異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編

24.目指すは南

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※方針回というか次のつなぎと言うか、ちょっと短いかもです(´・ω・)





 
 ブラウンさん達と別れたその後、俺達は再び宿に戻り、ナザルさんとリトさん達に改めて別れを告げて、長く滞在していたフォキス村を後にした。

 今回は涙のお別れとかそういう事は無かったが、こういうさっぱりした別れの方が何かと楽かもしれない。
 なんかこう……なんていうか、涙のお別れとかになると湿っぽくなっちゃうし、何より別れ難くなっちまうからな……。出来るだけカラッとさせたほうが良い。
 俺も涙腺とかが耐え切れなくなるしな!

 でも、リトさんとマボさんには最後まで驚かされっぱなしだったな。

 彼女が「夫」で、うだつがあがらなそうなお兄さんが「妻」っていうのもそうだが、何より驚いたのは、二人がアランベール帝国の名の知れた学術院に勤める教師であり、かつ遺跡調査をしにきた調査員だったって事だ。

 リトさんは「私達この周辺に点在している遺跡の調査に来たの~、等間隔に遺跡が配置されてるみたいだったから、もしかしたらフォキス村にもあるんじゃないかと思ってたんだけど……アテが外れたみたいね」なんて言って笑ってたけど、この話を聞いた時は本当に彼女達に協力を仰がなくて良かったと思った。

 いや、リトさん達を悪人だとは思ってないし、むしろ彼女達は村の為にモンスターと戦ってくれたんだから、良い人には違いないと確信している。だけど、それとこれとは話が別だ。わざわざ別の国からやってきて、このプレイン共和国の遺跡の調査をしていたとなると、その成果を誰かに報告する可能性が高いからな。

 隠してる感じじゃないから、多分プレイン共和国の許可はあるんだろうけど、それならそれで余計に危ない。

 だって、フォキス村の巨岩内部遺跡は言わば「打ち出の小槌こづち」だ。
 この緑の少ない荒野にあって、あれほど豊かな緑を保たせ続ける機能が、今も稼働し続けているのだ。数百年止まらずにずっと……。
 そんな凄いものが国に見つかってしまったら、最悪の場合遺跡が調査のために解体され、森を生かす機能が失われてしまうかもしれない。個人の調査なら誤魔化しようも有っただろうけど、国に認可されてるなら……嘘が付けない。

 彼女達が秘匿したいと思っても、それは許されない可能性が有るのだ。

 だから、二人には村の事をお願いしておいてよかったと心底思った訳で……はぁ、ホントに紙一重だったよこれは。まあ回避できたから良いけどね。
 でも、今度は知らない人とパーティーを組む時はちゃんと素性を確かめておこう。

 ああっ、もう、俺に鑑定スキルが有ればこんなドキドキしないで済んだのに!

「ツカサ君なに悶えてるの? せなかかゆい?」

 歩きながら頭を抱える俺に、ブラックが不思議そうな顔をしながら俺の背中をポリポリ掻いて来る。クロウもつられて俺に手を出そうとしていた。

「あ、ごめんごめん、違うのよ。でもありがと、ついでに背骨んとこ掻いて」
「ここ?」
「あーそこそこ」

 いや、あーそこそこじゃないが、まあ……今度は気を付けると言う事で一つ。

 リトさん達は幸い良い人達で、俺達の探索についても根掘り葉掘り聞いて来ようとはしなかったから、多分大丈夫……だよな?
 別れ際に、自分達の学術院にも是非尋ねに来てくれとか言われたし。

「ツカサ、何か心配事でもあったか」

 隣から心配そうに顔を覗きこ出来るクロウに、俺は大丈夫だと笑って見せる。
 心配っちゃ心配だったけど、まあ先の事に関する心配だしな。
 考え込んでても仕方ない。それより、先にソラさんから貰った地図の事を、三人で改めて話し合わなくっちゃな。まあ、それも心配ごとっちゃ心配ごとか。

 答えが欲しそうに俺を見つめて熊耳をぴこぴこさせるクロウに、ちょっとキュンとしつつ、俺はバッグから地図を取り出した。

「心配事って言ったら、コレかな」
「フォキス村の村長から貰った、ニホンゴと言うのが書かれた地図か。ニホンとは
ツカサの異世界の故郷の事だったな?」
「そう。その地図に、結構色んな事が書いてあったからさ。人気のない所で、二人にも内容を聞いて貰いたいと思って……」
「ツカサ君、村から出るの結構急いでたもんねえ。……じゃあ、ちょっと早いけど、今日寝る場所を探しておこうか」

 ブラックの提案に頷き、俺達は道標の落書きに従って、周辺にあった小さな洞窟に宿を決める事にした。
 今日は食料も水もたっぷりあるので、三人とも出かける必要はない。

 薄暗い洞窟で水琅石すいろうせきの明かりをつけ、さっさと寝袋を敷いてその上に座ると、俺はソラさんから貰った地図を広げた。

「で、この地図なんだけど……」

 改めて地図を見せると、二人は「ううむ」と唸ってそれぞれに腕を組む。

「しかし、何度見ても本当に良く解らん言語だな……」
「ツカサ君、この難しい書き文字と簡単な書き文字は何が違うの?」

 エッ、そんな事俺に言われても上手く説明できないんですが。
 困ったな、漢字ですよとか説明しても解んないだろうし、えーと、ええと……。

「えーっと……あのね、基本的には、簡単な書き文字の方で全部表現できるんだけど、でもそうするとかなり字数が増えちゃうから、カンジっていう特別な文字一つで意味を示せるようにして文字を節約してるんだ」
「ああ、なるほど! そう言う所は僕達の言語と似てるね!」

 あ、そうだな。
 この世界の言葉って文法は日本語と同じだし、文字もそう難しくない。
 それに、この世界の文字にも漢字みたいなものがあるし……だから、俺もなんとかすぐに覚えられたんだよな。

「しかし、カンジとはかなり難しいな……普通に書けばインクがにじむぞ」
「簡単な方の文字も結構種類があるしねえ……まあ、お勉強は後にしてツカサ君に大方おおかたの事を説明して貰おうか」
「お、おう」

 なんか後でみっちり日本語について質問されそうな雰囲気だったが、怯えていても仕方ないので、俺は地図に書いてあることを二人に説明した。

 この地図に書かれている情報はかなり正確であると言う事や、裏街道には幾つかの遺跡が存在する事。それらの情報を俺のような日本人の為に、誰かが残した事。
 そして幾つかの遺跡は全て、中枢遺跡と言う物と関係が有り――その中枢とされる遺跡は、俺達が目指している【エンテレケイア】であるという事もすべて。

 ちなみに、第一遺跡と第三遺跡は、この地図が描かれた時点で国が調査を済ませていたらしく、何に使用されたかも判らない程の廃墟になっており、第二の遺跡は辛うじて防人さきもりの砦のような物だったと解る痕跡が残っていたらしい。
 第四遺跡は既に朽ちて、入口が残るのみとか。
 数百年前の話だから、今じゃもう見つけられないだろうな。

 その情報を踏まえて今の地図と照らし合わせると、調査済みの二つはもう更地になっており、代わりに村が作られているのが解った。
 俺達に直接的に関係する事ではないが、これらの遺跡が【エンテレケイア】と関係のある遺跡で、もし地図を作製した人が本当に俺と同じ日本人だったのなら……そこも、調査すべきなんだろうか。
 だけど、それは俺だけでは判断できない事だ。

「――――と言う訳で、これからどうしたらいいのかなぁ~と」

 粗方あらかた話し終えて判断を仰ぐと、オッサン二人はまたもや腕を組んでうなった。

「うーん……ツカサ君の言う通り、この地図の情報だけでは製作者が異世界の同郷人かどうかは解らないけど……この情報を無視するってのもねえ」
「これはニホン人にだけ渡したかった地図のようだし、事細かに遺跡の事が書かれているからな。【エンテレケイア】以外の遺跡も見ておいた方が、ツカサのためになるのかも知れん」

 なるほど。遺跡の情報を事細かに書いたのは、俺に確認しに行かせるためか。
 だとしたら、エンテレケイアに付いての情報くらいは見つかるのかな。

「俺の事に関する情報は解んないけど……遺跡の上に建ってる村なら、目的の場所についての情報があるかもしれない……かな?」
「そうだね、わざわざ“ユーハ大渓谷”の遺跡を“中枢遺跡”と書いてるんだし……何らかの手がかりは有るのかも」
「……ならば、次に向かうのは、その二つの村だな」

 頷いて、俺は地図に記されている二つの村の名前を確認した。

「ええと……ディルフィ村と、ティーヴァ村か……」

 どちらも、地図上ではわりと大きく描かれているけど……村としては大規模なんだろうか。この縮尺が曖昧な地図ではよく解らないが、しかし他の村と比べると明らかに大きいから、地図を記した人的には印象深かったのだろう。

 まあなんにせよ、次の目的は決まった。
 ディルフィ村とティーヴァ村に行って、【エンテレケイア】遺跡についての情報を得て、万全な備えで大渓谷に挑むのだ!









 
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