異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編

2.不可解な勧告1

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「つ……ツカサ君、なにかしたの?」
「するとしたらお前だろ!? 初入国で即拘束とか意味わからんわ!!」
「そうだぞブラック、邪悪なお前じゃあるまいし、有り得ん事だ。ツカサが知らずの内に誰かに恨みなど買うものか」
「う、うーん……ありがたいがそこまで買い被られると不安になってくる……」

 まるで取調室のような、四畳半程度の狭い応接室。そこにある三人掛けのソファにギュウギュウに座らされて、俺達はただただ兵士が来るのを待っていた。

 ……にしても、解せない。なんでこんな事に。
 クロウは根が真面目で優しい奴だから、俺が悪いはずがないなんて思ってくれるんだろうが、実際問題どうかと言われると俺としては頷きがたい。

 だって、悪気のない一言で相手を傷付ける事だって有るし、どこで恨みを買うかなんて解らないからなあ……罪は無いかと問われると、どうも肯定出来ない。
 でも、兵士に呼び止められるって何をしたんだろう俺は……。
 ううう……軽犯罪とかじゃ有りませんように……。

 ドキドキしながら待っていると、先ほど俺を呼び止めた兵士が入って来た。

「お待たせしてすみません。仲間に検査役を引き継いでたもので……」
「あ、いえ、大丈夫です」

 そういえば、この国は兵士の格好もちょっとスチームパンクっぽいな。
 皮鎧に、布のフードように見える兜。その兜の右の方には、片目だけのルーペが付いている。全身金属ではなく、適度に皮装備って所がいかにもな感じだ。

 やっぱ国によって鎧も違うよな~と思っていると、兵士は何やら小脇に抱えて、俺達の真向かいにある椅子に座った。

「で、どうして僕達を引き留めたんだい」

 ブラックの礼儀も何もない言葉遣いにヒヤッとしたが、兵士は怒る事も無く苦笑して頬を掻いた。よ、良かった。兵士のお兄さんはどうやら真面目な人のようだ。
 というかしょっぱなから失礼ですみません。
 ブラックの腕をつねって「やめろ」と制し相手に謝ると、俺は言葉を継いだ。

「俺達……というか俺は、この国に入るのは初めてなんですけど……もしかして、検査の時に何かしてしまったんでしょうか」

 そう言うと、相手は慌てて首を振った。

「あっ、いやっ、違うんですよ! すみません怖がらせて……。そうじゃなくて、その、実は……私どもは、ずっとお三方さんかたをお待ちしていたというか……」
「待っていた? それはどういうことだ」

 クロウの冷静な言葉に、兵士はどう言おうか迷ったのか口をつぐんだものの、すぐに顔を上げて俺達を真っ直ぐに見やった。

ぼかしても仕方ないので、はっきり申し上げます。私は、貴方達をある所にお連れする……いや、避難させるために、とある方の密命を受け待機しておりました」
「避難って……どういう事ですか?」
「詳しい事はプラクシディケ様が説明して下さると思いますので、私が聞いた限りの簡単な命令をお話ししますと……『貴方達はこの国にとって混乱を齎す可能性が有り、つ、幽閉される可能性がある』ので、首都ディーロスフィアを避け、まずは北東部にある【アトスロシコン】という街に向かうように伝えて欲しい……と」

 待って待って。名称が長過ぎて覚えきれない。
 ええと……プラグしけ様が、デロなんとかに行くとヤバいから行くなと。それで、事情を説明するからトロシコなんとか……ああもう解らん!

 トロシコって単語、なんかエロいね!
 ……いやそうじゃなくて固有名称が、固有名称が長い!
 プレイン共和国ってもしかしてそんな名前ばっかなの!?

 待て。お、落ちつけ俺。
 とにかく、プラグ様は俺達の事を知ってて、それで首都に行くのは危険だと判断したから、俺達に首都に直行するなと言った訳ですな。そんで、説明してやるからこっち来いと。その認識で大丈夫だよね!

