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八章 無双の魔女カノープス・前編
209.孤独の魔女と帝国アガスティヤ
しおりを挟む「うひゃぁああああーーー!!すっっっごい!すっごいですね!これ!」
「ふふん、そうでございましょうそうでございましょう、陛下の作った帝国はすっごいでございます」
二人で空を舞いながら 空中都市マルミドワズを巡る、この空中都市…いくつものブロックにより区画分けされており、その中で多数の人々が暮らしているようで、見掛けも広いが それ以上に広大だ
何せブロックの外にも街があるのに、ブロックの中にも街があるんだ、しかも内部はエリス達の馬車同様 いやそれ以上の空間拡張が為されており、ブロック一つの中にエトワールの王城アルシャラが丸々入ってしまうんじゃ無いかってくらい広い
そんなブロックが十や二十では聞かない数連結しているんだ、この都市はまさしく世界最大の都市と言えるだろう…
「ふわぁぁ…、凄いって言葉しか出てきませんよ」
空を飛びながら一つのブロックの入り口に入り込めば これまた驚愕する、ブロックの中なのに明るい、というか空がある 青空と太陽、どういう原理だこれ
「こちらも魔力機構と空間魔術の応用で、内部の空間を拡張しつつ 人工的に作り上げた太陽を浮かべているのです」
「人工太陽!それはまた…」
「単に大きな照明でございます、ですが魔力を含んでいるのでこちらの偽りの太陽でも農作物は育てられるのでございます」
確かに、地上を見てみれば芝はあるし畑も牧場もある、おまけに池もあるし山もある…一つの世界がブロックの中に広がっている、凄いなぁ…月並みな感想ってこういう時自然と口を割るものなんだな
「ちょうどいい機会ですし紹介します」
というと白いボードに乗ったメグさんは空中で旋回し 外に出ると共に、大まかに五方に広がるブロック群を手で差し始め
「あちらにありますのは帝国のあらゆる品を作る工場が存在する生産エリア、あちらは世界中から取り寄せた商品の並ぶ商業エリアでございます」
「空に浮いてるのに取り寄せられるんですか?」
「この都市には世界各地につながる時界門…、エリス様をこちらに瞬間的に転移させたゲートが開いており、そちらから世界中に移動しつつ地上に降りられるのでございます」
そりゃ便利だ、いやクソ便利すぎないですかね!…おっと、汚い言葉が出てしまった
しかし便利すぎる、何せエリスをここへ一瞬で連れてきたあのワープゲートが世界中に繋がってるなら これ以上なく安全にかつ迅速に貿易が行える…、そうか あれがあるから地上から地繋がりでいる必要はないのか
「そしてあちらがカジノや美術館 ちょっとエッチなお店まである娯楽エリア、そしてあっちが最新のトレーニング器具を備え 模擬訓練場などが設置された練兵エリアにございます、そしてさっきのがマルミドワズ市民凡そ1500万を収容する居住エリア…でございまーす」
「娯楽エリアには興味ありませんが、トレーニングですか」
気になるな、つまり世界一屈強で精強な帝国軍人が鍛錬する空間か、エリスも修行に身を置く人間として、他の国のトレーニングというものに興味がある
「行きたいですか?」
ふと、聞いてくるのはメグさんだ、相変わらず無表情ではあるが どことなく嬉しそうのはエリスが帝国をべた褒めしたからか
思えばさっきから異様に嬉しそうだな、自分の師匠が作りあげ治めている国を褒められるというのは気分がいいのだろうか、国を持たない師匠の弟子であるエリスには分からない
「いいんですか?、一応軍事施設ですよね、部外者のエリスが立ち寄っても」
「構いません、後日ではありますがエリス様には帝国側の関係者としての役職が与えられる予定ですので」
「役職…?」
「名前だけのものですよ、所で…如何します?、寄ってみますか?」
うーん、後日ではあるが既にエリスは帝国の一部としての認定を食らってるようだ、なら今行っても文句は言われないのか?、それに魔女の弟子であるメグさんがいいって言ってるんだし…いいか、後からやっぱりダメでした はこの人の場合なさそうだし
「じゃあ立ち寄ってみたいです、とても気になるので」
「では参りましょう、こちらでございまーす」
ボードの上に姿勢良く直立し 練兵エリアを手で指しながら姿勢を崩さずピューンと飛んでいく様にちょっと呆気を取られるも、エリスもまたそれを追う…しかし、師匠大丈夫かな…
………………………………………………………………
帝国の中央に浮かぶ超巨大連結都市マルミドワズ、その中心に存在する大帝宮殿の頂上、皇帝陛下の豪華絢爛極まるプライベートルームに二つ 向かい合わせに座る影がある
間には大きく広く 長く、それでいて細やかな彫刻が為された長机がドンと置かれており、それを間に挟みながら向かい合うのは…
「どうだレグルス、遠慮するなよ」
片や世界一の大国 アガスティヤ帝国の皇帝にして無双の魔女カノープス、そんな彼女が普段は着込んでいる外套や身につけている錫杖などの装飾品を全て外し、身軽で気軽な姿のまま 手に持つワイングラスをクラリと揺らす
「え…遠慮も何も」
片や黒の髪と同様の漆黒の眉をピクピク揺らす 国を持たない唯一の魔女 孤独の魔女レグルスが机の上に並ぶそれを見てため息を吐く
並んでいるのは酒や料理の大盤振る舞い、ご馳走と例えても良いくらいのそれが次々と給仕によって運ばれてくる
「昼食はまだだったろう?、いきなり呼びつけた責任くらいは取る、存分に堪能するがいい」
「堪能するがいいと言われてもな、弟子を差し置いて師だけ豪華な飯にありつく事など出来ん」
エリスと別れ 話があるからと呼びつけられた先で待っていたのはカノープスとの会食であった、その心使いは嬉しいが 今はエリスと別行動中だ、あの子が一人腹を減らしてるかもしれない時に わたしだけ飯など…
「案ずるな、お前の弟子には別に飯を食べさせるようメグに命じてある、メグは料理の腕も一級だ、ここに並ぶ品々とも劣らぬ物をエリスに出すだろう」
「……そうか」
そこまで根回ししてあるなら、今度は逆に食べない方が申し訳なくなってくるな、仕方ない…少しだが頂こうか
「わかった、では頂こう」
「うむ、我が許す 舌鼓を打つがいい」
尊大にグラスを扇ぐカノープスを尻目に、まず手元に置かれた皿を見る、これは…牛の頬を赤ワインでじっくり煮込んだ物か、香りが良いな…流石はカノープスの国だと内心感心しながらも手をつけ始める
「しかし意外だったな、カノープス まさかお前が弟子を取るとは」
「そうか?、先に弟子を取ったのはお前だろう」
「そうじゃないさ、今までお前を含め三人しか使い手がいなかった時空魔術を使える才能を持つ者を、よくぞ見つけたものだ」
時空魔術とは常々言っているが 取得難易度が非常に高いのだ、特に古式時空魔術となると 使用するには魔術の才能以外に際立った空間把握能力が必要になる、それをよく見つけたものだと感心しているのだが…
「あれは別に特別な魔術ではない、空間を識別する能力を鍛える訓練を施せば大体100万人に一人くらいの頻度で使用することが出来る、我が見立てではお前の弟子エリスにも才能はある」
「そうだったのか?、てっきり私は今まで担い手がいないものとばかりに…」
「それは八千年前の話だ、魔術の研究は日夜進んでいる、時空魔術も不可侵の魔術ではなくなったのだ」
確かに言われてみればその通りだな、私の魔術の常識は八千年前の物 その間全く進歩が無いわけないんだ、と言うことは 時空魔術も安易な取得法が発見されていてもおかしくはないのか
「まぁ、それを差し引いて 時空魔術の才を持つ唯一の人間を見つけたとしても、我は弟子を取るつもりはなかったがな」
「…ウルキの件か?」
「当たり前だ、あれは…我が生涯の汚点だ」
ウルキ…、シリウス カノープスに次ぐ三番目の時空魔術の使い手、中途半端ではあったもののカノープスの時空魔術を模倣して見せたアイツの才能には、私もカノープスも沸き立つ程に喜んだのだが
結果はあれだ、ウルキは我等の修行の成果を片手にシリウスに与した、いや 我等の敵になったと言うべきか
「ウルキのような人間をまた作らないため、二度と我が魔術を他人に教えるものかとキツく決意していたのだがなぁ、まさか 志同じくする友だと思っていたお前達が、いとも容易く弟子を取り始めるとは…想像だにしなかったぞ、ウルキの件を忘れたのかと問い詰めてやりたかったほどだ」
む、これはあれか 嫌味か?、ウルキの件と同じ轍を踏まないようにともう弟子はとらないでおこうと決意を固めた友達が、みんなこぞって弟子を取り始めたことに対して怒ってるのか…?
まぁ確かに、エリスを弟子にとった時 ウルキの件は頭になかった、と言うか当初はウルキのように完全に弟子として扱うつもりはなかったんだ、だがいつしかあの子は私の中で完全に弟子になり 気がついたらこれだった、どうしようもない
「……すまなかった、ウルキの件を忘れていたかと言われれば確かに…」
「いやいい、結局我も何だかんだ弟子を取ったからな…、いやぁ まさか弟子がこんなに可愛いものとは思いもしなかった…、思い返せばウルキに対してここまで愛を向けたことはなかったやもしれん」
「ウルキは飽くまで私達の予備として育てていたからな、それに…あの時は誰かに愛を向ける余裕などなかった」
「そもそもあの時我が愛した人間はお前だけだ、レグルスよ…」
そう言うの今いいから…
「しかし何故従者なのだ、従者を弟子にしたのか?それとも弟子にしたから従者にしたのか?」
「彼奴から望んできたのだ、一生側に置いてくださいと言うから 側に置いているだけだ」
「なんだそれは、極端にもほどがあるぞ…」
なんてくだらない話をしながら牛頬肉を切り分けソースに絡めながら一口、口に運ぶ…ん?
