149 / 168
第五章 襲来に備える俺
149、訓練(フォグ視点)
しおりを挟む俺たち4体のエリアリーダーであるモンスターは、マスターを守護するために存在している。
…………ずっと、そう思っていたんだぜ。
だけど違ったんだ、俺は……ちょっと特殊なマスターである、今のマスターだからこそ手を差し伸べ、一緒についていきたいと思っていたんだぜ。
俺は死ぬのなんて怖くないと思っていたのに、今は少しだけ気持ちが揺らいでいた。
だって俺は、マスターや他の奴らのことを全部忘れる事が、少しだけ寂しいと思ってしまったのだから。
こんなこと今まで考えた事もなかったのにな……きっと死ぬ間際になったからこそ、俺にもそんな事を思う感情があるんだって、気がついたんだとおもうんだぜ……。
だからこそ俺は簡単に死んでやるつもりはない。
俺たちに呪いをかけた野郎に、絶対一泡ぐらい吹かせてヤラねぇときがすまねぇんだぜ!
そして俺は、マスターたちから距離を置いた日からずっと特訓をしていた。
何故なら、このカウントが終わるまでに呪いをかけた本人が戻ってくる可能性があったからだ。
そして俺の思惑通り、とあるファミリーがこの『カルテットリバーサイド』に入って来ているという情報が入ったのだ。
俺はすぐにその中に例の男はいると確信した。
その為、レインには宿屋を手伝わせ情報を集めをさせていたのだが、ファミリー自体の行動が怪しいという事しかわからなかった。
そのファミリーは、表向きは湖エリアのボス討伐を目的として行動をしているように見える。
しかし実際に湖エリアには半分の部隊しか向かっておらず、特に主力部隊は何故か火山エリアや森エリアにいる事が多かったのだ。
それはまるで何かを探しているようにも見えた。
何が本当の目的かわからないが、その中にマスターを殺す事が含まれている可能性は十分ある。
それならばマスターを狙うとき、奴が姿を現すときなのだろう。
そう思い、俺たちは作戦を立てる。
もしもファミリーの人間全てを使いマスターを潰しに来た場合、俺たちも全ての人間を相手にしないといけないだろう。
つまり、コチラも総力戦で仕掛けなくてはならない。
そのためシロとクロには、例の男以外を邪魔する為の先鋭隊である、ランク6を中心とした部隊を組む準備をさせている。
そして偶然なのか、呪いで俺が死ぬ日はマスターの戦いの決着がつく日と偶然重なっていた。
もしも、10日間あの女に付き合い体力が限界になっているマスターを突かれたとしたら、相当不味いだろう。
俺たちが助けに行く前に、マスターが殺される可能性があるとか困るんだぜ……。
しかしその瞬間に、あの男が必ず出てくる事もわかっていた。
あの男を殺しちまえばマスターを助けられるし、さらに呪いを受けた仲間たちも救う事が出来る。
だからこそ俺は、その日に備えてランクを上げる必要があった。
しかし今までの俺は、ランク上げをした事なんて一度もなかったのだ。ランク8になれたのだって仲間同士のイザコザを止めていたら勝手にランクが上がっただけで、運が良かっただけでしかない。
その為、俺は初めての挑戦に手こずりながらも必死でランク上げをした。
そして俺は、どうにかランク9になる事が出来たのだ。
しかしだ。
あの男はマリーの核に傷を入れる事ができる程強く、ランク10でもおかしくない実力の持ち主だといえる。
それならば、俺も同ランクまで上げる必要があった。しかし俺がランク10になるには、圧倒的に時間が足りないだろう。
それでもギリギリまでランクを上げたかった俺は、ランク10であるフラフと戦い続けていた。
因みにアーゴは、宿屋の手伝いをしなくてはならない為、この訓練に参加はしていない。
そしてそんな訓練の日々は過ぎていき、ついにその日が来てしまったのだ。
俺たちはギリギリまで男を探してみたのだが、結局見つけることはできなかった。
仕方がねぇが、マスターを見守るついでに奴が出て来てくれるのを待つしかねぇみたいだぜ……。
