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第九章

9-19 初号機のお披露目

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「で、イチよ。これは“半バカ”という食べ物なのか?」
「“半バカ”ではなく、“ハンバーガー”です。」
「そうか…、“ハンバガー”か…。」

 どうもカタカナをこちらの世界に教えるのが難しい。
あ、四字熟語的なものもそうか…、以前に“吊り橋効果”をヒトの名前だと思っていたヒトも居たっけ…。
まぁ、どんな名前であっても、それぞれ浸透していけばいいんだ。
でも“ブラジャー”はそのまま溶け込んだぞ?
いかん…、完全に思考が変換という謎のワードに対して、ループし始めている。

 うん…。意味不明だな…。

 事務所にパンもどきと野菜、トマトもどき、そして焼いたハンバーグを置く。
皆どう食べるか興味深々だ。

「では、食べ方です。
 二つに割ったパンの下部分に野菜をしき、その上にハンバーグを乗せます。
 あ、ハンバーグにはケチャップを付けてくださいね。
その上にトマトもどきを乗せ、さらに野菜が好きな人は野菜を乗せパンを乗せたら出来上がり。
パクっと食べてみてください。
では、はじめ~!」

 皆思い思いに具材を入れて食べる。

「ん~~、主殿、いろんな味がして美味しいですね。」
「サンドウィッチに引けをとりませんね。」
「これなら、作業しながらでも食えるな。」

 いえ、食事は食事としてきちんととってくださいね。

「えと、あまり具材を欲張りすぎて入れ込むとアイナさんみたいになりますから気を付けてくださいね。」

 皆がアイナを見る。
彼女の周りはケチャップが散乱し、口もケチャップだらけ。
スプラッタも良いところだ。

「らって、おいひいですから…。」

 多分、同じことを伯爵くらいがやるだろうな…。

「午後、伯爵家でこれを出そうと思うんだが、みんなどう思う?」
「完全にシェルフール名物となりますね…。」
「ユーリさんか…。」
「問題はこの柔らかいパンですね…。」
「今、王都で申請しているって言って逃げようか?」
「伯爵がうるさいですよ。」
「そうだよな…、あの人食い物だけはうるさいもんな…。」

「あ、ヤットさん、ラットさん。相談があるんだけど、このハンバーグを作る時、肉を細かく切り刻むんだけど、取っ手を回すと肉が切り刻むような機械ってできないかな。」
「ん?こうやって、ぐるぐる回して、細かくなった肉が出てくるものだな。分かった。一回作ってみることにするぞ。」
「あ、それなら、もう一つ同じく、小麦粉をこねた生地をこちら側に入れてグルグル回すと、向こう側に細長い状態で出てくるようなものもお願いします。」
「ふーむ。肉を切り刻む箇所を変更すればできそうだな。分かった。早速作ってみる。」
「よろしくね。」

「みなさん、おはようございま…って、なんか美味しそうなもの食べてますね。
 私にもくださいー!」

 お、ミリーさんとニコルさんが琥珀亭から到着したか。
そして、ハンバーガーの作りかたをアイナから教えてもらっている…、がアイナで良いのか?
あ、案の定具材詰め込み過ぎてるし、ケチャップ入れすぎる…、それで食べると反対側から出るぞ…。
ほら、言わんこっちゃない…。
テーブルがケチャップだらけになった…。

 そんな朝食を終え、皆が動き出す。
研究室に籠る班、馬車の製造、ミシンの製造。
ニコルが御者ができるので、今回の伯爵邸はディートリヒ、ベリル、ニコルと俺の4人で行く。
伯爵邸のシルバーとロシナンテを連れてきて馬車に繋ぎ、いざ、出発。

「はいよ~、オグリン、ナリタン!」
「ちょと待て、お前らなんで伯爵家の馬に勝手に名前つけてるんだ?」
「え、馬に名前をつけるのは当たり前の事です。」
「俺たちの馬じゃないんだよ。伯爵邸で勝手に馬に名前つけて嫌な顔されたら困るだろ。」
「では、なんと呼べば?」
「うんと…、仮だけど、シルバーとロシナンテで…。」

 完全にアイナの請け売りになってしまった。
後で伯爵に謝っておこう…。
しかし、ニコルの付けた名前がオグリンとナリタンって…。
もしかして俺と同世代なのか?あの思春期どもは?

