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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
6.恋人だから頑張りたい1
しおりを挟む「お前、なんでここに居るの……部屋に行ったんじゃないの……」
「行ったけど、僕もひとっ風呂浴びたかったから出て来たんだよ~。ほらこれ、下着とか持ってるだろう? 待ち伏せした訳じゃないよ、本当だよ」
そう念押しされると余計に怪しいんだが……まあ、深くは追及すまい。
風呂は広かったし、一緒に入るだけなら別におかしい事も無いだろう。逆にコレで「一緒に入りたくない!」とか言ってたら、俺がおかしいからな。
そら男同士なんだから、一緒に入る時は入るんだよ。いくらブラックがスケベでも、何の理由も無い時にセクハラなんてする訳が無い。そう、そう、普通はする訳が無いのだが……いや、やっぱり不安だ。コイツスケベだもん、普通じゃないもん。
やっぱりやだ、入るのやめよう。
「じゃお前先に入ってこい。俺は後から一人で入るから」
「ええ~! 一人で入ったらつまらないじゃん! ねーねーツカサ君一緒に入ろうよぉ流しっこしたり遊んだりしようよぉ」
「おぬしの言葉からは邪悪なものを感じる。さらばだ」
「ツカサ君のいじわるー! いいじゃん恋人同士なんだし久しぶりなんだしいぃ」
そう泣き叫ばれながら抱き着いて来られて、思わずぐっと言葉に詰まる。
こここ恋人同士なんだし久しぶりなんだしって、お前抱き着いて来る奴があるか!
…………で、でも、そういえば、最近それどころじゃなかったから、体に触れる事はおろか、全くそういうコトはしてなかったような……。
ん、んんんけど、それは仕方ないじゃないか。エメロードさんのこともあったし、何故か温泉が動作不良に陥ってたし、それに俺はクロウにめちゃくちゃされたもんだから、治るまではブラックに見せちゃイカンとそう言うのは避けてたわけで……。
だから……し……仕方ない、かな……?
しかし、それはちょっとブラックに対して不義理なような気も……。
あの時はめまぐるしいスケジュールだったから、ブラックも空気を読んでえっちな事をしようってのは言い出さなかったけども……好きで付き合っている者同士としては、これは健全と言えるのだろうか。なんかこういうのも不健全なんじゃないか?
……普通の恋愛だったら、多分えっちなんて沢山してるんだよな。エロ漫画とかでもそういうもんだもんな、普通は性欲全開なんだよな!
だったら、俺達もちゃんとしなくちゃなのでは……でも難しいんだよなあ……。
俺は女の子にだったら性欲が湧くが、俺は男には興奮しない。だから、ブラックの性欲に応えているとは言い難い現状なわけで……。でも、ブラックの事を考えたら、俺だってちゃんとブラックに歩み寄らなきゃ行けないんだよな。
前にそう決めたんだから、ちゃんとしなきゃ行けないとは思うんだけど……。
「ツカサ君……僕ツカサ君とイチャイチャしたいなぁ……この前の温泉だって、余計な奴が沢山居て、ゆっくりセックスも出来なかったし……」
「お、お前なあ……」
あの一件については俺はまだ怒ってるんですけど。何終わった風に言ってんだ!
しかしそうは言えど、ブラックはちゃんと我慢してくれていた訳だし、恋人っつったらまあ、そういうコトをするのは普通だし、俺も別に……ぶ、ブラックとそういうコトするのが嫌いな訳じゃないんだし……。
……だったら、ちょっとくらいはブラックのお願いを聞いた方がいいのかな……いや聞いた方が良いんだよな。ブラックに歩み寄るって決めたんだし。だったら俺も、え、え、えっちするのに慣れないと……。
「ねえツカサくぅ~ん」
だーもー抱き着くなっ、今必死に慣れようとしてんのに、何でお前はそう俺を動揺させる事ばっかりやるんだよ!!
せっ、せっかく俺がちゃんと応えてやろうとしてんのにああもうっ!
「わ、わかったっ、わかったから!」
「ほんとっ?! ツカサ君お風呂一緒に入ってくれる!?」
「う、ううぅううう……ッ、も、もう行くぞ!!」
これ以上会話してたら頭が熱暴走を起こしそうだ。
クロウやエーリカさんに会話を聞かれてたら恥ずかしいし、もうさっさと移動してしまおう。お、俺だってやるときゃやるんだからな。そういうコトだって、ちゃんと出来るんだからな。
背後から圧し掛かって来る重いオッサンを引き摺りながら浴場へと向かう。
件の場所は意外にも三階に存在していて、俺の部屋からは近い。さらっと確認した限りでは、天井がガラスで出来ている内風呂という感じで結構清潔だった。
そこまで感動的な内装でも無かったし、ちょっとお洒落な家族風呂みたいな感じでとりたてて特別な部分は無かったが、まあ風呂桶に入れるだけでありがたいので文句は無い。俺にとって重要なのはお湯で体を洗える事であって、お風呂が露天かどうかって事ではないからな。うむ。
そんな訳で、風呂は良い風呂なんだが……今からブラックと二人で、全裸で入るのかと思うと、なんだか妙にドキドキしてしまう。いや、そりゃ風呂なんだから全裸になるのは当然なんだが、しかしこれから確実に怒るであろうことを想像すると、どうにも心臓がドキドキしてしまって苦しいって言うか、なんというか……。
……い、いや、期待してる訳じゃないぞ。絶対にそういうんじゃないんだからな。
俺は、その、今からされるかもしれない事を思うと、緊張してしまうってだけで。
「ツカサ君どしたの?」
そんな風にしょうもなくドキドキしてしまっているアホな俺に、わざとなのかなんなのか、ブラックは耳元で呑気な声を出してきやがる。
バカ、お前が変なこと言うから俺がこんな風になってんだよ。そう怒鳴って小突き回したいけど、それを言うとからかわれそうな気しかしないので何も言えない。
それどころか、今から何をするかを考えると余計に今くっついてるのが恥ずかしくなってしまって、俺は目を泳がせながらしどろもどろで言葉を躱すしかなかった。
「う……い、いや、なんでもない……」
とは言え、俺の声も正直者なようで、ぎこちなくて震えていてどうにもならない。
ああもうチクショウ、バカッ俺のバカッあほたれ。これじゃ意識してるも同然じゃねーかコンチクショー!!
