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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編
18.好きな人だからこそ
しおりを挟む「……ブラック、大丈夫かなあ」
「うむ」
「アイツの事だから、書類にムキーってなって暴れてたりしないかな?」
「うむ」
「暴れる音はしないけど、もしやギルド長と殴り合いしてたり……ホントに大丈夫なのかなあ……心配すぎる……。なあクロウ、本当に大丈夫かな……?」
「…………ツカサ、心配し過ぎじゃないのか」
そんな事言われたって、やっぱり心配なモンは心配な訳で。
ギルドの受付の前にある椅子に座って待っているわけだけど、席に付いた途端にまた心配になって来るから困る。
何で心配かって、俺も何か書くのが苦手だからだよ。
ああ言うのって嫌なんだよな~。学校で何か適性検査? みたいなアンケートを延々と数ページやらされた時だって、もう飽きて後半適当に書いてたし、そのせいで先生に呼ばれて怒られたし。
ネット小説は見るけど、だからって作文が上手い訳でも無し、文章作るのなんぞ俺としては本当にキツかったしなあ……それをブラックが一人でやらされているかと思うと、同情の念を禁じ得ないのである。
だって、目の前で監督官が睨んでる場所で作文作業だぞ。死ぬぞ。
先生とマンツーマンとか俺には耐え切れんわ。
……いやまあ、ブラックはもしかしたら文書作成は得意かも知れないけど、でもあいつ欲望のままに生きてる奴だし……大人らしい部分残ってるのかなあ。
とか考えていると、クロウが横から俺に忠告してきた。
「心配な気持ちは解るが、どっしり構えて待つ事も信頼と言う物だぞ」
「う、うん……ごめん……」
ぐうの音も出ない。
そうだよなあ、心配したってしょうがないんだけど……そもそも、なんでこんなに不安になるんだか。……最近、あんな顔したブラックなんて見た事なかったから、妙に気になっちゃったのかな。
なんにせよ、俺には落ち着きが足りなかったな、反省反省。
クロウもなんかちょっと怒ってるし……まあ、ここに居ないブラックの事ばっかで上の空だったら、そりゃ機嫌悪くなるよな……。
俺は隣に座っているクロウを見上げると、相手の様子を窺った。
……やっぱり少し不機嫌そうだが、熊耳は別に膨れても伏せられてもないな。
よかった、これなら機嫌直してくれるかも。
「クロウ、ごめんな。ブラックの事ばっかりで」
そう言うと、クロウはわずかに熊耳を動かして俺を横目で見た。
「当然だ、ツカサはブラックのものだからな。…………でも、聞いているオレは、あまり気分はよくない……」
「……そうだよな。ごめん」
「撫でてくれたら機嫌を直す」
「えええぇ……ちょ、ちょっとここでは……」
おいおい急に何言ってんだ。っていうかお前も結局それか。
でもここはヤバいって。人目も有るし、何よりあの、さっきから受付のお姉さんとか酒場の人がじろじろ見て来るんすよ。なんかクスクスしてるんすよ。
そんな状態でクロウの頭を撫でる所を見られたら、爆笑されかねんて。
クロウは良いだろうけど、俺は耐えられん。
し……仕方ない……。
「クロウ……あの……ちょっと…………じゃあ……ひとの居ない所で……」
「ん、デート、デートだな」
「でっ……! ち、ちがっ……!」
思わず絶句すると、周囲から変なヒソヒソ声が聞えて来た。
「やっぱあっちか……」
「まあ普通そうだよな、チッ、100ケルブ損した」
「きゃーっ、熊の大男と少年よっ」
「歳の差婚、歳の差婚よ!」
やめて下さい! 変な誤解しないでください! なんだ歳の差婚て!!
てか普通そうだよなってなんだ、ブラックだと何か問題が有るってのかコラ! そりゃブラックは無精髭を顔に張り付けてるし美形ではあるけど中ボスみたいな顔してるし、人相が良いとは言い難い上に性格も最悪なオッサンだけど、他人に「やっぱりアイツとは付き合わねーか」みたいな事を言われるとムッとするんですけど。
それ間接的に俺もバカにしてるからね!?
ブラックだってそれなりに良い所は……いや、別にクロウが嫌って訳じゃなくて、なんか勝手な事を言われるのが我慢できないって事で……。
ええいもう面倒くさい、とにかくここから離れよう!!
「く、クロウ早く外でよ!」
「ウグ」
逞しい手首を握って、人の目が多いギルドから出る。
小一時間とか言ってたから、多分まだ大丈夫だろう。どこか人気のない所を探さなくては。キョロキョロしていると、クロウがまた不満そうな声を出した。
「ツカサ、どうして頭を撫でるだけで外に出るんだ」
「あ、ああいうのは人がいない場所か、理解ある人の前でじゃないと駄目なんだよ! とくに人族の国では!」
「そうなのか……そう言えば今まで下卑た奴らの前でやった事は無かったな」
そうでしょうとも。
俺は公衆の面前でバカップルみたいな事なんて出来ませんからね。
クロウが嫌とかそう言う事じゃなくて、年上のオッサンを撫でてる自分が恥ずかしいから人様に見せたくないんだよ! わかっておくれ!
それに……あの状況で頭とか撫でたら、それこそ誤解が深まるじゃんか。
俺とクロウが恋人同士だって誤解されてる事に気付いたら、ブラックだって怒るだろうし……あと、その……俺も、なんか……嫌だし……。
モヤモヤしてて自分でもよく解らないし、事実誤認されてるから嫌なのか、それとも別の理由なのかは正直判断が付かないけど……でも、誤解されるのだけは嫌だって事は解る。
クロウには悪いかなとは思うけど……それだけは、曲げられない。
黙って言われるがままになるなんて無理だ。そう言う理由でブラックを傷つける事はしたくないから。
「む、路地が有るな。人通りなさそう」
周囲を注意深く窺って、人がいなくなった瞬間を狙い、俺はクロウを連れ込んで路地に入った。少し広いかも知れないが、途中途中に物が積み上げられていて隠れられる。少し奥に入れば問題はないだろう。
ここら辺で良いかなと思って握っていた手を離すと、クロウは俺をじいっと見て僅かに首を傾げた。
「クロウ?」
どうしたんだろうかと相手を見上げると……薄暗い中で、橙色の瞳が緩く光を帯びて細められた。
「…………ツカサは、オレのつがいだと誤解されるのは嫌なのか?」
――――やっぱり、そうなるよな……。
ブラックが悲しむような誤解を避けると言う事は、結果的にそれはクロウを拒否するという事に繋がるのだ。
あの連中は、俺とクロウが恋人同士だと勘違いしていた。
それを否定すると言う事は、クロウにとっては悲しい事になるのだ。
ああ、あっちが立てばこっちが立たずだ。どうして俺がこんな事を言い繕わなければならないのかと思う所も有ったが、でもクロウを悲しませたと思うと、それはそれで心が痛くなるわけで。
俺はクロウの腕を掴んで少し腰をかがめさせると、優しく頭を撫でた。
「ごめん。……クロウが嫌って事は絶対ないし、つがいの事は……正直、そこまで考えてなかった。それはごめんな。……俺、周りの声が嫌だったんだよ。やっぱりクロウの方と恋人だったかってヒソヒソ言われてるのが……」
「ツカサ……」
「だって、俺の恋人はブラックだし……それに……俺、アイツをそんな風に嘲笑われるの嫌だったんだ。そりゃ、クロウは凄く良い奴で、ブラックと比べたら雲泥の差な所もあるけど……でも……だからって、アイツをダメな奴だって言われるのが、嫌だったんだよ。……だから、ごめん」
クロウは何も悪くない。むしろ、大人げない俺の方が悪いのだ。
もし俺がお色気お姉さんなら、二人を手玉に取ってますよなんて態度を見せて、わざと自分に注目を集める事も出来たかもしれない。
そうすれば、二人に変な偏見が向けられる事もなかっただろう。
でも、俺にはそんな事なんて出来る訳もなくて、結局逃げるようにギルドを出て来ちゃって……ほんと、逃げる事しか出来ないなんて俺の方が駄目な奴だ。
そんなんだから、クロウも傷付けるのに……。
「ごめん。ごめんな、クロウ……」
精一杯頭を撫でていると、クロウは俺を上目がちに見ながら問いかけて来た。
「…………オレのことは、大事じゃないのか」
「そんな訳ないって! だ、だって……俺…………」
「……大事か?」
「う……うん…………」
ああもう、気の利いた言葉が言えないなあもう。
俺のバカ、あほ、なんで頷くだけしか出来ないんだよ。これじゃクロウに信じて貰えないかも知れないじゃないか。
恋人じゃないけど、でも、俺だって体を預けるくらいにはクロウの事は大事に思ってるのに。なのに、どうしてちゃんと言えないんだろう。
言葉にすると、嘘っぽくなるって無意識に思っちゃってるのかな。
だって……俺なんて、言葉が足りないばっかりで、気の利いた事なんて一つも言えなくて、結局二人とも傷つけてる事だって……。
「…………オレの事が、大事か」
再度問われて、質問にただ頷く。もう頭がいっぱいいっぱいで、それ以上は何も言えなかった。だけど、クロウは俺の言葉に軽く頷いて、解ったとでも言うように俺の両肩をぐっと掴んできた。
「……なら、体で…………オレが好きな事を証明してくれ」
――――……ああ、やっぱりそっち方面に……。
だけど、クロウがどんな思いでそんな事を言ったのかを考えると、俺は何も言えず、ただクロウの言うがままにするしかなかった。
→
※次は当然えろですが変態ちっくなのでご注意ください
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