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もう一人の主人公である景虎くんの登場です!

景虎君は本当に怖かったらしいです。

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 泣きじゃくりながら乗った飛行機で、元直げんちょくと並んで座り、シートベルトをした景虎かげとらだったが、しばらくして、女性の添乗員キャビンアテンダントが、

「もう大丈夫でございます。後は暫し、長い旅となるかと思いますが、ごゆっくりおくつろぎ下さいませ」

のメッセージに、元直はシートベルトを外した。

「はい。少し気分が悪いと思うけれど、すぐ平気になるからね? あの奥の部屋にはおもちゃがあるんだよ。見に行ってみようか?」
「おもちゃ?」

 泣きじゃくり真っ赤になった顔を、暖かいおしぼりで拭いて貰った景虎は、琉璃りゅうりりょう百合ゆりの後を追いかけて入っていくと、先程の空間には椅子と、備え付けのテーブルがあったのだが、ここは両側に箱が……と言うよりも、

「椅子か? 元直兄上」

 鼻声で問いかけると、微笑み。

「それもできるけれど、ほら」

 亮がポケットに入れていた鍵で一つ一つ開けて行くと、琉璃が扉を開けて、

「わぁぁ! おとうしゃま、やくしょくしてくれたベアちゃん! わぁぁ!」
「限定10体だって。琉璃のがその特別な箱の子。はい、百合ちゃん。采明あやめちゃんの2番目と百合ちゃんの3番目。4番目は景虎君」
「4番目? 4番目は縁起が悪いと……」

口ごもった景虎に、亮が、

「違うんだよ。これはほら」

ベアを大切に箱から出すと、緑色のベアの頬に……、

「4枚の葉っぱ?」
「そう。四つ葉のクローバーと言って、琉璃の伯父上が国の王様である国の象徴なんだよ。一枚一枚には意味があって、『希望』『誠実』『愛情』『幸運』を示すと言われていてね? そして、花言葉は『私のものになって下さい』。琉璃の伯父上は、今度結婚なされるんだよ。そして、琉璃と月英げつえいのご両親は式をされていないから、伯父上のご厚意で一緒にね? その為の準備もあって、私たちは戻ってきたのもあるんだ。式の前に、琉璃のお母さんと、伯母上になられる伯父上の婚約者……許嫁いいなずけと、言うと分かりやすいかな? 二人が主催のパーティがあるんだ。で、その最後に花嫁になられる方に、このベアの7番目を、お渡しになられるんだよ。琉璃のお父さんは、お母さんに8番目を差し上げるとか」
「ほぉ……だが、四つ葉が象徴なら、この4番目を贈られれば良かったのでは?」

受け取った景虎に、

「このクローバーは基本3枚の葉っぱなんだよ。ごくまれに四つ葉が出来る。それは、成長過程で傷ついたり、時々四つ葉が多く生える花を掛け合わせて、四つ葉を増やすようにしたりする」
「ほぉ……それは凄い。我……僕も、花は好きだ。育ててみることは出来るだろうか? そうして、皆に笑って欲しい。琉璃姉上や百合姉上が笑っているように」
「それは、出来るよ。丁度、琉璃の屋敷のガーデナー……庭師と言うと分かりやすいかな? 庭を綺麗に整えるのが大好きな人がいるんだ。リフォーンさんと言う。その人が7つ葉をつくってね、それを殿下にお伝えして、苗ごとモクラン様に贈られたんだよ。『無限の幸福』七つ葉には、その花言葉があるからね」

