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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
31.ピロートークは面倒臭い
しおりを挟む※遅れてすみません……(;´Д`)
目が覚めた時って、ぼんやりした感覚が抜けきらない内に意識が蘇って来て、周囲の音や自分が今どうなってるかってのが解って来るよな。目を瞑ってても、自分の状態が解るんだ。けど、俺が起きて最初に感じたのは、あまりにも酷い感覚だった。
「ぃ゛……ぎ……」
い゛……い゛だい゛……っ。
なにこれ、股関節が痛い、腰も痛くて動かせないしなんなら体中痛い。
そ、それに…………ケツ、と、いうか……なんか、下半身全体がおかしい。足が攣った後のような変な痺れ方をしてるし、足の付け根も鈍い感じで痛い。
ケツなんてもう、なんか……入ってるみたいな入ってないみたいな……い、いや、それはどうでもいい。とにかく体中が痛い。
原因は解っているが、こんな風になるなんて聞いてない。
途中から覚えてないんだけど、俺、ブラックに好きにしてって言ったあといきなり突っ込まれて、そこからガンガンやられて三回目ぐらいから記憶が……。
……ま、まさか、アレ以上ズコバコされたんじゃあるまいな……。
…………無事だったんだし、深く考えないようにしよう。うん。
それにしても、体がきつい。
目を開けたらまさか全身打撲なんて事になってないだろうな。いくら俺が自己治癒能力があっても、そんなすぐには治らんぞ絶対。
これで放置されていたらどうしよう。そう思い、ゆっくりと目を開けてみると。
「えへ……。おはよ、ツカサ君」
自分の目の前に、鮮やかな赤い色と笑っている菫色が見えた。
「ぶらっく……」
うわ、やだ。声が掠れてて自分の声じゃないみたいになってる。
思わず口を押えようとして腕を動かそうとしたけど、痛みで動かなくて顔が歪む。
そんな俺の様子にブラックはクスクスと笑って、顔を近付けて来た。
「体、痛いよね。一応ちゃんと処理はしといたから安心して」
言いながら、俺の体を抱き締めて来る。
どうやら下着とシャツを着せてくれてたらしいけど……それに気付くと、なんだか凄く恥ずかしい。だ、だって……俺、失神してるヒドい姿の時に、後処理して綺麗にして貰ってるんだし……今更だけど、なんかすげえ情けない。
こういう時は……お礼を言うべきだよな……たぶん……。
「あ……ありがと……」
うう、語尾が小さくなってしまった。
でもやっぱ「俺の愚息を拭いて、体やケツを洗ってくれてありがとう」とか普通に言えるワケないだろう。どんな奴だよそれをさらっと言える奴ってのは。
想像して神妙な顔つきになってしまった俺に、ブラックは相変わらずくすくすと笑って額をくっつけて来る。少し汗ばんだ額がしっとりと張り付いて来て、ブラックの吐息が頬に掛かりくすぐったい。でも、嫌じゃ無かった。
「ツカサ君の体を綺麗にするのは好きだから、気にしなくていいんだよ。むしろ、僕がこんなにツカサ君をドロドロにしたんだって確認出来るから、興奮するしねえ」
「ばっ……お、お前、なんてこと……ッ」
「えへへ~、ツカサ君可愛いっ」
語尾にハートマークでもつけたような浮かれ声で、ブラックはちゅうちゅうと頬に吸い付いて来る。俺を抱き締めて、えらくのびた無精髭だらけの顔を押し付けて来るもんだから、チクチクしたり痛かったりして仕方がない。
やめろと言いたいんだけど、掠れた声じゃ上手く牽制できなかった。
なのに、ブラックは何を勘違いしたのか、興奮したように口元を緩ませて俺の頭にぐりぐりと顔を押し付けてきやがる。
「ば、か……っ」
「んんん~~っ! 可愛いなぁもうツカサ君はぁあああ!」
「な、なんだよっ、やめろ……っ」
「そんなえっちな声でバカって言われても、興奮しちゃうだけだよぉお! んもー、すぐそうやって僕を興奮させるんだからツカサ君たらっ」
いや興奮すんじゃないよ。アンタまだやりたいのかよ!
