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一章
2 発見
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空を飛ぶのは気持ちが良い。たまに空を飛ぶ魔物とぶつかりそうになるけど、翼が自動的に防いでくれる。流石ラスボス。この世界が本当にゲームの世界なのか確かめる為に、少しスピードを落として飛んでみる。集中して遠くを見てみると、望遠鏡を覗いているのではと錯覚するほど遠くまで見ることが出来た。
「あれはもしかして──精霊の森かな?」
キラキラと光る森の木々。その光は精霊達の祝福だ。精霊の森には精霊達が住んで居て、物語の中盤で精霊王の加護が必要になる。精霊王の加護を受けるには、あるアイテムと一定の経験値を獲得していなければならないのだけれど、現実となったこの世界でそこの条件はどうなるのだろうか。そもそも本当に精霊が居るのかすら怪しい。いずれにせよ、魔王や僕たち悪役サイドにとって精霊は脅威だ。精霊王の加護を受ければ敵のカルマ値に応じて与えるダメージ量が増減する。精霊王の加護を受けずに魔王に挑めば勝つことは困難だ。まぁ、サブ垢含め何周もした僕は勝ったことあるけどね。と、そこまで考えてピンと来た。
なるほど? もしかして精霊王の加護は対ミカエル戦の為にあったのか? 精霊王の加護が無くても聖剣を使えば魔王は倒せるわけだし。魔王の上座に君臨するラスボスミカエラなら、カルマ値は凄いことになっているだろうから。
「んー。てことは、主人公に精霊王の加護を受けさせて、更に聖剣と光魔法を完璧に使いこなして貰えば良いわけか」
ただ、ゲームを数々遊んできた僕が思うに、そんな簡単に事は運ばないだろう。旅の間で色々なダンジョンやイベントがある訳だけど、そこで手に入る装備品やアイテムを入手する必要もあるかな。主人公に付き添っていた聖女フィーナや魔術師達のサポートも必須だろうし。まぁ、そこの所は主人公に頑張って貰おう。そもそもミカエラはストーリーで匂わせる程度にしか出てこなかった訳だし、終盤にしか主人公達との接点はない。それに、プレイヤーとして僕は主人公に勝ってもらいたい。多分、一番妥当な落としどころはラスボスを倒して主人公と聖女フィーナが結ばれる結末。折角ゲームの世界に居るのだから完璧なシナリオで完結させたい。少しワクワクした気持ちで空を飛んでいると、画面で見たそのまんまの泉が見えた。
「あれが宿星の泉········」
遠目からでも見てわかる、異質な空気を放つ泉。一見清らかでとても心休まりそうな場所。だけれど、まるで地の底から死人や怨霊が湧き出てくるのでは?と、不安になるほどのプレッシャーを感じる。主人公があんな場所でずっと過ごしていたと考えると正気を疑うレベルだ。背筋にゾクリと感じるものがあり、けれど視界に捉えた少年に、引くに引けない状況だった。
「この世界では珍しいはずの黒髪。やっぱりあれが主人公か」
少年は一人で膝を抱えて泉を眺めていた。遠くて表情は見えないけれど、哀愁が漂った背中だった。まだ10歳にも満たない様に見える少年がそうあっていいはずが無い。少年の姿が僕の支援している子供達と重なり、胸が締め付けられた。僕の両親は幼い頃に他界しているから。強盗に理不尽に殺された、僕を庇って死んだ両親。1人が辛い事を、僕は誰よりも分かっているつもりだ。
気がついたら体が勝手に動いていた。あれだけ近づきたくなかった泉に、あろう事か少年の正面に立っていた。僕の気配に気がついたのか少年はゆっくりと顔を上げ、虚ろな目で僕を見た。
「···········おれ、を········俺を、殴りますか?」
「ッ!!」
掠れた声で絞り出すように発した言葉。そこで僕は自身の認識が甘かったことに気がついた。ゲームの画面で見ていた時は少し可哀想だな、とは思ったが、今から勇者となって旅をする訳で、むしろ恵まれているのかもな、とすら思っていた。そもそもここまで過去の話は無くて、文章で数分ちゃちゃっと語られただけだったから。でも、実際目にすると全然違った。体は痩せ細り目は虚ろで、貴族だからか服装や身なりは綺麗だけれど、それがただの虚勢に過ぎないことが分かる。僕は少し複雑な気持ちで、笑顔を作った。
