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第三章

3-18 Juneteenth

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 次にマルゴーさんの店に向かう。
マルゴーさんにも親書を渡し、お約束のようにびっくりされた。

 そう言えば、レルヌさんもマルゴーさんも伯爵からの親書だと言って渡しても、そのまま封を破り読んでいたけど、領主からの手紙ってもっと権威のあるものではないのか?と思いつつ、マルゴーさんと一緒に鍛冶ギルド長のところに行く。

 案の定、驚かれたよ。
 それに了承を取り付ける代わりに、ニヤニヤと笑いながら、俺の持っている素材を買ってくれると言ってくれた。

「あんたが持っておる素材全部買わせてもらう。そして、その素材を打ち、新しい武具を作るぞ!」

 完全な鍛冶ヲタだった…。
 そして、ディートリヒと俺とで持っている素材という素材を持っていかれた…。
在庫一掃みたいな感じ…。
 ディートリヒさんのバッグから、出るわ出るわ…。
ギルドの職員も口をあんぐり開けて見てる。
まぁ、緑の奴とか白い奴ばかりなので、質より量という感じ。
それでも鋳造したり精錬したりすれば良いとの事で、なんと金貨3枚で買ってくれる。

 これでレルヌさんのところで買ってもらった額と併せて7日分は食いつなげる。

 トントン拍子ですべての話がまとまった。
後は夕刻の報告をするだけだが、もう一つだけディートリヒのためにしたい事があった。

 それは奴隷の解放。
ディートリヒと出会い、買った金額以上稼いでいる。なので、奴隷を解放したいと思った。
そこでディートリヒに相談する。

「ディートリヒ、時間が余ったからカルムさんの所に行こうかと思うが。」
「え、何故ですか?私をお売りに?」
「違う違う。昨日、ディートリヒには絶対放さないって約束したばかりだよ。」
「そうですか…。よかったです。で、奴隷商に行かれるのは購入されるという事ですか?」
「ディーさん…、いくら俺がおっさんでも、流石にそこまでは無理だと思います。
それに、俺はディートリヒに助けてもらえれば満足だよ。」

 きっぱりと言う。
無理です。ハイ。若いヒトには勝てません。
勝てるとすれば、技術だけ…、って、俺技術もないけど…。
当の本人、ディーさんは赤面してクネクネしている。

「行く理由は、ディートリヒを奴隷から解放するために行くんだよ。」
「え?! 奴隷解放?」
「そうだよ。ディートリヒはもう購入した金額以上に働いてもらったからね。」
「あの…、カズ様…。」
「ん?どうした?」

 ディートリヒは下を向いている。

「奴隷を解放していただいた後、私はどうなるんでしょうか?」
「え、あ! 奴隷解放って事は自由になれるって事か。」
「はい。そうしますと、私はカズ様のお傍でカズ様を助けることができなくなります。」
「ディートリヒ、解放後、もし君が俺のもとを離れて行っても俺は止めないよ。君には君の生き方があるからね。でも、俺としては一緒に居てくれた方が嬉しいけど。」
「では、一生一緒にいます。それで良いですか?」
「え、あ、はい。こちらからもお願いします。」
「私はカズ様のもとを一歩たりとも離れません。私を愛してくださった方ですもの。まだカズ様とやりたいことがいっぱいあります。あんな事や、こんな事も…。」

 あ、あかん。ディーさん…、違う世界へトリップしてる。
どんな事なのか一抹の不安はあるが、それでも俺を信じてくれて傍にいてくれることに幸せを感じる。

 違う世界へトリップしているディーさんを連れ、カルムさんの店にやって来た。
おおう…。相変わらずボディガードさんが立ってるよ。こっちを睨んでる…。
怖い…。
でも、ディートリヒが違う世界から帰って来て、ボディガードさんにカルムさんと会いたい旨を話してくれた。ボディガードさんもディートリヒを買った時の姿を見ているから、今のディートリヒの姿を見てびっくりするやら、喜ぶやらしている。
このヒト良い人だよ。そう思った。