やめてくれよと顔を歪めるが、ブラックは俺の表情などお構いなしにでれっとして俺をぎゅうっと抱き締める。
また変な事を言うのだろうかと思って身構えていたが――――
ブラックはそのまま、俺の髪に顔を埋めて真面目な声で呟いた。
「ツカサ君、嬉しい……嬉しいよ……やっと僕の事、求めてくれて……」
「ブラック……」
掠れた声で聞き返すと、ブラックはゆっくりと体を引いて、また俺と顔を見合わせて来る。その顔は、穏やかな笑みを浮かべていて。
息を呑んだ俺に、ブラックは菫色の瞳をきらきらと潤ませながら、俺の髪を大きな手で優しく梳いた。
「僕ね、ツカサ君が『抱いて』って言ってくれた時、凄く嬉しかったんだ。それで、興奮しちゃって、ついついツカサ君の事を気持ちよくもしないで犯しちゃったけど……体、つらいよね。ごめんね、ツカサ君……でも、そのくらいツカサ君を欲しいって思って、どうしようもなかったんだ……」
申し訳なさそうにハの字に眉を下げるブラック。
その顔はいつものブラックで、怒っているようにはとても見えない。
……ほんとに、許してくれたんだ……。
そう思うと、なんだかずきずき痛む目の奥がまた熱くなってくるようで、俺はその感覚を振り払うようにぎこちなく首を振った。
「いい、よ……。だって、俺……アンタに、そうされたいって思ったから……恋人なら、ちゃんと、言うべきだって思ったから……言ったんだ」
「ツカサ君……」
掠れた声のせいで、うまく言葉が喋れない。
だけど、聞いて欲しかった。
俺も、アンタの事を大事な恋人だって思っているという事を。
「俺…………こんなん、だから……またすぐ意地を張っちまうかもしれない……でも、アンタのこと……好き、だから……ちゃんと、恋人だって、思ってるから……。だから、一緒にいさせて……ほしい……」
そう言うと、ブラックは目を丸くして震えて、緊張したような動きでゆっくりと俺の頬を両手で包み込んだ。
「っ…………」
震える唇が、ゆっくりと合わさって来る。
カサついた相手の唇がいつもよりも遠慮がちに触れて来て、俺を気遣うように何度も優しくついばんできた。
「ん…………ぅ……」
頭がふわふわする。
ブラックの息遣いや、触れて来る唇の感触、無精髭のちくちくした痛みの合間に、柔らかくて気持ちのいい赤い髪がさらさらと俺の顔を撫でた。
それが、とても気持ち良くて。どうしようもなく胸がきゅうっとなって、温かくて甘い気持ちでいっぱいになった。
「ツカサ君…………ずるいよ……。そんな事言われたら、僕またツカサ君とセックスしたくなっちゃうじゃないか……。勃起したらどうしてくれるのさ」
「ばっ…………バカ……」
ああもう、またそんな事を言う。せっかく、その……良い雰囲気……みたいな感じだったのに……。こういう時は「そういう事を言うな」とバシッと言ってやるべきなのだろうが、うまくツッコむ事が出来ない。
こんなに体中が痛くて声がかすれてなかったら、いつも通りにやってやるのに。
そんな事を思いながら睨むと、ブラックは嬉しそうに笑った。
「うん。やっぱさ、僕、僕のことを好きって言ってくれるツカサ君も大好きだけど、いつものツカサ君も大好きだなぁ」
「なっ…………」
「あんな風にねだっちゃったけどさ……無理しなくても良いからね。……だって、僕は意地っ張りなツカサ君を好きになったんだもん。まあそりゃ、たまには恋人らしい事もして欲しいけど……でも、ツカサ君は、いつものツカサ君でいいからね」
「ブラック……」
「だって、僕達好き合ってる恋人でしょ?」
そう言いながら、ブラックはまたキスをしてくる。
数時間前はあんなに別れる事を怖がっていたのに、今はまた前みたいにブラックの言う事に反発したくなってしまっている。我ながらゲンキンだと思うけど、また元の関係に戻れたと思ったら俺も態度が元に戻ってしまったらしい。
……な、なんか、納得いかないな……。
それじゃあ俺も調子に乗ってるみたいじゃんか。
あんな風に切り出して許して貰ったくせに、すぐに元に戻るのはないぞ。ブラックも許してくれたんだし、その……結局、す、スキって、言ってくれてる訳だし……。だから、お、俺だって、もっと、恋人らしくしないと……。
「ぶ……ブラック……」
「ん?」
目の前で首を傾げる相手に、俺はまた顔がじりじりと焼けそうな痛みに苛まれるのを感じながらも、ブラックの目を見上げて口を開いた。
「お……俺……好き、だから……。アンタのこと、意地張って押しのけたり、えっちだってあんまり誘わないかもしれないけど、でも……頑張る、から」
「ツカサ君……」
