異世界でも馬とともに

ひろうま

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第1章 異世界転移

9-加護の話

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ジョーンズさんと別れて、ルナの所に向かった。ルナは、放牧場で草を食べていた。
「ルナ、放っておいて、ごめんね。」
「私が勝手に抜けたんだから、構わないわよ。」
「草食べてたの?」
「暇だから、元の世界の癖でついつい……。」
「そうなの?ところで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「改まって、どうしたの?」
「この世界では、相手との間に子供ができるなら、結婚できるらしい。ということは、僕とルナの間にも子供ができるということだけど……ルナは、子供は欲しい?」
「もちろん、あなたとの子供は欲しいわよ。」
「そう言ってくれると嬉しいよ。」
「だけど、クレアの話からすると、寿命が伸びたことで発情があまり来ないかも知れないわね。」
「まあ、焦る必要はないしね。」
「そうね。あ、もちろん発情してなくても……。」
「ちょ、ストップ!そういうこと、あまり言わないようにね。誰に聞かれるか、わからないし。」
「私もオーケーよ。」
うゎ、最も聞かれてはいけない魔獣やつに聞かれたみたいだ。
「クレア、いつから聞いてたの。」
「ルナさんが子供が欲しいって言ってる所くらいかしら?なんか面白そうな話ししてるみたいだから、来てみたの。」
ステラも、こちらに向かっているな。
ついでだから、聞いてみるか。
「クレア、もしもの話だけど、僕がクレアと結婚して子供ができたら、子供の種族はどうなるの?」
「魔物の人との子供は必ずその魔物になるわ。だから、マスターとの子供もユニコーンになるはずよ。マスター、私との子供が欲しいの?」
「……。」
「冗談よ。でも、否定はしないのね。」
「うっ!」
「まあ、この話は、お互いに心の準備ができてからね。」
お互いということは、クレアもまだ心の準備はできてないということかな。
「そ、そうだね。ところで、僕とルナの子供は何になるの?」
「最初から、それが聞きたかったんでしょ?博識な私でも、動物と人間の子供が何になるか知らないわ。」
自分で博識って……。
「動物と人間の子供って獣人ではないの?」
「獣人は、それぞれ独立した種族でハーフではないわ。別種族同士の子供は大体どちらかの種族の子供になるようね。たまに、ハイブリッドが生まれることもあるらしいけど。」
「さすが、博識!」
「フフン!でも、そう考えると、マスターとルナさんの、子供はハイ・ヒューマンかハイ・ホースということになるのかしら。」
「確かに、そうかもね。」
「子供の種族に関係なく、大事にするわよ。ねぇ、あなた……。」
「そ、そうだね。」
ルナが体を擦り寄せて来た。
「はいはい。お熱いことで。ちなみに、ステラはどうなの?」
「えっ、アタシ?な、なんのこと?」
ステラ、かなり動揺してるな。まさか自分に振られるとは、思ってなかったんだろう。
「もちろん、マスターとの子供が欲しいかっていう話しよ。」
「なんで、アタシに聞くのよ!」
「否定はしないということね。」
「……。」
クレア、意地が悪いな。今更だけど……。
しかし、ステラなら、『そんなわけないでしょ!』みたいな返事になると思ったけど、意外だな。
あ、急に眠気が襲ってきた。食事に薬が入っていたとかじゃないよね?
「ごめん、ちょっと疲れたから、昼寝するね。」
「じゃあ、私にもたれて寝て良いわよ。」
「あ、ありがとう。」
ルナが寝そべったので、お腹にもたれ掛かった。これ、結構気持ち良いな。

~~~
「あなた、ギザールさんが来たわよ。」
「ウーン……。」
「お休みのところ、申し訳ありません。そろそろ夕食にしようと思うのですが、どうされますか?」
どうやら、かなりの時間眠ってたようだ。
「すみません。わざわざ、ありがとうございます。少しお邪魔させていただきます。」
「また、あの女の人に捕まるのかしら?」
ステラは嫌そうに言うが、実際にはそんなに嫌がってないと思う。

夕食も和やかに進められた。
ステラは予想通り、ライアさんに捕まって撫でられてる。なぜか、ルナが通訳をしてるみたいだ。
クレアは隅で大人しくしている。
「さて、明日の予定だが……。」
皆が食べ終わったころ、ジョーンズさんが明日の予定を説明してくれた。ここでは、朝一の鐘だけ鳴るらしいので、それが鳴ったらここの前に集合、準備ができ次第出発ということだった。次の宿場町までに掛かる時間は、今日とあまり変わらないようだ。
説明が終わったところで、ジョーンズさんに聞いてみる。
「明日の行程で注意することはありますか?」
「今日と特に変わりない。中盤辺りが魔物が出やすいエリアになるが、特に強い魔物はいないはずなので、問題ないだろう。まあ、油断し過ぎないようにした方が良いだろうが。」
「ありがとうございます。」
「では、みなさん、明日もよろしくお願いします。」
「「よろしくお願いします。」」

~~~
「マスター、来て!」
「いや、あのー。」
クレアと寝るというから、ステラみたいに背中合わせかと思ったのだが、寝そべって前後肢を開いていた。
その体勢は、かなりキツいのではないだろうか?
「今日は私と寝るんじゃなかった?」
「そうなんだけど、その体勢って……。誘っているようにしか、見えないんだけど……。」
「そう見えるなら、そうなんじゃない?」
何その他人事のような反応。
クレアは僕に好意を寄せてくれているのは嬉しいが、僕には引っ掛かることがあった。
この際だから、話してしまおう。
「こんな状況で申し訳ないんだけど、ちょっと話しを聞いてくれるかな?ステラも。」
「……わかったわ。」
「アタシも?」
クレアは何か言いたげだったが、僕の真剣な様子に何かを感じたのか、素直に立ち上がった。
僕は、ステラが近寄るのを待って、話を始めた。
「昨日クレアが『馬たらしスキル』と言ってたけど、実際僕にはそれに近いものを持っているんだ。」
僕は、『獣神の加護』と『馬女神の加護』の話しをした。
「だから、クレアとステラもその効果を受けているかも知れない。今まで黙っててごめん。」
「ふうん、私が普通の人に惹かれるわけないと思ったけど、それなら納得ね。」
「怒ってない?」
「なんで?恐らくだけど、マスターが私達の魔法受けて平気なのはスキルの効果よね。もし、相手の加護やスキルのせいで戦いに負けたとしても、それはその加護やスキルに対抗する力がない私の問題。つまり、私がマスターに惹かれたのがその加護の効果であっても、それに対抗できなかった私の負けなのよ。」
「クレア……。」
なんだろう、クレアが凄く素敵に見えてきた。
「どう、惚れ直したでしょう?」
「今の一言で台無しだよ!」
しかし、流れを断ち切ってくれなかったら、危ない雰囲気だったな。クレアはわざと言ったのかも知れない。
「ステラはどう思う?」
「アタシも、クレアのいう通りだと思う。けど、私はそのせいじゃないと思いたい。」
「ステラ……。」
いつものツンデレはどこ行ったんだろうか?
「ということで、私と寝ましょう。」
「クレアは、なんでそんな感動ブレーカーなの!?」
結局、今日のところはと、背中合わせで寝ることにした。

~~~
翌朝、かなり早くから集合場所に向かった。
まだ一番の鐘が鳴る時刻が体に染み付いてないので、確実に間に合うようにしたいからだ。
「おはようございます。」
「おはよう。馬はもう繋いであるから、調子を聞いてくれるかな?」
「はい!」
今日も身体強化掛けようと思っているから、ちょうど良いな。
ということで、ルナと一緒に馬車の方ところに向かった。
「ルナ、今日お願いね。昨日と同じぐらいで良いから。」
「わかったわ。」
「ハルさん、おはよう。調子はどう?」
「バッチリよ!」
「良かった。今日もよろしくね!」
「ちょっと、失礼するわよ。」
「はい!」
ルナが額を合わせた。
「はい、オーケーよ。」
「ありがとうございます。力が湧いて来ました。」
その後、残りの二頭も同様に調子を聞いて、身体強化を掛けていく。皆、調子は良いようだ。
「あなた、ハルさんだけ扱いが違わない?」
「ソ、ソンナコトナイヨ。」
「……。」
「あ、ジョーンズさんに報告しないとね。」
「あなた、ごまかすの下手すぎよ。」

「馬達は皆、元気です。」
「ありがとう。ユウマ君がいると、馬達のやる気が違うな。」
「ハハハ、たまたまでしょう!それよりも、ジョーンズさん、私何も役に立ってなくて、申し訳ありません。」
この依頼で僕がやったことって、馬達に話し掛けただけだしな。こんなんで良いのだろうか。
「いや、ユウマ君がいるから、ユニコーンとバイコーンが着いて来てくれていて、それだけで十分役に立っているよ。」
「ありがとうございます。でも、私にできることがあったら、言ってください。」
「わかった。」

今日は、2台目の馬車にクレアが、3台目の馬車にステラが付くようにしたようだ。
そういえば、クレアも馬と話しをしてるだけだな。まあ、彼女の場合は、いるだけで魔物避けになっている訳だが……。

次の宿場町には、昼頃到着した。
今日は盗賊も出なかったし、順調過ぎる行程だった。
「ギザール。こんなに楽で良いのか?」
「ルコルか。確かに、今日は盗賊は少ないエリアだったが、全く何も無いと逆に不安になるな。」
「良いことじゃない。早く行こう!」
ギザールさん達が話しているのを聞くと、やはり今日は順調過ぎたようだ。何かの前触れか?
あ、ライアさんが、早速ステラのところに来た。
「ライアさん、ステラが気に入ったようですね。」
「そうよ!だって可愛いし、さわり心地最高だし。乗せてもらおうと思ったら、断られちゃったけど……。」
昨日、ルナが通訳してたとき、そんな話ししてたんだ。
「でも、理由は、人を乗せたことないから、乗せると迷惑かけるだろうって。ステラちゃん、気遣いもできてすごいんだらから!」
「そ、そうなんですね。」
なぜライアさんが、ステラの自慢を僕にしてるんだろう。ちょっと意味がわからないが、ステラが褒められると僕も嬉しいから良いか。
そこに、ルコルさんとギザールさんがやって来た。
「ライア、また迷惑かけてるな?」
「ユウマさん、すみません。」
「大丈夫ですよ。ステラも可愛がられて喜んでるでしょう。」
ステラが、一瞬抗議するような目をしたが、ライアさんに撫でられて諦めたような目になった。
あ、馬達のところに行かなきゃね。

今日も皆で昼食を摂ることになり、ジョーンズさんが言った。
「皆さん、今日はお疲れ様でした。皆さんのお蔭で、今日も早く着きました。頑張れば今日中に目的地に着くこともできそうですが、安全を考えて、予定通り残りは明日移動としましょう。」
食事が始まって、ギザールさんに聞いてみた。
「目的地まで、残りはあまり無いんですか?」
「ここから、目的地までが全行程で一番短いんです。通常順調に行って半日強ですが、今回のペースで行くと、夕方には着く感じですね。」
「そうなんですか。」
「今日中に着けば費用もかなり浮くのですが、それでも、調子に乗って進まないのが、ジョーンズさんが信頼される一因ですね。」
「成る程です。」

~~~
昼食後、ここにも放牧場が有ったので、そこで休むことにした。
「ユウマ、ちょっとルナさんを借りて行っていい?」
ルナにもたれて寝ようとしていると、珍しくステラがそんなことを聞いてきた。
「別にルナが問題なければ良いよ。僕に聞くことでもないし。」
「ありがとう。」
ステラ、なんかいつもと感じが違うな。
あと、ステラがルナを名前で呼んだの初めてじゃないかな?
「しょうがないから、私がクッション代りをやってあげるわ。」
「クレア、キャラ変わって来てない?」
「抱き枕の方が良い?」
「スルーかい!」
折角なので、ありがたく、クレアのお腹にもたれて眠らせてもらった。

「あれ?」
起きると、ルナにもたれていた。
いつの間に、入れ替わったんだろう?
「あなた、よく寝てたから、気が付かなかったのね。」
「なぜ、起きなかったか不思議なんだけど……。ところで、ステラと何を話してたの?」
「今日ユウマと一緒に寝るのを変わって欲しいって。何か話がしたいらしいわ。」
「ステラにしては珍しいね。どうしたんだろう?」
「さぁ。でも、真剣そうだったから、しっかり聞いてあげてね。」
「わかった。そうするよ。ありがとう。」
「それで、クレアは?」
「ステラと話をしてるわよ。」
確かに、少し離れた所で、二頭が話をしているようだ。成る程、それでクレアはルナと入れ替わったんだな。
ここからは、ステラの顔は見えないが、クレアの表情からすると、珍しく真面目な話しをしているようだ。

夕食はいつもの通り皆で摂ったが、ステラはライアさんの所にはいなかった。ルナが断りを入れたらしい。ライアさんがちょっと寂しそうだ。
夕食後、ジョーンズさんから明日の予定の説明が有った。基本、明日もいつもの通りだ。
「明日はいつもの行程より短いが、最後まで油断せずに頼む。」
「「わかりました。」」
「ユウマさん、明日の行程は往来が多くて魔物は出にくいですが、商人に偽装した盗賊がいたりするので注意が必要です。」
「ありがとうございます。」
ギザールさんが、説明してくれた。僕に聞かれる前に先手を打ったのだろう。
「たまに、馬車が動かなくなって困っている振りをして、手伝いに行った冒険者を拘束するという、悪徳な奴らもいます。」
「それは酷いですね。」
「ユウマさんは騙され易そうなので、特に注意して下さい。」
「うっ!わかりました。」
確かに、この中では一番騙され易いかも……。いざとなったら、皆が助けてくれると思うけど、そんなことにならないようにしないとね。
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