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5.南海の秘宝

67.船上の戦い2

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 そうやって、4,5隻の海賊船を転移して、海賊頭と参謀クラスを捕まえ、殺していきましたが、どの海賊船でもあまり対応は変わりませんでした。

 ・乗り込んで来たのが若い女性ばかり → 

 ・武器を捨てて投降すれば命だけは…… →

 ・子分が襲って返り討ち → 

 ・頭と参謀が魔法や銃をつかう → 

 ・僕のガンブレードで返り討ち

といったパターンで倒されていきます。

 想定では、彼らはムルジア領の本拠地から来たはずなのですけどね? 本隊ってこんなに弱いのでしょうか?
 わざわざ、彼らの本拠地ちかくで、『蒼海の宝珠』を人魚族がアレキサンドリア共和国に保管を依頼したというウワサと、『QAクイーンアレキサンドリア』が海賊船団との戦闘で一部壊れたという二つのウワサを流してもらい、一週間近く訓練期間をとったのも、彼らが本拠地からこちらへやってくる移動時間を考慮しての事だったのです。

 ウワサを広めることを人魚族の方にお願いしたのは、人魚さんの泳ぐ速度は風任せの帆船と違ってとても速いからなんです。
 水棲生物では、イルカの一種でマイルカは時速60Km、クジラ類の中で最速を誇るシャチは時速80Kmで泳ぐことができます。
 これは、船の速度でいえば36ノットと43ノットになり、動力船である『QAクイーンアレキサンドリア』の最大船速33ノットをどちらも凌駕りょうがしているのです。
 もちろん、動物であるイルカやシャチが最大速度で長時間泳げるわけではなく、敵から逃げたり餌を捕るときなどの一時的な速度ですが、それでも驚きの速度です。
 そして、人魚族の方は魔力を使用して泳ぐことで、最大速度は時速100km、65ノット近くを叩き出します。人魚族が少数なのは、生物としてはシャチと共に、食物連鎖の頂点に当たる存在だからなのでしょう。
 
……閑話休題……

 6隻目の海賊船に転移した時、初めて状況に変化がありました。魔法弾による攻撃で、血や木材の燃える匂いがするのは他の船と同じですが、船上には既に3人の人影しかなかったのです。

「この船の海賊頭かいぞくがしらは、部下をオトリにして逃げ出したのですか?」

 僕たちの前に立つ3人の男は、普通の海賊達と装備面ではあまり変わりません。三人の中央に立つ男性は背が高く、20代半ばくらいの年齢で、ごく普通の水兵といっても良いような雰囲気ですが、腰にいている刺突剣レイピアは、曲線状の鍔をもつ柄スウェプト・ヒルトも複雑で実用性よりは芸術性が高いものにみえて、とても上等に見えますが……

 僕が浮かべた怪訝な表情をみて、真ん中に立つ男は苦笑いを浮かべます。

「それらしく見えなくてすまんな。俺がこの船の海賊頭さ。海賊の名前なんぞは、お前さんにはどうでもよいだろうから、名乗りはしねえよ。
 悪いが、部下たちは先に逃がさしてもらった。お前さんたちと戦った後じゃ、助かるもんも助からねえからな」

 男の言い方だと、こちらの方が悪者みたいな言い方に聞こえます。すこし、イラっときますが、相手のペースにのせられるのは危険ですね。

「頭が残ってくれたのであれば、それは良いとしたいところですね。海賊といっても、頭をつぶされ船を失えば、大半の者は乱暴なだけの一匹の犯罪者に過ぎません。
 志すものも無く、他者から物と命を奪う事しかできない一匹の海賊なんて、たいしたこともできずに滅びるでしょうから」

 僕がつぶやいた声は、相手の男にしっかり届いたようです。

「そうかい? 確かに大抵の海賊達はお前さんが言った通りの小物に過ぎんがな、俺の部下たちとそこらの海賊を一緒にされちゃぁ困るぜ? 海賊の中にも、矜持プライドをもった奴がいるってことを、教えてやるよ……」

 男は腰の刺突剣レイピアを抜いて、右手でゆっくりと構えをとります。右ひじを軽く曲げて、手の甲は上に向け、剣の柄頭ポンメルは手首の裏にあてた状態で、切っ先は僕の喉を正確に狙っています。手首を支点にするこの持ち方だと、剣身が長くても、楽に剣先を相手に向けていることができます。しかし、この持ち方だと、剣の両刃は水平方向を向いているので、縦切りするには手首を回す必要がありますね。
 左手には防御用の短剣マンゴーシュを持って、頬の前に垂直に立てています。僕がやっていた国民的MMOの赤〇導士に似た構えですが、左手は防御の為に位置が異なるようです。

 一般的な刺突剣レイピアの剣身は90cm近くあり、細く優美なデザインから軽いと思われています。そして、刺突攻撃を主とする為に剣としては最長クラスの3m前後の間合いを持ちます。
 細剣と呼ばれることもあるレイピアですが、実際は強度を保つためにも結構重く、普通の鋼製であれば1.2~1.5Kgあり、軽めのロングソードとほぼ変わりません。

 余談ですが、レイピアの発展系がスモールソードで、日本人がイメージするレイピアはこちらを言います。英語名のイメージから、小型の両刃の剣を想像しますが、短くしたレイピアのようなものです。
 こちらは剣身も60~85cmで、斬りつける刃を持たないものもあり、刺突に特化した武器と言えます。軽量の為、女性でも扱いやすくなっているのが利点ですね。
 以前会ったエリーゼさんは、刺突剣レイピアを使っていましたが、彼女の持つ刺突剣レイピアはミスリルで作られてましたからね。さすがは貴族家の家宝、いえ本来なら国宝級の一品です。

 おっと、ついついレイピアを見る事に夢中になって、敵から意識を離してしまう所でした。危ない危ない……

「わざわざ一隻づつ、頭を狩りにきてるんだ。剣で勝負を挑む相手に、魔法や銃はつかうまい? そら、行くぜ! 『ランジ』」

 男はそう言うと、一気に突き込んできました。体を伸ばし切って突く攻撃を『ランジ』といいますが、いきなりですか!
 それに、いちいち技の名前を言うなんて、〇二病がだいぶ入っているようですよ? とはいえ、男の実力はかなりの者の様です。
 ヒュッっと剣先が風を斬る音が聞こえ、まっすぐ突き出されたレイピアの剣先が耳元をかすめます。剣先は全くぶれず、まっすぐ最短距離で目標に向かってきました。
 連続攻撃は入れずに、あくまでも様子見のようですね。男は、元いた位置に戻っており、剣先は僕の首を狙ったまま、二撃目をいつでも繰り出せる姿勢です。

「……剣の腕は、僕が知っている中では、敵としては一番、味方を含めると二番目の腕の様ですね」

 そう口にだした僕の右頬に、浅く軽い痛みが走ります。少し、背中に冷たい汗が流れましたよ?!
 とは言え、反応できなかったわけではありません。当てる気がないのが分かっていたので避けなかっただけです。
 男がわざわざ自分の手の内を見せてきたのですから、こちらも多少は見せるのが礼儀でしょう。
 すり足で男との間合いを詰めながら、レイピアの長い間合いの少し外、男が動くほんの少し前に、踏み込み足で一気に間合いをつめて、片手持ちに切り替えた天羽々斬あまのはばぎりで突き攻撃を放ちます。
 男の身長は2m近いでしょうが、僕の伸長は150cmに届いていません。青眼で構えても、高さは130cm程度で、男の胸の高さにも届きませんが、突きを狙うなら首よりも目標が大きいお腹になってしまいます。
 男と違って、いちいち技の名前など言ってられません。僕は〇二病ではないはずですし?
 男の左右の脇腹を狙った二段突きは、やはりかわす気のなかった男の服と薄皮を切り裂いただけです。
 送り足で、そのまま後ろに下がりますが、男たちには僕が床の上を滑って移動したように見えたでしょうね。
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