「だから…………ずっと……一緒に、居て……」
アンタとずっと、一緒にいたい。
出来る事ならずっと楽しく旅をしていたい。
それは、間違いなく本当の気持ちだから。今更な事かも知れないけど、俺にとっては初めて口にする「恋人への子供染みたわがまま」で、俺がそれだけブラックに執着していると初めて伝えた言葉だから。
……だから、どんなに恥ずかしくても、それだけは伝えたかった。
そんな俺に、ブラックは目を見開いて口をぽかんと開けていたが――やがて、口を戦慄かせると、また俺の事をぎゅっと抱きしめた。
今度は、俺が痛いと思ってしまうくらいに、強く、深く。
「嬉しい……嬉しいよ、ツカサ君……っ。は、ははっ……嬉し過ぎて、また興奮してきちゃった……」
「ん……ば、ばか……」
「あぁ……もっと言って……。ツカサ君の『バカ』って言い方も声も、凄く好き……たまらないんだ……。……だからさ、ツカサ君。僕だってもう離さないからね……ずっと、ずっとずっと、ツカサ君が嫌だって言っても、僕は絶対に離さないから……」
そ、そんな強烈な事を言えとは言ってないぞ。
でも……悔しい事に、俺はその妙に怖い言葉ですら、嬉しく思ってしまう。
俺も相当ヤバいなとは思ったけど、だからと言ってどうとも出来なかった。
……だって、好きって気持ちは本当の事なんだから……。
「……ブラック……あしたのこと……ごめん……」
「ん? ああ、約束の事か……いいよそんなの。あ、でも、ツカサ君、僕が他の女とセックスしたら嫉妬しちゃう? えへ、えへへ」
このバカ、人の気も知らないで……って、そりゃ俺も一緒か。
言わなきゃ解らないんだから、知らないのは当然なんだよな。言わなかったら、何も判らないんだ。それは俺が今しがた理解したことじゃないか。
なら、まあ、その…………。
「…………しっと、する」
「えっ?」
「……するよ。…………だって……恋人、だし……。他の奴とえっちすること自体は、何とも思わないけど……」
だって、ブラックは散々色んな奴を抱いて来たんだし、他の奴とヤッたとしても俺はそこまで怒れないと思う。年齢も違うし、ブラックなりに理由があると思うから。
でも、ブラックが他の奴に……その……興奮したりするのかなって考えたら、怖いのと同様に何だかモヤモヤしてしまう。
嫉妬と言うかは微妙かも知れないけど、でも嫌な事は嫌だ。
俺もうまく言葉に出来ないんだけど……他の奴とえっちするのはよくても、他の奴に興奮するブラックは想像したくない。そう思ったから、俺はショックだったんだ。
だから……そういう気持ちもプラスされて、あんな風に焦って泣き喚いちゃった訳なんだけど……ううむ、今更ながら本当恥ずかし……。
「あぁああああんもぉおおおおおおだからツカサ君可愛すぎてすきぃいいいい」
「んんん゛!?」
考えている途中でまた強く抱きしめられて、顔をブラックの体に押し付けられる。
思わずもがいたが、しかし相手は構わずに俺を絞め続けた。
「そんなに言われたら、僕もうまた興奮しちゃうよぉお……! ハァッ、はっ、つ、ツカサ君たら、あんな約束させてこんなに煽るんだからもぉ~!」
「ちっ、ちがっ、ばか、そうじゃない……っ」
「安心してよぉ、僕もう女とか興味ないから! ツカサ君専用だから~!」
なんだその逆オナホ宣言みたいな発言。
男だしさすがにそんな訳は無かろうと心の中でツッコミを入れるが、しかしやっぱり、どうしてだか俺も強い事が言えなくて。
「い、言ってろばか……」
「えへへ……。でもさ、本当にツカサ君だけだからね? 今回は仕方なくあの女狐と一発ヤるけど、男なんて擦られりゃ勃つんだから、ツカサ君も気にしちゃ駄目だよ」
「そ……そりゃまあ、そうだけど」
俺もさっきそんな事を考えていたが、ブラックに言われるとムカつくな。
だいたい、俺が一度も女を抱けていないのに、何度も美味しい思いをしたブラックが今度も美味しい思いをするなんてどう考えても理不尽じゃないか。
美女8割の世界で美女やイケメンを望み通りにムシャムシャして来たってのに、何で俺よりラッキースケベなんですかお前は。
あ、やだ、なんかマジでイライラしてきた。
「ツカサ君?」
「寝る!!」
にまにましているブラックの頬を軽く抓って、俺は丸くなる。
だけどブラックは相変わらず変な笑い声を漏らして俺に抱き着いて来るだけで。
何だか本当に前と同じ関係に戻ってしまったが……今はそんな些細なことですら、何故だかとても嬉しいような気がしていた。
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