 でも……そのプラグ様って何者……?

「プラクシディケって……僕の記憶が確かなら、プレイン共和国の重鎮だった気がするんだけどね。それ、本当にそいつから頼まれたの?」

 えっ。ブラックったら相手の人の事を知ってんの。
 いやでも、重鎮なら知ってても不思議じゃないか。この世界にもちゃんと新聞があるんだし、そう言う物を見てればお偉いさんの事だって出て来ても変じゃない。だから、知っててもおかしくないよな。
 それに……ブラックって、色んな事すぐ覚えちゃうし、その……頭いいし……。

「ツカサ、顔が赤い」
「ングッ!! しっ、シーッ!」

 なってない! 赤くなってないから!!

 慌ててクロウの口を抑えたが、ブラックと兵士のお兄さんは俺達の話を聞いていなかったようで、深刻そうな顔で見つめ合っていた。

「証拠は……申し訳ありませんが、何も有りません。ですが、私は確かにプラクシディケ様に直接頼まれました。貴方達の特徴を教えて頂いて……」
「だけど、相手は確か女だろう? 僕らにはプレインに属する女の知り合いなんていないし、そもそも僕らはそのお偉いさんの顔さえ知らないんだ。むしろ、僕達の事を知っている事に、凄い違和感を覚えるんだけどな」
「お、お知り合いではないのですか!? そんな、てっきり私はお三方が知人で、尊い技術を有しておられるが故に……あの方が貴方達を保護するため、私に指示をなさったのだとばかり……」

 兵士のお兄さんは、そう言って俯いてしまった。
 ……どうやらかなりショックを受けているようだ。その顔に嘘は見えない。

 と言う事は……彼は本当に頼まれただけなんだろうか。
 ブラックの方を見ると、相手もそう思っているのか軽く頷いた。嘘を見抜く目なら、俺なんかよりブラックの方が正確だ。なら、少なくとも兵士のお兄さんはシロと言う事だろう。まあ、やましい所が有れば、正直に「知らない」なんて言わないよな。むしろ必死に取りつくって、ムリヤリ向かわせようとするだろう。
 だとしたら、問題はやっぱりプラグなんとか様だよなあ……。

 ……そういや……尊い技術ってなんだろ。

「あの……尊い技術って?」
「えっ。そちらの方は月の曜術師で、あなたは日の曜術師ではないですか。それに、御二方の実力は二級以上……ですから、首都に向かえば必ず勧誘される事になるでしょうし、冒険者の方々ならばそう言う事はお嫌いかと思ったので……」

 そう言えば、冒険者ギルドの人に「二級以上の曜術師は、色んな会社に引っ張りだこだ」みたいな事を言われたし……そう言われてみると、人が集まる首都に行くのはヤバい気がして来た。ここで身分を証明したら、その情報は首都に流れるんだもんな……俺達が望んでなくても……。
 それはブラックもすぐに思い至ったようで、微妙そうな顔で眉をしかめながら「あぁ……」と声を漏らしていた。

「しかし……皆様がプラクシディケ様とお知り合いでないのであれば、不思議な事ですね……。ああ、でも、プラクシディケ様は決して悪い事をお考えになるような方ではありません! あの方は、貧民にも慈悲と恵みをお与え下さる、まるで女神ナトラのような美しい方で……いっ、いや、それはともかく! 【十二議会】の権威ある方が、そのような振る舞いをなさる……それだけで、信頼に値するとは思われませんか?」

 十二議会……聞くだけでなんか最高権威っぽいなって感じがするな。
 俺の国で言う政治家みたいな人なんだろうか、その……プラグなんとか様。

 ……でも、物凄い偏見だけど、偉い人になると善行も胡散臭くなるところがあるからなあ……いくら美女であっても、世の中には人を陥れる悪い人もいる訳で……でも悪女いいな。ふところの痛まない範囲でなら、俺も良い思いして騙されてみた……いかんいかん。話に集中せねば。

