8 / 94
第1章 異世界転移
8-護衛依頼
しおりを挟む
しばらくすると、また、ギザールさんが話しかけてきた。
「この辺りから魔物が減りますが、その分盗賊が出やすいです。こっちの方が厄介ですね。」
盗賊への対応が、馬車の進みを遅らす一番の原因らしい。
「お、言ってるそばから、お出ましですよ。」
「あれ、どうするの?」
ステラも盗賊に気が付いたようで、やってきてそう言った。
「ギザールさん、普段ああいう者たちはどうするのですか?」
「捕まえて、次の街で役人に渡すことが多いです。ちなみに、相手を傷付けても咎められません。」
「ステラ、何か良い手がある?多少ケガさせても良いみたいだけど。」
「じゃあ、アタシに任せて。」
「ギザールさん、ステラが何か良い手があるらしいので、任せてみます。ステラ、よろしく。」
ステラは、盗賊たちの方に走って行った。
盗賊たちは、戸惑っている様子だった。そりゃ、バイコーンが来たら驚くよね。
ステラは、そんな盗賊たちに構わず、黒い霧で包み込んだ。その中にステラが入った……と思ったら、直ぐに出てきて、こちらに戻って来た。
「どうしたの?」
「全員気絶させたから、後はよろしく。」
「さすが、ステラ!ギザールさん、ステラが全員気絶させたらしいです。」
僕は、ステラを撫でながら言った。
「……。」
あれ、ギザールさん、固まってるけど、どうしたのかな?
「ギザールさん?」
「あ、すみません。あまりの速さに理解が追い付いかなくて。では、捕縛しましょう。」
ギザールさんがロープを持ち出したので、ステラと一緒に盗賊の所に行ってもらった。
ルナには念のため馬車の傍に残ってもらって、僕も(役に立つかどうかはわからないが)着いていった。
ステラが黒い霧を晴らすと、20人くらい――正確には18人だ――の盗賊たちが倒れていた。
扱いについては、ジョーンズさんに任せようということで、ギザールさんがジョーンズさんに確認に行った。
「ステラ、あの霧みたいなのは何?」
「ダークミスト。相手の視覚を奪い、麻痺の効果もあるわ。相手が向かってくると、攻撃しないといけないから、予め無力化しといたの。」
「ステラ、気を遣ってくれたんだ。ありがとう。」
また、ステラを撫でてやる。
「別に、大したことじゃないし。」
そっぽを向きながらも、頚を寄せてくるステラ。何、この可愛い生き物!
ギザールさんが、ジョーンズさんを連れて来たので、僕とステラは戻った。
「ルナ、ただいま。異常ない?」
「問題ないわ。」
ルナは僕が乗りやすいように体勢を低くしてくれた。
「ルナ、ありがとう!」
そういえば、クレアはどうしたのかな?
ルナに乗りながら周りを見渡すと、クレアは3台目の馬車を曳いてる馬と話しをしていた。浮気か!?
いや、別にクレアは単に従魔というだけだから、誰と仲良くしようが関係ない。
ルナ、振り返って可哀想な人を見る目を向けるのやめて!