そう思いながら俺は、なるべくマスターが視界に入る位置で待機していた。
この場所は、マスターからそこまで近いわけではない。だが俺はとりあえず視界に入っていれば大丈夫だと思い、少し離れた森エリアの木の上で待機していたのだ。
それが間違いだった。
まさか、待機していたのでは遅いなんて思いもしなかったのだから……。
戦況が動いたのは、女が気絶しマスターの勝利が確定した瞬間だった。
奴らは、俺の思惑通り動き始めていた。
しかしその早さに、俺は目を疑う。
……こんなの、おかしいぜ。
先程までは、間違いなく俺たちとマスターの間には誰もいなかった筈だ。それなのに、俺らが駆け出した頃にはあの男とその取り巻きたちが、既にマスターたちを取り囲んでいたのだ。
そして、その中の1人の男が迷うことなくマスターを殺そうとしているのが見える。
つまりアイツが、俺たちが探していたあのフードの男という事だろう。
俺はマスターを救うべくシロとクロに合図を送り、マスターたちを取り囲む人間たちに向かって後ろから奇襲を仕掛けていた。
その効果もあってか、なんとかマスターは一命を取り留めたようだった。
その事に安堵した俺はマスターのもとへ向かう為、道を開けてくれる仲間の間を全速力で駆け抜ける。
そして道が開けた目の前では、再びマスターを刺し殺そうとするあの男の姿が目に入ったのだ。
「マスターー!!」
俺は咄嗟に叫びながら、マスターを吹き飛ばす。
その体当たりによってマスターは岩にぶつかり気絶してしまったが、ちゃんと息はある。
俺はマスターの盾となるため、男の前に出て唸り声を上げ威嚇する。
「残念、外したか……。どうやら、また邪魔が入ったようだね?」
「ぐるるるるるる!!!」
「はぁ、困るな~。今後の予定の為に、このダンジョンボックス内の強いモンスターをあまり殺したくなかったんだ。でもまあ、君みたいに今のダンジョンマスターに情があるモンスターは、僕の言うことは聞かないだろうし、それなら1から俺が育てた方がもっと強いモンスターになるよね?」
コイツが何を言っているのかわからない。
なんでコイツがモンスターを育てる話になってんだぜ……?
「じゃあ、他の雑魚は皆に任せるよ。俺は、俺の邪魔をするこの個体を潰すからね」
「うるせぇ人間だぜ。俺はマスターのためにも、そう簡単にやられるわけにはいかねぇんだぜ!」
「あはは……! 上位種のモンスターは喋れると言うのは本当の事だったんだね。これは面白い! だけどね、俺はモンスターに知能なんてものは求めていないんだ。だから君は、周りの仲間同様大人しく死んでもらうよ!!」
男の話を聞いている間に、気がつけば男の後ろで戦っていた筈の仲間たちは、皆地面に倒れ動かなくなっていた。
そこにはシロとクロが互いに重なり合い倒れている姿もあり、頭に血が上りそうになる。
しかし今ここで冷静さを失うわけにはいかないと、俺は男に集中する。
「さあ、君はバンを守りながらどれだけ持ち堪えられるかな?」
そう言いながら剣を構えた男は、間違いなくマリーに一撃をくらわせた時と全く同じ立ち姿をしていたのだ。
そして、この構えを一度見た事のある俺は気がついていた。この攻撃をするには一度大きく振りかぶらなくてはならない為、振り下ろすときに一瞬だけ隙が生まれることを……。
俺は奴が剣を振り下ろす直前を狙い、奴と同士討ち覚悟で奴の首に噛み付く。
「ぐぁっ!!!」
間違いなく俺の歯は、奴の首筋を噛みちぎった。
しかし、それと同時に俺は奴の剣を受け吹き飛ばされてしまう。
咄嗟に地面に足をつけた俺は、その衝撃波がマスターに当たらないように耐え続ける。
「キング!!」
「今すぐに手当を!!」
あの男を心配する声が至る所から聞こえる。
しかし、男は声を荒げて言ったのだ。
「俺の事はいいから、今すぐあのモンスターを後ろの男ごと殺すんだ!」
