第9回歴史・時代小説大賞

第9回歴史・時代小説大賞

選考概要

過去最高となる593作の応募があった第9回歴史・時代小説大賞。剣客ものや人情噺といった定番の人気ジャンルだけでなく、一風変わった設定の作品も多く集まり、前年にも増して活況を見せた。

選考にも力が入る中、編集部内で大賞候補作としたのは「田楽屋のぶの店先日記~殿ちびちゃん参るの巻~」「剣客居酒屋 草間の陰」「剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―」「【完結】蘭方医の診療録」「葉桜よ、もう一度」「べらぼう旅一座 ~道頓堀てんとうむし江戸下り~」の6作品。

選考の結果、高い筆力とそこから描き出される家族愛が編集部内で強く支持された「田楽屋のぶの店先日記~殿ちびちゃん参るの巻~」を『大賞』に選出した。また、テーマ別賞として、凄腕剣客が営む粋な居酒屋を描いた「剣客居酒屋 草間の陰」に『読めばお腹がすく江戸グルメ賞』を授与、若者と老剣士のバディの活躍を描いた「剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―」を『痛快!エンタメ剣客賞』、浪人と喜劇旅一座のドタバタお江戸コメディ「べらぼう旅一座 ~道頓堀てんとうむし江戸下り~」を『笑えて泣ける人情噺賞』とした。さらに、「【完結】蘭方医の診療録」「葉桜よ、もう一度」の2作を、相応しいテーマ別賞がなかったことから『特別賞』とした。その他、最終選考に残ったものの、惜しくも受賞に至らなかった作品を奨励賞とした。

「田楽屋のぶの店先日記~殿ちびちゃん参るの巻~」は、訳ありの子供とその子供を引き取った夫婦が家族になっていく過程を描いた人情もの。登場人物それぞれが問題を抱えながらも、前向きに生きようとする様子が繊細に表現されていた。高い筆力と温かな展開に、編集部一同高評価だった。

「剣客居酒屋 草間の陰」は、美男子で料理の腕も立つ剣客が、居酒屋を通して様々な出来事に関わっていく物語。剣術だけでなく、“メシ”の描写も魅力的で、まさしくグルメ賞に相応しい作品だった。

「剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―」は、明治初期の世を舞台に、「特命郵便配達人」の老剣士と青年の二人組を描いた作品。銃を用いた臨場感あふれる戦闘シーンと、先を読ませないストーリー展開に引き込まれた。

「べらぼう旅一座 ~道頓堀てんとうむし江戸下り~」は、不器用ながらも情に厚い主人公と喜劇の旅一座が繰り広げるお江戸コメディ。登場人物たちが個性的なほか、明るい雰囲気の中に泣けるドラマが隠れているのが巧みだった。

「【完結】蘭方医の診療録」は、与力見習いの主人公と、親友の蘭方医の二人を中心とした医療ミステリー。二人の独特な関係性やテンポの良い掛け合いはもちろん、一つひとつの事件の納得感も評価された。

「葉桜よ、もう一度」は、小藩の青年藩士が、大きな陰謀に巻き込まれながらも抗い奔走する、壮大なスケールの物語。細部まで考え込まれた設定と、それを読ませる高い筆力とが嚙み合った作品だった。

例年に比べても筆力の高い、優れた作品が多く、Web発の歴史・時代小説の勢いを感じさせるコンテストとなった。一方、書籍化を見据えた選考を行う中で、編集部内からは「非常に優秀な作品だが分量が長すぎるため書籍1冊にまとめづらい」といった声も上がった。こうした点は、次回以降、開催概要を告知する際など、留意点として提示するよう工夫していきたい。

開催概要はこちら
応募総数 593作品 開催期間 2023年06月01日〜末日

編集部より

可愛らしい“殿ちびちゃん”こと朔太郎をはじめ、それぞれのキャラクターが大変魅力的に描かれていました。親子・兄弟・夫婦、それぞれの家族の形と血の繋がりの有無ということをテーマに各々の事件が展開され、その結末にどこか心地よさを感じます。のぶと晃之進のおしどり夫婦の微笑ましさや、実子ではない朔太郎との絆が巧く表現された作品でした。

札束艦隊

1位 / 593件

編集部より

ポイント最上位作品として、“読者賞”に決定いたしました。日本海軍が進歩していく様子の緻密な描写と、諸外国の思惑が絡み合う緊張感のある展開が、読者を惹きつけたのではないでしょうか。


編集部より

美男子で料理の腕も立つ剣客・冬吉が営む居酒屋と、そこに集う癖のある客たちが紡ぐ物語に魅了されました。冬吉が作る趣向を凝らせた料理の品々が、細かい描写で読者の想像力を掻き立て、胃袋が掴まれそうになる作品でした。


編集部より

時代の動乱の中で届くことのなかった文を届ける「特命郵便配達人」という設定は独自性のあふれるものでした。また、時系列の入れ替えなど工夫された展開を作る構成力と、銃と刀の手に汗握る戦闘を魅せる確かな筆力が感じられました。


編集部より

とっつきにくい人柄ながらも情に厚い主人公・寿三郎と、口が達者な旅役者の吉祥のバディが作り出す明るい雰囲気に、自然と笑顔になりました。その一方で、終盤には涙ほろりな場面もあり、まさに「笑って泣ける人情噺」でした。


編集部より

江戸の町を舞台にした医療ミステリーで、複雑な要素をきれいにまとめる高い筆力が光る作品でした。また、謎解き役である誠吾と冲有の気のおけない関係から生まれるやり取りは心地よく、どんどん読み進めてしまう魅力がありました。


編集部より

主人公・新九郎が巻き込まれる大きな陰謀は、時代設定を上手く取り入れたリアリティがあり、細密に編み込まれた構成は圧巻の一言です。危険を乗り越えながら黒幕に迫るサスペンス展開にはハラハラさせられ、読み応えのある作品でした。

※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。

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