馬は人の気持ちを読むからな。今は乗ってるので、より伝わり易いのだろう。
ジョーンズさんは、盗賊を馬車に押し込んで宿場町まで運ぶことにしたらしい。3台目の馬車にわずかに余裕が有ったということだ。
詰め込むのを手伝おうとしたら、断られた。ギザールさんたちの仕事が無くなるとか言われたが、そういうものだろうか。
それならと、その間馬たちに水を飲まそうかと思ったが、要らないようだ。今日は、汗もあまりかかないということだった。
暇なので、クレアに盗賊に気が付かなかったのか聞いてみた。
「気が付いたけど、ステラが行ってたし、特にすることはないかなと思って。」
「そうなんだ。ところで、あの馬と何の話しをしてたの?」
「気になる?」
「いや、何となく聞いただけだよ。」
「そう。大した話しじゃあないわ。」
ヤバい、凄い気になる。しかし、ここはクレアのペースに乗せられないよう、我慢しよう。
しかし、相手の馬は困ったような顔をしている。恐らく、クレアが変なこと言ったのだろう。
そんなことを考えている間に、盗賊たちの積み込みは終わったようだ。
クレアには、もし盗賊たちに動きが有ったら教えてくれるようお願いして、先頭の馬車の所に戻った。
~~~
その後は、何事もなく順調に進んだ。馬たちも休みたいと言ってこなかったので、宿場町まだ休みなしで移動した。
「お疲れ様でした。」
ジョーンズさんが馬車から降りてきたので、近くに行って挨拶した。
「お疲れ様。こんなに早く、到着したのは初めてだよ。ユウマ君たちのおかげだな。」
「僕は何もしてないですけど。」
ルナに乗せてもらっているだけだし、確実に僕が一番楽しているよね。
馬車曳きの馬たちが解放されたので、近付いていった。
「お疲れ様!」
先ずは、嬉しそうに迎えてくれたハルさんに、声を掛けた。
「ルナ、身体強化解いてあげてね。」
「わかったわ。」
ルナが、ハルさんと額を合わせる。と、ハルさんが少しフラついた。
「だ、大丈夫?ハルさん。」
「大丈夫です。力が急に抜けたので、バランスを崩しただけです。」
ハルさんを少し撫でる。ルナが何か言いたそうだが……頑張ってくれたんだから、これくらい良いよね?
その後、二頭の牡馬も身体強化を解いて行った。
ルナは、額を合わせた後、頬にキスしていた。相手は、やはり硬直していたが……。
これは、僕がハルさんを撫でたのと同じで、頑張ってくれたお礼なのだろう。
馬たちは、厩舎で飼い葉をもらうようだ。
馬たちを目で追っていて、厩舎の横に放牧場らしい所が有ることに気付いた。いくつか仕切りがあり、何頭かの馬が放牧されている。厩舎側には、雨避け用の屋根もある。僕は、そこに近付いてみた。
「ここ、良いね。」
「そうね。」
後からルナが来たのでそう言うと、ルナが同意してくれた。僕が何を言いたかったのかわかったらしい。さすが、ルナ。
厩舎に入ると、飼い付けしている人がいたので、作業が終わるのを待って聞いてみた。
「すみません、ここの責任者の方ですか?」
「はい。そうですが、どうされました?」
「外の放牧場ですが、夜は空くんですよね?」
「そうですね。馬は皆入れますので。」
「可能なら、夜あの一角をお借りしたいんですが。」
「えっ?どうされるのですか?」
「馬と一緒に寝させてもらおうかと思いまして……。」
「別に構いませんが、馬房はまだ空いているので、馬はそちらに預けて宿を取られたらいかがでしょう。」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。」
「そう言えば、クレアとステラはどこに行ったんだろう。」
外へ出て辺りを見回すが、彼女たちの姿は見当たらなかった。
「あそこにいるわよ。」
ルナが示す方を見ると、こちらに向かって来ていた。ギザールさんたちも一緒だ。
「どこへ行ってたの?」
「盗賊を引き渡しに行くのに着いて行ったのよ。念のためにね。」
「ありがとう。気が利くね。」
クレアが答えてくれた。盗賊ことをすっかり忘れていたな。
ステラは、ライアさんに捕まっている。ライアさん、ステラのことがかなり気に入ったみたいだ。ステラは困惑気味だが……。
「私たちは、これからジョーンズさんたちと昼食を食べようと思いますが、ユウマさんはどうされますか?」
「ご一緒してもよろしいですか?」
僕たちは食事は不要だが、情報収集のために、可能なら参加させてもらおう。
「もちろんです。ルナさんや従魔さんもご一緒にどうぞ。」
「ありがとうございます。」
食事は思ったより豪華で、僕も少し頂くことにした。ルナも野菜をもらったようだ。
「皆、今日はお疲れ様。ここは私が持つから、存分に食べてくれ。」
「良いんですか?」
ギザールさんが聞いて、ジョーンズさんがそれに対し頷いた。
「それでは、頂きます。」
皆が食べ始めたところで、ジョーンズさんが話し掛けて来た。
「向こうの街でユウマ君たちが家を探してると聞いたが、良いのは見付かったかね?」
「いえ、なかなか見付からなくて。」
洒落じゃないよ?
