追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

文字の大きさ
43 / 134
連載

ライの秘書官1

しおりを挟む
 メディがエタセルに来て一ヶ月が経過し、私とメディの二人暮らしにも慣れてきた頃。エタセルの周辺諸国では、とある騒動により緊迫していた。


「……隣国でもかぁ」
 私は朝食後にお茶を飲みながら配達されたばかりの新聞を眺めて呟く。
 記事の内容は、エタセルの周辺諸国で増えつつある問題について。


 最近、湿疹や発熱などの症状で入院する患者が増えているそうだ。
 原因は新種のウイルスか? と言われているが、まだ調査中の段階なので不明。


 医療大国のファルマへ調査依頼をしているので、ライ達も動いているのだろう。


 ――ライ、体大丈夫かな。


 ライと私は手紙のやりとりをしているんだけど、執務の他にパーティーなどの関係で多忙らしく、手紙の返事が少し遅れるとかかれていた。


「なにか気になる記事でもありましたか?」
 鞄を持ちながらメディが私のところにやって来たので、私は手にしていた新聞を彼女へと差し出す。
 すると、メディは手に取り、視線で追った。


「症状が同一の患者さんもいれば、全く違う患者さんもですか。見たことがない動物に引っかかれたという方もいますね」
「治癒魔法で治せないのかな?」
「難しいですね。基本的に治癒魔法というのは、外傷だったり、体力を回復させるものなんですよ。人間の持っている細胞を活性化させたりするんです。病気を治す魔法もありますが、それは賢者と呼ばれるごく限られた者しか使えません」
「へー。賢者かぁ。絵本とかの世界でしか聞いたことがないや」
「えぇ、過去には存在していましたが、現在にもいらっしゃるかと言われれば……」
「そっか」
「見たことがない動物というのが気になりますね」
 メディが新聞を凝視しながら呟く。


 ここに来た頃は常にローブを羽織っていた彼女だったけど、今はローブは脱ぎワンピース姿だ。
 ライと同じ空色の髪は一つに纏め、リボンで結ばれている。
 ローブがないため、彼女の表情がはっきりと読むことができた。


「ねぇ、メディ。もしかして、やせた?」
 ふっくらとしていた彼女の輪郭が、少しすっきりしているように感じる。


「はい、少しやせました。神官様と共に、森を散策しながらエタセル特有の植物の勉強をさせていただいていますので。以前よりも運動量が増え健康的になったため、体調もかなり良いんですよ」
「良かったね!」
「はい、エタセルに来て良かったです。いろいろ学ぶことがありますし。それに夢もできました。セス様にお聞きしたアルカナ薬草辞典を書物として後世に残したいです」
 にこにこと嬉しそうに弾んだ声をあげているメディを見て、私も顔が自然に緩んできた。





 +

 +

 +





 私は商会に向かう前に、城へと立ち寄っていた。
 商会関係の書類を届けるためと、妙に気になる今朝の新聞記事についてお兄様へお話をお伺いするために。
 エタセル国内ではまだウイルスの話は聞いていないけど、隣国でも患者が発見されている。


 ――珍しい動物ってなにかしら? もしかして、西大陸の動物が密猟されている件と関係しているのかな。


 ぼんやりとそんなことを考えながら慣れ親しんだ渡り廊下を歩いていると、ふと左側から人の話し声が聞こえてきたので顔を向ける。
 少し離れたところに煉瓦づくりの長方形の建物が窺えるのだが、付近にコルタの姿が。
 隣に騎士服に身を包んだ人が立っていて、コルタに書類を渡していた。


 ――声を掛けたら聞こえるかな?


 外へと出て声をかけたいのだが、渡り廊下は腰まで壁があるため、壁を越えなければならない。
 結構距離があるから私の声が届くか気がかりだったけど、大きく息を吸って彼の名を叫んだ。


「コルターっ!」
 大きく手を振れば、コルタ達は気づいてくれ顔を私の方へ向ける。
 二人は私の方へと来てくれた。


「ティアナ様、おはようございます。今日もめっちゃかわいいですね。今度騎士団の方にも遊びに来てくださいよー! 団長ばかりティアナ様と仲良くしているから、みんな羨ましがっているんです」
 コルタと共にいた騎士の青年が朝にふさわしい笑顔を浮かべて、唇を動かしている。


「騎士団の建物って西の方でしたよね。まだ見学した事がないので、是非お邪魔させてください。差し入れをもっていきます」
「本当ですか!? すっげぇ嬉しいです」
「イズル。お前、そろそろ仕事に戻れ。じゃないと、あいつらにお小言を言われるぞ?」
 コルタはそう言いながら寄宿舎へと視線を向ければ、窓から身を乗り出してこっちを見ている人たちの姿が。



「あ、やばい……俺だけ抜け駆けしてしてティアナ様としゃべってしまった……ティアナ様、絶対に遊びに来てくださいね!」
「はい」
「絶対に約束ですよー」
 イズルさんは私に手を振ると、背を向けて立ち去ってしまう。
 鍛えているからか足が早いなぁと思って見ていると、廊下の腰壁に両腕を添えてもたれ掛かっているコルタから話を掛けられた。



「ティアナ。今日はリストのところに?」
「それもあるけど、商会の書類を渡しにきたの」
「そうか、ご苦労。メディは例の神官様のところか?」
「うん。薬草学の勉強をしに行っているの」
「なぁ、あの神官様って妙じゃないか? 俺さ、王都で一番の古株のじーさんに神官様のことを聞きに行ったんだが、サズナ教の信者が残っていること自体驚いていたぞ。二千年前に栄華を極めていたが、廃れてしまい八百年前からエタセルではサズナ教の流れを組むミィファ教が主となったんだ。それなのに、サズナ教の信者がいるなんて……」
 確かにコルタの言うとおりだと思うけど、代々神官だった家系と聞いているから、ほそぼそと信仰していたんだと思っていた。
 元神官と言っているから、今は信仰していないようだけど。


「神殿関係者だというのは確かだよ。だって、神殿についてすごく詳しいもん」
「不思議な人だよな。メディは神官様とはどうなんだ?」
「先生と生徒って感じかな。アルツナ薬学事典っていう二章しか現存していない辞典について教えて貰っているよ。セス様は全部覚えているみたいだから」
「本当に何者なんだよ。まぁ、メディが慣れているなら良いんじゃないか。あいつ、人が怖いみたいで俺に対しても最初はびくびく警戒されちまったから」
「結構料理の息が合っていたよね。メディもレパートリー増やしたいから料理教えてって言っていたし」
「本来は優しくて人が好きだったのかもな。だから、その分傷が深かったんじゃないか。なにがあったかはわからないけどさ」
 コルタは一見怖そうなんだけど、面倒見が良いって思う。
 なんだかんだ言いながらも、手伝ってくれるし。


「なぁ、あいつレイと何かあったのか? レイに対して接するのがちょっと雰囲気が違う感じがしたから」
 私だけではなく、コルタもそう感じるのならば、やっぱり……


 ライから預かっている身だから、ライに一応教えた方が良いのだろうか。
 いや、でも違う可能性もあるし何より部外者が言うべきことではないような。


「ティアナさ、ライナス様とはどうなんだ?」
「どうって?」
「あー、いやぁ。そのさ……」
 コルタは「あーっ!」と急に大声で叫びながら、前髪をかきあげた。


「仲良くして貰っているけど」
「そういう意味じゃねーよ。まぁ、いいや。ファルマの王もウィルス問題で大変だろうし」
「新聞見たよ。エタセル国内で発症した患者は?」
「いない。だが、うちにも来るかもしれない」
「どういう意味?」
「リスト達が発症患者達の分布図を作成したんだが、エタセルに近づいているそうだ」
「近づいている……ということは、移動しているっていうことよね」
 見たこともない動物に噛まれたという証言通り、やはり動物が関係しているのかもしれない。
 西大陸から密猟した動物が逃げ出したなら、一刻も早く保護しなければならないだろう。
 もし、ラシットならばここに暮らす人たちは免疫力を持っていないのだから。






しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。