異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編

32.常識人と異常な人の見分けは一目では難しい1

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   ◆



「で、それで……お前は首やら腕やらに包帯を巻いてる訳か」

 目の前のロサードが、物凄くウンザリしたような顔で俺を見ている。

 いや、俺にウンザリしたのではない事は解っている。だがしかし、俺としては現状が死ぬほど恥ずかし過ぎて、カッカしながらうつむく事しか出来なかった。

 だって。だってさ、誰が好き好んで「ケンカしたけどえっちして仲直りしました! この首や手の包帯はキスの痕を隠すためです!」とか説明したいと思う!? 俺はしたくねーよなんだそれ!
 人の恋愛話なんて心底どうでも良いのに、他人のえっちなんて知るかいな!

 コイバナというものが好きな女子ですらドンビキだろこう言うのは!

 なのに、俺が包帯を巻いて戻って来たばっかりにクロウ達に変な誤解をさせて心配をかけてしまってこんな事に……。あああこんな事なら素で帰ってくれば良かった。

 でも、それはそれで部屋に戻ったらゲッて思われるだろうし、俺も恥ずかしくて部屋に帰れなかっただろうし……ううぅ、ちくしょう、ブラックの野郎が知らない内に色んな所に吸い付きやがったからこんな風になったのに。
 なんでこういう時に限って体に痕を残すんだよ……。

「まあ、その……なんだ、ブラックの旦那とは仲直りしたんだな?」

 俺が部屋に帰って来た途端に慌てて駆け寄ってきたロサードは、自分の態度にちょっとバツが悪かったのか、頬をぽりぽりと掻きながら問いかけて来る。
 俺もこの話は早く終わらせたかったので頷くと、ロサードは深い溜息をついて俺の肩をぽんと叩いた。

「なんつうか……ご苦労さん……」
「……あ、あはは……」

 それしか言うこと無いよね、解るよ。
 だってこれ、ナントカは犬も食わないって奴だったワケだし……それを考えると、三人には迷惑をかけて本当に申し訳なかったとしか言えない。
 一晩中戻ってこなかったとか、そりゃ心配したくなくても心配するよ。
 しかも包帯巻いて一人で帰ってきたわけだし……。

「それよりツカサ、ブラックはどうした。まさか、そんな状態のお前を放って帰って来た訳ではなかろうな」

 部屋に入った瞬間ガタッと席を立ったクロウは、俺の包帯の意味が解って安心したのか、ロサードを押しのけて俺を抱え上げる。
 わしゃ子供かと思ったが、心配させた手前何も言えない。というか……さきほどの台詞は何だかブラックに怒っているような雰囲気だったので、俺は先にそっちを弁解する事にした。今回の事はアイツだけのせいじゃないしな。

「あ、あの、それはほら、エメロードさんとの約束があったからさ。ブラックには彼女の所に直行して貰ったんだ。だってもう昼前だし、相手に催促させないようにした方が良いんじゃないかって思って……」

 勿論もちろん二人で決めたんだぞ、とクロウに言い聞かせるように言うと、クロウは熊耳を不機嫌そうに後ろに倒すとムゥウと低く唸った。

「女の所にか。抱きに行くためにか。ツカサがこんな状態なのに放って行ったのか」
「お、俺はホラ、自己治癒能力があるし、時間が経てば治るから。それに……シアンさんの事だって、いつまでも手をこまねいてる訳にはいかないだろ?」
「グゥ……」
「だ、だからさ、俺達は仲直りしたし、ブラックの事も心配ないから……な?」

 機嫌を直してくれよとクロウのそっぽを向いた獣耳をモニモニと揉むと、クロウは無表情ながらも不機嫌そうだった雰囲気を、ちょっとだけやわらげた。
 お、耳が少しだけこっちを向いたぞ。よしよし、やっぱりクロウは大人だなあ。

「……ツカサは、なんともないのか」
「うん。大丈夫だから。……怒ってくれてありがとう、クロウ」

 そう言って、俺は目の前にあるクロウの頭をぎゅっと抱きしめた。
 ……ガラじゃないのは解ってるけど……でも、クロウだって俺の事を大事に思ってくれてるんだし、ブラックにしてる事をせがんできたりするんだから……このくらいは、我慢して抱き締めた方が気持ちが伝わるかなって思ったんだけど……。

「フッ、フゴッ……! つっ、つ、ツカサっ、ムッ、ンググ……!」
「えっなっなんか苦しそうだけど大丈夫?!」
「いやツカサ、それクロウの旦那興奮してんだって」
「全く、相変わらずの頭の軽さですねえ……」

 すぐ横に居るロサードと、部屋の奥で座っているアドニスに同時につっこまれる。
 なに、なんで呆れられてんの。

 いやだってハグは普通だろ、男同士のハグで興奮せんだろ!
 クロウだって普通に抱き着いて来るしこう言うのは当たりま……クロウの熊耳がめっちゃ毛が膨張してそわそわしてる……。

「く、くろう」
「ンンッ! ち、違うぞツカサすはーっ、すはー、断じてこの行為と匂いに興奮しているわけではすーはー」
「興奮してるじゃないっすか」
「してますねえ」

