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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
恋人だから頑張りたい2
しおりを挟む「あれ、ツカサ君今日はそんなにはしゃがないね。お風呂楽しくない?」
は、はしゃいでねえよ。
あの……あれだ、以前のリアクションは、見た事の無い風呂だったからスゲーってなってただけで、ジムなんかにある普通の家族風呂っぽい奴に感動しないだけだ。
だから、別に風呂ならはしゃぐみたいなんじゃないんだからな。
べ、別にお前と一緒だから変になってるとかじゃないんだからな!!
……って、それじゃ意識してるも同然じゃないかよぉおおお!
違うっ、違うんだっ、俺は期待なんかしてない、そういうの全然違うからああ!
「ツカサ君?」
「うぐっ、う、な、なんでもない……」
「まずは体を洗うんだよね! ささ、洗い場に行こうか」
肩を強く掴まれ言うがままに移動させられ、俺は風呂椅子の上に座らされる。
しかしブラックは全然座らないので、どうしたんだと背後の相手を見やると、何故かニヤッと笑われた。な、なんだよ気色悪い。
「なに……?」
「所でさ、ツカサ君。ちょっと見ない内に結構体に傷が出来ちゃってるけど……あの駄熊と二人っきりの時、何かあったりしたのかな?」
「…………っ!」
思わず体を強張らせてしまった俺の肩を、ブラックの大きな両手がゆっくりと擦ってくる。その手つきがいつもと違う感じなのが解ってしまって、俺はぶるりと身震いしてしまった。だって、こんなゆっくり肌の産毛を撫でるみたいにして触られたら、誰だって反応しちまうよな。そうだ、そうに決まっている。
だけどブラックの野郎は俺が怯えたと思ったのか、片手をゆっくりと見せつけるように前へ降ろしてくる。そうして、俺の胸の真ん中らへんを指で柔くこすった。
「っ、ん……っ」
「ここ、転んだりぶつかったりしただけじゃ、こんな傷にならないよね? 治りかけてて本当にちっちゃくなってるけど……ツカサ君の回復力を考えたら、これって相当深くて酷い傷だったって事じゃないかなぁ。……ねえ、何が有ったのかな?」
確かにそこには親指くらいの大きさの傷がまだ残っている。
こんなもん汗疹だよって言えばいいと思って気楽に考えてたが、確かにブラックが言う通りだ……。俺の自己治癒能力は凄まじい。最近は、かすり傷くらい一日あればすぐに治ってしまう。かさぶたとかまるで出来ないレベルなので、あれは俺が元々持っていた人間的な回復力とは全く違う物だろう。
だから、人知を超える力ならば当然クロウに手酷くやられた時の傷もすぐ治る……はずだったのだが、手首やら胸やらわりと本気でぐっさりやられてたのか、それとも何か理由があるのか、クロウがつけた傷は一日では治らなかったんだよなあ……。
だから、俺もここ数日はブラックが求めて来ないかヒヤヒヤしてたんだが、それも見抜かれていたとは。やっぱコイツ怖い、なんか怖い。何でこんな名推理するの。
「……答えられない?」
謎の洞察力による名探偵っぷりに驚いているのを黙秘していると勘違いしたのか、ブラックはあからさまに不機嫌そうな声を俺に吹きかけて来た。
いやいや違う、違うから。でも答えにくいのは事実なんだよな。
……しかし、これはちゃんと言わないとって思ってたコトな訳で……。
だったら今、ちょっと断わっておくくらいはした方が良いんじゃなかろうか。
だ……だって……その……俺達、恋人、だし……。
よし、い、言うぞ。こういうのは正直に言わないとな。
「その……じ、実は……クロウとちょっと喧嘩して、取っ組み合いになって……。でも仲直りしたからな!?」
「それは見れば判るよ」
「あ……えっと……で、でな? それで、色々話して……その……結果的に、お前に話すべきことを前倒しで決めちゃった事がありまして……」
うう、返答がない。怖い、背後を振り返るのが怖いよ。
胸の傷痕を指がぐりぐりしてて息苦しい。馬鹿力で押されているもんだから、圧迫されたようになって俺は思わず顔を歪めてしまった。
だが、ブラックはそんな俺を許してはくれない。
「何を決めちゃったのかなあ」
ねっとりとした声で問いかけてくる。
絶対悪い事を約束したんだろうとでも言いたげだが、負ける訳にはいかない。
そりゃ、まあ、ブラックにとっては悪い事かも知れないけど、ずっと一緒にいるという約束を交わした相手なんだから、相手にばかり損をさせてはいけない。
だから俺は胸をぐりぐり指で押されるのに必死にで耐えて、ブラックに答えた。
「何でも正直に言え、あまえろって、言った」
そう言うと、俺の胸に苦しさを与えていた手が止まる。
もしかして、ブラックには意外な言葉だったのか?
「そ……そうなの……? いやでもツカサ君の事だから何かもっとやらしい約束とかしたんでしょ、僕には分かるんだからねっ」
「やらしいって何だよ! 俺は変な約束なんてしてないぞ!? そりゃあ、その……甘えろって言ったからクロウがわりとグイグイ来るようになっちゃったけど……」
「あーっ! 結局やらしい! やらしいことになってる!」
「だからそう言うつもりで言ったんじゃないってば!」
ああもうなんでコイツはえっちな方向にばっかり話を向かわせようとするんだ。
そりゃグイグイ来るとは言ったけど、元はと言えばそう言う話じゃなくてだな。
でもまあ、そんなのちゃんと話さなきゃ解らない事だし……。
……仕方ない。クロウを交えて三人で話そうと思っていた事だけど、いま話さなきゃブラックも納得してくれないだろうし……事の顛末を説明しよう。
と、言うわけで、素っ裸のまま俺は掻い摘んで火山であったことを話した。
クロウと喧嘩していたことや、色々と拗れて取っ組み合いになったこと、それに、何がそうさせたのかって事も、だいたいは話した。一応、俺を無理矢理襲って嫌われようとしていたって事も正直に。
案の定ブラックは背後で殺意極まる波動と声を漏らしていたが、俺はその恐ろしいオーラにも負けず、事実を話した。本当はクロウを擁護してやりたかったが、ここで庇ったら余計にブラックの心証を悪くしそうだったので、庇う事は出来なかった。
でも、その代わりに結局襲っても最後までは出来なかったって事や、クロウが怯えていた事も説明したぞ。俺の考えなしな行動のせいで、クロウが抱えていたトラウマを刺激してしまった訳だから、クロウばかりを責められないはずだ。
ブラックだって大人なんだから、そう言う事は解っているだろう。
それに……ブラックも、孤独がどんなに辛い事かを理解しているはずだ。大切な人に置いて行かれる怖さや悲しさは、一度味わってしまえば中々忘れられない。過去に何が有ったかは俺には分からないが、辛い事が有っただろうブラックなら、クロウの痛みも解ってくれるはずだ。……ブラックもクロウも、普段は言い合いばっかだけどお互いを認めてる所もあるわけだからな。
だからこそ余計に、クロウを酷く叱るような真似はして欲しくなかった。
ブラックだって前に似たような事をやったんだから、なおさら。
そんな俺の思いは、流石にブラックも察したようで。
「…………まあ……理解は出来るけどさあ。でも、ツカサ君を犯そうとしたことや、乱暴したのは許せないよ。だって、ツカサ君は僕の恋人だよ? 僕のものなんだよ? 普通なら重罪で首を落とされても文句は言えない。なのに、それなのに、あのクソ熊をもっと甘やかせっての?」
「嫌なのは解るけど……。うーん……じゃあ、どうしたら納得できる?」
まだ納得は行かないようだけど、しかしクロウの言い分も理解してくれたようで、ブラックはむっつりした顔で腕を組んでいた。
まあそんな顔をしているって事は、まだ許してないってことだよな。
でもクロウのためにもなんとか堪えて貰いたい……つーかもう何で俺がこんな事をしなきゃなんないんだろうな。俺男なんですけど、こんな面倒臭いハーレム作る予定なかったんですけど!
改めて考えると頭が痛くなってくる。
つーか俺は素っ裸で何をシリアスに話してるんだろうかと根本的な所からの疑問に頭を抱えていると、不意にブラックが呟いた。
「ツカサ君がもっと僕と恋人らしくしてくれたら気にならないかも」
「こ、恋人らしくって……例えば、どんな?」
今だって一生懸命そうしようとはしてるが、まあ、足りないってのは解る。
自分でも努力しなきゃって思うくらいなんだから、ブラックからすればダメダメって事なんだろう。だけど、それを改善する事でクロウを許してくれるなら、俺は素直に改善しますよ。ええ、二人が喧嘩しないで済むなら頑張りますとも。
しかし、ブラックが言う事はいつもぶっ飛んでるので、ちょっと怖い。
何を言われるのだろうかと再び背後の相手を振り返りながら問うと……――
「じゃあ、今から言うこと、素直に聞いてね? ツカサ君」
ニッコリと微笑みながら、ブラックは俺の体を強引に自分の方へと向けさせた。
…………嫌な予感しかしない。
やっぱ頑張ろうとか思わなきゃよかったかな……。
→
※えろが入らなかった_| ̄|○
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