しかし、家を探してるのを知られてるとは思わなかった。確かに、僕たちの行動は目立つけど。
「私たちの目的地であるワーテンに、君たちによさそうな家があるが、見てみるかね?」
「そうなんですか?是非お願いします。」
「わかった。着いたら案内しよう。」
「あのー、後でご相談があるんですが。」
「わかった。今日は早くここへ着いて時間があるから、食事が終わったら話しを聞こう。」
「ありがとうございます。」
その後、久しぶりの食事を楽しみつつ、さりげなくこの世界の情報を仕入れた。
ルナとクレアは、暇なのだろう、外で寝ると行って出ていった。ステラも、ライアさんから抜け出して着いて行った。
この世界について主な情報の一つが、技術的なこと。
予想していた通り、魔法中心のため科学は発達していない。照明等は、魔力を溜め込んだ鉱石である魔鉱石を用いるのが一般的らしい。
ただし、都市部では、発電所ならぬ発魔所――発電所のイメージがあるから、こう翻訳されているのだろう――が実用化されており、例えば、魔動列車のような物もあるらしい。
ちなみに、その他の場所の主要交通機関は、やはり馬車のようだ。なので、僕みたいに馬と話しができると重宝されるだろう、ということだった。
もう一つ重要なことは、結婚についてはかなりフリーであるということ。
重婚もありだし、異種族との結婚もオーケー。ただし、お互いの想いが世界に認められる必要がある。あと、子供が出来ない相手とは結婚できないらしい。
ということは、ルナとの間にも子供ができるということだ。
あと、たまには食事をするというのも良いものだなと感じた。
~~~
食後少し休んで、ジョーンズさんと話しをした。気を遣ってくれたのか、ジョーンズさんと僕だけで話しをしてくれた。
「時間を取っていただき、ありがとうございます。」
「構わない。こちらもどんな話が聞けるか楽しみだ。」
「早速ですが、二点ありまして……。一点目は、乗馬用の長靴を作りたいんですが、良い職人さんをご存じでしたら、紹介いただけないかと思いまして。」
「それだったら、私が取引しているワーテンの職人紹介しよう。愛想は悪いが腕は確かだ。」
「ありがとうございます。お願いします。」
『愛想は悪いが腕は確か』というのは、いかにも職人さんらしいと思ってしまった。
「それで、もう一点は?」
「それなんですが、こちらはちょっとデリケートな話になります。」
「だろうな……。」
ジョーンズさんは予想していたようだ。商人の直感というものなのだろうか?
「実は、クレアが角の一部を売っても良いと言ってくれました。」
「ほぉ!」
「もちろん少量ですけど、人の役に立つなら考えても良いかなと思いまして。ギルドに売るのが通常なんでしょうが、確実に私が売ってるのがわかってしまうと思うのです。」
「まあ、そうだろうな。つまり、生成された薬品等を入手した人が、材料の出所を把握できないような販売ルートがあれば、ということだな。」
「さすが、ジョーンズさん。その通りです。」
「無いことはない。だが、そのようなルートに乗せるのは、そう簡単ではないな。しかし、その話しは大変興味深いので、私に時間をくれないか?」
「わかりました。直ぐにという訳ではないので、お願いします。ちなみに、ユニコーンの角の相場って、どんな感じですか?」