「僕は君を殴ったりしないよ」
「あれはもしかして──精霊の森かな?」
キラキラと光る森の木々。その光は精霊達の祝福だ。精霊の森には精霊達が住んで居て、物語の中盤で精霊王の加護が必要になる。精霊王の加護を受けるには、あるアイテムと一定の経験値を獲得していなければならないのだけれど、現実となったこの世界でそこの条件はどうなるのだろうか。そもそも本当に精霊が居るのかすら怪しい。いずれにせよ、魔王や僕たち悪役サイドにとって精霊は脅威だ。精霊王の加護を受ければ敵のカルマ値に応じて与えるダメージ量が増減する。精霊王の加護を受けずに魔王に挑めば勝つことは困難だ。まぁ、サブ垢含め何周もした僕は勝ったことあるけどね。と、そこまで考えてピンと来た。
なるほど? もしかして精霊王の加護は対ミカエル戦の為にあったのか? 精霊王の加護が無くても聖剣を使えば魔王は倒せるわけだし。魔王の上座に君臨するラスボスミカエラなら、カルマ値は凄いことになっているだろうから。
「んー。てことは、主人公に精霊王の加護を受けさせて、更に聖剣と光魔法を完璧に使いこなして貰えば良いわけか」
ただ、ゲームを数々遊んできた僕が思うに、そんな簡単に事は運ばないだろう。旅の間で色々なダンジョンやイベントがある訳だけど、そこで手に入る装備品やアイテムを入手する必要もあるかな。主人公に付き添っていた聖女フィーナや魔術師達のサポートも必須だろうし。まぁ、そこの所は主人公に頑張って貰おう。そもそもミカエラはストーリーで匂わせる程度にしか出てこなかった訳だし、終盤にしか主人公達との接点はない。それに、プレイヤーとして僕は主人公に勝ってもらいたい。多分、一番妥当な落としどころはラスボスを倒して主人公と聖女フィーナが結ばれる結末。折角ゲームの世界に居るのだから完璧なシナリオで完結させたい。少しワクワクした気持ちで空を飛んでいると、画面で見たそのまんまの泉が見えた。
「あれが宿星の泉········」
遠目からでも見てわかる、異質な空気を放つ泉。一見清らかでとても心休まりそうな場所。だけれど、まるで地の底から死人や怨霊が湧き出てくるのでは?と、不安になるほどのプレッシャーを感じる。主人公があんな場所でずっと過ごしていたと考えると正気を疑うレベルだ。背筋にゾクリと感じるものがあり、けれど視界に捉えた少年に、引くに引けない状況だった。
「この世界では珍しいはずの黒髪。やっぱりあれが主人公か」
少年は一人で膝を抱えて泉を眺めていた。遠くて表情は見えないけれど、哀愁が漂った背中だった。まだ10歳にも満たない様に見える少年がそうあっていいはずが無い。少年の姿が僕の支援している子供達と重なり、胸が締め付けられた。僕の両親は幼い頃に他界しているから。強盗に理不尽に殺された、僕を庇って死んだ両親。1人が辛い事を、僕は誰よりも分かっているつもりだ。
気がついたら体が勝手に動いていた。あれだけ近づきたくなかった泉に、あろう事か少年の正面に立っていた。僕の気配に気がついたのか少年はゆっくりと顔を上げ、虚ろな目で僕を見た。
「···········おれ、を········俺を、殴りますか?」
「ッ!!」
掠れた声で絞り出すように発した言葉。そこで僕は自身の認識が甘かったことに気がついた。ゲームの画面で見ていた時は少し可哀想だな、とは思ったが、今から勇者となって旅をする訳で、むしろ恵まれているのかもな、とすら思っていた。そもそもここまで過去の話は無くて、文章で数分ちゃちゃっと語られただけだったから。でも、実際目にすると全然違った。体は痩せ細り目は虚ろで、貴族だからか服装や身なりは綺麗だけれど、それがただの虚勢に過ぎないことが分かる。僕は少し複雑な気持ちで、笑顔を作った。
「僕は君を殴ったりしないよ」
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