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第三十三章
コーチは知りたいよう
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選手たちは食事の後に散歩に行ったり二度寝をしたりと自由に過ごす事になっていたが、俺はフェリダエ族の公開練習を観る為、早々に宿舎を出た。因みに今日の同行者はナリンさんだ。相手チームのコンディション確認であればザックコーチに一日の長があるが、それよりも攻撃コーチであるナリンさんの目を頼りにしたいのである。
え? ミノタウロスとエルフの両方を連れて行けばって? そうすると宿舎側に残って全体に目を光らせる存在がいなくなる。名目上のヘッドコーチはジノリコーチで確かに彼女は戦術コーチとして逸材ではあるが、どうにも幼く舐められやすい。ニャイアーコーチとアカサオも全体を見るタイプではないし……となるとやはりミノタウロス元代表監督を残していくしかない。
この辺りのやりくり、意外と難儀なものである。いや贅沢を言ってはいけないのだが。そもそもの話、他チームの元監督や各ジャンルの一流指導者を同時に抱えている種族が他のどこにいるのか?
「贅沢は敵だ。欲しがりません勝つまでは!」
「何でありますか? それは?」
呟く俺にナリンさんが問う。俺は翻訳のアミュレットを外している時のいつもの癖で、口から日本語で思考を垂れ流してしまっていたのだ。そして、それを隣のナリンさんに聞かれてしまった。
「あーこれは確か日本が太平洋戦争をしていた時の標語です」
彼女に聞かせるつもりではなかった――迂闊な俺と対照的に、ナリンさんは俺の言葉を全て聞き漏らさず学ぼうとしている。勤勉なエルフだ――ので慌てつつ、俺は漫画で得た知識を思い出して応える。
「なんと! 日本は太平洋とも戦っていらしたんでありますね」
いや大海原と戦うのは無理やろ! と心の中で突っ込みつつ、頷くナリンさんに訂正の説明を送る。
「いや、戦争していた相手はアメリカという国で、太平洋というのは場所の名前です」
「そうでありましたか! 失礼したであります。クラマ殿から『大洋に吠える』といった雰囲気のチーム名を聞いた覚えがあったので、つい」
ナリンさんは照れ笑いしながらメモを取り、たぶんさっきの俺の言葉と説明を書き記していく。
「『大洋に吠える』ですか? 知らない名前だなあ。随分とポエマーなチーム名ですね」
一方、俺の方は確認できるメモもスマホも無いので頭を叩いたり耳を引っ張ったりしながら考える。
「大洋に……吠える……ちゃらちゃー」
地球にあるスポーツのチーム名でそこまで詩的なのは珍しいので、実在するならきっと聞き覚えがある筈なのだが思い出せない。むしろエモいBGMをバックにブラインドを下げて外を見るボスの姿しか出てこない。
余談だが詩人を英語で言えばポエット、詩的と言いたければポエティックである。ポエマーとは和製英語だ。最近は『エモい』という言葉の方が強いが。あと余談ついでに言えば、ブラインドを下げるシーンは『太陽○ぼえろ』ではなく『西部○察』である。
あ、待てよ? 西部じゃなくて西武だけどその繋がりで言えば……。
「ナリンさん? 『大洋にほえる』ではなく『大洋ホエールズ』では?」
「あ! それであります!」
俺が確認するとナリンさんはメモからぱっと顔をあげて応えた。
「やっぱりそっちかー。クラマさん、何を教えているんだか……」
『大洋ホエールズ』はサッカークラブではなく昔のプロ野球のチームだ。詳細はよく知らないが、なんやかんやあって今は横浜ベイスターズになっているらしい。クラマさんはまあまあの年輩だから知っていたとしても不思議ではないが……どういう文脈でその話になったんだ?
「クラマ殿はそのチームに『スーパーカートリオ』がいたと」
「スーパーカートリオ……ああ!」
今度はナリンさんが間違えなく伝えてくれたので、俺は一気に合点が行く。そう、クラマさん及びナリンさんが言う通り大洋ホエールズにはそう呼ばれる選手たちが所属していた。三人とも足が速く盗塁走塁で活躍した名選手たちだ。
で、その中の一人に高木豊という選手がいたのだが、彼のお子さんは三人もプロサッカー選手になっている。いや兄弟でサッカー選手になるというのは極めて珍しいという程ではないのだが、父親が有名な野球選手だというのは希有な方の例だろう。
で、その三選手とも父親の遺伝か、かなり足が速い。アンダー世代の日本代表にもなっているし海外移籍も経験している。恐らく足の速い選手とか才能の遺伝といった絡みで俎上に載せられたのだろう。
……とオチが分かってしまったらシンプルな話だったな。
「ショーキチ殿?」
「ああ、失礼」
一人で納得して苦笑いを浮かべる俺を、ナリンさんが不思議そうに見つめる。
「大洋ホエールズというのはサッカードウではなく野球のチーム名です。で、スーパーカートリオというのは俊足の選手三人組で、アローズで言うならリーシャさん、レイさん、エオンさんを3TOPに並べるようなモノでして……」
かくして、そこからスタジアムまで俺は勉強熱心なコーチに野球からスーパーカーまで色んな講義を行うこととなった。
え? ミノタウロスとエルフの両方を連れて行けばって? そうすると宿舎側に残って全体に目を光らせる存在がいなくなる。名目上のヘッドコーチはジノリコーチで確かに彼女は戦術コーチとして逸材ではあるが、どうにも幼く舐められやすい。ニャイアーコーチとアカサオも全体を見るタイプではないし……となるとやはりミノタウロス元代表監督を残していくしかない。
この辺りのやりくり、意外と難儀なものである。いや贅沢を言ってはいけないのだが。そもそもの話、他チームの元監督や各ジャンルの一流指導者を同時に抱えている種族が他のどこにいるのか?
