8 / 94
第1章 異世界転移
8-護衛依頼
しおりを挟む
しばらくすると、また、ギザールさんが話しかけてきた。
「この辺りから魔物が減りますが、その分盗賊が出やすいです。こっちの方が厄介ですね。」
盗賊への対応が、馬車の進みを遅らす一番の原因らしい。
「お、言ってるそばから、お出ましですよ。」
「あれ、どうするの?」
ステラも盗賊に気が付いたようで、やってきてそう言った。
「ギザールさん、普段ああいう者たちはどうするのですか?」
「捕まえて、次の街で役人に渡すことが多いです。ちなみに、相手を傷付けても咎められません。」
「ステラ、何か良い手がある?多少ケガさせても良いみたいだけど。」
「じゃあ、アタシに任せて。」
「ギザールさん、ステラが何か良い手があるらしいので、任せてみます。ステラ、よろしく。」
ステラは、盗賊たちの方に走って行った。
盗賊たちは、戸惑っている様子だった。そりゃ、バイコーンが来たら驚くよね。
ステラは、そんな盗賊たちに構わず、黒い霧で包み込んだ。その中にステラが入った……と思ったら、直ぐに出てきて、こちらに戻って来た。
「どうしたの?」
「全員気絶させたから、後はよろしく。」
「さすが、ステラ!ギザールさん、ステラが全員気絶させたらしいです。」
僕は、ステラを撫でながら言った。
「……。」
あれ、ギザールさん、固まってるけど、どうしたのかな?
「ギザールさん?」
「あ、すみません。あまりの速さに理解が追い付いかなくて。では、捕縛しましょう。」
ギザールさんがロープを持ち出したので、ステラと一緒に盗賊の所に行ってもらった。
ルナには念のため馬車の傍に残ってもらって、僕も(役に立つかどうかはわからないが)着いていった。
ステラが黒い霧を晴らすと、20人くらい――正確には18人だ――の盗賊たちが倒れていた。
扱いについては、ジョーンズさんに任せようということで、ギザールさんがジョーンズさんに確認に行った。
「ステラ、あの霧みたいなのは何?」
「ダークミスト。相手の視覚を奪い、麻痺の効果もあるわ。相手が向かってくると、攻撃しないといけないから、予め無力化しといたの。」
「ステラ、気を遣ってくれたんだ。ありがとう。」
また、ステラを撫でてやる。
「別に、大したことじゃないし。」
そっぽを向きながらも、頚を寄せてくるステラ。何、この可愛い生き物!
ギザールさんが、ジョーンズさんを連れて来たので、僕とステラは戻った。
「ルナ、ただいま。異常ない?」
「問題ないわ。」
ルナは僕が乗りやすいように体勢を低くしてくれた。
「ルナ、ありがとう!」
そういえば、クレアはどうしたのかな?
ルナに乗りながら周りを見渡すと、クレアは3台目の馬車を曳いてる馬と話しをしていた。浮気か!?
いや、別にクレアは単に従魔というだけだから、誰と仲良くしようが関係ない。
ルナ、振り返って可哀想な人を見る目を向けるのやめて!