 馬車の外装は変えていないので、普通に走っていても皆気にもしていないが、シルバーとロシナンテは気持ちよく闊歩している。馬車の振動は上々のようだ。
程なくして、伯爵邸に到着した。

 玄関ではバスチャンさんが、目を輝かせて待ち構えており、馬車をまじまじと見ている。
ふふ、外見からは分からないのだよ。
『ザクとは違うのだよ…ザ…』ゲフンゲフン。

 正門を抜け、玄関の車寄せに行くと、今度は奥様ズが待ち構えている。

「ニノマエ様、首を長くして待っておりましたよ。」
「はは、すみません。少しお時間を取らせてしまいましたね。」
「で、早速内覧をさせていただきますか?」
「構いません。では、どうぞ。」

 車寄せで馬車に乗り込む。

「うわ~、座席が気持ちよいですね。」
「少し街を走ってみますか?」
「そうですね。あ、少しお待ちください。主人も呼んできます。」

 あ、伯爵の事すっかり忘れていた。

 伯爵がやってくる。

「おう、ニノマエ氏、完成したのか?」
「えぇ。できましたね。」
「それじゃ、乗せてもらおうか。」
「では、内部の説明を俺がしますね。ニコルとディートリヒは御者席に、ベリルは後部御者で。」
「はい((はい))。」
「では、参ります。」
「はいよ~シルバー、はいよ~ロシナンテ!」
「へ?」
 
 伯爵が口をあんぐり開けている。

「すみません。彼女たちが勝手に名前を付けてたようです…。」
「うむ。構わないぞ。そもそも馬に名前なぞ付けておらんかったからの。」

 あ、そうなんだ…。でも可哀そうじゃん。
もっと可愛がってあげなよ。

「ニコル、門を出て外周を一周回ってくれ。」
「分かりました。」

「では、説明しますね。」
「その前にニノマエ様、先日仰っていた部品で、このように快適になるものなんでしょうか?」
「あ、振動ですね。はい。車輪部分と荷台部分、そして御者部分を分離して作ってあります。
 なので、振動は車輪部分ですべて吸収されていると思ってください。」
「気持ちよすぎて、寝てしまいますね。」
「そういう時は、俺が座っている椅子をこうして回し、座席部分を倒すと…。
 はい。即席ベッドの出来上がりです。
 ただし、伯爵様と俺がキツいですが、お二人であれば、足を投げ出して座ることも可能ですね。」
「これは凄いです!」
「のう、ニノマエ氏、ここで寝る事も可能なのか?」
「そうですね。一応、馬車には結界が張ってあるので襲われても問題はないかと思います。
 それと、音遮断もかけてありますので、内々の話をされるもの良いかと思います。」
「ほう、それではこの馬車の中で…」
「できると思います。」
「まぁ!それは素晴らしいですね。」
 
 うん…、何が素晴らしいかは分からんが…。

「さらに、荷台部分、つまりこの部分の振動も車輪や御者には伝わりません。」
「まぁ!」
「うふふ。」

 うん…。多分そっち系の事なんだろうね…。

「御者と話したいときは、この管を通して伝達が可能です。
 ディートリヒ、聞こえるか?」
「はい。聞こえております。」

「ほう。これは便利だの。」
「説明を続けますね。今、座席をくるっと回した両脇のスツールですが、中に引き出しがございます。
これには1m四方100kgまでのモノが入るよう、アイテムボックスを付加してありますので、荷物はこちらに入れてください。」
「まぁ、アイテムボックスまで!それも両方ですわ!」
「最後になりますが、この天井についている魔石を触ってみてください。」
「こうですか?
きゃっ、風が出てきました。」
「はい。魔石の種類とマナの強弱によって冷たい風が出たり温かい風が出たりするようになっております。」
「凄いです!これで遠出も楽になりますわ。」

 外周を一周し、伯爵邸に戻る。
 
「ニノ様、伯爵邸に到着しました。」
「分かった。車寄せまでお願い。」
「分かりました。」

 車寄せに到着し、全員が降りる。

「御者席にも風防を取り付けることができますので、雨の日も御者さんが濡れることのないように、そして馬からの泥跳ねも無いようにしてあります。
最後ですが、車輪の部分は覆われており、内部を見ることができないようになっております。
 もちろん隠蔽もかけてありますので、他者からは完全に見ることができません。
 以上が、この馬車の作りですが、何かご質問はございますか?」

「ニノマエ様、馬車の中で眠りたいときは座席の窪みがきになりますが…。」
「その時は、スツールの中に入っているクッションをお使いください。
 一応馬車の座席前面を覆う事の出来るものをご用意させていただきました。」
「まぁ、それは素晴らしいです。」

「あとは、実際に乗られて感想をいただければ、また改善をしていきます。」

 奥様ズがうっとりとしている。

 伯爵が俺に小声で言ってくる。

「のう…、儂の馬車も改造してもらえんだろうか…。」
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