「基本出回ることがないので相場と言われると難しいが。この一包で5,000Gは下らないと思う。」
例えとしてジョーンズさんが出したのは、薬包紙に包まれた粉薬(?)。ゴホンといえばでおなじみの薬1杯分くらいだろうか。これで、今回の報酬くらいとは……そりゃ、クレア狙われるわ。何かの弾みで、欠けた角拾えたりしたら、大儲けということになるし。
「どうした?」
「あ、すみません。高くて驚きました。」
「薬を生成するのに必要な角の量は、極少量らしいからな。私は詳しくないんだが。」
「そ、そうなんですね。では、この件についてはお任せします。」
「わかった。」
「この辺りから魔物が減りますが、その分盗賊が出やすいです。こっちの方が厄介ですね。」
盗賊への対応が、馬車の進みを遅らす一番の原因らしい。
「お、言ってるそばから、お出ましですよ。」
「あれ、どうするの?」
ステラも盗賊に気が付いたようで、やってきてそう言った。
「ギザールさん、普段ああいう者たちはどうするのですか?」
「捕まえて、次の街で役人に渡すことが多いです。ちなみに、相手を傷付けても咎められません。」
「ステラ、何か良い手がある?多少ケガさせても良いみたいだけど。」
「じゃあ、アタシに任せて。」
「ギザールさん、ステラが何か良い手があるらしいので、任せてみます。ステラ、よろしく。」
ステラは、盗賊たちの方に走って行った。
盗賊たちは、戸惑っている様子だった。そりゃ、バイコーンが来たら驚くよね。
ステラは、そんな盗賊たちに構わず、黒い霧で包み込んだ。その中にステラが入った……と思ったら、直ぐに出てきて、こちらに戻って来た。
「どうしたの?」
「全員気絶させたから、後はよろしく。」
「さすが、ステラ!ギザールさん、ステラが全員気絶させたらしいです。」
僕は、ステラを撫でながら言った。
「……。」
あれ、ギザールさん、固まってるけど、どうしたのかな?
「ギザールさん?」
「あ、すみません。あまりの速さに理解が追い付いかなくて。では、捕縛しましょう。」
ギザールさんがロープを持ち出したので、ステラと一緒に盗賊の所に行ってもらった。
ルナには念のため馬車の傍に残ってもらって、僕も(役に立つかどうかはわからないが)着いていった。
ステラが黒い霧を晴らすと、20人くらい――正確には18人だ――の盗賊たちが倒れていた。
扱いについては、ジョーンズさんに任せようということで、ギザールさんがジョーンズさんに確認に行った。
「ステラ、あの霧みたいなのは何?」
「ダークミスト。相手の視覚を奪い、麻痺の効果もあるわ。相手が向かってくると、攻撃しないといけないから、予め無力化しといたの。」
「ステラ、気を遣ってくれたんだ。ありがとう。」
また、ステラを撫でてやる。
「別に、大したことじゃないし。」
そっぽを向きながらも、頚を寄せてくるステラ。何、この可愛い生き物!
ギザールさんが、ジョーンズさんを連れて来たので、僕とステラは戻った。
「ルナ、ただいま。異常ない?」
「問題ないわ。」
ルナは僕が乗りやすいように体勢を低くしてくれた。
「ルナ、ありがとう!」
そういえば、クレアはどうしたのかな?
ルナに乗りながら周りを見渡すと、クレアは3台目の馬車を曳いてる馬と話しをしていた。浮気か!?
いや、別にクレアは単に従魔というだけだから、誰と仲良くしようが関係ない。
ルナ、振り返って可哀想な人を見る目を向けるのやめて!
馬は人の気持ちを読むからな。今は乗ってるので、より伝わり易いのだろう。
ジョーンズさんは、盗賊を馬車に押し込んで宿場町まで運ぶことにしたらしい。3台目の馬車にわずかに余裕が有ったということだ。
詰め込むのを手伝おうとしたら、断られた。ギザールさんたちの仕事が無くなるとか言われたが、そういうものだろうか。
それならと、その間馬たちに水を飲まそうかと思ったが、要らないようだ。今日は、汗もあまりかかないということだった。
暇なので、クレアに盗賊に気が付かなかったのか聞いてみた。
「気が付いたけど、ステラが行ってたし、特にすることはないかなと思って。」
「そうなんだ。ところで、あの馬と何の話しをしてたの?」
「気になる?」
「いや、何となく聞いただけだよ。」
「そう。大した話しじゃあないわ。」
ヤバい、凄い気になる。しかし、ここはクレアのペースに乗せられないよう、我慢しよう。
しかし、相手の馬は困ったような顔をしている。恐らく、クレアが変なこと言ったのだろう。
そんなことを考えている間に、盗賊たちの積み込みは終わったようだ。
クレアには、もし盗賊たちに動きが有ったら教えてくれるようお願いして、先頭の馬車の所に戻った。
~~~
その後は、何事もなく順調に進んだ。馬たちも休みたいと言ってこなかったので、宿場町まだ休みなしで移動した。
「お疲れ様でした。」
ジョーンズさんが馬車から降りてきたので、近くに行って挨拶した。
「お疲れ様。こんなに早く、到着したのは初めてだよ。ユウマ君たちのおかげだな。」
「僕は何もしてないですけど。」
ルナに乗せてもらっているだけだし、確実に僕が一番楽しているよね。
馬車曳きの馬たちが解放されたので、近付いていった。
「お疲れ様!」
先ずは、嬉しそうに迎えてくれたハルさんに、声を掛けた。
「ルナ、身体強化解いてあげてね。」
「わかったわ。」
ルナが、ハルさんと額を合わせる。と、ハルさんが少しフラついた。
「だ、大丈夫?ハルさん。」
「大丈夫です。力が急に抜けたので、バランスを崩しただけです。」
ハルさんを少し撫でる。ルナが何か言いたそうだが……頑張ってくれたんだから、これくらい良いよね?
その後、二頭の牡馬も身体強化を解いて行った。
ルナは、額を合わせた後、頬にキスしていた。相手は、やはり硬直していたが……。
これは、僕がハルさんを撫でたのと同じで、頑張ってくれたお礼なのだろう。
馬たちは、厩舎で飼い葉をもらうようだ。
馬たちを目で追っていて、厩舎の横に放牧場らしい所が有ることに気付いた。いくつか仕切りがあり、何頭かの馬が放牧されている。厩舎側には、雨避け用の屋根もある。僕は、そこに近付いてみた。
「ここ、良いね。」
「そうね。」
後からルナが来たのでそう言うと、ルナが同意してくれた。僕が何を言いたかったのかわかったらしい。さすが、ルナ。
厩舎に入ると、飼い付けしている人がいたので、作業が終わるのを待って聞いてみた。
「すみません、ここの責任者の方ですか?」
「はい。そうですが、どうされました?」
「外の放牧場ですが、夜は空くんですよね?」
「そうですね。馬は皆入れますので。」
「可能なら、夜あの一角をお借りしたいんですが。」
「えっ?どうされるのですか?」
「馬と一緒に寝させてもらおうかと思いまして……。」
「別に構いませんが、馬房はまだ空いているので、馬はそちらに預けて宿を取られたらいかがでしょう。」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。」
「そう言えば、クレアとステラはどこに行ったんだろう。」
外へ出て辺りを見回すが、彼女たちの姿は見当たらなかった。
「あそこにいるわよ。」
ルナが示す方を見ると、こちらに向かって来ていた。ギザールさんたちも一緒だ。
「どこへ行ってたの?」
「盗賊を引き渡しに行くのに着いて行ったのよ。念のためにね。」
「ありがとう。気が利くね。」
クレアが答えてくれた。盗賊ことをすっかり忘れていたな。
ステラは、ライアさんに捕まっている。ライアさん、ステラのことがかなり気に入ったみたいだ。ステラは困惑気味だが……。
「私たちは、これからジョーンズさんたちと昼食を食べようと思いますが、ユウマさんはどうされますか?」
「ご一緒してもよろしいですか?」
僕たちは食事は不要だが、情報収集のために、可能なら参加させてもらおう。
「もちろんです。ルナさんや従魔さんもご一緒にどうぞ。」
「ありがとうございます。」
食事は思ったより豪華で、僕も少し頂くことにした。ルナも野菜をもらったようだ。
「皆、今日はお疲れ様。ここは私が持つから、存分に食べてくれ。」
「良いんですか?」
ギザールさんが聞いて、ジョーンズさんがそれに対し頷いた。
「それでは、頂きます。」
皆が食べ始めたところで、ジョーンズさんが話し掛けて来た。
「向こうの街でユウマ君たちが家を探してると聞いたが、良いのは見付かったかね?」
「いえ、なかなか見付からなくて。」
洒落じゃないよ?