程なくし、奥の部屋に連れられた俺たちはカルムさんと向き合う。

「これは、ニノマエ様、先日は奴隷のお買い上げありがとうございました。」
「カルムさん、こちらもありがとう。おかげで良い買い物ができたよ。横に居るのがディートリヒ。この間買わせてもらったヒトだよ。」
「それはそれは…。素晴らしい女性ですね。で、今日はまた奴隷を購入されますか?」

だから、間に合ってますって。

「いや、買うのじゃなく、このヒトの奴隷を解放してやってほしい。」
「へ? 奴隷を解放ですか?」
「そうです。もう彼女の助けで購入した金額よりも多くのお金を稼いでくれたからね。」
「え?もう金貨3枚ですか・・・?」

 はい、本当です。
先ほど鍛冶ギルドで出した素材のほとんどは彼女が倒していましたよ。

「はい。なので、彼女との契約は終わります。その後は私の傍で働いてもらいます。」
「ははは、ニノマエ様らしい考えですな。分かりました。では、奴隷の紋章を消し、契約を解除しましょう。」
 
 カルムさんは、一旦部屋を出て紋章を消す魔道具を持ってきた。

「奴隷を解放するのに大銀貨5枚かかりますが、よろしいですか。」
「問題ありません。」
「それでは始めましょうか。」

カルムさんはディートリヒの方を向く。

「すみません。お願いがあるのですがよろしいでしょうか。」

ディートリヒが決意を込めた顔をしている。

「紋章だけを残していただくことは可能でしょうか?」

ん?いきなり何言ってんだ?
奴隷解放=紋章を消すって事じゃないのか?

「お嬢さん、仰る意味がわかりませんが。」

カルムさんも尋ねる。俺も聞きたいぞ。

「はい。ご主人様は、四肢欠損の状態で死にかけていた私を治療していただきました。これは一生かかっても払いきれないくらいの恩義がございます。
例え奴隷を解放されようと、私はご主人様に尽くしたいのです。
その証として紋様のみを残していただき、毎日その紋様を見ることで、ご主人様に感謝したいのです。」

 うひゃぁ…。重いよ。そんな事思わなくて良いよ。って言いたい…。
でも、言うと恥ずかしい…。

「その心意気や天晴です。」

カルムさんがうんうん頷きながら涙ぐんでいる。

「余程、ニノマエ様に良くしていただけたのでしょうな。ニノマエ様に購入していただけた奴隷は果報者ですな。
分かりました。お嬢さんの願い聞き届けます。紋様のみ残しますが、ニノマエ様、それでよろしいですね。」
「え、あ、はい。ディートリヒさえ良ければ、問題ありませんが、ディートリヒ、本当にそれで良いのか?」
「はい。お願いします。」

俺の血を一滴たらし、効力が切れた紋様はそのまま残るのではなく、形を変えてTatooのようなフォルムになり残った。
その模様を見てディートリヒは満足している。
 
俺は大銀貨5枚を支払い、カルムさんの店を後にした。
カルムさんが笑顔で送り出しくれた。

さぁ、最後のお務めだ。
 俺たちはシュクラットに向かう。
すでに“風の砦”のメンバーは到着しており、遅れてクーパーさんが到着した。
Bランクの炎戟はダンジョンの調査に行っており、今日は野営をするとの事。

 BランクとCランクの情報共有は既に終わっているらしく、両方の情報報告があった。併せて、クーパーさんから今回の依頼の募集はすべて埋まったとの報告があった。
 一通りの活動報告が終わった後、俺から、領主から400名の応援、100名の市内防御といた協力を得た事、錬金ギルドからは発生時におけるポーション等の提供、砲台役として魔法が打てるメンバーの配置。土魔法師の壁作成の協力。鍛冶ギルドからは上位武器の無償貸与。街内の見回り、腕の立つ奴30名を近接部隊に参加等々を報告した。

 皆固まっていた…。
しばらくして、コックスが口を開いた。

「あんたは化け物だよ…。」

 規格外から化け物にランクアップした…。
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