馬は人の気持ちを読むからな。今は乗ってるので、より伝わり易いのだろう。
ジョーンズさんは、盗賊を馬車に押し込んで宿場町まで運ぶことにしたらしい。3台目の馬車にわずかに余裕が有ったということだ。
詰め込むのを手伝おうとしたら、断られた。ギザールさんたちの仕事が無くなるとか言われたが、そういうものだろうか。
それならと、その間馬たちに水を飲まそうかと思ったが、要らないようだ。今日は、汗もあまりかかないということだった。
暇なので、クレアに盗賊に気が付かなかったのか聞いてみた。
「気が付いたけど、ステラが行ってたし、特にすることはないかなと思って。」
「そうなんだ。ところで、あの馬と何の話しをしてたの?」
「気になる?」
「いや、何となく聞いただけだよ。」
「そう。大した話しじゃあないわ。」
ヤバい、凄い気になる。しかし、ここはクレアのペースに乗せられないよう、我慢しよう。
しかし、相手の馬は困ったような顔をしている。恐らく、クレアが変なこと言ったのだろう。
そんなことを考えている間に、盗賊たちの積み込みは終わったようだ。
クレアには、もし盗賊たちに動きが有ったら教えてくれるようお願いして、先頭の馬車の所に戻った。
~~~
その後は、何事もなく順調に進んだ。馬たちも休みたいと言ってこなかったので、宿場町まだ休みなしで移動した。
「お疲れ様でした。」
ジョーンズさんが馬車から降りてきたので、近くに行って挨拶した。
「お疲れ様。こんなに早く、到着したのは初めてだよ。ユウマ君たちのおかげだな。」
「僕は何もしてないですけど。」
ルナに乗せてもらっているだけだし、確実に僕が一番楽しているよね。
馬車曳きの馬たちが解放されたので、近付いていった。
「お疲れ様!」
先ずは、嬉しそうに迎えてくれたハルさんに、声を掛けた。
「ルナ、身体強化解いてあげてね。」
「わかったわ。」
ルナが、ハルさんと額を合わせる。と、ハルさんが少しフラついた。
「だ、大丈夫?ハルさん。」
「大丈夫です。力が急に抜けたので、バランスを崩しただけです。」
ハルさんを少し撫でる。ルナが何か言いたそうだが……頑張ってくれたんだから、これくらい良いよね?
その後、二頭の牡馬も身体強化を解いて行った。
ルナは、額を合わせた後、頬にキスしていた。相手は、やはり硬直していたが……。
これは、僕がハルさんを撫でたのと同じで、頑張ってくれたお礼なのだろう。
馬たちは、厩舎で飼い葉をもらうようだ。
馬たちを目で追っていて、厩舎の横に放牧場らしい所が有ることに気付いた。いくつか仕切りがあり、何頭かの馬が放牧されている。厩舎側には、雨避け用の屋根もある。僕は、そこに近付いてみた。
「ここ、良いね。」
「そうね。」
後からルナが来たのでそう言うと、ルナが同意してくれた。僕が何を言いたかったのかわかったらしい。さすが、ルナ。
厩舎に入ると、飼い付けしている人がいたので、作業が終わるのを待って聞いてみた。
「すみません、ここの責任者の方ですか?」
「はい。そうですが、どうされました?」
「外の放牧場ですが、夜は空くんですよね?」
「そうですね。馬は皆入れますので。」
「可能なら、夜あの一角をお借りしたいんですが。」
「えっ?どうされるのですか?」
「馬と一緒に寝させてもらおうかと思いまして……。」
「別に構いませんが、馬房はまだ空いているので、馬はそちらに預けて宿を取られたらいかがでしょう。」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。」
「そう言えば、クレアとステラはどこに行ったんだろう。」
外へ出て辺りを見回すが、彼女たちの姿は見当たらなかった。
「あそこにいるわよ。」
ルナが示す方を見ると、こちらに向かって来ていた。ギザールさんたちも一緒だ。
「どこへ行ってたの?」
「盗賊を引き渡しに行くのに着いて行ったのよ。念のためにね。」
「ありがとう。気が利くね。」
クレアが答えてくれた。盗賊ことをすっかり忘れていたな。
ステラは、ライアさんに捕まっている。ライアさん、ステラのことがかなり気に入ったみたいだ。ステラは困惑気味だが……。
「私たちは、これからジョーンズさんたちと昼食を食べようと思いますが、ユウマさんはどうされますか?」
「ご一緒してもよろしいですか?」
僕たちは食事は不要だが、情報収集のために、可能なら参加させてもらおう。
「もちろんです。ルナさんや従魔さんもご一緒にどうぞ。」
「ありがとうございます。」
食事は思ったより豪華で、僕も少し頂くことにした。ルナも野菜をもらったようだ。
「皆、今日はお疲れ様。ここは私が持つから、存分に食べてくれ。」
「良いんですか?」
ギザールさんが聞いて、ジョーンズさんがそれに対し頷いた。
「それでは、頂きます。」
皆が食べ始めたところで、ジョーンズさんが話し掛けて来た。
「向こうの街でユウマ君たちが家を探してると聞いたが、良いのは見付かったかね?」
「いえ、なかなか見付からなくて。」
洒落じゃないよ?