「んん~? あれあれぇ~? ツカサ君たらそんなに可愛い声だしてどうしたのかなぁ~? ほっぺもこんなに美味しそうに赤くなっちゃってぇ」
「っ、や……っ」
耳元で低くて意地悪な声を吹きかけられて、頬をぬめる舌で舐められる。
動くたび項や首筋にブラックの赤いくせっ毛がさわさわ触れて来るのも相まって、今やっていることは普段のスキンシップとは違うんだって解ってし合って、俺の体は勝手に震えて反応してしまう。
ヒロインの告白にも難聴で対応する鈍感主人公なら、こんな事をされたってただのスキンシップとして流せるんだろうか。今は本当にその資質が欲しい。
なんで俺はこんな事で反応しちまうんだろう。本当に恥ずかしい。
ブラックが本当にえっちしたいのかどうかもまだ判らないってのに、俺の体は勝手にヤるもんだと思ってしまい、どんどん熱を上げて行ってしまう。
これじゃ俺の方が期待してるみたいじゃないかって思うと、どうしても悔しくて、恥ずかしくて……。どうしたらいいのか、解らなくなってしまう。
本当は、もっと格好良く、スマートにいきたいのに。
俺だって大人な恋人なんだぞって、ブラックの性欲なんて軽く受け止めてやんよってくらいに、男らしく受け入れる感じでいきたいのに。
なのに俺は、ブラックにえっちな事をされると、女みたいにこんな反応して……。
「ツカサ君……ほら、お風呂ついたよ……。さ、早く脱いで一緒に入ろうねえ」
ニヤついたスケベオヤジ丸出しの声が俺を押して、無理矢理脱衣所に入れる。
背後でカチャンと変な音がしたが、もしかしたら鍵を閉められたのかもしれない。こうなったらもう、その……一緒に、風呂に入る以外に選択肢はないわけで……。
…………うう……卑怯者な自分が嫌になる……。
自分で納得したはずなのに、なんでいつもブラックが作るきっかけに「仕方がないから乗ってやる」って感じにしか出来ないんだろう。そんなのばっかしてたら、愛想を尽かされても文句は言えないのに。
でも、分かっているのに、俺の意地っ張りな性格はどうしようもなくて。
ブラックだって、こんなのばっかじゃ悲しいと思ってるかも知れないのに。
「ツカサ君早く脱いで脱いで。ほらー、さっさとお風呂入ろうよぉ」
「あっ……ご、ごめ……」
悩んでいるうちにブラックはもう服を脱いでしまったようで、俺を急かしてくる。
いつの間にか体から離れていたから、そこはちょっと安心だけど……。
「…………」
な、なんか、ブラックの方が見れない。
なんでだろ、あんなたくさんえっちしてるのに、ブラックは全裸なんだって思うと、あの、な、なんか……なんかこう……無理……無理ぃいっ!
これも俺が意識してるから?
今からえっちな事するかもって思っちゃってるからなのか?
こ、こんなこと何度もあったのに、何で今更どきどきしちゃってるんだよ。
「ツカサ君まーだー?」
「う、わ、わかった、分かったから今脱ぐって!」
ブラックが近付いて来る足音だけで心臓が痛い。
こ、こんな状態になってちゃ世話ねえぞ。今からもっと凄い事するかも知れないのに、なんで俺は今更初体験みたいにドキドキしちゃってんだよ。
落ち着け、落ちつけ俺。えっちなことしたって当たり前じゃない、恋人だもの。
そうだよ、俺はブラックと恋人なんだから、一緒に風呂に入るのもえっちするのも当然の事なんだ。こ、こ。こここ恋人なんだからっ。
よ、よし、脱ぐぞ、脱いで風呂に入るぞ。でも今はまだブラックの顔が見れないのでちょっと待って。あの、あれだ。お湯を被ったらどうにかなるかもだから。
一生懸命自分にそう言い聞かせて勢いよく服を脱ぐ。でもやっぱり股間を曝すってのは何か心許なくて、タオルを巻こうとする。と。
「だーめっ。ツカサ君、僕にはもうナカまで全部見せちゃってるのに、今更隠す必要なんてないでしょ? ほら、取って」
そんなことを言われて、タオルを取られてしまう。
気付けば目の前には全裸で堂々としているブラックがいて……。
「ぅ……うぅ……」
「さ、ツカサ君……一緒に楽しく入ろうね」
そのまま肩を抱かれて、ゆっくりと歩くように促される。
何気なく肩を掴んだ大きな手にすらドキドキしてしまって、俺は本当に自分自身を情けなく思ってしまった。だって、これだけで心臓バクバクって……。
ああ、俺は風呂に入りたくて、風呂が楽しみなだけだったはずだ。
なのに、どうしてこなっちまったんだろう。あぁあ……。
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