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第三章

ドワーフと蛇と猫

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「おもしれーおんな」
 そう、あの日のミノタウロスVSドワーフ戦。俺が最も注意を引かれたのはピッチサイドでドワーフDFラインへ声をかける1人の少女だった。
 サッカードウドワーフ代表コーチ、ジノリ。俺たちの試合を見てすぐにラインDFとオフサイドトラップを模倣した才媛。実際のところ、
「どの程度の期間で戦術のフォロワーが現れるか? その再現度はいかほどか?」
は俺の大きな関心事であったが、彼女と彼女の構築したDFは予想以上に早く、高度なものであった。
 そうなると次の懸念は
「その出現は特異なものか? リーグ全体の戦術理解度の指標となるものか?」
だ。
 それを調べるにはシャマーさんの力を借りる必要があった。俺は彼女の魔法とDSDKの公式記録を駆使してジノリさんについて調べ上げた。
 結果はこうだ。彼女は(あんな姿ではあるが)リーグ屈指の戦術家であり、将来を有望視されているコーチだ。つまり特別な存在で簡単に手に入るようなコーチではない。スペシャル・ワンとモウリーニョは言ったか。だからリーグの平均レベルは彼女よりもっと下だ。
 とは言えそれで一安心、という訳にはいかなかった。次は彼女の個性をもっと知る必要がある。出身地は? 家族構成は? 彼氏はいるんでしょうか?
 結果は……良く分かりませんでしたいかがでしたかブログ! では済まない。強敵となり得るならばもっと詳しく知る必要がある。
 その為、俺は少し挑発的な態度をとってまでジノリさんと接触することにしたのだ。成果は上々と言っても差し支えなかった。俺は彼女の性格と行動を知る事ができたし、彼女は俺の事を強く印象に残しただろう。

 と格好良い事を語りつつジノリさんの前から颯爽と姿を消した俺たちであったが、そのまま宿へ帰ってしまう訳にはいかなかった。あと2チーム、トロールとフェリダエの練習も見る必要あるもんね。
 そこで俺たちは練習場外周を大きく迂回し、グランド脇の茂みまでスネーク潜伏して残りのトレーニングを観る事となった。いやあんな風に現場を去っておいて
「ごめん、まだ観てないチームがあるんで(てへぺろ)」
と再び姿を現すなんてできないし。
 で、膝を汚し枝で擦り傷をこさえながら藪を進んでここに潜んでいる訳だ。
「格好悪い!」
 前園さんが棒読みの台詞を呟くのが脳内で浮かんだが仕方ない。優雅に泳ぐ水鳥は水面下で激しくばた足するのだ。
 そんな苦労と裏腹に、成果は大きなものではなかった。圧倒的強者トロールと絶対王者フェリダエ。この2チームは決勝を前に手の内を明かすようなトレーニングを公開でする訳もなく、ミノタウロスやドワーフの様に今更ジタバタする訳もなく、リラックスした雰囲気でリカバリーの続きのような練習をするだけであった。
 特にフェリダエチームはそれが顕著だ。地球でもサーバルキャットサーバルちゃんなどは恵まれた能力から狩猟の成功率が高くそれ故あまり困窮しておらず意外と大らかな性格をしているそうだが、彼女たちは正にソレだった。
「すごーい! たーのしー! 君はサッカードウが得意なフレンズなんだね!」
 そう言いたくなるような曲芸リフティングやドリブルをトレーニングで魅せる。ブラジル代表の公開練習みたい。
「もはや練習ではなく観客へのサービスだなこれ」
「ええ。彼女たちはいつもこんな感じです」
 頷くナリンさんを連れて俺はただ一ヶ所、熱量の違う地点へ向かった。

「もう限界が来たのかい、お嬢さんたち!」
 短髪長身のフェリダエ女性がそんな声をかけながら、強烈なシュートを次々と打ち込む。屈強な筈のフェリダエ族が、口を開け舌を大きく出してハアハアと息をしている。そう、真夏に猫がやるアレ。
「次、お願いします!」
 そう言いながら素晴らしい跳躍をみせ、横っ飛びでボールを掴むグローブをつけた選手がいる。GK練習だ。
「GKは変な奴が多い」
 これを言ったのはオシム監督だったか。
「何だか良く分からないけど~楽しくやってまーす」
 みたいなFPフィールドプレイヤーの練習とは物理的な距離(グランド中央と端)も精神性も遠い地点に、GKたちはいた。
「もういっちょ!」
「はい!」
 全身のバネを使ってボールに飛びつき直ちに立ち上がる。素早く元のポジションに戻り次に備える。激しい全身運動でありながら一つ一つの動きを数センチ単位で確認する作業でもある、トコトン自分を追い込むスパルタな行為……それがGK練習だ。
「(しかしアレですね、ナリンさん)」
 隠れている茂みがGKたちにほど近いので、俺はひそひそ声でナリンさんに問いかけた。
「(何ですか?)」
「(ちょっと虚しくありませんかね。ここまでやっても出番って……)」

「(ちょっとショーキチ殿!)」
 フェリダエ代表というのは攻撃型強者のチームだ。ボール保持率は平均で70%を越え、被シュート数が0という試合すらもある。そんなチームにおいてGKの出番というのは殆どない。
 いや、地球のサッカーならあっただろう。GKを含めてのビルドアップ、パントキックからの速攻、DFラインへの指示など現代サッカーでは仕事が多い。
 だがこの世界のサッカードウはまだその段階にない。そうなるとこの激しい練習の成果をみせる時というのは……いつ来るんだ?
「何か言いたい事があるなら直接、言えばどうだい?」
 そんな会話をしていた俺たちに、さっき聴いたばかりの声から呼びかけがあった。
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