しかし、家を探してるのを知られてるとは思わなかった。確かに、僕たちの行動は目立つけど。
「私たちの目的地であるワーテンに、君たちによさそうな家があるが、見てみるかね?」
「そうなんですか?是非お願いします。」
「わかった。着いたら案内しよう。」
「あのー、後でご相談があるんですが。」
「わかった。今日は早くここへ着いて時間があるから、食事が終わったら話しを聞こう。」
「ありがとうございます。」
その後、久しぶりの食事を楽しみつつ、さりげなくこの世界の情報を仕入れた。
ルナとクレアは、暇なのだろう、外で寝ると行って出ていった。ステラも、ライアさんから抜け出して着いて行った。
この世界について主な情報の一つが、技術的なこと。
予想していた通り、魔法中心のため科学は発達していない。照明等は、魔力を溜め込んだ鉱石である魔鉱石を用いるのが一般的らしい。
ただし、都市部では、発電所ならぬ発魔所――発電所のイメージがあるから、こう翻訳されているのだろう――が実用化されており、例えば、魔動列車のような物もあるらしい。
ちなみに、その他の場所の主要交通機関は、やはり馬車のようだ。なので、僕みたいに馬と話しができると重宝されるだろう、ということだった。
もう一つ重要なことは、結婚についてはかなりフリーであるということ。
重婚もありだし、異種族との結婚もオーケー。ただし、お互いの想いが世界に認められる必要がある。あと、子供が出来ない相手とは結婚できないらしい。
ということは、ルナとの間にも子供ができるということだ。
あと、たまには食事をするというのも良いものだなと感じた。
~~~
食後少し休んで、ジョーンズさんと話しをした。気を遣ってくれたのか、ジョーンズさんと僕だけで話しをしてくれた。
「時間を取っていただき、ありがとうございます。」
「構わない。こちらもどんな話が聞けるか楽しみだ。」
「早速ですが、二点ありまして……。一点目は、乗馬用の長靴を作りたいんですが、良い職人さんをご存じでしたら、紹介いただけないかと思いまして。」
「それだったら、私が取引しているワーテンの職人紹介しよう。愛想は悪いが腕は確かだ。」
「ありがとうございます。お願いします。」
『愛想は悪いが腕は確か』というのは、いかにも職人さんらしいと思ってしまった。
「それで、もう一点は?」
「それなんですが、こちらはちょっとデリケートな話になります。」
「だろうな……。」
ジョーンズさんは予想していたようだ。商人の直感というものなのだろうか?
「実は、クレアが角の一部を売っても良いと言ってくれました。」
「ほぉ!」
「もちろん少量ですけど、人の役に立つなら考えても良いかなと思いまして。ギルドに売るのが通常なんでしょうが、確実に私が売ってるのがわかってしまうと思うのです。」
「まあ、そうだろうな。つまり、生成された薬品等を入手した人が、材料の出所を把握できないような販売ルートがあれば、ということだな。」
「さすが、ジョーンズさん。その通りです。」
「無いことはない。だが、そのようなルートに乗せるのは、そう簡単ではないな。しかし、その話しは大変興味深いので、私に時間をくれないか?」
「わかりました。直ぐにという訳ではないので、お願いします。ちなみに、ユニコーンの角の相場って、どんな感じですか?」
「基本出回ることがないので相場と言われると難しいが。この一包で5,000Gは下らないと思う。」
例えとしてジョーンズさんが出したのは、薬包紙に包まれた粉薬(?)。ゴホンといえばでおなじみの薬1杯分くらいだろうか。これで、今回の報酬くらいとは……そりゃ、クレア狙われるわ。何かの弾みで、欠けた角拾えたりしたら、大儲けということになるし。
「どうした?」
「あ、すみません。高くて驚きました。」
「薬を生成するのに必要な角の量は、極少量らしいからな。私は詳しくないんだが。」
「そ、そうなんですね。では、この件についてはお任せします。」
「わかった。」
「この辺りから魔物が減りますが、その分盗賊が出やすいです。こっちの方が厄介ですね。」
盗賊への対応が、馬車の進みを遅らす一番の原因らしい。
「お、言ってるそばから、お出ましですよ。」
「あれ、どうするの?」
ステラも盗賊に気が付いたようで、やってきてそう言った。
「ギザールさん、普段ああいう者たちはどうするのですか?」
「捕まえて、次の街で役人に渡すことが多いです。ちなみに、相手を傷付けても咎められません。」
「ステラ、何か良い手がある?多少ケガさせても良いみたいだけど。」
「じゃあ、アタシに任せて。」
「ギザールさん、ステラが何か良い手があるらしいので、任せてみます。ステラ、よろしく。」
ステラは、盗賊たちの方に走って行った。
盗賊たちは、戸惑っている様子だった。そりゃ、バイコーンが来たら驚くよね。
ステラは、そんな盗賊たちに構わず、黒い霧で包み込んだ。その中にステラが入った……と思ったら、直ぐに出てきて、こちらに戻って来た。
「どうしたの?」
「全員気絶させたから、後はよろしく。」
「さすが、ステラ!ギザールさん、ステラが全員気絶させたらしいです。」
僕は、ステラを撫でながら言った。
「……。」
あれ、ギザールさん、固まってるけど、どうしたのかな?
「ギザールさん?」
「あ、すみません。あまりの速さに理解が追い付いかなくて。では、捕縛しましょう。」
ギザールさんがロープを持ち出したので、ステラと一緒に盗賊の所に行ってもらった。
ルナには念のため馬車の傍に残ってもらって、僕も(役に立つかどうかはわからないが)着いていった。
ステラが黒い霧を晴らすと、20人くらい――正確には18人だ――の盗賊たちが倒れていた。
扱いについては、ジョーンズさんに任せようということで、ギザールさんがジョーンズさんに確認に行った。
「ステラ、あの霧みたいなのは何?」
「ダークミスト。相手の視覚を奪い、麻痺の効果もあるわ。相手が向かってくると、攻撃しないといけないから、予め無力化しといたの。」
「ステラ、気を遣ってくれたんだ。ありがとう。」
また、ステラを撫でてやる。
「別に、大したことじゃないし。」
そっぽを向きながらも、頚を寄せてくるステラ。何、この可愛い生き物!
ギザールさんが、ジョーンズさんを連れて来たので、僕とステラは戻った。
「ルナ、ただいま。異常ない?」
「問題ないわ。」
ルナは僕が乗りやすいように体勢を低くしてくれた。
「ルナ、ありがとう!」
そういえば、クレアはどうしたのかな?
ルナに乗りながら周りを見渡すと、クレアは3台目の馬車を曳いてる馬と話しをしていた。浮気か!?
いや、別にクレアは単に従魔というだけだから、誰と仲良くしようが関係ない。
ルナ、振り返って可哀想な人を見る目を向けるのやめて!
馬は人の気持ちを読むからな。今は乗ってるので、より伝わり易いのだろう。
ジョーンズさんは、盗賊を馬車に押し込んで宿場町まで運ぶことにしたらしい。3台目の馬車にわずかに余裕が有ったということだ。
詰め込むのを手伝おうとしたら、断られた。ギザールさんたちの仕事が無くなるとか言われたが、そういうものだろうか。
それならと、その間馬たちに水を飲まそうかと思ったが、要らないようだ。今日は、汗もあまりかかないということだった。
暇なので、クレアに盗賊に気が付かなかったのか聞いてみた。
「気が付いたけど、ステラが行ってたし、特にすることはないかなと思って。」
「そうなんだ。ところで、あの馬と何の話しをしてたの?」
「気になる?」
「いや、何となく聞いただけだよ。」
「そう。大した話しじゃあないわ。」
ヤバい、凄い気になる。しかし、ここはクレアのペースに乗せられないよう、我慢しよう。
しかし、相手の馬は困ったような顔をしている。恐らく、クレアが変なこと言ったのだろう。
そんなことを考えている間に、盗賊たちの積み込みは終わったようだ。
クレアには、もし盗賊たちに動きが有ったら教えてくれるようお願いして、先頭の馬車の所に戻った。
~~~
その後は、何事もなく順調に進んだ。馬たちも休みたいと言ってこなかったので、宿場町まだ休みなしで移動した。
「お疲れ様でした。」
ジョーンズさんが馬車から降りてきたので、近くに行って挨拶した。
「お疲れ様。こんなに早く、到着したのは初めてだよ。ユウマ君たちのおかげだな。」
「僕は何もしてないですけど。」
ルナに乗せてもらっているだけだし、確実に僕が一番楽しているよね。
馬車曳きの馬たちが解放されたので、近付いていった。
「お疲れ様!」
先ずは、嬉しそうに迎えてくれたハルさんに、声を掛けた。
「ルナ、身体強化解いてあげてね。」
「わかったわ。」
ルナが、ハルさんと額を合わせる。と、ハルさんが少しフラついた。
「だ、大丈夫?ハルさん。」
「大丈夫です。力が急に抜けたので、バランスを崩しただけです。」
ハルさんを少し撫でる。ルナが何か言いたそうだが……頑張ってくれたんだから、これくらい良いよね?