 二方向からのツッコミに流石のクロウもウグと声を詰まらせる。
 それが何だかおかしくて、俺はクスクスと笑ってしまった。

 ……なんか、やっと元の状態に戻れたみたいで、嬉しくて。
 不安が消えただけでこんなに違うんだなって思うと、なんだか不思議だった。

「ツカサ……すまん……」

 興奮した自分を恥じたのか、今度は耳をぺたりと伏せてクロウは謝る。
 でもそんな姿がなんだか可愛く思えて、俺は首を振った。

「いいよ。いつものことじゃん」
「ツカサ……!」

 そう言うと俺を抱き締めて来るクロウにまた笑みが浮かんでしまう。
 しかしそんな俺達に呆れたような顔をしながら、アドニスが近付いてきた。

「それよりツカサ君、体調の方はどうなんですか? どうせあの不潔中年と交尾でもしてたんでしょう?」
「ばっ……おっ……お前なあ!!」
「体調は?」

 いやに真面目になった声に、俺はハッとする。
 そうだ、ブラックはえっちをすると無意識に俺から曜気を吸い取ってしまうんだっけ。でも今は別になんともないな。体の色んな所が痛いけど、それはまあ、俺の体がひ弱なだけだろうし……。

 筋肉痛ではあるけど、死にそうな感じはしない。
 ということは……平気って事かな?

「えーと……体中がギシギシ痛いけど、それ以外は特に……」

 そう応えると、アドニスは眉を上げて意外そうな顔をしつつ顎に手を当てブツブツと何か呟き始めた。なんか「変化が起こった? いや、もしくは慣れか……」などと言っているが、小さな声過ぎてよく分からない。研究者系のタイプってなんで小声でブツブツ言うんだ。すげえテンプレだぞ。
 うーん、テンプレは異世界でも通用するんだなあ……。

「……問題が無いのなら構いませんが……今日は、出歩くのを極力控えて下さいね。君の体調はまだ把握はあくできていません。何が起こるか解らない状態なんですから」
「う、うん」
「あと、今すぐあのリングを付けて下さい。一晩中ともなると、流石に君の体が心配です。ちゃんと君の体調を把握する為にも必要なので」
「え゛……」

 リングって、あれか。アレだよね。
 俺の愚息と耳につける、俺の曜気の流れを把握するツール……。
 いや、まあ、そりゃ、今なら測定にうってつけだろうし、アドニスも俺の事を心配してくれているってのは解るんだけど……でも、その……いまの俺のちんちんは、触ったら痛い状態なのでちょっと……。

「嫌なら私がつたで縛って無理矢理……」
「わーっ、わーっわー!! 解った付けます付けます付けますから勘弁して!!」

 頼むからこの場所で衆人環視プレイはやめてくれ。
 慌てて肯定すると、アドニスは嫌味な顔でクスリと笑った。こ、この野郎……また俺をおちょくりやがったな……!

 これだからこいつ嫌いなんだよもー!!
 いや本当には嫌いじゃないけど! もう!!

「では、渡しますので付けて下さいね」
「ううぅ……」

 アドニスに見覚えがある大小のリングを二つ渡されて、俺は思わずうめく。
 そのリングを覗きこんで、ロサードが不思議そうに俺を見た。

「なんだこれ。ツカサ、耳につけんのか? 手伝ってやろうか」
「い゛っ……い、いい、大丈夫! あの俺、便所行ってくるわ!」
「なんでいきなり」
「いいから行くの! クロウ降ろして!」
「うぐぅ」

 うぐぅじゃないようぐぅじゃ!
 クロウだってこのリングをどこにどうやって付けるか知ってるくせに!

 慌てて降ろして貰いドアへと向かう俺に、ロサードが背後から声をかける。

「おい、便所なら部屋にもあるんじゃねえか」
「この部屋でしたくないの!!」
「ロサード、メスにはメスの事情が有るんですよ」
「ウム」
「だ――――ッ!! メスメス言うんじゃねえええ!! 覚えてろよお前らあああ!」

 でも今は部屋から脱出する!!
 もうこれ以上ロサードに質問されてボロを出したくなかったからな。ふう。
 それに……俺には、部屋を出た理由がもう一つあるんだから。

 ドアを閉めて数秒、中からクロウ達が出てこない事をしっかり確認してから、俺は溜息をついてドアに寄り掛かった。

「……たぶんもう、あの二人も部屋に行ってるよな……」

 そう。
 俺が部屋を出たのは、エメロードさんの従者二人と密談をするためだ。
 ブラックには一応話しておいたけど、クロウ達に言うと「危ないからやめろ」って言われかねないからな……三人とも意外と大人で常識人だし。

 でも、俺だってシアンさんを助ける為の情報が欲しい。それに、エメロードさんが約束を破る人だとは思えないけど、すべての情報を渡してくれるとは限らないんだ。ブラックは彼女の事を「一筋縄ではいかない」と評していたし、なにより百戦錬磨の女王様だからな……さしものブラックでも、手玉に取られる可能性がある。

 だから、得られるものが有るなら俺だって行動したい。
 俺に何が出来るかは解らないけど、とにかく行かなきゃ。

 ……まあ、この世界協定本部では、滅多なことは出来ないって解ってるから、俺も安心して一人で特攻できるんですけどね。
 それに、クロッコさんはともかく、ラセットは信用できる奴だし。
 ブラックも頑張ってるんだから、俺も気合を入れなきゃ。

「…………よし、じゃあ……行くか」

 そのまえに……トイレでこの忌々しい二つの輪っかを嵌めてからな!!

 ……ああもう本当情けない……。










 
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