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   新しい仲間

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「この名前…私、とってもキライでね。
 どうしてこんな名前なの…と、親を責めたこと、あるわ」
 御手洗さんは、思いのほか早口に、力をこめて言う。
そうしてナギコを見ると、ニヤッと笑う。
「ね、知ってる?
 名前って、変えることが出来るのよ」
まるでとっておきのヒミツを打ち明けるようにして、声をひそめる。
「へっ?結婚するってこと?」
「ううん、違うわ」
得意気にそう言うと、
「養子縁組もあるし、裁判所に申し立てをして、
 認められたら…変えることが出来るんですって!」
その表情は、うっとりと夢見心地の表情だ。
そういえば…悪魔くんとか、下の名前は変えられると、聞いたことがあるけれど?
もしかしたら、苗字も?
「へぇ~」
思わずドン引きする、サヤカたちだ。
早々に離れて行く彼女たちを見て、この人たちには、コンプレックスなんて、
わからないだろうなぁ~
ナギコはひそかにそう思う。
「だって、水洗トイレみたいな名前なんですもん!」
憤慨したように、御手洗さんが大きな声で、そう言った。
  
 心配するまでもなく…御手洗さんは、この教室の人たちに、すんなり
受け入れられた。
中には、陰口をたたく人もいたけれど…
『変わり者の御手洗さん』と認知されたようだ。
だけど、困るわぁ」
ナギコはカナエに打ち明ける。
「なによ?」
部室に向かう途中、渡り廊下でバタバタと、サヤカたちが
「お先に」とすり抜ける。
「あっ」と立ち止まると、
「御手洗さんは?」
振り返りざま、ナギコたちに、声をかける。
「あの人は…美術部を見学するって」
「あら、一緒じゃないんだぁ」
クスリと笑った。

「ナギコ!清子さんが、お迎えよ」
からかうようにして、サナエが奥にいるナギコに声をかける。
音楽室の入り口を見ると、ポゥッとした顔をして、
音楽室の棚の上に並んでいる楽器を眺めている彼女がいた。
「なんで、入らないんだろうねぇ」
「入りにくいんじゃない?」
クスクス笑って、あわててドアに近付く。
「もうちょっと練習するから、先に帰ってて」
「ふーん」
さして気のなさそうな顔をする。
そしていきなりナギコを見ると
「私ね、高校出たら、早く結婚する」
突然宣言した。
「えっ?彼氏、いたっけ?」
聞いていないけど…
そんな気配もないけどなぁ~ナギコが黙り込んで
考えていると
「いないけど、そうするの!決めた!」
すっくと立っている。
「決めた?」
「そうしたら…もう名前も気にしなくてもいいもんね!」
まるでどこかへ行くみたいな言い方をする。
そんなもの?
そう思うけれど…
あぁ、彼女は、そんなに自分の名前が嫌だったんだろうなぁ~
そう思った。
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