異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編

19.受け入れがたいものを検討してこそ1*

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※次がちょっとアレなので二分割してます(´・ω・`)





 
 
「……よし、ここでいいか」

 そう言いながら、クロウは周囲を見回す。
 確かにこの場所には人影も無く、また、人が来ようものならすぐに解る場所ではあるが……しかし、俺は非常にヤバい場所に来てしまったと戦慄していた。
 だって、ここ、森だし。

 ちょっと歩けばすぐにもうセイフトに出られるセレーネの森だしいいいいい!

「く、クロウ……あの……本当にここで……なんか、すんの……?」

 門番に「一旦村に帰ってきますわ」なんて変な話してセイフトを出て来たのに、こんな森の中で立ち止まるとは。
 まさか森の中でやらしい事をするんじゃなかろうな。そんな卑猥ひわいな森のくまさんは嫌だぞ俺は。つーか熊モードのクロウだったらすぐに貸家に帰れただろ、森の中でやらしいことしなくても良かっただろ!?
 なんでこんな場所で「いいか」なんて言うんだよぉおお!!

 ああでも頷いちゃった手前文句も言えないし、ううう……どうしてこう俺の周囲のオッサンは傍若無人ぼうじゃくぶじんでスケベなんだ。俺何回アオカンしてんのよ。猿じゃん。外でばっかりえっちしてるって俺もう猿レベルじゃんかぁああ……。

「ではツカサ、オレを大事に思う気が有るなら……これを着てくれないか」

 そう言いながら、クロウが上着の裏から取り出した物は――――

 行方ゆくえなど気にもしていなかった、あの、邪悪極まる短パンと白ニーハイだった。

「お……お……おま、そぇ」
「一度しか使わないと言うのが勿体なくて保管しておいた。オレの前でコレを着てくれ。安心しろ、オレはブラックのようにいじめたりはしない」

 確かにクロウはあんなねちっこく俺を苛んだりはしないけど、でも何度も何度もイかせようとしてくるし、そこは……いや、そんな事を考えている場合ではない。自分から頷いちゃったんだし、だったらもうやらなきゃ仕方ないのだ。
 ここで少しでも拒否すればクロウが悲しむし、俺も男らしくないし……っていうかああもう、何でこんな事になってるんでしょうね!?
 考えたらキリないですけど!!

 こうなりゃヤケだと一式をひったくって、俺は低木の後ろに引っ込んだ。

「は、穿くけど、目の前で穿くのはヤだからな」
「穿いてくれるのか」
「だって、その……着て欲しいんだろ……?」

 そう言うと、クロウは思いきり耳をぴるぴると動かして何度も頷いた。
 う゛……ずるい……。そんな子供みたいな喜び方するとか、本当卑怯ひきょうだって。
 クロウったらもしや、俺がケモミミに弱いのを解っててこんな仕草を……いや、きっとこれは素直にやってるんだ。だから俺も不意にドキってするんだ。
 くそう、お願いされてる事は変態的としか言いようがないのに、ブラックといいクロウと言いどうして俺が動揺する仕草を心得ているのか。男の俺がオッサンにキュンとするなんて、末代までの恥なのに。

「ええいもう! 着替えるから、バッグ持ってろ!」

 旅をする訳でもないので大した中身は入っていないが、貴重品は入っているのでクロウにバッグを押しつけて、俺は勢いよくズボンと下着を脱いだ。
 相手からは見えてないから恥ずかしくないもん。
 パンツは穿いてないけど恥ずかしくないもん!!