その命令に一瞬だけ戸惑いを見せたメンバーだったが、すぐに俺とマスターを標的とみなし攻撃を始めたのだ。
俺は最後の力を振り絞り、マスターの前へと立ち塞がる。
そして俺は残った僅かな生命力と魔力を全て使い、最後のスキルを発動させた。
「最後に……俺のスキルを、見せてやるぜ!!」
俺は辺り一面に霧を発生させる。
「なんだ、霧……?」
「いや、これはただの霧じゃない! 全員口を塞げ!!」
あの男が気づいて叫んだ時にはもう遅い。
その霧を吸った人間どもは、全員意識を朦朧とさせブツブツと何かを呟き始めると、フラフラと何処かへ行ってしまったのだ。
これは人間が間違えて森エリアの奥に入り込んだときに、元の安全な場所へと帰すために俺がよく使っていた幻覚作用を起こす霧だった。
しかしこれを使ってしまうと俺の魔力は全てなくなってしまい、回復に1日以上かかるため使うタイミングを見極める必要があったのだ。
「これでここに残ったのは俺とお前と、マスターだけだぜ……ぐぅっ」
口から血を吐いている俺の意識は、もうとうに限界へと近づいていた。
「今にも死にそうな奴に言われてもね」
そう言って笑う目の前の男も、首筋を噛まれ致命的なダメージを負っているように見える。
もう少し時間を稼げれば、出血死させる事も不可能じゃないかもしれない。
「さあ、次の一撃でその口を黙らせてあげるよ」
そう言う男はもう左手が動かないのか、右手だけで剣を持っていた。
そして立ったまま動けない俺の、核がある場所へとその剣を突き刺したのだ。
きっとこの血まみれの男と、時間を稼ぎたい俺の戦いはすぐに決着がつくだろう。
薄れゆく意識の中で、俺は最後までマスターの心配をしてしまう。
頼む……マスター、早く起きてここから逃げてくれ……それから、どうか死んだ俺を見ても悲しまないでくれよ……。
そんな事を考えながら、俺はついに意識を手放したのだった。
0
お気に入りに追加
639
あなたにおすすめの小説
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?
ばふぉりん
ファンタジー
中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!
「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)

一人ぼっちの辺境伯
暁丸
ファンタジー
「辺境伯の爵位を剥奪し、庶民とする」
数十年ぶりに王城からやってきた使者は、そう告げた。理由は、辺境伯が貴族の責務を果たしていないことらしい。数年前に王位継承の小競り合いがおき、公文書館が焼け落ち、辺境伯が何をしているか失伝していたのだ。
あの方が身罷られてもうどれほど経ったか…。ため息一つで辺境伯は勅命を受け入れた。
長編で書いてるお話の主人公、ステレのプロトタイプです。
山奥に一人で住む辺境伯という設定は、元々別のお話のゲストキャラだったのですが、一部設定を変更のうえ独立してあぁ成りました。ステレは元々はBBAキャラだったのです。
長編の方がちょうど辺境伯になった所まで来たので、こっちも独立の短編に纏め直してみました。
ショートショートで登場人物全員名無しです。ご容赦下さい。
(2022.03)読み直しておかしなところを修正しています。内容に大きな変更はありません。
(2022.04)元々、チョイ役予定だったキャラのバックストーリーを纏めただけなので、読み直したら「行間読めよ」と言わんばかりの説明不足が気になりちょこちょこ加筆してたんですが、それでも足りないように思えて来たので、1周年記念で前日譚と後日譚を新規に書いてみました。
若干コメディ寄りになってます。ぶっちゃけ、最終話できちんと完結した…と思った人は読まなくてもいい程度の話です。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる