ると、そこには落ち着いた色のタイルが並べられており、女湯と比べたらやはりシンプルな感じは否めない。

 別に俺達も可愛い風呂場に入りたいって事じゃないんだが、なんかこう……実は男って「シンプルなら満足だろ」みたいな投げやりデザイン多くねえか。
 失敬な。俺はこの壁に竜の絵でも描いて貰いたいんだが。

 ってまた余計な事を考えてしまった。これではマグナに失礼だ。心の中の邪念を消し去りつつ浴槽の方を見やると、そこには普通に給湯器が取り付けられていて、これまた普通のお湯がなみなみと湛えられていた。

「…………これは……お湯に入ると効果が発揮はっきされるタイプ?」
「言っている事がよく分からんが、まあ見てろ」

 何だか自信満々だな。よし、じゃあ見せて貰おうじゃないか。
 給湯器を何やらいじり出すマグナを見つつ、腕を組んでおとこの構えで待っていると……不意にボコボコと何か音が鳴り始めた。
 ヒィッ、な、なんだ!?

 思わず飛び退いてしまったが、恐る恐るマグナの背中から給湯器を覗いて見る――――と、管からは何やら青色の泡がモコモコと湧き出て来ていた。

「あわ?」
「ふふふ……ツカサ、この色に何か見覚えはないか?」
「色……」

 青色と言えば海や空だが、マグナが言いたいのはそう言う事じゃないだろう。そう例えば、俺に関係あるような色を考えろと言っているはずだ。
 となると……俺に一番関係ある青と言えば、回復薬、かな?

「もしかして、回復薬?」

 そう答えた瞬間、マグナはくるりと俺を振り返って、目を輝かせながらズンズンと俺にせまって来た。アッ、ヤバい、この雰囲気は……。

「そうだ! 見て驚いただろう、これが俺の発明した画期的な湯沸し曜具【どこでも温泉君・極楽二号】だ! よくみろツカサっこの泡は機械の上部に作られた回復薬の保存部から内部の水の流動を利用して冷却された物をサボンの実の石鹸に似た優れた成分を抽出したサボン液と混ぜ合わせて絶妙の配分で双方の成分を失わないように調合した通常の温泉よりも回復力が二倍」
「あーあーあー!」

 やっ、やめてください、言葉の洪水を浴びせかけるのは!!
 ちょっと後半何言ってるか解らないんですけどっつーか顔ッ、顔が近いっ、お前はハーレム漫画によくある鈍感系主人公かやめろ! 美形の顔を近付けるな!

「この機構の凄い所は本来物質を長時間内包できないと言われている汎用稼働式曜具を持ち運びと言う観点から内部の構造に金属ではなく木材を使った所で……」
「まっ、マグナっ、マグナ解った! 解ったから!! すげーのはわかった!」

 このままじゃ風呂に入る前に夜になる、どころか朝になってしまう。
 出来るだけ話を聞いてやりたいが、それも一息ついてからだ。っつーか、このままだとブラック達が「遅い!」とか言って乗り込んでくる可能性がある。

 仕方がないのでマグナの肩を掴んで揺らすと、目の前のイケメン顔がハッと気付いたような表情をして、俺を見やるとすぐに離れた。

「う……す、すまん……つい……」
「いやあ、久しぶりに聞いたよ。お前の曜具オタクっぷり」

 ちょっと面白かった、と言うと、マグナは顔を赤くして拗ねたように口を結んだ。
 イケメンなので全然おかしくないし、むしろ可愛げすらあるのでイラッとしたが、まあマグナだしそこは許そう。友達なら気にならない。

「……オタクとは何だ」
「え? えーと……一つの趣味とか物事にスッゴク詳しくて、でも詳し過ぎるせいで、一般人からはちょっと遠巻きに見られる人の事……かな……」

 何か良い風に言ってしまったが、でも要するにそう言う事だよな?
 オタクって元は悪い意味だったらしいけど、専門家レベルで一つの分野に精通している人って意味の方が強くなった今なら、良い言葉でも良いはずだ。
 つーか俺もエロオタクだし、そのつもりだし、ちょっと自分を皮肉ったような言い方としては良いんじゃないんだろうか。よりも気楽なイメージだし。

 あ、でも、マグナは実際技術士なんだからオタクとは違うのかな。

 今更ながらにメカオタクと考えていた相手の定義が揺らぎそうになってしまったが、マグナは苦笑して銀の髪を軽く掻き乱した。

「そうか。まあ、全くいい意味ってワケじゃなさそうだが、確かに俺はオタクだろうな。お蔭で、まともに話を聞いてくれるのはお前くらいな物だし」
「え、同じ研究者とかで話したりしないの?」
「金の曜術師は、五属性で一番協調性が無いからな。自分の話はしたくとも、他人の話なんぞ興味は無い。だから、友達のいる金の曜術師なんて俺くらいなものだ」
「そうなんだ……」

 よく「曜術師は属性ごとにこだわりが異なるため、曜術師同士でパーティーを組む事は滅多に無い」と言われるけど、その中でも金の曜術師は特別排他的なのか。
 それに加えて、今までの金の曜術師達は、プレインに呼ばれて曜具を作るってのが今までの「当たり前」だったから、余計に個人主義になって行ったんだろう。

 マグナも最初は「自分が作りたい曜具を作るからここに居る!」とか言って、悪の組織の根城に陣取ってたもんなあ。
 あの時も凄くメカオタクだったけど……思い出すとなんだかなつかしいや。

「おい、何を笑っている」
「ん? いや、出会った時の事を思い出しちゃってさ。お前本当、そういうメカ……曜具の事にはアツくて真剣でオタクだよなって」
「そ……そんなの、当然だろう。俺は金の曜術師なんだから」
「よく“好きこそものの上手なれ”って言うじゃん。本当に好きじゃないと、あんなに人がヒくほど熱く語れないと思うよ」

 俺には半分以上理解出来ない話だったけど、目を輝かせて喋るマグナは本当に曜具に関する話題を楽しんで話していた。
 正直もうちょっとわかやすく話して欲しくは有るが、マグナが楽しいなら別にいっかと思うくらい、純粋に楽しそうだったんだ。

 その姿は、なんだか……本当に、別の世界にいる俺の友達と同じで。
 嬉しさや懐かしさと同時に、なんだか切なかった。……そんな事言えないけどさ。

「……そうか。俺は曜具オタク、か。……お前にそう言われるのなら光栄だ」
「そ、そうかぁ? そんなに簡単に納得しちゃっていいの?」
「お前は俺に悪戯をするような奴じゃないからな」
「うぐ……そ、そんな事言って知らないからなー?」

 そんなに信用してたら、いつか調子に乗ってマグナも怒り出すレベルのドッキリをやっちゃうかも知れないぞ。俺だって人をおちょくる時はおちょくるんだからな。
 ちょっとおどけてそう言うと、マグナは片眉を上げて笑うばかりだった。
 ぐぬぬ、お前信じてないな。今に見てろよ……。

「ま、それはそれとして……これがお前に見せたかったものだ。……本当はもうちょっと驚く物を見せたかったんだが、色々と時間が無くてな」
「いや、これがすでに凄いよ。だって、回復薬って栓を開けたら劣化していく物だし、その上ソレを泡状にするなんて……こんなの俺でも考えつかねえもん。何かこう……大発明って感じがしていいよな!! ありがとうな、マグナ!」

 まあ先程までの話は置いといても、このアワアワ給湯器は素晴らしい。
 ようするに、回復薬を入浴剤のようにして使えるのだ。これはもう、異世界の発泡入浴剤と言っても差し支えない。バ○だ。○ブなのだこれは。
 泡風呂には何度か入ったコトが有ったけど、泡自体に効果を付けるのは間違いなくマグナだけのアイディアだろう。俺が思いつけなかったのはくやしいが、これを自力で考えて創り上げたのは本当に凄いよ。

 素直に称賛を送ると、マグナは照れたように顔を赤くして目を逸らした。
 まったくもー、そうやって判り易く照れて……本当イケメンってのはずるいよな。
 んまあマグナは俺のダチだし、許すけどね!

「あ、ところで……マグナ、お風呂一緒に入るか?」
「ッ!? なっ、いきなりっ、つ、ツカサ何を……っ」
「何をって、風呂に入るんだよ。早くしないと泡が無くなっちまうぞ。それにマグナが作ってくれたモンなんだから、一緒に入るだろ? なあっ、早く入ろうぜ!」

 そう、そうだ。
 長々と喋ってしまったが、俺達の今の目的は風呂に入って疲れを癒す事だ。回復薬を無駄にしない為にも、早く入るべきなのだ。
 しかしいざ入浴となると、マグナは何故か二の足を踏みだして。

「そ……その……」
「あーもー脱衣所行くのめんどいな! ココで脱いで全部放り出せば……」
「わーっ!! ここで脱ぐな馬鹿ものっ!!」
「風呂場なんだから脱ぐだろ!? なんで俺が怒られるの!」

 そんな顔を真っ赤にして怒んなくたっていいじゃないか。何がおかしいんだ。
 風呂場だし同性なんだから恥ずかしがる事なんて無いだろう。
 むしろ俺はマグナとまた一緒に風呂に入りたいのに、何で嫌がるのだろう。
 ハッ。もしかして俺みたいなガサツな野郎とはお風呂に入りたくないって事か?

「マグナ、俺とは風呂に入りたくないの……?」

 ズボンを脱ごうとするマヌケな状態のままマグナを見上げると、相手は真っ赤な顔を歪めながら、俺を見つめ返して更に顔を赤く染める。
 もう目の赤さに追いつくんじゃないかと言う程の色になっていたが、やがてマグナは震え出し……ついには、慌てて風呂場から逃げ出した。

「おっ、俺は今度にする! 外で待っているからお前だけ入ってこい!」
「え!? あっ、ま、マグナ…………行っちゃった……」

 イケメンらしくない感じでドタバタと足音を立てながら、マグナは風呂から出て行ってしまった。……一緒に入って楽しみたかったのになあ……。
 はあ、仕方ない。俺一人でさっさと入るか……。

 早く入ればブラック達も回復薬の泡風呂に入れるだろうし……これですぐに効能が出たら、次はシアンさんのお風呂にも泡風呂を投入して貰おう。
 そうとなったら早速入浴だな!

 気持ちを切り替えてズボンと下着を脱ぐと、すぐさま脱衣所のかごにポイポイと服を全部投げ入れて、俺は体にお湯を掛けた。
 風呂に入る前にまず体を洗う。これ基本中の基本。
 お湯を汚さない為にも必要だけど……ああ早く入りたい。絶対楽しそう。

 モコモコと青い泡を浮かべる風呂をチラチラ見ながら体を擦っていると……不意に、脱衣所の方から何か音がした。
 なんだろうかと思っていると、ややあって風呂場の戸を開けられる。
 冷たい外気と共に入って来たのは……意外にもクロウだった。

「あれっ、クロウ。ブラックは?」
「オレに負けたので一回休みだ。……と、何だこの風呂は。大惨事か」

 何だかよく分からないが、一緒に入ってくれるなら嬉しい。
 しかし……上がった後にブラックに色々言われそうだなあ……。
 まあ良いか、いつもの事だもんな……。












※あんまり進まなかったスミマセン…

 
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