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下界にて
7:妙案
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大賢者ユリナスの旅の目的は、破門されたマリアンヌに代わる、聖賢女の器を見つける事。
そのため、大賢者の探知能力は、常に「聖気」に焦点を定めているはず。
しかし、今のマリアンヌは、自身の聖気を全て、呪いが生み出す瘴気を打ち消すために使っている。だから、常に聖気を生み出し続けているにも拘わらず、聖気がマリアンヌのからだから漏れ出る事は一切なく、同時にその事が彼女の生命力を削り続ける要因となっている。
もう少し前のお母さんなら、聖気を余分に産み出す事もできたと思うけど、今の体でそんな事はとても無理だ。聖気を放つ事ができなければ、大賢者に気付いてもらう事もできないよ…。
今日の深夜が大賢者とお母さんを会わせる最後のチャンスだと知った私が急に静かになってしまったからか、ディックが心配になったようだ。
「俺、今晩町に行くのが心配になってきたよ、マリー。」
何ですと、ディックは今晩町に行く予定だったの?私達を置いて?なんで?
私は思わず疑問の表情を浮かべて、ディックの顔を凝視してしまった。
「私達なら大丈夫よ、兄さん。家事をしてくれる女性も頼んでくれてるんでしょ?心配しないで。」
うーん、なんか知らないけど、ディックが不在になるらしいな。
私を寝台におろしたディックは、再びお母さんのそばにゆき、もう艶もなくだいぶ薄くなってしまったお母さんの髪を、ブラシで丁寧に梳かし始めた。そして抜けた毛の一本一本を慎重にブラシから引き抜いて、それらを紙にくるんで大切そうに懐にしまった。
「じゃあ迎えが来るまでに荷物をまとめておくか。マリー、君はもうお休み。」
ディックはそういいながら、お母さんの額に接吻した。
そしてお母さんが横になるのを手助けしてから、私を再び抱き上げて隣の広い部屋に向かった。この家は掘っ立て小屋に毛の生えたような建物なので、部屋と言っても壁やドアがあるわけではなく、ひとつの大きな部屋を簡単な仕切りで隔てているだけだが。
ディックは私を床の小さな絨毯に座らせると、ザックを起き、今晩持っていく荷物を詰め込んで行く。私はそれを何となく眺めていた。
保存食やポーション類、替えの下着など、わりとありふれた物を詰めこんでいくが、その中に、ゲーム中に登場するアイテムがひとつ、紛れ込んでいるのを、私は見逃さなかった。
私はディックが少し離れた隙に、ザックの置いてある所まで這ってゆき、ザックの中から、そのアイテム…魔道具を取り出した。
見た目はピンク色の卵状で、一方の端に思わせぶりな窪みがある。
「(これ!使えるかも!)」
「あ、テリア、駄目だよ勝手に出しちゃ!」
ディックが魔道具を私から取り上げようとしたので、取りあげられないようにと、私は反射的に魔道具を持っている手を素早く背中の方にまわした。
さて困ったな、このままじゃ力ずくでディックに取り上げられてしまう。
そう思った時、魔道具を持っていた手が、ふっと軽くなった。
「さあ、返しなさい。背中に隠したって無駄…だよ?あれ?どこ行った?」
ディックに手を掴まれて手のなかを検めさせられたが、私が握っていたものはそこにはなかった。
ディックは「高かったのに~」と泣きそうな顔になりながら辺りを探し始めた。
「(あっ!ひょっとして収納?これが転生特典だったりするの!?)」
そして私はこの魔道具を使って大賢者とお母さんを引き合わせる妙案を思い付いた。
その計画のために私は、床を這い回るディックの頭に手を添え、髪の毛を一本、こっそりつまんで引き抜いた。
「痛っ。テリア、どうしたの!?」
「あうう(ごめんね、ディック伯父さん。)」
そのため、大賢者の探知能力は、常に「聖気」に焦点を定めているはず。
しかし、今のマリアンヌは、自身の聖気を全て、呪いが生み出す瘴気を打ち消すために使っている。だから、常に聖気を生み出し続けているにも拘わらず、聖気がマリアンヌのからだから漏れ出る事は一切なく、同時にその事が彼女の生命力を削り続ける要因となっている。
もう少し前のお母さんなら、聖気を余分に産み出す事もできたと思うけど、今の体でそんな事はとても無理だ。聖気を放つ事ができなければ、大賢者に気付いてもらう事もできないよ…。
今日の深夜が大賢者とお母さんを会わせる最後のチャンスだと知った私が急に静かになってしまったからか、ディックが心配になったようだ。
「俺、今晩町に行くのが心配になってきたよ、マリー。」
何ですと、ディックは今晩町に行く予定だったの?私達を置いて?なんで?
私は思わず疑問の表情を浮かべて、ディックの顔を凝視してしまった。
「私達なら大丈夫よ、兄さん。家事をしてくれる女性も頼んでくれてるんでしょ?心配しないで。」
うーん、なんか知らないけど、ディックが不在になるらしいな。
私を寝台におろしたディックは、再びお母さんのそばにゆき、もう艶もなくだいぶ薄くなってしまったお母さんの髪を、ブラシで丁寧に梳かし始めた。そして抜けた毛の一本一本を慎重にブラシから引き抜いて、それらを紙にくるんで大切そうに懐にしまった。
「じゃあ迎えが来るまでに荷物をまとめておくか。マリー、君はもうお休み。」
ディックはそういいながら、お母さんの額に接吻した。
そしてお母さんが横になるのを手助けしてから、私を再び抱き上げて隣の広い部屋に向かった。この家は掘っ立て小屋に毛の生えたような建物なので、部屋と言っても壁やドアがあるわけではなく、ひとつの大きな部屋を簡単な仕切りで隔てているだけだが。
ディックは私を床の小さな絨毯に座らせると、ザックを起き、今晩持っていく荷物を詰め込んで行く。私はそれを何となく眺めていた。
保存食やポーション類、替えの下着など、わりとありふれた物を詰めこんでいくが、その中に、ゲーム中に登場するアイテムがひとつ、紛れ込んでいるのを、私は見逃さなかった。
私はディックが少し離れた隙に、ザックの置いてある所まで這ってゆき、ザックの中から、そのアイテム…魔道具を取り出した。
見た目はピンク色の卵状で、一方の端に思わせぶりな窪みがある。
「(これ!使えるかも!)」
「あ、テリア、駄目だよ勝手に出しちゃ!」
ディックが魔道具を私から取り上げようとしたので、取りあげられないようにと、私は反射的に魔道具を持っている手を素早く背中の方にまわした。
さて困ったな、このままじゃ力ずくでディックに取り上げられてしまう。
そう思った時、魔道具を持っていた手が、ふっと軽くなった。
「さあ、返しなさい。背中に隠したって無駄…だよ?あれ?どこ行った?」
ディックに手を掴まれて手のなかを検めさせられたが、私が握っていたものはそこにはなかった。
ディックは「高かったのに~」と泣きそうな顔になりながら辺りを探し始めた。
「(あっ!ひょっとして収納?これが転生特典だったりするの!?)」
そして私はこの魔道具を使って大賢者とお母さんを引き合わせる妙案を思い付いた。
その計画のために私は、床を這い回るディックの頭に手を添え、髪の毛を一本、こっそりつまんで引き抜いた。
「痛っ。テリア、どうしたの!?」
「あうう(ごめんね、ディック伯父さん。)」
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