異世界でも馬とともに

ひろうま

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第1章 異世界転移

8-護衛依頼

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しばらくすると、また、ギザールさんが話しかけてきた。
「この辺りから魔物が減りますが、その分盗賊が出やすいです。こっちの方が厄介ですね。」
盗賊への対応が、馬車の進みを遅らす一番の原因らしい。
「お、言ってるそばから、お出ましですよ。」
「あれ、どうするの?」
ステラも盗賊に気が付いたようで、やってきてそう言った。
「ギザールさん、普段ああいう者たちはどうするのですか?」
「捕まえて、次の街で役人に渡すことが多いです。ちなみに、相手を傷付けても咎められません。」
「ステラ、何か良い手がある?多少ケガさせても良いみたいだけど。」
「じゃあ、アタシに任せて。」
「ギザールさん、ステラが何か良い手があるらしいので、任せてみます。ステラ、よろしく。」
ステラは、盗賊たちの方に走って行った。
盗賊たちは、戸惑っている様子だった。そりゃ、バイコーンが来たら驚くよね。
ステラは、そんな盗賊たちに構わず、黒い霧で包み込んだ。その中にステラが入った……と思ったら、直ぐに出てきて、こちらに戻って来た。
「どうしたの?」
「全員気絶させたから、後はよろしく。」
「さすが、ステラ!ギザールさん、ステラが全員気絶させたらしいです。」
僕は、ステラを撫でながら言った。
「……。」
あれ、ギザールさん、固まってるけど、どうしたのかな?
「ギザールさん?」
「あ、すみません。あまりの速さに理解が追い付いかなくて。では、捕縛しましょう。」
ギザールさんがロープを持ち出したので、ステラと一緒に盗賊の所に行ってもらった。
ルナには念のため馬車の傍に残ってもらって、僕も(役に立つかどうかはわからないが)着いていった。
ステラが黒い霧を晴らすと、20人くらい――正確には18人だ――の盗賊たちが倒れていた。
扱いについては、ジョーンズさんに任せようということで、ギザールさんがジョーンズさんに確認に行った。

「ステラ、あの霧みたいなのは何?」
「ダークミスト。相手の視覚を奪い、麻痺の効果もあるわ。相手が向かってくると、攻撃しないといけないから、予め無力化しといたの。」
「ステラ、気を遣ってくれたんだ。ありがとう。」
また、ステラを撫でてやる。
「別に、大したことじゃないし。」
そっぽを向きながらも、頚を寄せてくるステラ。何、この可愛い生き物!

ギザールさんが、ジョーンズさんを連れて来たので、僕とステラは戻った。
「ルナ、ただいま。異常ない?」
「問題ないわ。」
ルナは僕が乗りやすいように体勢を低くしてくれた。
「ルナ、ありがとう!」
そういえば、クレアはどうしたのかな?
ルナに乗りながら周りを見渡すと、クレアは3台目の馬車を曳いてる馬と話しをしていた。浮気か!?
いや、別にクレアは単に従魔というだけだから、誰と仲良くしようが関係ない。
ルナ、振り返って可哀想な人を見る目を向けるのやめて!
馬は人の気持ちを読むからな。今は乗ってるので、より伝わり易いのだろう。

ジョーンズさんは、盗賊を馬車に押し込んで宿場町まで運ぶことにしたらしい。3台目の馬車にわずかに余裕が有ったということだ。
詰め込むのを手伝おうとしたら、断られた。ギザールさんたちの仕事が無くなるとか言われたが、そういうものだろうか。
それならと、その間馬たちに水を飲まそうかと思ったが、要らないようだ。今日は、汗もあまりかかないということだった。
暇なので、クレアに盗賊に気が付かなかったのか聞いてみた。
「気が付いたけど、ステラが行ってたし、特にすることはないかなと思って。」
「そうなんだ。ところで、あの馬と何の話しをしてたの?」
「気になる?」
「いや、何となく聞いただけだよ。」
「そう。大した話しじゃあないわ。」
ヤバい、凄い気になる。しかし、ここはクレアのペースに乗せられないよう、我慢しよう。
しかし、相手の馬は困ったような顔をしている。恐らく、クレアが変なこと言ったのだろう。
そんなことを考えている間に、盗賊たちの積み込みは終わったようだ。
クレアには、もし盗賊たちに動きが有ったら教えてくれるようお願いして、先頭の馬車の所に戻った。

~~~
その後は、何事もなく順調に進んだ。馬たちも休みたいと言ってこなかったので、宿場町まだ休みなしで移動した。
「お疲れ様でした。」
ジョーンズさんが馬車から降りてきたので、近くに行って挨拶した。
「お疲れ様。こんなに早く、到着したのは初めてだよ。ユウマ君たちのおかげだな。」
「僕は何もしてないですけど。」
ルナに乗せてもらっているだけだし、確実に僕が一番楽しているよね。

馬車曳きの馬たちが解放されたので、近付いていった。
「お疲れ様!」
先ずは、嬉しそうに迎えてくれたハルさんに、声を掛けた。
「ルナ、身体強化解いてあげてね。」
「わかったわ。」
ルナが、ハルさんと額を合わせる。と、ハルさんが少しフラついた。
「だ、大丈夫?ハルさん。」
「大丈夫です。力が急に抜けたので、バランスを崩しただけです。」
ハルさんを少し撫でる。ルナが何か言いたそうだが……頑張ってくれたんだから、これくらい良いよね?
その後、二頭の牡馬も身体強化を解いて行った。
ルナは、額を合わせた後、頬にキスしていた。相手は、やはり硬直していたが……。
これは、僕がハルさんを撫でたのと同じで、頑張ってくれたお礼なのだろう。

馬たちは、厩舎で飼い葉をもらうようだ。
馬たちを目で追っていて、厩舎の横に放牧場らしい所が有ることに気付いた。いくつか仕切りがあり、何頭かの馬が放牧されている。厩舎側には、雨避け用の屋根もある。僕は、そこに近付いてみた。
「ここ、良いね。」
「そうね。」
後からルナが来たのでそう言うと、ルナが同意してくれた。僕が何を言いたかったのかわかったらしい。さすが、ルナ。
厩舎に入ると、飼い付けしている人がいたので、作業が終わるのを待って聞いてみた。
「すみません、ここの責任者の方ですか?」
「はい。そうですが、どうされました?」
「外の放牧場ですが、夜は空くんですよね?」
「そうですね。馬は皆入れますので。」
「可能なら、夜あの一角をお借りしたいんですが。」
「えっ?どうされるのですか?」
「馬と一緒に寝させてもらおうかと思いまして……。」
「別に構いませんが、馬房はまだ空いているので、馬はそちらに預けて宿を取られたらいかがでしょう。」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。」

「そう言えば、クレアとステラはどこに行ったんだろう。」
外へ出て辺りを見回すが、彼女たちの姿は見当たらなかった。
「あそこにいるわよ。」
ルナが示す方を見ると、こちらに向かって来ていた。ギザールさんたちも一緒だ。
「どこへ行ってたの?」
「盗賊を引き渡しに行くのに着いて行ったのよ。念のためにね。」
「ありがとう。気が利くね。」
クレアが答えてくれた。盗賊ことをすっかり忘れていたな。
ステラは、ライアさんに捕まっている。ライアさん、ステラのことがかなり気に入ったみたいだ。ステラは困惑気味だが……。
「私たちは、これからジョーンズさんたちと昼食を食べようと思いますが、ユウマさんはどうされますか?」
「ご一緒してもよろしいですか?」
僕たちは食事は不要だが、情報収集のために、可能なら参加させてもらおう。
「もちろんです。ルナさんや従魔さんもご一緒にどうぞ。」
「ありがとうございます。」

食事は思ったより豪華で、僕も少し頂くことにした。ルナも野菜をもらったようだ。
「皆、今日はお疲れ様。ここは私が持つから、存分に食べてくれ。」
「良いんですか?」
ギザールさんが聞いて、ジョーンズさんがそれに対し頷いた。
「それでは、頂きます。」
皆が食べ始めたところで、ジョーンズさんが話し掛けて来た。
「向こうの街でユウマ君たちが家を探してると聞いたが、良いのは見付かったかね?」
「いえ、なかなか見付からなくて。」
洒落じゃないよ?
しかし、家を探してるのを知られてるとは思わなかった。確かに、僕たちの行動は目立つけど。
「私たちの目的地であるワーテンに、君たちによさそうな家があるが、見てみるかね?」
「そうなんですか?是非お願いします。」
「わかった。着いたら案内しよう。」
「あのー、後でご相談があるんですが。」
「わかった。今日は早くここへ着いて時間があるから、食事が終わったら話しを聞こう。」
「ありがとうございます。」
その後、久しぶりの食事を楽しみつつ、さりげなくこの世界の情報を仕入れた。
ルナとクレアは、暇なのだろう、外で寝ると行って出ていった。ステラも、ライアさんから抜け出して着いて行った。

この世界について主な情報の一つが、技術的なこと。
予想していた通り、魔法中心のため科学は発達していない。照明等は、魔力を溜め込んだ鉱石である魔鉱石を用いるのが一般的らしい。
ただし、都市部では、発電所ならぬ発魔所――発電所のイメージがあるから、こう翻訳されているのだろう――が実用化されており、例えば、魔動列車のような物もあるらしい。
ちなみに、その他の場所の主要交通機関は、やはり馬車のようだ。なので、僕みたいに馬と話しができると重宝されるだろう、ということだった。
もう一つ重要なことは、結婚についてはかなりフリーであるということ。
重婚もありだし、異種族との結婚もオーケー。ただし、お互いの想いが世界に認められる必要がある。あと、子供が出来ない相手とは結婚できないらしい。
ということは、ルナとの間にも子供ができるということだ。

あと、たまには食事をするというのも良いものだなと感じた。

~~~
食後少し休んで、ジョーンズさんと話しをした。気を遣ってくれたのか、ジョーンズさんと僕だけで話しをしてくれた。
「時間を取っていただき、ありがとうございます。」
「構わない。こちらもどんな話が聞けるか楽しみだ。」
「早速ですが、二点ありまして……。一点目は、乗馬用の長靴を作りたいんですが、良い職人さんをご存じでしたら、紹介いただけないかと思いまして。」
「それだったら、私が取引しているワーテンの職人紹介しよう。愛想は悪いが腕は確かだ。」
「ありがとうございます。お願いします。」
『愛想は悪いが腕は確か』というのは、いかにも職人さんらしいと思ってしまった。

「それで、もう一点は?」
「それなんですが、こちらはちょっとデリケートな話になります。」
「だろうな……。」
ジョーンズさんは予想していたようだ。商人の直感というものなのだろうか?
「実は、クレアが角の一部を売っても良いと言ってくれました。」
「ほぉ!」
「もちろん少量ですけど、人の役に立つなら考えても良いかなと思いまして。ギルドに売るのが通常なんでしょうが、確実に私が売ってるのがわかってしまうと思うのです。」
「まあ、そうだろうな。つまり、生成された薬品等を入手した人が、材料の出所を把握できないような販売ルートがあれば、ということだな。」
「さすが、ジョーンズさん。その通りです。」
「無いことはない。だが、そのようなルートに乗せるのは、そう簡単ではないな。しかし、その話しは大変興味深いので、私に時間をくれないか?」
「わかりました。直ぐにという訳ではないので、お願いします。ちなみに、ユニコーンの角の相場って、どんな感じですか?」
「基本出回ることがないので相場と言われると難しいが。この一包で5,000Gは下らないと思う。」
例えとしてジョーンズさんが出したのは、薬包紙に包まれた粉薬(?)。ゴホンといえばでおなじみの薬1杯分くらいだろうか。これで、今回の報酬くらいとは……そりゃ、クレア狙われるわ。何かの弾みで、欠けた角拾えたりしたら、大儲けということになるし。
「どうした?」
「あ、すみません。高くて驚きました。」
「薬を生成するのに必要な角の量は、極少量らしいからな。私は詳しくないんだが。」
「そ、そうなんですね。では、この件についてはお任せします。」
「わかった。」
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