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第五章 襲来に備える俺
149、訓練(フォグ視点)
しおりを挟む俺たち4体のエリアリーダーであるモンスターは、マスターを守護するために存在している。
…………ずっと、そう思っていたんだぜ。
だけど違ったんだ、俺は……ちょっと特殊なマスターである、今のマスターだからこそ手を差し伸べ、一緒についていきたいと思っていたんだぜ。
俺は死ぬのなんて怖くないと思っていたのに、今は少しだけ気持ちが揺らいでいた。
だって俺は、マスターや他の奴らのことを全部忘れる事が、少しだけ寂しいと思ってしまったのだから。
こんなこと今まで考えた事もなかったのにな……きっと死ぬ間際になったからこそ、俺にもそんな事を思う感情があるんだって、気がついたんだとおもうんだぜ……。
だからこそ俺は簡単に死んでやるつもりはない。
俺たちに呪いをかけた野郎に、絶対一泡ぐらい吹かせてヤラねぇときがすまねぇんだぜ!
そして俺は、マスターたちから距離を置いた日からずっと特訓をしていた。
何故なら、このカウントが終わるまでに呪いをかけた本人が戻ってくる可能性があったからだ。
そして俺の思惑通り、とあるファミリーがこの『カルテットリバーサイド』に入って来ているという情報が入ったのだ。
俺はすぐにその中に例の男はいると確信した。
その為、レインには宿屋を手伝わせ情報を集めをさせていたのだが、ファミリー自体の行動が怪しいという事しかわからなかった。
そのファミリーは、表向きは湖エリアのボス討伐を目的として行動をしているように見える。
しかし実際に湖エリアには半分の部隊しか向かっておらず、特に主力部隊は何故か火山エリアや森エリアにいる事が多かったのだ。
それはまるで何かを探しているようにも見えた。
何が本当の目的かわからないが、その中にマスターを殺す事が含まれている可能性は十分ある。
それならばマスターを狙うとき、奴が姿を現すときなのだろう。
そう思い、俺たちは作戦を立てる。
もしもファミリーの人間全てを使いマスターを潰しに来た場合、俺たちも全ての人間を相手にしないといけないだろう。
つまり、コチラも総力戦で仕掛けなくてはならない。
そのためシロとクロには、例の男以外を邪魔する為の先鋭隊である、ランク6を中心とした部隊を組む準備をさせている。
そして偶然なのか、呪いで俺が死ぬ日はマスターの戦いの決着がつく日と偶然重なっていた。
もしも、10日間あの女に付き合い体力が限界になっているマスターを突かれたとしたら、相当不味いだろう。
俺たちが助けに行く前に、マスターが殺される可能性があるとか困るんだぜ……。
しかしその瞬間に、あの男が必ず出てくる事もわかっていた。
あの男を殺しちまえばマスターを助けられるし、さらに呪いを受けた仲間たちも救う事が出来る。
だからこそ俺は、その日に備えてランクを上げる必要があった。
しかし今までの俺は、ランク上げをした事なんて一度もなかったのだ。ランク8になれたのだって仲間同士のイザコザを止めていたら勝手にランクが上がっただけで、運が良かっただけでしかない。
その為、俺は初めての挑戦に手こずりながらも必死でランク上げをした。
そして俺は、どうにかランク9になる事が出来たのだ。
しかしだ。
あの男はマリーの核に傷を入れる事ができる程強く、ランク10でもおかしくない実力の持ち主だといえる。
それならば、俺も同ランクまで上げる必要があった。しかし俺がランク10になるには、圧倒的に時間が足りないだろう。
それでもギリギリまでランクを上げたかった俺は、ランク10であるフラフと戦い続けていた。
因みにアーゴは、宿屋の手伝いをしなくてはならない為、この訓練に参加はしていない。
そしてそんな訓練の日々は過ぎていき、ついにその日が来てしまったのだ。
俺たちはギリギリまで男を探してみたのだが、結局見つけることはできなかった。
仕方がねぇが、マスターを見守るついでに奴が出て来てくれるのを待つしかねぇみたいだぜ……。
そう思いながら俺は、なるべくマスターが視界に入る位置で待機していた。
この場所は、マスターからそこまで近いわけではない。だが俺はとりあえず視界に入っていれば大丈夫だと思い、少し離れた森エリアの木の上で待機していたのだ。
それが間違いだった。
まさか、待機していたのでは遅いなんて思いもしなかったのだから……。
戦況が動いたのは、女が気絶しマスターの勝利が確定した瞬間だった。
奴らは、俺の思惑通り動き始めていた。
しかしその早さに、俺は目を疑う。
……こんなの、おかしいぜ。
先程までは、間違いなく俺たちとマスターの間には誰もいなかった筈だ。それなのに、俺らが駆け出した頃にはあの男とその取り巻きたちが、既にマスターたちを取り囲んでいたのだ。
そして、その中の1人の男が迷うことなくマスターを殺そうとしているのが見える。
つまりアイツが、俺たちが探していたあのフードの男という事だろう。
俺はマスターを救うべくシロとクロに合図を送り、マスターたちを取り囲む人間たちに向かって後ろから奇襲を仕掛けていた。
その効果もあってか、なんとかマスターは一命を取り留めたようだった。
その事に安堵した俺はマスターのもとへ向かう為、道を開けてくれる仲間の間を全速力で駆け抜ける。
そして道が開けた目の前では、再びマスターを刺し殺そうとするあの男の姿が目に入ったのだ。
「マスターー!!」
俺は咄嗟に叫びながら、マスターを吹き飛ばす。
その体当たりによってマスターは岩にぶつかり気絶してしまったが、ちゃんと息はある。
俺はマスターの盾となるため、男の前に出て唸り声を上げ威嚇する。
「残念、外したか……。どうやら、また邪魔が入ったようだね?」
「ぐるるるるるる!!!」
「はぁ、困るな~。今後の予定の為に、このダンジョンボックス内の強いモンスターをあまり殺したくなかったんだ。でもまあ、君みたいに今のダンジョンマスターに情があるモンスターは、僕の言うことは聞かないだろうし、それなら1から俺が育てた方がもっと強いモンスターになるよね?」
コイツが何を言っているのかわからない。
なんでコイツがモンスターを育てる話になってんだぜ……?
「じゃあ、他の雑魚は皆に任せるよ。俺は、俺の邪魔をするこの個体を潰すからね」
「うるせぇ人間だぜ。俺はマスターのためにも、そう簡単にやられるわけにはいかねぇんだぜ!」
「あはは……! 上位種のモンスターは喋れると言うのは本当の事だったんだね。これは面白い! だけどね、俺はモンスターに知能なんてものは求めていないんだ。だから君は、周りの仲間同様大人しく死んでもらうよ!!」
男の話を聞いている間に、気がつけば男の後ろで戦っていた筈の仲間たちは、皆地面に倒れ動かなくなっていた。
そこにはシロとクロが互いに重なり合い倒れている姿もあり、頭に血が上りそうになる。
しかし今ここで冷静さを失うわけにはいかないと、俺は男に集中する。
「さあ、君はバンを守りながらどれだけ持ち堪えられるかな?」
そう言いながら剣を構えた男は、間違いなくマリーに一撃をくらわせた時と全く同じ立ち姿をしていたのだ。
そして、この構えを一度見た事のある俺は気がついていた。この攻撃をするには一度大きく振りかぶらなくてはならない為、振り下ろすときに一瞬だけ隙が生まれることを……。
俺は奴が剣を振り下ろす直前を狙い、奴と同士討ち覚悟で奴の首に噛み付く。
「ぐぁっ!!!」
間違いなく俺の歯は、奴の首筋を噛みちぎった。
しかし、それと同時に俺は奴の剣を受け吹き飛ばされてしまう。
咄嗟に地面に足をつけた俺は、その衝撃波がマスターに当たらないように耐え続ける。
「キング!!」
「今すぐに手当を!!」
あの男を心配する声が至る所から聞こえる。
しかし、男は声を荒げて言ったのだ。
「俺の事はいいから、今すぐあのモンスターを後ろの男ごと殺すんだ!」
その命令に一瞬だけ戸惑いを見せたメンバーだったが、すぐに俺とマスターを標的とみなし攻撃を始めたのだ。
俺は最後の力を振り絞り、マスターの前へと立ち塞がる。
そして俺は残った僅かな生命力と魔力を全て使い、最後のスキルを発動させた。
「最後に……俺のスキルを、見せてやるぜ!!」
俺は辺り一面に霧を発生させる。
「なんだ、霧……?」
「いや、これはただの霧じゃない! 全員口を塞げ!!」
あの男が気づいて叫んだ時にはもう遅い。
その霧を吸った人間どもは、全員意識を朦朧とさせブツブツと何かを呟き始めると、フラフラと何処かへ行ってしまったのだ。
これは人間が間違えて森エリアの奥に入り込んだときに、元の安全な場所へと帰すために俺がよく使っていた幻覚作用を起こす霧だった。
しかしこれを使ってしまうと俺の魔力は全てなくなってしまい、回復に1日以上かかるため使うタイミングを見極める必要があったのだ。
「これでここに残ったのは俺とお前と、マスターだけだぜ……ぐぅっ」
口から血を吐いている俺の意識は、もうとうに限界へと近づいていた。
「今にも死にそうな奴に言われてもね」
そう言って笑う目の前の男も、首筋を噛まれ致命的なダメージを負っているように見える。
もう少し時間を稼げれば、出血死させる事も不可能じゃないかもしれない。
「さあ、次の一撃でその口を黙らせてあげるよ」
そう言う男はもう左手が動かないのか、右手だけで剣を持っていた。
そして立ったまま動けない俺の、核がある場所へとその剣を突き刺したのだ。
きっとこの血まみれの男と、時間を稼ぎたい俺の戦いはすぐに決着がつくだろう。
薄れゆく意識の中で、俺は最後までマスターの心配をしてしまう。
頼む……マスター、早く起きてここから逃げてくれ……それから、どうか死んだ俺を見ても悲しまないでくれよ……。
そんな事を考えながら、俺はついに意識を手放したのだった。
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