 ああ酷い、本当に酷い話だ。パンツ一丁で空飛びまわってる方がよっぽど健全じゃないだろうか。性的要素が絡んでるぶん、こっちの方がよっぽど酷い。いや俺はパンツ一丁で空飛びたくないですけどね。美少女がやってこそのアレだし、俺がやるとただの空飛ぶ変質者だよ。

 そんな事を思われそうな奴が短パン直穿じかばき白ニーハイとか、本当に短パンと白ニーハイに申し訳ないと思う。ごめんなお前ら。お前らもきっと俺みたいなエロ猿じゃなくて美少女とか美少年に穿かれたかったよな。

 もうむしろ物の方に憐憫が湧いてしまって、内心さめざめと泣きながらすっぽんぽんの下半身に短パンと白ニーハイを装備して靴を履くと、俺は覚悟を決めて低木の陰から出て来た。と。

「ゥ……グゥッ……! つ、つ、ツカサ……や、やっぱり、その格好……ッ、いやらしすぎるな……」

 俺の姿を見た瞬間に、クロウはわかやすく口を押えてうなり始める。
 いつもは無表情な顔も、両目を見開き橙色だいだいいろの瞳で俺のへそから下を熱心に凝視しながら、ハァハァと荒い息を漏らして……ってクロウ……お前さん、どんだけこの格好が気に入ったんですか……。

 いつも以上の興奮具合に戸惑っていると、クロウはずんずんと近付いて来て、何を思ったか俺を太い木のみきに背中を付けるようにして立たせた。
 拒否なんてするとクロウがまたしょげちゃうので、なるべく成すがままにされていたのだが、この状態で何をする気なのか全く解らない。

 目の前の興奮している相手を見上げると、クロウは耳障りな程の大きな深呼吸を繰り返しながら、顔に陰を掛けて俺の顔をじいっと見つめて来た。

「クロウ……?」
「ウ、ウゥ゛……ツカサ……ツカサ……っ!!」
「ッ!!」

 痛いくらいに左肩を掴まれて、右手を振り上げられる。
 一瞬、殴られるのかと思って思わず目をつぶったが――――

 太腿に感じた鈍い衝撃と、布が引き裂かれる鋭い音に、俺は目を見開いた。
 ……なに、この音。

 驚いてクロウの右手がどこにあるのかと探し、自分の下半身を見やると。

「――――っ!? ちょっ……え……っ!? えぇえ!?」

 俺の足に食い込んでいた、短パンの端っこが……見事に、破けていた。
 しかも白ニーハイまで変な事になってる。これ、あれだ、母さんがストッキングが伝線したーとかいってた時の奴と一緒だ。なんか、へ、変な破け方してる。

 なにこれ、クロウ、何したんだ。て言うか目的はなんなんだよぉ!
 意味が解らなくて再度クロウを見上げるが、クロウは俺の困惑した顔を凝視し、橙色の瞳を酷く爛々と輝かせたまま、俺の肩を強く掴んでいるだけで。
 明らかに何かがおかしい相手に、思わず息が引っ込んだ。

 ……だけど、クロウは。

「ツカサ……はっ……はぁ……は……もう……穿かないなら……ボロボロにしても、や、破いても……構わない、だろう……?」

 クロウの口がひくひくと笑っている。
 よだれでも垂れそうな程に興奮して、目を見開いているクロウは、明らかに普通ではない。というか、こんなクロウ初めて見た。
 まさか……まさかとは、思うけど……クロウって、服をいやらしい感じに破くのが性癖だったり……いや、まさか、そんな。

「クロウ、あの」
「ずっと……ずっと、してみたかった……っ。つ、ツカサの、肉に食い込む服を、やぶ、や、破いて、こうして、ボロボロにして、い、い、いやらしい」
「クロウ、あの、クロウさん」
「さっ、最高だ……! つ、ツカサの、肌が、破れた服から……ッ、グ……」

 ヤバい、クロウがブラックみたいになってる。
 しかもこれ、ブラックよりヤバくないか。

 まさかクロウにこんな趣味が有ったなんて……いやまあ、美少女が戦闘中に服を破かれるシーンは俺も大好きだけど、アレはエロの入る隙もない状況だからとか、敗北したら後で絶対き目に遭うなって言う、いわば「スケベな期待」の上で興奮しているのであって、自分からやらしい風に破いて興奮する訳じゃ……。

 いや待てよ、でもOLお姉さん物の奴でストッキング破れてるのがエロいみたいなのは有るし、もしかしてそういう部類と似たような物……いやでもやっぱり俺にやるのって違うよね!?
 なんでこんな事で興奮してんだよクロウううううう!!

「はぁ、はっ……ツカサ……ツカサ……」

 クロウの顔が、下へ降りて行く。
 それと同時に短パンとニーハイがまた破かれた気配がして、俺は思わず足を擦り合わせた。あ、ああ、わざと糸が垂れるように引き裂かれている。
 布がいくつかの繊維状になって、たわんだ部分がくすぐったい。
 靴下も、それこそストッキングが伝線したみたいな感じで何か所も傷つけられていて、もう二度と元には戻らないくらいにボロボロにされてしまっていた。

 ……そんな部分から、俺の肌が見えている。
 クロウは、その露出した部分を熱心に見つめながら、熊耳の毛を大いに膨らませて荒い息を何度も漏らしていた。

 こ、こんな事がやりたかったなんて……クロウ……。
 でも、ああいう「絶対に拒否させない」約束をして、こんな事をしてるって事は、クロウ的にもドンビキされる事だって言うのは理解してたのかな……。

 とすると、なんか、ううむ……ドンビキだけどドンビキしづらいって言うか……。
 だって、自分の好みを好きな人に曝け出して「うわ」って言われたら、すっげー傷付くしショックだもんな。俺も学校でソレに近い事をやられてリンチされたし、そういう悲しい思いはクロウにはさせたくない。

 何より、その……まあ……服がビリビリに破れてる所がエロいって気持ちは、俺も良く解るから……だから、が、我慢するよこんくらいは。
 でも本当に俺の考えが正しいのかは解らなくて、俺はクロウに問いかけた。

「クロウ……こ、こう言うの……好きだったのか……?」

 クロウは依然として、肌が露出した場所を腰を屈めて凝視している。
 口は半開きになり獣の牙がちらちらと見えて、目は相変わらず興奮に見開かれていた。そんな状態のクロウは、俺の遠慮がちな問いにやっと気付いたのか、ハッと我に帰ったようだった。

 だけど、俺を我に帰れば今の状況がおかしい事なんて、誰だって解る訳で。
 自分のやった事を自覚したせいか、クロウは俺の顔が見れないようで長いあいだ目を泳がせていたが……やがて、ゆっくりと俺を見上げた。

「す……すまん……。興奮して、ツカサの事を無視してこんな事を……」

 正気に戻った途端に耳を伏せて眉根を顰めるクロウに、俺は首を振った。

「いや、その……それは良いけど……ちょっとびっくりしちゃって……」

 興奮するのはまあ仕方ないよなと思いつつ、微苦笑してクロウを見やると、相手は目を瞬かせて縋るように俺を見上げた。

「…………気持ち悪くは、ないのか……?」

 ああ、やっぱり自分でもそうは思ってたのな。
 だから、自分を受け入れてくれるのなら、こういう部分も受け入れられるはずだって、思い切ってやっちゃったんだろうか。
 ……なら、俺にはもう、何も言う事は無い。だって、俺は頷いたんだから。

 この程度の性癖で「クロウと一緒に居る」という約束を違えるほど、俺は狭量じゃない。むしろ、それでこそブラックに対抗できる奴ってもんだ!
 うん、そうだな、よく考えたらアイツとちゃんと仲良く出来てるんだから、そういう豪快な性癖が無いと逆におかしかったんだわな!

 第一、「この性癖気持ち悪い」って俺が言えたこっちゃないし。
 クロウはむしろ偉い方だよ。今まで我慢してたんだしさ。
 俺だったら無理だったかもしれん。だって俺、目の前におっぱいあって揉んでも良いって言われたら、揉むもの。素直に両手で揉んじゃうもの。それに比べたら、本当我慢してた方だよ。
 だから、俺には責めらんない。

「ツカサ……」

 俺が考え込んでいる間に更に不安になったのか、クロウは珍しく悲しそうな顔をして、俺を見上げて来る。いつもは無表情なのに、そんな顔をするなんて。
 クロウ、ずるいよ。そんな顔されたら……誰だって、酷い事なんて言えるはずがないじゃんか。

 安心させてやらなきゃと思って、俺はクロウの頭を優しく撫でた。
 目の前で屈んで俺を見上げている、不安そうな大柄の中年。なのに、顔はまるで叱られる前の子供のような表情で、非常にアンバランスだ。
 ……無表情のクロウがそんな顔をしているのが、何故か少しだけ嬉しかった。

「気持ち悪くないよ。……俺だって、女の人にドンビキされそうな趣味とかあるし……。それに、クロウは今まで我慢してただろう? 俺の服、今まで一度も破かなかったじゃん。今だって、もう使わないから服を破こうと思ったんだろ? だから、逆に偉いと思うよ、俺は。ちゃんと我慢出来てたんだからさ」

 そう言って撫でると――――クロウは、目を見開いて泣きそうに顔を歪めた。

「ツカサは……ずるい…………」
「え……」
「そんな事を、言うなんて……そんな事を言ったら、オレは我慢できなくなる……ツカサを離せなくなる、もっと甘えてしまう、ワガママを言ってしまう。さっきの事のように……ツカサを困らせてしまう…………」
「クロウ……」

 名前を呼ぶと、クロウは屈んだままで俺を抱き締めて来る。
 高い鼻が俺の臍の辺りにぎゅっと押し付けられて、額が胸の下を圧迫するようにぐりぐりと動いた。腰は太く逞しい両腕に捕えられていて、もう逃げる術もないけど……だけど、逃げる気なんて起きなくて、俺はただクロウをなだめるように、そのボサボサの頭を優しく撫で続けた。

「……約束したじゃん、一緒に居るって。でも、俺はその……ブラックと、その、恋人……だから……俺も、困っちゃうから……クロウには我慢させる事になっちゃうけど、でも、ああいうのを否定するのは許してほしい。……否定したからって、クロウが嫌いな訳じゃないから。お前の事、絶対に置いてかないから。……だから、許してくれるか?」

 そう言うと……クロウは口をぎゅっと引き締めて、息を吸うと……頷いた。

「解った。……ツカサはブラックのモノだし、ツカサを困らせたくない。だから、オレも我慢する……。だけど……怒るのは、良いか? こうして甘えたり、ツカサの事をオレのやり方で愛したい……それは……して、いいか……?」

 ああもう、クロウこそずるいよ。
 熊の耳を伏せて、切なそうな顔をして、見上げて来るなんて。
 俺がアンタの事を拒否できないって事を、解ってるくせに……。

「…………うん。解った。……まあ、変態行為はブラックで慣れてるし……その、物凄いプレイとかされなきゃまあ、俺だって……」
「物凄いぷれい?」
「そ、そこは拾わなくていいの!!」
「じゃあ、こ……も……続けて、いいか?」

 ぐ……あからさまに嬉しそうに顔を輝かせるなんて、やっぱり卑怯だ……。
 熊耳だって元気に動かしちゃってもう、クロウったらコレ本当に天然なのか? もしかして自分の魅力とか認識してない? 俺の弱点解ってない!?
 ちくしょう、そんな顔されたら、もうやめようとか言えないじゃないか!!

「ツカサ……」
「だーもー解った、わかったよ! で、でも、誰かに見られるのだけは絶対に嫌だからな!? み、見せつけとかも駄目だぞ! 人が来たらやめろよ!?」
「解っている……ツカサ、大好きだ……!」

 そう言いながらまたもや腹に顔を埋めて来るクロウに、俺はもうぎこちない笑みで笑う事しか出来なかった。
 結局、スケベなことはちゃんとやるわけね……とほほ……。








 
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