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第三章

ロリとの遭遇

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「えいえいおー!」
 例のかけ声と共に幼女たちがグランドに散った。ミノタウロスチームの練習は終わり、ドワーフチームの番が来たのである。
 ザック監督が言っていた通り、ミノタウロスチームの練習は(他のチームの事をとやかく言うのは失礼にあたるが)あまり見学の甲斐があるものではなかった(気合いと当たりの強さはあった)が、ドワーフチームのトレーニングはなかなか統率がとれていて見ていて楽しいものだった。
 コーチの指示通り、グランドに引かれた線や旗に沿って走り、方向転換する幼女ロリドワーフたち。幼稚園の運動会で幼子たちが整列して行進するだけでも見る人によっては感動と涙を誘うものなのに、ドワーフ女子たちはその数倍も複雑な動きを正確に繰り返している。これは驚異だ。
 だが俺の一番の関心はそこではなかった。
「へー。大した指導っぷりですね。でもこれくらいなら、エルフはおろかミノタウロスにだって勝てないだろうなあ」
「ショーキチ殿! 声が大きいです!」
 最前列でわざとらしい声を上げた俺たちに対して、ピッチ脇で笛を鳴らしていた1人のドワーフ女子が反応した。
「なんじゃと!」
 サイドテールを銀の髪飾りで留めた可愛らしい幼女が「ピコピコ」という足音を立てながら(「どすどす」じゃないんかい!)俺たちのすぐ下まで来た。黒く太い髪を前述の通りサイドに流し、一直線に揃えた前髪の下からは同じく黒く丸い瞳が怒りにつり上がって俺たちを睨みつけている。残念ながら迫力は無い。
「もう一度、言ってみい!」
「正確には、あんなラインDFでは相手チームの攻撃を防げないだろうなあ、て言いたかったんですよ、おチビちゃん」
 俺は少し言葉を直して言った。
「お主に何が分かる! お主のような若造に! おぬ……お主は!?」
「俺が誰だか分かったようですね」
「分かったぞ! そこを動くな?」
 コーチらしいそのドワーフ少女は唐突に笛を吹いて数人のスタッフを呼ぶと道具類を入れていた箱を集めて積み上げ、その上によじ登ってきた。そして目線が同じ高さになった所で
「お主、あのエルフどもに荷担して監督になった、ショーキチとか言う人間じゃろう!」
と言い放ち、短い人差し指を俺に向ける。なんやこの、のじゃロリ搭載萌え生物。
「よくご存じですね、おチビちゃん」
 俺は内心の動揺を隠しつつ、あざ笑うような態度を続ける。
「チビじゃないわい! ワシはジノ……」
「ジノリDFコーチ。ドワーフ代表の最年少スタッフにして、リーグでも将来を最も期待される若手コーチ」
 チビちゃんではなくジノリちゃんは俺の言葉に流石に驚いた様子だった。
「なっ……知っておるのか?」
「ええ。エルフ代表としては意識せざるを得ないチームですし。まあそれがなくても、あの試合を見て一週間程度でラインDFを模倣できるくらいに腕の立つコーチ、チェックしますよ」
「えっ!?」
 とぅんく! という音が聞こえそうな顔になるジノリちゃん。
「そうか? わしぃ……そんなに優秀かの?」
「まあまあですね。でもウチのナリンさんほどじゃないですけど」
「そんな、ショーキチ殿……照れます」
「いえ、本当の事ですよ。しかもこんなに優しくて器量良しで……」
「ええい! おっと!」
 褒める俺に照れるナリンさんを邪魔するようにジノリちゃんは地団駄を踏み、危うく箱から落ち掛ける。(積み上げた箱の上だ。当たり前だ)
「お主ら、ワシを馬鹿にしに来たのか褒めに来たのか、目の前でイチャイチャしに来たのかどれじゃ!」
「さっきも言った通り、チェックしに来たんですよ。もう十分ですが。行きましょう、ナリンさん」
 俺はわざとらしくナリンさんの手を取り去ろうとする。
「まっ待てい!」
 案の定、ジノリちゃんが怒りの声を上げた。
「お主、ちょっと見ただけでもう十分じゃと!? 聞けばクラマ殿と同じ世界から来たらしいが、それほどあちらのサッカードウは進んでおるのか? お主はそれに精通しておるのか?」
 んなこたーない。だが俺は、イエスともノーとも言わない笑顔でただ頷いた。
「ぐぬぬ……。ええい、エルフがそれに頼ろうと知った事か! ワシはワシの力量でサッカードウを進化させてドワーフをリーグ制覇へ導いてやるわ!」
 可哀想な位こちらの誘導に引っかかってくれているが、その心意気や良し。俺は少し戻って、彼女に語りかけた。
「素晴らしい。じゃあ一個だけアドバイスを。サイドから攻められた時、一直線にラインを揃えていますよね。アレは良くない。攻められているサイドと逆のサイド、そこのDFは少し上げるんです。三日月みたいにね」
「はあ? なんでじゃ?」
「メディア・ルーナて言うんですがね。クロスを上げられて跳ね返した時、こぼれ球を拾いやすいからですよ。もしフラットなままだと、セカンドボールの奪い合いで不利になります」
 俺は丁寧に教えたつもりだが、彼女はまだ半信半疑で考え込んでいるようだった。
「いや、信じても信じなくても良いですが。地球には経験的蓄積があるんですが、こちらにはまだ無いでしょ?」
「うむぅ。いやそれが本当として、何故ワシに教えるのじゃ?」
 俺は内心の様々な思惑を隠すように笑顔で言った。
「ライバルの戦術でもすぐ取り入れるような、おもしれーコーチに好意を抱いたからですよ。じゃあ」
 そして彼女の返事を待たずにその場を去った。
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