貴方色に染まる

浅葱

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本編

13.跟新娘談話(花嫁との話)

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 チェンは様子が変わったことに気付き、振り向いて紅児ホンアールの頬を拭ってくれた。みなを待たせてしまったことが申し訳なかった。

(泣いてばかりだわ……)

 恥ずかしいし情けない。
 みな紅児の名を正しく呼ぶことはできなかったのに、どうして花嫁は比較的正確に発音できたのだろう。じっと見つめる紅児に花嫁はただ微笑むだけだった。やはり神様の花嫁になるぐらいだから特別な人なのだろうか。

「エリーザ、貴女の話は大体聞いたわ。後でまた詳しく話を聞かせてもらってから判断してもいい?」
「はい、もちろんです!」
「でもここでは落ち着いて話もできないわね。茶室ではどうかしら?」
「「花嫁様!」」

 いきなり花嫁の両脇にいた2人が同時に抗議の声を上げる。花嫁は耳を塞いだ。

「いいでしょう? 陳が連れてきたのだし、白雲バイユン紅夏ホンシャーも嘘はついてないというのだから」
「ですが!」
「花嫁様は優しすぎますわ!」

 更に2人が言い募るのに花嫁は憮然とした表情をした。
 紅児は縮こまる。いろいろな人を困らせるのは本意ではない。
 花嫁は嘆息すると静かに言った。

「……彼女はたいへんな思いをしたのよ? もちろんもっとつらい思いをしている人は沢山いるかもしれないけど……陳が出会ったというのも、彼女が赤い髪をしているのも何かの縁。他人事とはとても思えないの。……いいでしょう?」
「……仰せのままに」
「……わかりました」

 花嫁の真摯な言葉に、2人はしぶしぶという形ではあったが同意した。

「陳、エリーザを案内して」
「かしこまりました」
(本当にいいのかしら……)

 ためらいながらも、花嫁たちの後について謁見の間を出る。橋を渡り、豪奢な建物の中に足を踏み入れた。
 ふわり。

(?)

 暖かい、優しい風が紅児を包む。
 それまで幾分ほこりっぽかった空気があきらかに変わったのを感じた。
 先程は1つの大きな建物だと思っていたが、寮との間に壁があったのを紅児が勘違いしたらしい。実際にはいくつもの建物を屋根のある渡り廊下でつないだ造りをしていた。
 そのまますぐに向かって右側のある建物に足を踏み入れる。

「立っていてもらうのも心苦しいから誰かに椅子を持ってきてもらいましょう」

 そこには大きな卓と、その周りに五脚の椅子が置かれていた。おそらく四神と花嫁の席の数なのだろう。
 大きい窓がいくつもあり、壁には掛け軸や飾りが上品に飾られていた。

「茶室に、と思ったのだけど食堂の方が広いからこちらにさせてもらったわ」

 先程体を洗ってくれた女性たちと同じ格好をした女性たちが椅子を運んできてくれた。彼女たちが四神宮に仕える侍女なのだとやっと紅児はわかった。
 陳に促され、ためらいながらも腰掛ける。

「!?」

 紅児は体のいろんなところに打身があるのをすっかり忘れていた。運悪く座った時その場所が当たったらしい。紅児は顔を顰めた。

「そういえば馬車道に投げだされたと聞いたわ。体は大丈夫?」

 心配そうに花嫁に聞かれる。

「おそれながら、彼女の体には打身がいくつかあります」

 紅児が「大丈夫です」と答える前に陳が先に答えた。その答えに花嫁の両脇に控える女性たちがはっとしたような表情をした。

「まぁ……では早めに休んでもらうようにしなくてはね。でも……部屋の空きはあるのかしら?」

 花嫁の何気ない問いにすらりとした長身の女性が答える。

「趙殿に尋ねて参りましょう。なんでしたら私の室を使ってもいいですし」
「それはいけないわ。そんなことをしたら黒月ヘイユエは全く休まないでしょう?」

 長身の女性は黒月というらしい。こちらの女性も人間離れした美貌を誇っているが、白雲や紅夏よりは幾分人間らしく見えた。

「私のところは侍女がいますからかえって休めませんしね……」
イエン殿のところは論外であろう」
「はーい、おしまいおしまい!」

 もう1人のたおやかな女性は延というらしかった。黒月がそれに絡み、花嫁が手を振っていなす。紅児は目を丸くした。

「……いつもこのような状態なの。びっくりしたとは思うけど、慣れてね?」

 小さい声で陳に教えられて、紅児は微かに頷いた。なんだかとても仲が良さそうで羨ましいと思った。


 花嫁は紅児の家族のこと、貿易商である父のことを詳しく聞きたいと言った。
 あまり言葉を知らない紅児は説明するのがたいへんだったが、花嫁がうまく誘導してくれたおかげでどうにか答えることができた。

「とすると、お父様は有名な貿易商なのかしら。皇帝にお目通りすることもあるとおっしゃられていたのよね?」
「ええと、この国の王様に会うこともあるとは言っていました」
「わかったわ……白虎様、いいですよね?」

 それまでただの椅子と化していた白虎が鷹揚に頷く。

「そなたの好きにするといい」

 とても低い音。やはり耳に心地いいのは神様だからだろうか。

「ありがとう、白虎様。エリーザも疲れているのにありがとうね。また声をかけると思うけど、それまでゆっくりしてちょうだい」

 花嫁の科白はなんだか不思議だった。神の花嫁というぐらいだから地位で言えば最高峰だろう。なのにこんな取るに足らない小娘にまで労いの言葉をかけてくれる。
 紅児は、先程の大部屋の中の小部屋に案内された。そこを好きに使ってもいいらしい。

「侍女たちと同じ部屋だからうるさいかもしれないけど勘弁してね」

 陳の言葉に紅児はとんでもないと首を振った。これ以上何かを望んだら罰が当たりそうなほどよくしてもらっている。

「本当に、本当にありがとうございます」

 精一杯お礼を言うと陳はふふと笑った。
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