しかし、家を探してるのを知られてるとは思わなかった。確かに、僕たちの行動は目立つけど。
「私たちの目的地であるワーテンに、君たちによさそうな家があるが、見てみるかね?」
「そうなんですか?是非お願いします。」
「わかった。着いたら案内しよう。」
「あのー、後でご相談があるんですが。」
「わかった。今日は早くここへ着いて時間があるから、食事が終わったら話しを聞こう。」
「ありがとうございます。」
その後、久しぶりの食事を楽しみつつ、さりげなくこの世界の情報を仕入れた。
ルナとクレアは、暇なのだろう、外で寝ると行って出ていった。ステラも、ライアさんから抜け出して着いて行った。
この世界について主な情報の一つが、技術的なこと。
予想していた通り、魔法中心のため科学は発達していない。照明等は、魔力を溜め込んだ鉱石である魔鉱石を用いるのが一般的らしい。
ただし、都市部では、発電所ならぬ発魔所――発電所のイメージがあるから、こう翻訳されているのだろう――が実用化されており、例えば、魔動列車のような物もあるらしい。
ちなみに、その他の場所の主要交通機関は、やはり馬車のようだ。なので、僕みたいに馬と話しができると重宝されるだろう、ということだった。
もう一つ重要なことは、結婚についてはかなりフリーであるということ。
重婚もありだし、異種族との結婚もオーケー。ただし、お互いの想いが世界に認められる必要がある。あと、子供が出来ない相手とは結婚できないらしい。
ということは、ルナとの間にも子供ができるということだ。
あと、たまには食事をするというのも良いものだなと感じた。
~~~
食後少し休んで、ジョーンズさんと話しをした。気を遣ってくれたのか、ジョーンズさんと僕だけで話しをしてくれた。
「時間を取っていただき、ありがとうございます。」
「構わない。こちらもどんな話が聞けるか楽しみだ。」
「早速ですが、二点ありまして……。一点目は、乗馬用の長靴を作りたいんですが、良い職人さんをご存じでしたら、紹介いただけないかと思いまして。」
「それだったら、私が取引しているワーテンの職人紹介しよう。愛想は悪いが腕は確かだ。」
「ありがとうございます。お願いします。」
『愛想は悪いが腕は確か』というのは、いかにも職人さんらしいと思ってしまった。
「それで、もう一点は?」
「それなんですが、こちらはちょっとデリケートな話になります。」
「だろうな……。」
ジョーンズさんは予想していたようだ。商人の直感というものなのだろうか?
「実は、クレアが角の一部を売っても良いと言ってくれました。」
「ほぉ!」
「もちろん少量ですけど、人の役に立つなら考えても良いかなと思いまして。ギルドに売るのが通常なんでしょうが、確実に私が売ってるのがわかってしまうと思うのです。」
「まあ、そうだろうな。つまり、生成された薬品等を入手した人が、材料の出所を把握できないような販売ルートがあれば、ということだな。」
「さすが、ジョーンズさん。その通りです。」
「無いことはない。だが、そのようなルートに乗せるのは、そう簡単ではないな。しかし、その話しは大変興味深いので、私に時間をくれないか?」
「わかりました。直ぐにという訳ではないので、お願いします。ちなみに、ユニコーンの角の相場って、どんな感じですか?」
「基本出回ることがないので相場と言われると難しいが。この一包で5,000Gは下らないと思う。」
例えとしてジョーンズさんが出したのは、薬包紙に包まれた粉薬(?)。ゴホンといえばでおなじみの薬1杯分くらいだろうか。これで、今回の報酬くらいとは……そりゃ、クレア狙われるわ。何かの弾みで、欠けた角拾えたりしたら、大儲けということになるし。
「どうした?」
「あ、すみません。高くて驚きました。」
「薬を生成するのに必要な角の量は、極少量らしいからな。私は詳しくないんだが。」
「そ、そうなんですね。では、この件についてはお任せします。」
「わかった。」
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる