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オンリー・ロンリー・ハートフル(未完)

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 僕の中で幸せが砕け散った。それは元々微かな光の粒のようなものだったが、なんとか光り輝いていた。それも自らで。ほかの光にかき消されそうになったことも多々ある。それでもなんとか頑張っていた。そんな光の粒が、見事なまでに、再現不可能なまでに砕け散った。だから僕は命を絶とうと思った。しかし――と思いとどまる。どうせ人生八十年、自らで命を絶たずとも、待っていれば死は必ずやってくる。でも――でも? でもってなんだ? 僕はどこにいる? 僕は何者だ? いや、何も考えない。僕は今死ぬことだけを考えている。それ以外を考えたらやつの思う壺だ。やつは遥か上空から寝そべって煎餅を食べながら屁をこき僕を嘲笑っている。足掻け、足掻け、とやつは僕に言う。やつは僕の敵だ。しかし敵うことのない敵。そして僕の唯一の光を叩き潰したのもやつだ。

 ――やつとは誰のことなんだろう――

 やつと戦うため僕は脳内の仮想空間へと入っていく。そこには様々なものがある。蠢いている。やつを守る敵もいる。僕はそういうのを叩きのめしながら奥へと進んでいく。途中行き止まりがあれば戻り違う道に進む。二時間もすると風景が変わる。僕の記憶に入ったのだ。幼少期の僅かな記憶が僕の脳内に直接入ってくる。幼少期の僕の目から両親が現れる。今と違って若い。僕は両親の顔を見て泣きそうになった。でも泣いたらやつの思う壺だ。この記憶というエリアは僕を足止めしやつへと近づけないようにするためのトラップエリアなのだ。小学生時代の記憶が入ってくる。僕はみんなとサッカーやドッヂボールなどをせず、一人の友達とブランコで毎日遊んでいた。今では連絡も取らないが。唯一僕がほかの人間とコンタクトを取るのは昼休みぐらいだろうか。机を合わせてみんなでわいわいがやがやと食事を取る。今日の給食は僕の大好きなカレーだ。でもグリンピースが入っているのはいただけない。でもそれを残すと昼休みが終わるまで居残りで給食を食べねばならないので諦めて口にほうばりこんだところで中学の記憶が入ってくる。新たな記憶が入ってくるにつれ、僕の歩むスピードは遅くなっていく。中学の記憶が脳内で広がった瞬間、僕は記憶から抜け出した。
 そこにやつはいた。でもやつの後ろから神々しい光が指していてやつの姿はほとんど確認できなかった。でも感じたのだ。この部屋の奥にやつはいる。

 そこで僕は一気に現実へと戻されていく。

 現実は酷く苦い。だから僕はやつとの戦いに精神を集中させる。一日中何もすることがない上に精神を集中し続けるから煙草の本数が増えるのは当たり前の話であり、僕はそんな日をもう二年も過ごしていた。隔週に一度の診察と食料の買出し以外は外へ出ることもなく、髪の毛は伸びきりぼさぼさ、髭だって全く剃っていない。唯一風呂には入っているため体は綺麗だ。その上気分転換にと始めた自炊に嵌っている。といっても簡単な物しかできないけれど。
 この五畳ワンルームのアパートにやってきた人間は一人しかいない。後は新聞屋やら宗教関連やらだ。しかしその唯一やってきた一人と会うのは避けている。やつに勝って僕が正常な精神を取り戻した時に会うと決めているからだ。
 僕は精神が崩壊しているのだ。理由はなんであれ、薬を毎日二十数錠。ようやく最近まともになってきたけれど、精神が崩壊してからずっと続いているやつとの戦いはどんな薬をもってしても収まることはない。

 アーユーアクレイジー?
 イエス

 起きてまずすることは煙草を吸うことだ。それが終わると読書をする。僕は読書が好きだ。本なら何でも買ってしまう。まだまだ読んでいない本が沢山あってもだ。午前中は読書に費やす。そしてパスタを茹で昼食をとり、インターネットに勤しむ。仮想空間の掲示板には様々な人間が様々な考えをもってして意見をしている。それを眺めたり、実際に書き込んだりして楽しむ。読書とインターネットが僕の唯一のオアシスといっていいだろう。
 数ヶ月前は違っていた。僕は病院に所属しているデイケアに通っていた。そのデイケアは通常のデイケアと異なり、年齢制限がある。僕が今まで何度か見学してきたデイケアは年寄りばかりだった。そこで二年間過ごした。友達も沢山増えた。しかしやつの出現により僕は携帯を捨てた。それから連絡はとっていない。唯一僕を心配してやってきてくれた人がいたのは前に書いた通りだが、部屋に上げて三十分ほど喋って帰っていただいた。夜はやつとの戦いが始まるからだ。僕は神経を集中させて、また脳内の仮想空間へと入っていく。なぜやつの姿が見えないのか。何度入ってもやつは見えても手が届くところまで近づけない。これは無駄な行為なのかもしれないが、やつの姿を見るまではやめられない。
 そして僕は脳内の仮想空間へと入っていく。
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