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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編
23.駆け引きなんて通用しないほどの
しおりを挟む…………じゅん、しん?
じゅんしんって……純真ってこと?
俺から、それを奪いたいって……それって…………――――
無理じゃね?
俺純粋さの欠片もないし。美少女大好きだし。エロ礼讃主義だし、なんならケツの処女すら失ってて心身ともに純の欠片も残ってないんですけど。
それ考えると物凄く嫌なんだけど、いくら恋人が男でもケツを掘られた事は正直こう言う場では忘れたいんだけど、それは置いといて。
結論としては、俺の「純」と言える所って、いまだに何物も貫通していないマイ愚息くらいしかないんじゃね。あれ、なにこれ、いじめ?
……いやいかん。色々考えてしまったが、今は忘れよう。あと終わったら改めてブラックを殴ろう。そうじゃなくて、純真の話だ。
とにかく、俺に純なところなどない。そんな状態では流石に取引が出来ないので、俺は丁重にお断りする気持ちで沈痛な表情を見せて頭を下げた。
「えーっと……俺は女の子の裸が大好きなので、純真とかいうモノは最初から持ってないんだよね……。だからごめんなさい」
申し訳ねえ。俺はもう世俗に汚れちまった身でございやすんで。
何故か時代劇口調でそんな事を思いつつ再度深々と頭を下げると、リオルは「ちょいちょいちょい! ちがーう!」とチャラ男らしいノリで否定してきた。
おい何だよ。純真って他に意味があんのかよ。
顔を顰める俺に、リオルは指を振りながらチッチッチと舌打ちした。
「あのね~、ツカサちゃんぜってー違う事考えてるっしょ? まあ、そう言う所も俺好みではあるんだけど……。そうじゃなく、純真ってのは……ツカサちゃんの心のことだよ。わかる?」
「いや、だからさ、俺の心は女体への欲望で汚れてるんだってば」
「…………それ、本気で言ってるなら大したカマトトだなあ」
は? カマトトってなに?
専門用語……なんか聞いた事があるような気もするけど、よく解らん。女の子に対して使う少女漫画っぽい単語だったような。
良く解らんけど、バカにされたのは解るぞ。だってそれ、主人公の美少女に敵対しているツンデレ系美少女が言う台詞だもんな!
母さんの持ってる漫画で見たぞ俺は!
「か、カマトトじゃない!」
「意味知らんで怒ってるっしょツカサちゃん…………。まあいけど……。でもさぁ、俺が欲しいのは、そう言う所なのよ。わかる?」
「わからん」
素直に言うと、リオルは深い深い溜息を吐いて、指を額に当てた。
なんだこらー、やめろその呆れたようなたいどー!
「最初から思ってたんだけどさぁ……なんでツカサちゃんって、アイツらを純粋に好きで居られるの? あのオッサン達に良いように犯されて調教されてるのにさ」
「へ……?」
思っても見ない事を言われて、思わず思考が停止する。
だけど、その間にもリオルは言葉を畳み掛けて来た。
「ツカサちゃん、本当はあのオッサン達とヤるの辛いんでしょ? 肩を触った時に全部伝わって来たよ。組み敷く側としての自意識をねじ伏せられて、それに対して酷く怯えてる。その怯えのせいでいつも恥ずかしいと思ってるのに、体だけは開発されて、それで齟齬が起きてツカサちゃん自身も混乱し始めてる」
肩を、触ったって……。
なに、どういうこと。混乱し始めてるって、なに?
「だのに、許して、受け入れて、自分の“組み敷く者”としての自意識を殺してまであのオッサンの欲望のままに犯され続けて……」
「……そ、それ、は……」
なんでそんな事知ってるんだ。なんで。
でも相手が魔族だとしたら、淫魔でなくても俺の事を知る術を持っていたのかも知れない。だったら、変じゃない。ウィリー爺ちゃんだって俺の心を読めたんだ、過去を読める魔族が居たって不思議じゃない。
だけど、でも、どうしてそんな恥ずかしい事……。
「なあ、ツカサちゃん。俺真面目に聞きたいんだけどさ……。ツカサちゃんは……本当に、心から、あのブラックっていうオッサンが好きって言える?」
――――え……?
「犯されてなし崩しに夫婦になる奴らなんて、ごまんといるんだぜ? この世界はオスが強ければメスはただの肉奴隷だ。身分、強さ、恐怖、財力、知識、年齢――――全部、ぜんぶ弱けりゃただの道具。恋人なんて言っても、実情は性奴隷と同じなんだよ。……ツカサちゃん、自分がそれに当て嵌まってないって、本当に思ってる? その事、考えないようにしてるんじゃないのか?」
言われて、頭が真っ白になる。
たしかに……確かに、俺は、チート能力以外はブラックに敵わない。
でも、そんな。奴隷とか、絶対そんなんじゃないよ。
そりゃ、初めては半分レイプみたいなもんだったけど、ブラックの事なんて変な強姦親父だとしか思ってなかったけど……でも、なんかいつの間にか好きになってて、だから、えっちだって、嫌じゃないって……。
「なあ、ツカサちゃん。ツカサちゃんのその気持ちってさぁ……本当に、“恋人”としての感情からなのかな?」
リオルの深緑色の目が、じっと俺を見つめて来る。
光にキラキラと輝いてるのに、俺は何だか息苦しくて、何も言い出せなくて……ただ相手の言葉を聞いているしかなかった。
そんな俺に、リオルは優しく笑うと――――強い口調で、言葉を吐き捨てた。
「犯され続けたせいで自意識が壊れて、快楽で頭が混乱して……そのせいで自分を犯す相手の良い面ばかりを見ようとしてたんじゃない? だから、その結果……今のように、恋人と言う性奴隷として、飼い慣らされちゃったんじゃないの?」
………………俺が、飼い慣らされてる?
それって、何ていうんだっけ。そういう精神の病が有ったような気がする。
自分に害を加えた犯人とずっと一緒に居るうちに、同情して妙な連帯感や愛情が生まれる事があるって言う……俺が、その病気にかかってるって言うのか?
俺が弱くて、力じゃ絶対敵わないブラックから逃げられないから?
どこへ逃げてもブラックが追って来るって解ってるから?
この世界で、あいつらが居なければ、俺は……一人ぼっちだから……?
「………………」
絶句した俺に、リオルは優しい笑顔で手を差し出した。
まるで、明るい場所から薄暗い場所へ来いと言っているように。
「ツカサちゃん、俺なら助けてあげられるよ?」
優しい声で、リオルは俺に微笑みかける。
「もう、男になんて犯されたくないんだろ? モノ扱いされて、束縛されて、女のように喘ぐ生活なんて、もう終わりにしよう。俺なら、ツカサちゃんを救えるよ? あいつらのいない場所へ、連れて行ってあげられる……だから、さあ……こっちに来いよ……」
こちらに手を伸ばして、リオルが言う。
俺は、その姿を見つめて――――――
「いかない」
そう、はっきりと言葉を返した。
「え…………」
一言だけ驚いたような声を漏らして瞠目するリオルに、俺は少し身じろぎ、相手から距離を取るように一歩後退した。
……もちろん、何の迷いも無く。
しかし、リオルは今起こった事が理解出来ていないのか、さっきまでの俺と同じように取り乱して声を荒げて来た。
「なっ……つ、ツカサちゃんは男に犯されるのは嫌なんだろ!? だったら、もうあのオッサンに付き合わなくたっていいんだぞ、俺と一緒にあいつらから逃げればいいじゃないか! なのに、なんで行かねーなんて言うんだよ!」
俺に「混乱している」と言ったくせに、今度はリオルが混乱しているようだ。
だけどまあ、尤もだなと思って、俺は微苦笑して口を開いた。
「だって、俺は……ブラックと一緒に居たいって、自分で決めたから」
――――悔しいけど。
本当に、自分でも信じられないけど……そうとしか、言いようが無かった。
確かに俺は好き勝手に発情されるのが嫌で、組み敷かれる度に恥ずかしくて仕方なくて、いつもブラックを拒否してしまう。
何度怒ったかも判らないし、何度流されたかも判別がつかない。
けど、俺はそれが“奴隷にされてるから”だとはどうしても思えなかった。
だって、ブラックはそういう奴じゃないから。
そりゃまあ、アイツはいつだって自分勝手で傍若無人で人でなしで、俺にスケベな事ばっかりして来るような最低なオッサンだけど。何度泣かされたか分からないくらい、理不尽な事されてばっかりだけど。
でも、そんな事をされて本気で別れたいと思った事なんて一度も無いよ。
だって俺は、知ってるから。
ブラックが俺の事を心底必要として、俺の事を助けようとして一緒に居てくれる事や……自分の過去に怯えながらも、それでも、一生懸命頑張って俺と色々な事を学ぼうとしているのを。
俺と一緒に居るために努力してる事を、ちゃんと知ってるんだよ。
…………そんな奴を、俺は怒ったり殴ったりしてる。
それって、怯えてる事になんてならないよな?
ただ普通に、恋人らしい事をして、ちゃんと怒って喧嘩して学んで、相手を失う未来を本気で怖がって。それはきっと……一方的に支配されているだけでは起こりようのないものだ。
ブラックも俺も、同じだった。ちゃんとお互いの事を考えてた。
だから、俺は…………思ったんだ。
アイツの事を好きだって思ってる気持ちを……受け入れようって。
「ツカサちゃん……本気で言ってんの……?」
信じられないとでも言うような声で呟くリオルに、ただ頷く。
抱かれる行為には一生慣れないかもしれないけど、恥ずかしい事をされて傷付くかも知れないけど、俺はもう知ってるから。
それがブラックの愛情表現だって事を。
……何より、ブラックに嫌われたらって思うと、俺自身、驚くぐらい必死になって、情けなく尻尾を振ってたんだもん。別れるなんて考えられないよな。
悔しいけど……でも、そう言う事なんだ。
だから俺は、リオルの誘惑の言葉を聞いて、正気に戻ったんだろう。
その事を想うと何だか恥ずかしくなって顔に熱が集まり始める。また赤面してるのかと思うと、自分の分かり易さがとても恨めしかったが、ぐっと堪えてリオルを見やった。確固とした自分の意思を伝える為に。
「理解して貰えないかも知れないけど……俺は、ブラックの傍を離れたくない」
「…………あんな男でも?」
「あんな男だからだよ」
苦笑して、俺は自分でも思っても見ないほど自分の気持ちを吐き出せている事に、少し驚きを覚えていた。
普段の俺なら、絶対にこんな事なんて言えなかったはずだ。
そりゃまあ、今の言葉は百パー思ってる事だし、言っちまったからには今更否定する気はないけど……でも俺、こんなにセキララ告白出来る奴だったっけ……。
……ハッ、まさか、これすらもリオルの仕業か……!?
慌てて相手を見やると、リオルは呆れたような気の抜けたような顔をして、肩を弛緩させていたが――――やがて、弱く笑った。
「ははっ……ほんと、ツカサちゃんは凄いわ」
「……?」
「あのね、ツカサちゃん。俺が欲しいのは、その心だったワケよ……。相手をそうやって心底信じて、尽くして、深く思う綺麗な感情……それが、俺が欲しい“純真”なんだよ。…………本当に、忌々しくて、綺麗な……ね」
人を思う心が、リオルの言う純真だったのか。
でも、そんなもん貰ってどうしようってんだ。……と言うか、もしそれを代価として支払っていたとしたら、もしかして俺……。
「ああ、心配しないで。……代価としてツカサちゃんの“恋人を愛する気持ち”を奪ったとしても……たぶん、何も変わらなかっただろうからな……」
「それ……どういう事……?」
問いかけた俺に、リオルが力なく笑う。だけど、その笑顔に嫌味は無い。
リオルの変化を示すように、周囲の靄もどんどん晴れて行った。
――後にはただ、静かな入り江が残るだけだ。
やっぱり、あの靄はリオルが作り出していたんだろうか。
相手をじっと見つめると、リオルは長く息を吐いて俺を見返してきた。
「でも、ごめんねツカサちゃん。俺も素直に引き下がる訳にはいかねーんだ。俺の正体を知られたからには…………無理やりにでも、支配するほかない」
「え…………」
「根競べと行こうか。魔族の俺と、ツカサちゃん……どっちが先に倒れるか」
言いながら、気合を入れるように意を吐くリオルに、俺は慄いた。
根競べって……まさか、俺が投降するまで待つって言うのか?
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