その後、二頭の牡馬も身体強化を解いて行った。
ルナは、額を合わせた後、頬にキスしていた。相手は、やはり硬直していたが……。
これは、僕がハルさんを撫でたのと同じで、頑張ってくれたお礼なのだろう。
馬たちは、厩舎で飼い葉をもらうようだ。
馬たちを目で追っていて、厩舎の横に放牧場らしい所が有ることに気付いた。いくつか仕切りがあり、何頭かの馬が放牧されている。厩舎側には、雨避け用の屋根もある。僕は、そこに近付いてみた。
「ここ、良いね。」
「そうね。」
後からルナが来たのでそう言うと、ルナが同意してくれた。僕が何を言いたかったのかわかったらしい。さすが、ルナ。
厩舎に入ると、飼い付けしている人がいたので、作業が終わるのを待って聞いてみた。
「すみません、ここの責任者の方ですか?」
「はい。そうですが、どうされました?」
「外の放牧場ですが、夜は空くんですよね?」
「そうですね。馬は皆入れますので。」
「可能なら、夜あの一角をお借りしたいんですが。」
「えっ?どうされるのですか?」
「馬と一緒に寝させてもらおうかと思いまして……。」
「別に構いませんが、馬房はまだ空いているので、馬はそちらに預けて宿を取られたらいかがでしょう。」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。」
「そう言えば、クレアとステラはどこに行ったんだろう。」
外へ出て辺りを見回すが、彼女たちの姿は見当たらなかった。
「あそこにいるわよ。」
ルナが示す方を見ると、こちらに向かって来ていた。ギザールさんたちも一緒だ。
「どこへ行ってたの?」
「盗賊を引き渡しに行くのに着いて行ったのよ。念のためにね。」
「ありがとう。気が利くね。」
クレアが答えてくれた。盗賊ことをすっかり忘れていたな。
ステラは、ライアさんに捕まっている。ライアさん、ステラのことがかなり気に入ったみたいだ。ステラは困惑気味だが……。
「私たちは、これからジョーンズさんたちと昼食を食べようと思いますが、ユウマさんはどうされますか?」
「ご一緒してもよろしいですか?」
僕たちは食事は不要だが、情報収集のために、可能なら参加させてもらおう。
「もちろんです。ルナさんや従魔さんもご一緒にどうぞ。」
「ありがとうございます。」
食事は思ったより豪華で、僕も少し頂くことにした。ルナも野菜をもらったようだ。
「皆、今日はお疲れ様。ここは私が持つから、存分に食べてくれ。」
「良いんですか?」
ギザールさんが聞いて、ジョーンズさんがそれに対し頷いた。
「それでは、頂きます。」
皆が食べ始めたところで、ジョーンズさんが話し掛けて来た。
「向こうの街でユウマ君たちが家を探してると聞いたが、良いのは見付かったかね?」
「いえ、なかなか見付からなくて。」
洒落じゃないよ?
しかし、家を探してるのを知られてるとは思わなかった。確かに、僕たちの行動は目立つけど。
「私たちの目的地であるワーテンに、君たちによさそうな家があるが、見てみるかね?」
「そうなんですか?是非お願いします。」
「わかった。着いたら案内しよう。」
「あのー、後でご相談があるんですが。」
「わかった。今日は早くここへ着いて時間があるから、食事が終わったら話しを聞こう。」
「ありがとうございます。」
その後、久しぶりの食事を楽しみつつ、さりげなくこの世界の情報を仕入れた。
ルナとクレアは、暇なのだろう、外で寝ると行って出ていった。ステラも、ライアさんから抜け出して着いて行った。
この世界について主な情報の一つが、技術的なこと。
予想していた通り、魔法中心のため科学は発達していない。照明等は、魔力を溜め込んだ鉱石である魔鉱石を用いるのが一般的らしい。
ただし、都市部では、発電所ならぬ発魔所――発電所のイメージがあるから、こう翻訳されているのだろう――が実用化されており、例えば、魔動列車のような物もあるらしい。
ちなみに、その他の場所の主要交通機関は、やはり馬車のようだ。なので、僕みたいに馬と話しができると重宝されるだろう、ということだった。
もう一つ重要なことは、結婚についてはかなりフリーであるということ。
重婚もありだし、異種族との結婚もオーケー。ただし、お互いの想いが世界に認められる必要がある。あと、子供が出来ない相手とは結婚できないらしい。
ということは、ルナとの間にも子供ができるということだ。
あと、たまには食事をするというのも良いものだなと感じた。
~~~
食後少し休んで、ジョーンズさんと話しをした。気を遣ってくれたのか、ジョーンズさんと僕だけで話しをしてくれた。
「時間を取っていただき、ありがとうございます。」
「構わない。こちらもどんな話が聞けるか楽しみだ。」
「早速ですが、二点ありまして……。一点目は、乗馬用の長靴を作りたいんですが、良い職人さんをご存じでしたら、紹介いただけないかと思いまして。」
「それだったら、私が取引しているワーテンの職人紹介しよう。愛想は悪いが腕は確かだ。」
「ありがとうございます。お願いします。」
『愛想は悪いが腕は確か』というのは、いかにも職人さんらしいと思ってしまった。
「それで、もう一点は?」
「それなんですが、こちらはちょっとデリケートな話になります。」
「だろうな……。」
ジョーンズさんは予想していたようだ。商人の直感というものなのだろうか?
「実は、クレアが角の一部を売っても良いと言ってくれました。」
「ほぉ!」
「もちろん少量ですけど、人の役に立つなら考えても良いかなと思いまして。ギルドに売るのが通常なんでしょうが、確実に私が売ってるのがわかってしまうと思うのです。」
「まあ、そうだろうな。つまり、生成された薬品等を入手した人が、材料の出所を把握できないような販売ルートがあれば、ということだな。」
「さすが、ジョーンズさん。その通りです。」
「無いことはない。だが、そのようなルートに乗せるのは、そう簡単ではないな。しかし、その話しは大変興味深いので、私に時間をくれないか?」
「わかりました。直ぐにという訳ではないので、お願いします。ちなみに、ユニコーンの角の相場って、どんな感じですか?」
「基本出回ることがないので相場と言われると難しいが。この一包で5,000Gは下らないと思う。」
例えとしてジョーンズさんが出したのは、薬包紙に包まれた粉薬(?)。ゴホンといえばでおなじみの薬1杯分くらいだろうか。これで、今回の報酬くらいとは……そりゃ、クレア狙われるわ。何かの弾みで、欠けた角拾えたりしたら、大儲けということになるし。
「どうした?」
「あ、すみません。高くて驚きました。」
「薬を生成するのに必要な角の量は、極少量らしいからな。私は詳しくないんだが。」
「そ、そうなんですね。では、この件についてはお任せします。」
「わかった。」
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!
のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、
ハサンと名を変えて異世界で
聖騎士として生きることを決める。
ここでの世界では
感謝の力が有効と知る。
魔王スマターを倒せ!
不動明王へと化身せよ!
聖騎士ハサン伝説の伝承!
略称は「しなおじ」!
年内書籍化予定!
美しいツノ
あずき
恋愛
ツノを持った人外に普通の女の子が愛されるお話です。
※このお話は、他サイトからの移動作品となります。
初心者の為、小説が読みづらい可能性がございますが温かい目で見ていただけると嬉しいです。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件
なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。
そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。
このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。
【web累計100万PV突破!】
著/イラスト なかの
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる