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クリスマスはシュトーレンとフリッターテン・ズッペ②

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「わー、なになに、これなに? 麺料理?」

 アリスは初めて見るであろうオーストリア料理を見て驚いた。
 木のボウル器に盛り付けた状態はどことなくきしめん・・・・に似ている。

「食べてからのお楽しみよ。シュトーレンも切ってあるから」

 ふたりで手を合わせて、いただきます。

「あ、スープはコンソメ? ちょっぴり塩気が。あれ、でも麺、甘」

「これはオーストリアの料理。スープに細く切ったクレープをいれるの。フリッターテン・ズッペっていうのよ」

「へえ、おもしろい。クレープなんだ。スープの味がしみてておいし」

 アリスは初のオーストリア料理を楽しそうに味わっている。歩も久しぶりのオーストリアの味を食べて笑う。


「うん。おいしい。でもやっぱり店長さんには適わないわねえ」

「店長さん?」

「そう。オーストリアにいた頃、レストランでアルバイトしていたんだけどね、そこの店長モーリッツさんがよく作ってくれていたの。簡単だから日本に帰ってからでも作れるぞって」

「すごく優しい人だったんですね。歩さんがよくご飯を作ってくれるのって、モーリッツさんってかたの影響?」
「そうかもしれないわね。よく食ってよく働けっていつも言っていたもの」

 歩の思い出話を、アリスは興味津々で聞く。
 だから歩も楽しくて、オーストリアにいた頃のことをあれこれ話す。

 シュトーレンも、アリスは「クリームたっぷりのケーキより好みかも」といって食べた。
 食後のカモミールティーを飲みながら、歩はこれからの予定を話す。

「今日は五時頃に閉めましょう。お客様こないから」
「来ないってわかるんですか?」
「毎年そうだもの。イブだからそれくらいの時間になると食事に行くでしょ。レストランとケーキ屋さん以外は、人が来ないから閉めるのよ。うちだけじゃなくて他の店もね。アリスちゃん、夜に予定があるなら前倒しできるわよ」

 歩が言うと、アリスは困ったように笑う。

「あいにく予定はないので、銭湯に行ってご飯作って、早めに寝て終わるかな」
「あらま。まあアタシも似たようなものね。外は混んでいるから家でシチューでも作ってのんびり過ごすの。アリスちゃん、特に予定がないなら、うちで夕食も食べていく?」

 歩の提案に、アリスは一瞬驚いて、それからコクコクとうなずく。

「ふふふ。そうと決まったら午後の営業頑張って、おいしい物作らないとね」
「はい!」

 こうしてワンダーウォーカーのクリスマスは、のんびりゆっくりと過ぎていくのだった。
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