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二章 ナクラの集落
ぼくがやらなければ
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サギはベッドで眠っていた。
苦しそうに顔を歪め、汗を流している。
頬の化粧は流れ、布が外された額には濡れた布が当てれていた。
すぐそばで小さな障りたちがサギを心配そうに囲んでいる。
「いったいどういうことなの?」
小屋に入って彼女の様子を見るなりつばさは叫んだ。
辛そうなサギをみると心がいたんだ。
ベッドの脇に座っていたナクラがこちらを振り返る。
彼らの顔立ちや年齢はつばさにはわかりにくいが、頭に布を巻いて服も他の障りにはない文様があるので、きっと村長かなにかだろうと思った。
「客人、病気」
「病気ってなんの?」
「おそらく、異形、病気、うつる」
「異形が原因?」
村長は頷くとシーツをあげた。
サギはいつもの上着を脱いで、似たような感じの文様のない半袖だ。
下着のようなものだろう。
村長はその服を少しめくる。
お腹の辺りがどす黒くなっている。まるで腐りだした肉のようではないか。
「異形、触れる、こう、なる」
異形に触れると障りは病気になり、作物は腐るという。障りが本当にそうなるだなんて、まだ人ごとだったこの国の惨状がようやく現実感を帯びてきた。
だけど異形とはあれから一度も出会っていない。じゃあどうしてと考え、心当たりにがくぜんとなる。
つばさとサギが出会った時だ。
彼女はつばさを追いかけて異形の空気に触れた。空気からでも病気になることはあるって言っていたではないか。
「な、なおるの! ねえ、どうなの?」
「薬、ある」
「じゃあ早く!」
「ここ、ない。隣、村。薬師」
「隣の集落ってこと? じゃあそこに行けば薬をもらえるんだね」
「ダメ」
「なんでさ!」
思わず大きな声を上げてしまう。村長は首を横に振った。
「道中、霧、深い。最近、でた」
「異形がでるかもしれないってこと?」
村長は頷いた。
ヤマの国を脅かす災害。
おぞましい姿をした、霧とともに現れる怪物たち。
その名前をつばさが叫ぶと、ナクラたちが震えながらふさぎ込んだ。
この世界で生きる障りたちにとって、異形の恐怖はつばさの比ではないことを改めて思い知った。
「客人、大事、でも、異形、こわい」
「だったらぼくがいく」
つばさは考えるよりも先に、口に出してハッキリと言った。
「ダメ、危険」
「でも行かなきゃ!」
異形のおぞましさを思い出すとぶるっと身震いする。
だけどこのままだとサギが死んでしまうかもしれない。
サギになにかあったらつばさは、女王さまの城にたどり着いて元の世界に戻るなんてこと出来やしないだろう。
なによりサギが苦しんでいるのをこれ以上見ていられなかった。
待っていれば、自分以外の誰かがきっとなにかしてくれる。
そんなことではダメなのだ。
他の誰でもない、つばさがやらないといけない。
「ぼくがやらないとだめなんだ」
つばさは静かにそうつげた。
苦しそうに顔を歪め、汗を流している。
頬の化粧は流れ、布が外された額には濡れた布が当てれていた。
すぐそばで小さな障りたちがサギを心配そうに囲んでいる。
「いったいどういうことなの?」
小屋に入って彼女の様子を見るなりつばさは叫んだ。
辛そうなサギをみると心がいたんだ。
ベッドの脇に座っていたナクラがこちらを振り返る。
彼らの顔立ちや年齢はつばさにはわかりにくいが、頭に布を巻いて服も他の障りにはない文様があるので、きっと村長かなにかだろうと思った。
「客人、病気」
「病気ってなんの?」
「おそらく、異形、病気、うつる」
「異形が原因?」
村長は頷くとシーツをあげた。
サギはいつもの上着を脱いで、似たような感じの文様のない半袖だ。
下着のようなものだろう。
村長はその服を少しめくる。
お腹の辺りがどす黒くなっている。まるで腐りだした肉のようではないか。
「異形、触れる、こう、なる」
異形に触れると障りは病気になり、作物は腐るという。障りが本当にそうなるだなんて、まだ人ごとだったこの国の惨状がようやく現実感を帯びてきた。
だけど異形とはあれから一度も出会っていない。じゃあどうしてと考え、心当たりにがくぜんとなる。
つばさとサギが出会った時だ。
彼女はつばさを追いかけて異形の空気に触れた。空気からでも病気になることはあるって言っていたではないか。
「な、なおるの! ねえ、どうなの?」
「薬、ある」
「じゃあ早く!」
「ここ、ない。隣、村。薬師」
「隣の集落ってこと? じゃあそこに行けば薬をもらえるんだね」
「ダメ」
「なんでさ!」
思わず大きな声を上げてしまう。村長は首を横に振った。
「道中、霧、深い。最近、でた」
「異形がでるかもしれないってこと?」
村長は頷いた。
ヤマの国を脅かす災害。
おぞましい姿をした、霧とともに現れる怪物たち。
その名前をつばさが叫ぶと、ナクラたちが震えながらふさぎ込んだ。
この世界で生きる障りたちにとって、異形の恐怖はつばさの比ではないことを改めて思い知った。
「客人、大事、でも、異形、こわい」
「だったらぼくがいく」
つばさは考えるよりも先に、口に出してハッキリと言った。
「ダメ、危険」
「でも行かなきゃ!」
異形のおぞましさを思い出すとぶるっと身震いする。
だけどこのままだとサギが死んでしまうかもしれない。
サギになにかあったらつばさは、女王さまの城にたどり着いて元の世界に戻るなんてこと出来やしないだろう。
なによりサギが苦しんでいるのをこれ以上見ていられなかった。
待っていれば、自分以外の誰かがきっとなにかしてくれる。
そんなことではダメなのだ。
他の誰でもない、つばさがやらないといけない。
「ぼくがやらないとだめなんだ」
つばさは静かにそうつげた。
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■目次
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