上 下
14 / 62
二章 ナクラの集落

ぼくがやらなければ

しおりを挟む
 サギはベッドで眠っていた。
 苦しそうに顔を歪め、汗を流している。
 頬の化粧は流れ、布が外された額には濡れた布が当てれていた。
 すぐそばで小さな障りたちがサギを心配そうに囲んでいる。

「いったいどういうことなの?」

 小屋に入って彼女の様子を見るなりつばさは叫んだ。
 辛そうなサギをみると心がいたんだ。
 ベッドの脇に座っていたナクラがこちらを振り返る。
 彼らの顔立ちや年齢はつばさにはわかりにくいが、頭に布を巻いて服も他の障りにはない文様があるので、きっと村長かなにかだろうと思った。

「客人、病気」
「病気ってなんの?」
「おそらく、異形、病気、うつる」
「異形が原因?」

 村長は頷くとシーツをあげた。
 サギはいつもの上着を脱いで、似たような感じの文様のない半袖だ。
 下着のようなものだろう。
 村長はその服を少しめくる。
 お腹の辺りがどす黒くなっている。まるで腐りだした肉のようではないか。

「異形、触れる、こう、なる」

 異形に触れると障りは病気になり、作物は腐るという。障りが本当にそうなるだなんて、まだ人ごとだったこの国の惨状がようやく現実感を帯びてきた。
 だけど異形とはあれから一度も出会っていない。じゃあどうしてと考え、心当たりにがくぜんとなる。
 つばさとサギが出会った時だ。
 彼女はつばさを追いかけて異形の空気に触れた。空気からでも病気になることはあるって言っていたではないか。

「な、なおるの! ねえ、どうなの?」
「薬、ある」
「じゃあ早く!」
「ここ、ない。隣、村。薬師」
「隣の集落ってこと? じゃあそこに行けば薬をもらえるんだね」
「ダメ」
「なんでさ!」

 思わず大きな声を上げてしまう。村長は首を横に振った。

「道中、霧、深い。最近、でた」
「異形がでるかもしれないってこと?」

 村長は頷いた。
 ヤマの国を脅かす災害。
 おぞましい姿をした、霧とともに現れる怪物たち。
 その名前をつばさが叫ぶと、ナクラたちが震えながらふさぎ込んだ。
 この世界で生きる障りたちにとって、異形の恐怖はつばさの比ではないことを改めて思い知った。

「客人、大事、でも、異形、こわい」
「だったらぼくがいく」

 つばさは考えるよりも先に、口に出してハッキリと言った。

「ダメ、危険」
「でも行かなきゃ!」

 異形のおぞましさを思い出すとぶるっと身震いする。
 だけどこのままだとサギが死んでしまうかもしれない。
 サギになにかあったらつばさは、女王さまの城にたどり着いて元の世界に戻るなんてこと出来やしないだろう。
 なによりサギが苦しんでいるのをこれ以上見ていられなかった。
 待っていれば、自分以外の誰かがきっとなにかしてくれる。
 そんなことではダメなのだ。
 他の誰でもない、つばさがやらないといけない。

「ぼくがやらないとだめなんだ」

 つばさは静かにそうつげた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

月夜のさや

蓮恭
ミステリー
 いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。  夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。  近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。  夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。  彼女の名前は「さや」。  夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。     さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。  その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。  さやと紗陽、二人の秘密とは……? ※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。 「小説家になろう」にも掲載中。  

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

時間泥棒【完結】

虹乃ノラン
児童書・童話
平和な僕らの町で、ある日、イエローバスが衝突するという事故が起こった。ライオン公園で撮った覚えのない五人の写真を見つけた千斗たちは、意味ありげに逃げる白猫を追いかけて商店街まで行くと、不思議な空間に迷いこんでしまう。 ■目次 第一章 動かない猫 第二章 ライオン公園のタイムカプセル 第三章 魚海町シーサイド商店街 第四章 黒野時計堂 第五章 短針マシュマロと消えた写真 第六章 スカーフェイスを追って 第七章 天川の行方不明事件 第八章 作戦開始!サイレンを挟み撃て! 第九章 『5…4…3…2…1…‼』 第十章 不法の器の代償 第十一章 ミチルのフラッシュ 第十二章 五人の写真

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

処理中です...