驚き目を丸くする少年に微笑む。

「で、8つ葉は『子孫繁栄』。五つ葉は元直兄にって、琉璃が、ね? 琉璃?」
「あいなの! おにーしゃまにあいなの!」
「えっ? 私に、いいのかい?」

 知らなかったらしい元直に、琉璃が渡す。

「ありがとう。嬉しいよ」
「六つ葉は、私なんだよね? 琉璃?」
「うん! でね? でね? これがね? おにいしゃまなの!」

 こそっと話す。

「九……と言うのは、いい数なのか……な?」

 景虎にとっては、自分の『4』は『死』、『9』は『苦しむ』とあてられており、微妙になる。

「9枚は『高貴』と言う意味なんだよ」

 とんとんと扉が叩かれ、

「お~い、私に、ここにすぐに入ってくるなって、酷くないのか?」

顔を覗かせた兄に、琉璃はトコトコ近づき、

「あい! おにいしゃま。お誕生日おめでとうなの!」
「おぉ! 知ってたのか? 琉璃!」

小柄な妹と目線を合わせようとかがんだ月英に、箱を差し出す。

「わぁ! 嬉しいなぁ! ……えぇぇ! いいのか? しかも、この番号って……」
「おにいしゃまにぴったりなの! 琉璃が選んだのよ!」

 月英はテディベアと琉璃を見つめ、そしてぎゅぅぅっと抱き締める。

「ありがとう。お兄様が今までで貰った中で、二番目に嬉しいプレゼントだよ!」
「に、二番目?」
「一番目は、琉璃がお兄様の妹だと解った時だよ! 本当に、本当に嬉しかったよ。だから、その次! ありがとう! 本当に幸せだよ」

 美貌の姉妹……いや、兄と妹に、景虎は、

「あ、あの……月英兄上は、本当に男性なのか……時々信じられないのだが……」
「私より二つ上だよ」
「げ、元直兄上よりも上なのか! では、結婚……」

亮と元直は首を振り、

「婚約者はいるけれど、学生だしね。卒業してかららしいよ」
「と言うよりも、士元しげんだろう? 問題は」
「だね。元直兄」

こそこそと囁き合う二人である。

「士元殿……か?」
「士元に『殿』要らないからね。はた迷惑だから」

 亮は言い、景虎は思い出したように、

「あぁ、そう言えば、10体と言っていたが、最後の10番目は……?」
球琳チィウリンおねえしゃまのなのよ! 琉璃のお友だちなの!」
「あぁ、そうそう。昨日泊まった部屋で、観ていただろう? 琉璃と百合ちゃんが」

元直の言葉に、思い出したように、

「あぁ、あの大きな『テレビ』と言うものに、完全に武装した女人にょにんが……『巴御前ともえごぜん』は聞いたことがあるが、あの女人は完璧におのこかと思うた! 最後に美しい衣をまとい、出てきた時には本当に驚いた! あの女人は、本当に美しい方だな!」

感心したように声をあげる景虎に、琉璃が、

「あのおねえしゃまが、琉璃の一番お友だちなの! あのね、向こうで待っていてくれるのよ。景虎君のこともお話ししたら、会ってお話ししたいって」
「そ、そうなのか! ありがとう! わ、僕も会って、武具の扱い方を!」

その言葉に月英と元直、百合がよろけ、亮が真顔で答える。

「駄目だよ? 球琳は、本当はそんなに強くないから」
「そ、そうなのか?」
「そうなんだよ? 私の弟の方が強いね。それに、私の姉二人」
「亮兄上の姉上?」

 目を丸くする。

「世界的に有名でね……色々な意味で」
「お会いしたい! 楽しみだ!」

 ワクワクしている景虎に、

「もうしばらく遊んでいいと思うから、元直。景虎にあのおもちゃはどうだ?」

月英は告げる。

「あぁ、あれね。景虎君。おいで。おもちゃがあるよ」
「なんだろう? テディベアは実綱さねつなと、クローバーがおるし……? 何じゃ? 小さい荷車? 馬や牛がおらぬ!」

 驚く少年に、小さいネジを巻いて動かす車を元直は並べ、そして、

「ほら、見てごらん?」

床を滑走する車に仰天する。

「わ、わぁぁ! な、何じゃ?」
「ほら、この白いのをぐるぐる回して、回しきったら床に置くと走るんだよ。走らせて遊ぶんだ。皆で競争したり、遊べるよ」
「こ、これは使っていいのか?」

 そっと手に取った景虎に、元直は、

「これは、女の子よりも男の子が喜ぶおもちゃだからね。今回、私が幾つか選んだんだよ。景虎君の為にね?」
「僕の……! 良いのか? 実綱もクローバーももろうたのに……」
「景虎君のおもちゃだよ。だから、競争しよう。私の方が早いかな?」

 テディベアを台の上に丁寧に置くと、一つをそっと取り、

「負けぬぞ! 絶対に!」

とネジを巻き遊ぶ。



 その後、食事を取り、すやすやと眠っている間に、到着したのだった。
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