「贅沢は敵だ。欲しがりません勝つまでは!」
「何でありますか? それは?」
呟く俺にナリンさんが問う。俺は翻訳のアミュレットを外している時のいつもの癖で、口から日本語で思考を垂れ流してしまっていたのだ。そして、それを隣のナリンさんに聞かれてしまった。
「あーこれは確か日本が太平洋戦争をしていた時の標語です」
彼女に聞かせるつもりではなかった――迂闊な俺と対照的に、ナリンさんは俺の言葉を全て聞き漏らさず学ぼうとしている。勤勉なエルフだ――ので慌てつつ、俺は漫画で得た知識を思い出して応える。
「なんと! 日本は太平洋とも戦っていらしたんでありますね」
いや大海原と戦うのは無理やろ! と心の中で突っ込みつつ、頷くナリンさんに訂正の説明を送る。
「いや、戦争していた相手はアメリカという国で、太平洋というのは場所の名前です」
「そうでありましたか! 失礼したであります。クラマ殿から『大洋に吠える』といった雰囲気のチーム名を聞いた覚えがあったので、つい」
ナリンさんは照れ笑いしながらメモを取り、たぶんさっきの俺の言葉と説明を書き記していく。
「『大洋に吠える』ですか? 知らない名前だなあ。随分とポエマーなチーム名ですね」
一方、俺の方は確認できるメモもスマホも無いので頭を叩いたり耳を引っ張ったりしながら考える。
「大洋に……吠える……ちゃらちゃー」
地球にあるスポーツのチーム名でそこまで詩的なのは珍しいので、実在するならきっと聞き覚えがある筈なのだが思い出せない。むしろエモいBGMをバックにブラインドを下げて外を見るボスの姿しか出てこない。
余談だが詩人を英語で言えばポエット、詩的と言いたければポエティックである。ポエマーとは和製英語だ。最近は『エモい』という言葉の方が強いが。あと余談ついでに言えば、ブラインドを下げるシーンは『太陽○ぼえろ』ではなく『西部○察』である。
あ、待てよ? 西部じゃなくて西武だけどその繋がりで言えば……。
「ナリンさん? 『大洋にほえる』ではなく『大洋ホエールズ』では?」
「あ! それであります!」
俺が確認するとナリンさんはメモからぱっと顔をあげて応えた。
「やっぱりそっちかー。クラマさん、何を教えているんだか……」
『大洋ホエールズ』はサッカークラブではなく昔のプロ野球のチームだ。詳細はよく知らないが、なんやかんやあって今は横浜ベイスターズになっているらしい。クラマさんはまあまあの年輩だから知っていたとしても不思議ではないが……どういう文脈でその話になったんだ?
「クラマ殿はそのチームに『スーパーカートリオ』がいたと」
「スーパーカートリオ……ああ!」
今度はナリンさんが間違えなく伝えてくれたので、俺は一気に合点が行く。そう、クラマさん及びナリンさんが言う通り大洋ホエールズにはそう呼ばれる選手たちが所属していた。三人とも足が速く盗塁走塁で活躍した名選手たちだ。
で、その中の一人に高木豊という選手がいたのだが、彼のお子さんは三人もプロサッカー選手になっている。いや兄弟でサッカー選手になるというのは極めて珍しいという程ではないのだが、父親が有名な野球選手だというのは希有な方の例だろう。
で、その三選手とも父親の遺伝か、かなり足が速い。アンダー世代の日本代表にもなっているし海外移籍も経験している。恐らく足の速い選手とか才能の遺伝といった絡みで俎上に載せられたのだろう。
……とオチが分かってしまったらシンプルな話だったな。
「ショーキチ殿?」
「ああ、失礼」
一人で納得して苦笑いを浮かべる俺を、ナリンさんが不思議そうに見つめる。
「大洋ホエールズというのはサッカードウではなく野球のチーム名です。で、スーパーカートリオというのは俊足の選手三人組で、アローズで言うならリーシャさん、レイさん、エオンさんを3TOPに並べるようなモノでして……」
かくして、そこからスタジアムまで俺は勉強熱心なコーチに野球からスーパーカーまで色んな講義を行うこととなった。
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