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第5章 手作りプレゼントゼント

手作りプレゼントⅡ

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 そんな顔をされると、私までしんみりとしてしまう。
 ところが、お姉様は瞼を少しの間閉じると、開けた時には元の笑顔に戻っていた。

「勿忘草のイラスト、何処かにあった筈だよ。探してみよっか」

「うん」

 お姉様は紙の束を二つに分けると、半分を私の前に、もう半分を自身の前に置いた。それらを一枚ずつ捲っていく。

「あった!」

 三分の一程確認した頃だろうか。私の紙の束から勿忘草らしき花が描かれている紙を一枚見付け出した。それを束から引き抜き、お姉様に見せる。

「うん、これだよ。じゃ、デザイン描けそうだね」

 私がは私の前に置かれたイラストの束を自身の束に重ね、スペースを開けた。そこに先程貰ったシルクのハンカチを広げ、チャコペンを受け取った。
 トレースすれば早いのだけど、生憎ハンカチは下絵が透けないので自分で描くしかない。
 美術も元々好きだったから、絵を描くのはあまり苦痛ではなかった。四隅に元絵に似せて勿忘草を描いていく。
 描いてみて分かった。ハンカチの真ん中が寂し過ぎる。

「う~ん……」

 描くとしても何が良いだろう。勿忘草で埋めては流石にくど過ぎる気もしてくる。
 唸り声を上げていると、お姉様も自分の手を止めて私のハンカチを見遣った。

「ミエラ、どうかした?」

「真ん中にも何か描きたいんだけど、何が良いかなぁって」

「うーん、そうだね……。あ!」

 お姉様は傍らに置いてあったデザインの束を捲り始める。その手は直ぐに止まり、一枚のイラストを私に見せてくれた。

「王家に連なる公爵家って、家の紋章に百合が入ってるの。こんなのはどう?」

 堂々たるカサブランカの花だ。映えるに違いない。

「うん! これにする~!」

 早速イラストを受け取り、ハンカチの中央を少しずつ埋めていく。そんな私を見て、お姉様は「ふふっ」と小さく笑う。程なく、お姉様も自身の手を動かし始めた。
 一通り描きあげると、ハンカチを前方に翳してみる。花々は大きくも小さくもなく、程良くバランスも取れているだろう。

「出来た~!」

「どれどれ」

 横からお姉様も首を傾げ、一緒に出来栄えを確認する。

「ミエラ、上手いじゃん! 後はこの通りに刺繍するだけだね」

「うん!」

「私も出来たよ」

 お姉様が翳すハンカチには大小の薔薇の花が描かれていた。ゴージャスで繊細なデザインだ。

「お姉様のハンカチも綺麗!」

「ホント? ミエラに褒められちゃった!」

 「ふふっ」と二人で笑い合う。

「お姉様も旦那様にプレゼントするの?」

「そうだよ。これが貴族の嗜みってやつかな」

 お姉様は満足そうにハンカチをテーブルの上に置くと、うーんと伸びをする。

「よし、お昼休憩にしよっか。ご飯食べよう?」

「は~い」

 私もハンカチをテーブルに移動させ、凝り固まった身体を解した。
 早速ダイニングへと移動し、カツサンドを食べ進める。お姉様と他愛の無い話が出来る程、私の緊張も解けていた。二人でキャッキャと楽しく話をし、食事を終えると直ぐに部屋へと戻った。
 刺繍枠を手に取り、ハンカチにセットする。中学生の頃に一応刺繍は齧った事があるから、道具の使い方は分かる。
 勿忘草の色の刺繍糸を探し出し、刺繍針もお姉様から慎重に受け取った。後は縫い進めるのみ。よし。
 勿忘草の花弁は二色でグラデーションを表現していく。サテンステッチは糸を引っ張りすぎると突っ張ってしまい、引っ張らないと糸が弛んでしまうから加減が難しい。丁度良い加減を探り、布地を確かめていく。

「ミエラ」

「ん~?」

 呼び掛けられ、お姉様の顔も見ずに返事をした。

「異世界では好きな殿方とか居たの?」

「へっ?」

 急な質問に、素っ頓狂な声を出してしまった。お姉様の方を見てみると、こちらを確認する事も無く、刺繍に集中している。
 そう言えばこんな事、クラウにも話した事が無い。
 少し考え、またハンカチに針を刺していく。

「十四、五の時は居たよ」

「そっかー。どんな方?」

「同じ学校で同じクラスの……スポーツ少年」

 その人は野球部だったけれど、野球が通じるか分からない。もう思い出す事は無いと思っていたし、何だか懐かしい感じがする。

「ミエラは学校行ってたんだ」

「うん。お姉様の初恋は?」

「私は……うーんと、十歳の時だったかな。現女王のお兄様」

「へっ!?」

 現女王のお兄様という事は、王子様だろうか。スケールが違いすぎる。

「そんなに驚く事じゃないよ。サファイアって女王制でしょ? 私も持ってるんだよ、王位継承権」

「へっ!?」

 針が変な所に刺さってしまった。指に刺さらなかっただけマシだろうか。

「こんな髪と瞳の色してるからさ、余計にね。継承順位は低いけど、月に一回くらいお父様とクローディオ置いて、お母様と二人でお城に遊びに行ってたんだ」

 回らない頭を何とか働かせてみる。私はとんでもない人と仲良くなったのではないだろうか。
 困惑する私を他所に、お姉様は話を続ける。

「でも、諦めて良かったよー。どう頑張ったって、相手は従兄弟でしょ?」

「あ、あの……。それで、王子様は……?」

「女兄弟しかいない公爵家に婿入りしたよ。もう王族じゃなくて、貴族になった」

 そうなのか。と、納得する事しか出来ない。口から息を吐き、止まっていた手を再び動かし始めた。
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