「十二議会……プレインでの最高権力か。しかし、それだけでは信用出来んな」
「同意。どんな“力”であっても、最高に近い者ほどおごやすくなるからね」
「そ、そんな……ああ、私に説得力が無いばっかりに……!」

 ごめんなさいお兄さん、コイツら本当に初対面の人を信用しないから……。
 でも、俺達もおいそれと騙される訳にはいかないし……。お兄さんが良い人であっても、命令した人が良い人って保証は出来ないからなあ。
 けれどこのまま悩ませるのも申し訳ない。

「あの……なにか、その人が信用に足る人だって証拠はないんですか?」

 問いかけると、お兄さんは少し悩んで――――アッと声を出した。

「そっ、そうだ! 言伝ことづてを預かっているのを思い出しました!」
「言伝?」
「はい、えっと……確か…………」
「おいおい、忘れたなんて言うなよ?」

 あきれたような声で釘をさすブラックに、お兄さんは冷や汗を垂らしながらうなる。かなり焦っているようだが……大丈夫かな。
 心配になってしばらく見守っていると、お兄さんはアッと声を漏らした。

「思い出しました!」
「ホントですか!」
「ええっ! 確か、えっと……あっ、そうだ! 『カギムシのあるじから、ささやかな伝言あり』……だったと思います!」

 ……カギムシの、主?

 一瞬、何を言われたか解らなくて戸惑った俺の隣で、ブラックが囁く。

「……ツカサ君、カギムシって…………あいつの……」

 ――――そうだ。
 カギムシ……いや、【鍵蟲】の主を、俺達は知っている。
 その事を把握していて、つ、俺達が知っている“プレイン共和国に関わる人物”と言えば……一人しかいない。

「………………」

 だけど、どうして“アイツ”が俺達に伝言を残したんだろう。
 それに……何でその偉い女の人が、俺達の事を知ってるのか……。

「…………入国して早々、厄介な事になったな」

 クロウの呟きに、俺はただ深く頷く事しか出来なかった。












※と言う訳で、プレイン編はじまりです(`・ω・´)
 あの人が出てきたりこの人が出てきたりでちょっとドタバタしますが
 ツカサとブラックの距離もまた縮まりますので宜しくお願いします!!


☆新聞について
 この世界の新聞は、漉返紙(和紙を再利用するために加工した紙)みたいな粗雑で安価な紙を使用して木版印刷により文字を刷ったもんです。新聞で木版って大変じゃないのかって感じですが、まあ魔法の世界なので文字を掘ること自体は熟練した職人さんであれば難しい事ではなく、よって速報もすぐ作れます。ただし絵に関しては、どうしても職人さんの技量により無理だったりするので、そのような挿絵が付く新聞は高価であり一般の人は読む事が出来ません。当然、挿絵付きの新聞はいい紙に印刷してあります。お金持ちバンザイ。
 まあそもそも新聞が自体少しお高めなシロモノであり、定期的に読める層の最低ラインは、村長とか街の近くの村の貧しい教会の神父様程度(貧しい村だと、もうまず神父様でも買うのは無理)ですが……。

 新聞は、文字組の人が整えた原本を元に、木の曜術師が作った一枚の分厚い木板を【メッサー・ブラット】に良く似た気の付加術で削ってハンコのような物を作ると、それにインクを塗って紙にスタンプする作業を延々繰り返して完成。
 最適な板を作るのも、板を削るのにも、それぞれ熟練の技が必要なので、印刷技術を持つ曜術師はどの国でもひっぱりだこだったりしますが、毎日薄暗い部屋の中でほぼ同じ作業を続けるので相当変わり者の曜術師しか勤まらず、技術士になろうという人は少ないです。

 忘れられてそうな設定ですが、ブラックは昔取った杵柄(もとい黒歴史)のお蔭で銀行に恐ろしいほどの量の金貨を預けているので、銀行の支店が存在する街ではそのお金を降ろして新聞を買って読んだりしてます。
 もちろんツカサは読んでません(四コマすらない新聞なので…)。
 
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