「ん、美味いな、これ…」
「ふふっ、だろう」
美味い いやそりゃ当然と思うかもしれんが、皇帝陛下の御前に出される料理としてのハードルすら超えてくるほどにこれは美味い、こんな美味い料理…食ったのは生まれて初めてだ
「それはアルクカース固有の雌牛の肉だ、雌牛特有の柔らかさがありつつも芯の通るような歯ごたえがあり 、噛めばアルク好みの濃い肉の味を染み出させる逸品を態々貿易したのだ、それに加えて調理したのは世界一の…いや、今はタリアテッレに抜かれたから世界二か 、その料理人に調理させたのだ、不味いわけがないだろう」
「なるほど、材料から産地 おまけに調理する人間にもこだわったと言うわけか、お前らしい、これほど極上の頬肉は他には存在し得ないだろうな」
なんて口にしながらも私は次々と頬肉を切り分け口へ運ぶ、いや美味い そんなに食事に乗り気じゃなかった私を、一瞬でその気にさせるとは
アルクカースの雌牛が持つ魔性か、或いは調理したものの熟練の妙技故か、何にせよいいものをご馳走になった、これ以上の頬肉はない そう豪語していると
「なんだ?知らんのか?、それよりも尚絶品の頬肉は存在するぞ?」
「何?どこにだ?」
食事に夢中になるあまり 気がつかない、カノープスがグラスを置き ペロリと舌なめずりをしているのに…
「それはな、ここにだ」
「は?ここ?…………………………」
カノープスの言葉に違和感を覚え ふと、そちらに目を向けた瞬間─────……
………………───────
「ッ……!?」
消えた、一瞬で カノープスの姿が、なんの前触れもなく瞬く間に消え去る、その光景に呆気を取られると共に気がつく
己の右頬に、嫌な感触…そう ネトッとした生暖かい感触が
「くっ!?」
「んん、良い頬肉だ、如何なる畜生の肉もこれには勝てまいよ」
気がつけば、長テーブルを挟んだ向こうに居たはずのカノープスが、いつのまにか私の隣に座り美味しそうに舌なめずりをしているではないか、生暖かい感触残る右頬に手を当てれば…、奴の唾液がこれでもかと付着している
「貴様、時間を止めたな」
「うむ、呆気を取られた顔で固まるお前を見ていたら、我慢が出来なんだ、許す事を許す」
何言ってんだこいつ 何してんだこいつ、怒りに満ちた目を向けながら右頬の唾液を裾で拭う…
これがカノープスの魔術 時空魔術なのだ、空間を歪めあらゆる場所に瞬間的に転移するのも勿論、卓越した時空魔術の使い手であるカノープスは自在に時さえ止められるのだ
止まった時の中ではどんな存在も無力だ、私でさえ動けないばかりか知覚も出来ない、そんな一人だけに許された絶対の世界の中、カノープスは態々こちらに移動し 我が頬を舐めたのだ、時を止めてするほどのことじゃないとは思うが…
おまけに今詠唱もなかったぞ、…まさか 貯蔵詠唱まで使ってこんな悪戯に走るとは…
「どうだ、レグルス 今からベッドに行かないか、久しぶりにお前と姦淫したい」
「断る、あれは…一時の気の迷いだ、お前ともうそう言う事をするつもりはない」
「つれないな…、だがそれでこそ我が伴侶よ」
もしここでカノープスが本気になったら、私は抵抗出来ない、時を止めて私を抱えてベッドまで行き、その絶大な魔術で我が体を拘束すれば それで終わる、それほどまでに私とこいつには差があるのだ…
最強の名は伊達ではないのだ…
「そう警戒するな、もうしない」
「本当か?…」
「ああ、あんまりお前に構うとメグが嫉妬するからな、出来るならあの子には安らかな心持ちでいてもらいたい」
すまなかったと軽く手を振り席を元の位置に戻し始めるカノープスの姿は真摯だ、いつもならこのまま私の体を弄ってくるのに、それほどメグが 弟子が可愛いか
「不思議なものだな、お前がそこまで弟子を可愛がるとは、出来るなら 馴れ初めでも聞かせてもらえるか?」
「馴れ初め?…まぁいいだろう、だが誰にも言うなよ?」
「言うなよって…メグは公に出来ない身の上なのか?」
「ああ、そうだ…」
するとカノープスは椅子の上で姿勢を崩し、目を上へ向け想起する、愛弟子 メグとの出会いを
思ってみればカノープスが態々弟子に取るというのは異常事態だ、それは彼女が魔女である以前にこの大帝国の皇帝だからだ、皇帝が弟子を取それは即ちこの国に絶対の独裁を敷いていたカノープスにとって 自ら対抗馬になり得る存在を作ってしまう事を意味するし、当然カノープスもそれを理解している
だが、それさえ無視してメグを自らの後継者に選んだ理由とは…なんなのか
「うむ、そうか あれはもう十年程前か、我はいつも通り眠りについていた所に、現れたのだ 薄汚い少女が、我が寝室にいきなり…」
その瞬間 カノープスが笑う、凶暴に 狂気的に、笑いながら自らの喉に指を突き立てると、こう言った…
「我が首元にナイフ突きつけながら、あの子は我が前に現れたのだ」
そう…心底嬉しいそうに語る皇帝の真意や如何に…
…………………………………………………………………………
帝国中枢の街 浮遊都市マルミドワズ五つのエリアのうちの一つ、練兵エリア それは世界最強の軍隊の強さの秘密と言える
アガスティヤ人はアルクカース人のように生れながらの戦闘民族ではない、寧ろ身体的ポテンシャルならアルクカース人の方が断然上だ、が 今までアルクカースが世界最強の座に就いた事はない
何故なら帝国は強いからだ、何せ帝国は強いからだ、だって帝国は強いからだ、なんで強い?…それは
「え エリスが思っている練兵場と感じが違いますね」
エリスが知ってる練兵場と言えばさ、こう 青天井の下でみんなで揃って模擬戦やったり、鎧を着てランニングしたり、木の案山子に向けて木剣を振ったり、そんな感じである場合が多い
事実大多数の国がそうだ、アルクカースもそうだ まぁあそこは厳しすぎる自然そのものが練兵として機能してる感じだが…まぁ今はそれはいい
だからさ、帝国の練兵エリアなるものもエリスの常識に囚われて想像していたんだ、だいたいこんな感じかなぁというのを
え?実際どうだったと?、違ったよ全然…これは…これは
「なんですか?これ」
目の前に広がるのは広大な練兵 いやトレーニング施設、吹き抜けのの天井は何重もの上層が見えており、ざっと数えた感じ十階以上はあろうかと思う
そして何より置かれている物が問題だ、金属製の機械のような複雑な形をした物が其処彼処に、そして幾つも配置されているんだ
「こちら帝国練兵エリアにございます、帝国の兵士はアルクカース人のように恵まれた体格や骨格を有しているわけではありません、互いに何の訓練もしていない子供時代であったなら 勝率は100%アルクカース人に傾くでしょう」
そう語りながらエリスの目の前を歩きながら案内するメグさんが語る理屈、何の訓練もしていない 純粋な状態、これなら世界最強はアルクカース人だ、彼らは生まれた瞬間から強い だって修行してないはずの農夫でもCランクの魔獣くらいなら追い返せるんだから 今思えば異常中の異常だ
それと同じことをやれって、他国民に行っても無理だろう 普通に殺される、それはこの帝国も同じ…
だが、とメグさんは続ける
「帝国は凡ゆる知識と学問を用いて、効率的に人間を強化する術を把握しております、どのように鍛えれば体が頑強になるのか、より強力な魔術を使うにはどうしたらいいか、勝率を限りなく100%に近づけるにはどうしたらいいか…、徹底したデータ収集と実践により得られた経験こそ 帝国の武器です」
「なるほど、その経験と学問から作られたのが この練兵エリアのトレーニング施設ってわけですね」
「はい、アルクカース人のような強力な肉体を持たないなら、彼らと殴り合って負けない肉体を作れば良いのですから、そうして鍛え上げられた帝国兵は アルクカース兵にも負けません」
鍛えに鍛え 生まれ持ったポテンシャルを凌駕し、強力な肉体を作り上げる それが可能かどうかは、エリスの肉体が証明している
エリスはアジメク人のエトワール人のハーフ、どちらも戦闘が得意とされない温厚なお国柄の血筋だが、それでもエリスは訓練されたアルクカース人の戦士と殴り合っても負けませんよ
それはエリスの今まで培った尋常ならざる鍛錬がそうさせるのだ、それを軍単位でやってるのがこの国ってわけだ
「こちらにあるのがベンチプレスやチェストプレスなど基礎的な筋力をつける機材、あちらには魔力操作を鍛える魔力機構、そして当然 模擬戦場なども管理されており、その全てが帝国の最新式トレーニング理論に基づき随時最新の物が並ぶよう用意されています、恐らくですが この世で最もトレーニングに適した空間かと」
「へぇ…」
「…体を動かしたいって顔ですね?」
「えへへ、分かります?」
「エリス様はウズウズすると目が輝きますので、上着をお預かりしますので どうぞ」
そういうなり彼女はエリスのコートを受け取りその手に抱えてくれる、その所作一つとっても綺麗だ、エリスも一応執事として働いた経験がありますからね その経験から言わせて貰えば、彼女のマナーへのこだわりは凄まじいものと言える
「さてと、まず何からしますかね…ん、メグさんこれなんですか!」
「それは打撃測定機構、内部に搭載された魔力機構が与えられた打撃を数値化してくれる物でございます、今 己が持っている力を正確に理解するのも鍛錬のうちなので」
ほーん、マレウスにあった魔力測定器の打撃版みたいなものかと叩くそれはミットの取り付けられた機械だ、これ叩いて今の自分の力を見るということか
当然ながら強い打撃を生むには筋力が不可欠だが、ムキムキの大男程強い打撃を生み出せるわけじゃない、筋肉は必要なだけで全てじゃない 故にこうして自分の打撃力を数値化して確認出来るのも一つの目安になるか
「いいですねこれ、ちょっと試してみましょうか」
そう、測定器を前に拳を握った瞬間
「お、いたいたエリスちゃん」
「おいメグ!置いてくなよおい!」
「わぁ、ほんとにリーシャさんの言う通りここにいただよ、すごいなぁ」
「ふむ…」
「あれまっ、みんな」
拳を打ち出す前に現れるのはリーシャさんのゴラクさんたち三人だ、空を飛んできたエリス達と違い恐らく連結している通路を通ってここまで来たんだろう、その髪はやや汗に濡れている
いや悪いことをしてしまった、反省はあんまりしてないが
「リーシャさん、よくエリスがここにいるって分かりましたね」
「エリスちゃんなら娯楽エリアにはいかないでしょう?ワンチャン商業エリアの可能性もあるけど、エリスちゃん的にはこっちの方が気になるかなって賭けてみた大正解ってわけよ」
「流石です」
「まあゴラク君は娯楽エリアに行こうとしていたけどね、エリスちゃん あんまり娯楽に興味ないでしょ?」
「まぁ、そうですね エリス遊ぶの苦手なので」
どういうわけかエリスはゲームになると途端に弱くなる、理屈では証明できない弱さだ、マレウスではカジノで酷い目にあったし、コルスコルピでみんなと住んでる時もよくトランプしたが 勝ったことないし
だからエリスは娯楽が苦手だ、勝てないから やるなら勝ちたいじゃないか
「ほう、ゴラク様が…娯楽エリアに…、なにかこう リリックのようなものを感じますね、ネタ帳に記しておきます」
「メグさんネタ帳なんて持ち歩いてるんですか…」
「それよか何やってんだお前ら、あ?もしかしてそれやるのか?」
そう言いながらゴラクさんが指すのはエリスの隣にある測定器、まぁ薄着をしてるエリスを見れば一目瞭然か…って ゴラクさん?何自分も上着脱いでるんですか?
「何してるんですか?ゴラクさん」
「まぁエリス、それは女子供の遊び道具じゃないんだよ、ちょっと手本を見せてやるから見てろよ」
なぁ? と何故か異様に自信満々な顔でエリスを押しのけるゴラクさん、つまり あれか?エリスの前に測定器で自分の腕力を見せつけようってか?、いや…そうじゃないこれは
つまり、これは勝負だな…どっちが上の数値を出せるかの、なんてエリスが目を尖らせている間にゴラクさんは
「ほっ…ほっほっ!」
なんて軽い掛け声とともに軽快なステップを踏みながら見せつけるようにシャドウを行う、機敏だ 彼の拳が空を切る音は鋭利であり且つブレがない、どうやらただ単に自信過剰なわけじゃないようだ
「行くぜ!見てろよ!帝国軍人の力を!…ッッぅおぉぉらぁっっっ!!!」
踏み込む、素早い踏み込みだ あれは慣れてる人間の足取り、そのまま懐に入り込むように測定器に向けてまず足を捻る 腰を捻る肩を捻り全身の円運動によって生まれる遠心力と共に拳を射出し、ゴラクの拳が測定器のミットを捉え重たい音を鳴らす
「おお…」
思わず声が出る、思ったより中々やる というのが正直なところだ、流石は世界最強の軍隊の一員、それに思えば彼は西方守護隊で隊を率いる立場にいる人間、それがどの程度の位置にいるのかは分からないが 少なくとも、彼は既にアジメクの騎士団に匹敵する強さを持っていると言っていい、つまり他国じゃ精鋭中の精鋭だ
「っははははーー!!どうだ!ネハン!俺の点数は!」
「……ふむ、96点」
髪をいじりながらネハンさんが口にするのは96点、なんと!96点だとぅ!…とはいえ、分からないよ アベレージが
自信満々でどーよとこちらを見るゴラクさんの視線に困り、メグさんに助けを求めるように視線を移すと
「訓練を受けていない成人男性の平均数値が凡そ35~40である事を考えると、ゴラクさんは一般的な成人男性の大体二倍以上の力があると考えも不足はないでしょう」
「なるほど、分かりやすいですね ありがとうございます、メグさん」
「へへへっ、これでわかったか?エリス、俺はな 強いんだ、あんまりナメてたら痛い目見るぜ」
「なんでエリスに痛い目見せるんですか、いいから退いてくださいゴラクさん 次エリスの番ですから」
「お おう?」
ゴラクさんを押し退けエリスもまた構える、狙うは100点台、魔女の弟子である以上負けられない、売られた喧嘩は高くても買う、それがエリスの信条だ
「ふぅ…ーー……」
軽く息を吐く、ゴラクさん同様 軽くステップを踏む、体を浮かしながら考える
打撃一発に全霊の力を込める、それは体の動きも重要だが 何より必要なのは心構えだ、想定される打点のさらに奥を狙って撃つのがコツであり、かつ 殴る箇所に嫌いな奴の顔を思い浮かべるといい
ここで思い返すのは誰にしよう、レオナヒルド?ヘット?…アイン、うん アインにしよう、あいつすっごい嫌いだし、アインめ…アインめぇぇえ!!!
「ッッ……はあぁぁっっっ!!!!」
踏み込み全身を全て纏めて前へ移動させるように体重を移動させ、計測器のミットに 思い浮かべる、悪魔のアインの顔を
あんちくしょうが!よくも騙してくれたな!よくもエリスの友達傷つけてくれたな!ぜっってぇぶっ殺す!!その殺意を纏めてアインの顔…ではなく計測器に抉り込むように叩き込む
するとどうだ、地面に固定された筈の計測器がズシンの揺れ グラグラと振動しているではないか、どうだアイン!
「ふんっっっ!!」
「こ こえぇ、…魔獣かよ…」
「何か言いましたか?ゴラクさん」
「い いや、そ それより、点数は幾つだ!ネハン!」
怯えるゴラクさんを睨みつけながら鼻息荒く点数を確認するネハンさんの方をちらりと見ると、彼は髪をいじる手を離し 驚いたように静かに口を開け
「680点」
「ろ 六百!?ガチで師団長クラスじゃねぇか!」
ふぅー、想定よりも多めに叩き出せたようで何よりだ、だがまだまだだな 多分ならラグナやレーシュなら千はいってたし、もっと鍛えないと
「流石はエリス様でございます」
「ありがとうございますメグさん、でも師団長クラスって…」
「はい、帝国を守護するエリート達 三十二師団を率いる三十二の師団長達の事でございます、彼らは皆 アルクカースほど討滅戦士団と互角かそれ以上の実力を持つ実力者ですので、ゴラク様程度では競争相手にもなりませんね」
「討滅戦士団並みですか…へぇ」
つまりエリスの腕力は討滅戦士団クラスってことか?、いや 違うな、腕力だけなら向こうの方がある筈だ、けど きっと…今のエリスなら討滅戦士団相手にもいい勝負が…
「まぁ師団長様方は全員900から1200を叩きだすので、正確にはまだまだですね」
…だそうだ、つまりまだまだってことだな…
「ちなみに、私も以前試してみたところ700台を出せましたよ?エリス様」
「なんで急にマウント取ってくるんですか?」
「ふふん」
「そのガッツポーズやめてもらえません?」
「あ、私も現役時代は400くらい出したこともあったっけな」
「リーシャさんもですか?」
なんだ、みんなポコポコ出すじゃん…全然すごくないじゃん、ゴラクさん…
「うっ、な なんなんだよお前ら…」
「ふふふ、どうやらゴラク様はエリス様に強い軍人らしいところを見せようと頑張られたようですね、恐らくは護衛をするつもりだったのにその任を外された事を悔やみ、少しでもエリス様に頼りにされたいのかと」
「なっ!ばっ!メグぅう!?」
「ああ、そうなんですか?」
「はい、しかし どうやらゴラクさんよりもエリス様の方が頼りになるようでございます、残念無念妄念断念」
「ウルセェよメグ!」
「うふふ、なんでやねん」
「言いたいだけだろ!それ!」
エリスに頼りにされたい、その感情は嬉しい エリスは今まで一人で戦うとロクな目にあってこなかった、いつだって仲間たちがいたから助けられた、だから頼りに出来る人が出来るのは嬉しい
んだけど、どうやらゴラクさんはこの結果に納得していないようで
「お 俺腕力じゃなくて魔力操作の方が得意だし!、おいエリス!見てろよ!」
「はあ…」
次だ次と今度は魔力操作力を計測する機器の前まで走って行き、エリスに魔力操作の巧みさを見せつけるゴラクさん
計測法は魔力測定器の指定した通りに魔力を動かし それが出来たら次の課題が出され それをクリアしたら次と、次々下されるノルマを一分間にどれだけの速度でこなせるか そしてその精度を計測し点数が出るらしいが
はっきり言いましょう、点数を見なくてもエリスは分かりますよ?ゴラクさんの魔力操作の腕が
「うぅぅうううぅぅぅおおぉぉぉおお…………!!!」
呻き声を上げながら計測器の指定した通りに魔力球を生み出し動かしていくゴラクさん、がしかし ダメだ、まるでダメだ なってない、あれならまだ打撃計測器の方がいい点数が出るだろう、さっき言ったこっち方が得意 というのは口から出まかせと言っていい
「ぜえ…ぜえ、どうだ!ネハン!俺の点数は…」
「見なくても分かります、次エリスやりますね」
「あ ちょっ!おい!」
聞くまでもない、確かに悪いものではなかった、訓練を積んでない人間からすればかなりのものだとエリスは傲慢ながらにも思います、けれど もし魔力操作でエリスと張り合おうというのなら 今程度の腕ではいけません
なんたってエリスの魔力操作は…
「行きます…ふぅ…!」
測定器を起動させ、次々表示される課題 それに沿った通り生み出した魔力球を操作し、動かし 形を変え 課題をエリスに可能な速度でクリアしていく…
「うぉ…マジか」
「おぉー!、エリスさん 凄いだなぁ」
「いや凄いというより、これはヤバいよ…このレベルの制御力なんて 師団長クラスでも持ってないんじゃ」
課題クリア時に成る甲高い音が何度も何度も 間隔なく響き続ける、寧ろエリスの魔力球の動きに測定器自体が追いついてこない、まぁ ちょっと狡い手を使ってるからこの速度でやれるんですがね
というのも、エリスは常に十の魔力球に別の動きをさせ どんな課題にも答えられるように高速で操っているんだ、まぁ 難易度的には…こう…何と言ったらいいのか
そう 例えるなら人差し指を上下に動かし中指で円を描き薬指を開閉し小指を左右に揺らし親指を第一関節だけ動かす それを両手で一切の間なく連続して そして高速でやり続けるようなものだ
練習すれば誰でも出来る
「ふぅ、もう終わりですか、…点数は?」
「999点 カンスト…」
「いやいやいや、おかしいだろ…今の何だよ」
「師匠に言われて五歳の時からずっと練習してきたので、この分野じゃエリス負けませんよ」
寧ろ負けちゃいけない分野だ、最近は時間つぶし程度にしかやってないが それでも五歳から十七歳の今日この日までずっと続けてきたんだ、この腕前にだけはちょいと自信があるんだ、エリスは
「ぐぅぅ…」
「ねぇ、やめたらゴラク君、エリスちゃんはちょっとマジで洒落にならんくらい強いよ、伊達じゃないって魔女の弟子は」
「う うるせぇ…、次だ次!」
リーシャさんの言葉も跳ね除け彼は次の危機へと向かっていく、なんかもう趣旨変わってません?、まぁエリスも競争相手が出来て張り合いがあるからいいですが…
なんて言ってる間にゴラクさんは様々な測定器でエリスに勝負を挑んでくる
肉体持久力を測るランニングマシン、魔力威力を測る測定器、時に力で時に技で時に体力で、様々な方式でゴラクさんはエリスに勝負を挑んでくる
もう頼りにされたいとか そんなレベルではなく、単に何か一つ勝ち星を納めないと収拾がつかないって感じだな、つまり ゴラクさんの全敗だ
彼も帝国軍人、過酷な訓練を乗り越えてきた男だが、それはエリスも同じ 各地で子供の頃から修行を続けてきたんだ、悪いが密度でも時間でもエリスの方が上なのだ
「だっはぁーっ…くそ…くそう…、つ 次は…次はペンチプレスだ!、より重たい方を持ち上げられた方の勝ち!」
「勝ちって…、もうそういう話なんですか?」
「これは男としての威厳に関わる話なんだよ!」
「うふふ、ゴラク様 ざぁこでございますね」
「ムキーーーッッ!!!」
ちょっとメグさん…あんまり煽らないでくださいよ、ほら ゴラクさんってば無理にペンチプレスの所に行ってますよ?、さっきまでエリスと張り合っていた彼にそんな無理が出来るとは思えないが…
ペンチプレス…、単純に寝そべって重いものを持ち上げるという原始的な筋トレ法、これ自体はアルクカースにもあるポピュラーな物、なぜ知ってるかって?学園時代 ラグナの部屋に置いてあったから知ってるんですよ、あんなもの二階においてから偶に床がミシミシ言って…
「んくくく…こ このくらい」
見てみれば既にゴラクさんはバーベルに手をかけて持ち上げようとしているが、無理そうだ 姿勢が崩れている、疲労から来るものだろう
あれでは逆に危ないぞ、とヒヤヒヤしながら見ていると…
「ぅおっしゃーッ!!!」
持ち上げた、鉄の重りがいくつもついたバーベルを今 ゴラクさんが持ち上げたんだ、疲労と消耗で満身創痍のはずの彼の体にどこにそんな力があるのか、それを説明するなら心や信念 根性と言った曖昧な言葉を口にするより他ないだろう
つまり、理屈では説明できない力 ということであり…
「あ…!」
理屈で説明できないということは、詰まる所 確たるものでもないということ
まるで当然のように彼の肘は力を失い、ギロチンのようにバーベルが今 彼の首に落ちる、いやあれはシャレにならんな!
「何を遊んでるんだい」
響く 嗄れた声が、それと共にヌルッと伸びた手がゴラクさんの首に落ちるバーベルを摘み上げひょいと持ち上げるのだ、消耗していたとはいえ 帝国軍人である彼が持ち上げられなかったそれを、指二本で…
「ぅおぁっ…た 助かった…って、マグダレーナ団長ォッ!?なんでこんなところに…!?」
「あんだい、小坊主 アタシがここにいちゃ悪いかい」
そこにいたのは、杖をつき背を丸めた険しい顔立ちの老婆だった、決して柔和とは言えない抜き身の剣のような印象を受ける老婆は その細腕でバーベルを持ち上げ 元の位置に戻していく
ゴラクさんの驚きようと、マグダレーナ『団長』ってことは…この人
「メグさん、あのお婆さんって…」
「はい、帝国軍が誇る三十二の師団 その中でも最強と謳われる第十師団の団長、マグダレーナ・ハルピュイア団長でございます」
さっきから話に出てきている団長達の一人、いや その中でも最強の団 第十師団の団長団長があの老婆?、…あんまり強そうには見えないが…
「現在九十二歳の老齢でありながら未だに最強の団長として君臨し続け、かつては皇帝陛下直属の大将軍を務めた経験もあり、現在の三将軍全員を部下に持った経験もある生きる伝説でございます、エリス様にも分かりやすいように言えば アルクカース最強の戦士デニーロ様を抑えて 一時は世界最強の名を名乗ったこともある方です」
「へぇ!すっごい人ですね!」
デニーロさんと言えばアルクカース最強のお爺ちゃんだ、聞いたところによると若い頃から凄まじい強さだったらしいが…その人を抑えて世界最強だったこともあるなんて、…まさしく生きる伝説ってわけか
そうエリスが感嘆のため息を漏らすと、マグダレーナさんは逆に呆れのため息を吐き
「何が凄いもんかね、こんな老いぼれ一人引き摺り下ろせない今の帝国の情けなさにあたしゃ死んでも死に切れないだけさ、今の若いのは鍛え方がなってないんだよ…ほれ どきな小坊主!これは遊び道具じゃないよ」
「ひぃっ!」
杖を振り回してバーベルを叩きながらゴラクさんを追い払えば、ベンチプレスの上によっこらせと腰をかける、怖いおばあちゃんだ…なんて思ってるとその鋭い目がこちらに向けられ
「あんた、孤独の魔女の弟子だって?」
「え?、エリスですか?」
「他に孤独の魔女の弟子がいるのかい、トロい子だね」
「す すみません…」
本当に怖いおばあちゃんだ…、元世界最強…伊達じゃないな
「あんたアルクカースの王様やデルセクトの同盟首長と仲がいいんだって?」
「あ…はい、ラグナやメルクさんとは仲良くさせてもらってますが」
「ほぉん、んで そのお友達に頼まれて練兵エリアのスパイにでも来たのかい?」
「なっ!?ち 違いますよ!そんな、エリスはスパイじゃありませんし、何よりラグナ達はそんな事を頼むような人達でもありません!」
「はっ、どうだか…」
どうだかって…何言ってんだ…、何言ってんだよそんな、会うなり人を疑うようなこと言って、剰えラグナ達を敵国の親玉みたいに言うなんて、ちょっと失礼なんじゃないか
「第一、スパイなんてする必要ないじゃないですか、帝国とアルクカースやデルセクトは良好な関係のはずでしょう」
「なんだい、聡明な子かと思ったけど、案外世間知らずなんだねぇ まだまだ子供かい」
「なっ!?、どういう意味ですかそれ…」
「…エリス様、マグダレーナ様が疑うのは、…帝国はアルクカース デルセクト アジメクを警戒しているからでございます」
「はぁっ!?なんで!」
なんで警戒なんかしているんだよ、アルクカースもデルセクトも ましてやアジメクも何もしてないじゃないですか!、そう メグさんに視線で訴えかけると…彼女は首を横に振り
「デルセクトは最近 蒸気機関を用いて世界中に大型の輸入出のルートを確立し より一層経済大国としての地位を盤石にし、アルクカースはそんなデルセクトの援護を受け 多大な武器を購入し軍拡を図り、アジメクはそんな両国と緊密な関係を築いている…この三国は未だかつてないほどに綿密な関係となっているのです」
「いいことじゃないですか!」
「よくありません、帝国一強で成り立っていた世界は…、武のアルクカース 魔のアジメク 富のデルセクトが結託が誕生すれば その牙城は崩れ去る、最近はコルスコルピもまたその輪に加わり、しかもデルセクトはエトワールの酒造業を握り 実質的な経済統治を目論んでいるとの噂もあります…、この関係は帝国にとって脅威なのです」
…つまりあれか、帝国は今まで絶大な力を有し それによって世界の頂点に君臨し、世界の秩序を保ってきた
しかし、カストリアの三大国のトップが変わり その関係が一新され未だ嘗てない強固な関係が築かれつつある
アジメク相手に帝国は武で勝てる アルクカース相手には富で勝てる デルセクトには魔で勝てる、だが三大国が組め帝国が勝てる部分が無くなる、帝国一強が崩れんるんだ…
「でも脅威って言われても、戦争ふっかける理由ないですし…」
「いえ、言い方を間違えましたね…、この関係自体は脅威ではありません」
「いやどっちですか」
「問題は、貴方ですかね エリスさん」
「えぇっ!?エリスですか!?」
「あんたわかってないね やっぱり、自分がどう言う存在なのかを」
「ど どう言うって、エリスはただの旅人で…」
「そう思ってるのはあんただけさ、いいかい?今ここであたしがアンタを杖で打ち付けて アンタを罵倒したとするよ?」
「怖いですね…」
「そこでアンタが『帝国なんて嫌い!』って、アルクカース始め他の大国に泣きついたらどうなるよ、戦争をふっかけるまで行かずとも確実に三大国は帝国を敵視するだろうね、アンタは三大国の王達と関係があまりにも親密だ、…たった一人で国際的な情勢を崩し得る存在なのさ アンタは、だから言い換えるよ 今帝国が警戒している相手はアルクカースでもデルセクトでもない、あんたなのさ!」
「そ そんな…エリスはそんなことしません」
「問題はするかどうかじゃない、出来るかどうかだよ」
愕然とする、三大国には帝国に比類する力が生まれつつあり、その三大国を動かすトリガーになり得るのがエリス?
そんなことありません!とは言えないのがキツいところ、だってそれ エトワールでやりましたから、マルフレッドを相手に 大国の力を使い脅しをかけた…、それと同じ事を帝国相手にも出来てしまうんだエリスは
ラグナ達の力を笠にきて、帝国相手に脅しをかけることが…
だから、帝国はエリスを警戒しているのか…、でも エリスに言えることは一つだけだ
「マグダレーナさん」
「なんだい」
「エリスはしません、そんなこと」
「さっきも言ったけど しないかどうかじゃなくて…」
「しません、絶対に…それしか言えませんけど、エリスは友達を想っています、だからこそ その友達を道具みたいに使うのも 戦争の武器みたいに扱うのも、しません」
「……ふん」
言うだけなら簡単だ、けどエリスはそれを一度それをしてしまっている、誠意としては弱いだろう、けど…けどエリスに出来るのは結局これしかないから
ただマグダレーナさんは面白くなさそうに息を吐くと
「言うだけならなんとでも言えるさね」
そりゃそうだが…
「ともあれ、帝国軍はアンタを歓迎してるわけじゃないって事を肝に命じな、ここはアンタの遊び場でも庭でも無いんだ、アルカナから守ってやるから代わりに家でじっとしてるこったね」
「うっ…」
杖を一振りすると共にマグダレーナさんはツカツカとその場を去っていく…かと、思いきや、一つ振り返り こちらを いやエリスの背後のリーシャさんを見て
「…しかし、なんだい 随分懐かしい顔があるね」
「あ、いや…その、すみません団長…お久しぶりで…」
「あたしゃもうあんたの団長じゃ無いよ、怪我で離脱した軟弱者が 何しに帝国に戻ってきたんだい」
リーシャさんだ、リーシャさんを相手にドギツイ目を向けている…もしかして、知り合いなのか?、そういえばリーシャさん帝国師団務めって言ってたな
「実は…エリスちゃんの護衛をと…」
「あんたに務まるのかい、師団の仕事も務まらなかったアンタに」
「あ…はは、耳が痛い話で…」
「……、こりゃ余計ダメだね、昔のアンタは少なくとも今みたいに言われりゃ威勢良く言い返してきたよ、潮時だね もう軍人やめなアンタ」
「あはは……、返す言葉もないっす」
ちょっと!それはどうなんですか!せっかく帰ってきたリーシャさんにその言い草はないでしょう!、強いんだか偉いんだから年上なんだか知らんが口の利き方に立場は関係ないだろう!と食ってかかろうとした瞬間リーシャさんに手を掴まれ止められる
言ってくれるなと その目を見て、…落ち着く…リーシャがいいなら、いいです
「じゃあね、小坊主共」
「お疲れ様です、マグダレーナ様」
今度こそ、杖をついて消えていくマグダレーナさん相手に、エリスとメグさんは揃って頭を下げる、しかし何しにきたんだあの人…
「お…っかねぇ、流石は帝国の伝説…」
「ゴラク様 腰を抜かしているのですか?、ふふ 雑魚ですね」
「うっせー!」
「リーシャさん、もしかして…マグダレーナさんって……」
「うん、元上司…私のね、私元第十師団だからさ」
「そうだったんですね…、でも酷くないですか!元とは言え部下に対してあんな言い草!」
「いいのいいの、あの人は昔からああ言う人だからさ?、悪い人じゃないから 嫌いにならないであげて」
とはいえ、あの人はエリスの友達に対してあまりに無礼な言い方をした、どんな意図があれ 流石に心象は悪いですよ…
「さ、メグちゃん?エリスちゃん、もういいでしょ?、マグダレーナさんに怒られたんだしさ、そろそろ帰ろ?」
「そうでございますね、ではエリス様 レグルス様の居宅へご案内しますね」
そう言うなり、メグさんはエリス達の話を遮るように歩き出し…
「あれ?、あのワープは使わないんですか?」
「歩いて行った方が楽しいでしょ?」
「まぁ、そうですけど…」
「では、帝国観光はこのくらいにして エリス様のお屋敷へ参りまーす」
つったかつったかとてちてとてちて足を高く上げてエリスを先導するように歩くメグさんの後ろ姿を見てエリスは一人思う
何を考えているか、分からない人だ お腹の底の方で何を考えているか、いまいち分からない…、そう言う意味ではマグダレーナさんの方が余程分かりやすい そういう意味ではあの人は親切なのかもしれない
帝国軍は無条件にエリスを味方として受け入れてくれているわけじゃない、たた。皇帝陛下の好意と敵に好きにさせない為にエリスを保護しているだけ…
この国は必ずしも、エリスに親切なわけではないようだ…
帝国アガスティヤか、もっと この国についてよく知る必要がありそうだ、そう胸の奥で感じながらもエリスはついていく、どの道 今はカノープス様とメグさんの言う事を聞くほか無いんだから
そして序でに、しばらくこの街から移動出来ないと言うのなら この鍛錬場を使って、強くなっておこう、この国にはいるんだから…大いなるアルカナの本隊が、エリスの敵が…!
その為の準備を出来る限り進めておこう、どうせ その日はいつかやってくるんだから…さ
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