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5.南海の秘宝

68.剣対ケン?!

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「……お互い、デモンストレーションは終わりってことでいいな?」

 服の左右の脇腹部分が切られていることを、確認した男がつぶやいた声が耳に入ります。ニヤッと笑う笑みが、非常にうれしそうに見えるのは気のせいでしょうか?

 フェンシングと違って、緩やかに円を描くように移動しようとする男に対し、僕はすり足で同じ方向に移動しながら間合いを保ちます。
 僕にとってもそうでしたが、身長差は男にとっては唯一の不利な点でしょうね。似たような身長であれば、まっすぐ最短距離を最速で剣を走らせることが出来ますが、普段よりもかなり下を狙わねばならず、本来相手側からは点に近く見える剣身も、僕から見れば線にすぎません。
 そして、剣の重量があるということは、剣先を大きく動かした攻撃は行い難いということです。
 突き以外に斬る技も当然ありますが、水平に向いた両刃を手首を返すことで刃を相手に向け、手首をひじの動きだけで行う斬り方が主体です。腕を大きく動かして斬りにいけば、剣先は相手から大きくそれる為、最大の攻撃力を誇る突き攻撃が放つことが出来なくなるからです。

 ヒュッ、ヒュヒュンと風を切り裂く音と共に、刺突攻撃がやってきますが、僕は上体をゆらゆらと揺らす事でそれをかわします。とはいえ、通り過ぎた刃が手首を回転させることで切り下げる軌道を描くので、それほど余裕はありません。刺突で繰り出されるレイピアの剣身を、刀の側面で起動をそらせるため、キュイン、キンと小さく金属が擦れる音が響きます。
 攻撃の直後には、レイピアの剣先は引き戻され、相も変わらず僕の喉を狙う位置に常にありますので、単純に突っ込むと喉を突かれることになりますし、距離をとればランジによる長射程の刺突攻撃がやってきます。

 僕と男の戦いは、竹刀や木刀での立ち合いと異なり、剣と剣を打ち合わせる音がない、静かなものでした。剣が風を斬る音と、互いの剣をそらせる僅かな音しかしないのです。
 レイピアは細身の剣ですから、剣と剣を打ち合わせるような行為はほとんどありません。相手の剣先を反らす場合でも、切っ先は常に相手の喉を狙うように動くため、なかなか懐にはいれないのです。
 切れ味が大切な日本刀の形をしている天羽々斬アマノハバギリですし、小柄な僕は力勝負になっても勝ち目は薄い為、剣と剣を打ち合わせる攻撃はしませんので、激しい攻撃でも、互いの剣が空気を切り裂く音しかしないのです。

 とは言え、現状は僕が不利ですね。前に出ようとする度に、レイピアの剣先に動きを先んじられ、思うように踏み込めませんし、左右への動きがある為回り込むこともできません。
 加速で、男の背後を一気にとることも考えましたが、男の部下二人に背を向ける行為は、リスクがありすぎます。

 間合いを詰める機会を何度もつぶされて、ちょっとイラついてきましたよ。かろうじてかわしてはいますが、僕の制服の肩の部分などが切り上げや突き攻撃で咲かれてしまっています。対して男のほうは、わずかにズボンの足元を切り裂かれただけです。

「このぉっ」

 男の大きな突き攻撃、ランジが来た直後、引き戻される剣先よりも速く僕は男の懐に飛び込みまし……た?
 その瞬間、男は左足を後ろから横にずらして、体を横にひねることで僕の攻撃から体の軸線をきれいに外します。そして引かれた剣先はそのまま僕の右側頭部を狙っていて……サ・ソ・イ・コ・マ・レ・タ…………
 ヒュンっと風切る音が聞こえ、真横から突きこまれた剣先を、かろうじて仰け反るようにかわした僕をみて、男はにやりと笑います。

「どうやら、ヴォルテを知らないようだな」

 そして突き入れた体勢から、右手首を内転させて裏刃による斬撃を繰り出します。
 僕はそのまま背を下に倒れこみ、その斬撃を交わしましたが、このままでは次の攻撃で串刺しです。
 左手で床を叩いて受け身をとると同時に、男の足元へと転がりざま、剣を一閃させます。

 足元に迫る劍先に気づいた男は、刺突を途中で中断して、瞬時にバックステップをとり剣先を交わしましたが、僕にはその時間が貴重です。猫のように身体をひねって両足で着地、そのまま後方へと跳ねて距離をとりました。

「……驚いたぜ、あの状態から裏刃の切り下げをかわすだけじゃなく、倒れこみながらもこちらの足を斬りに来るか……
 女にしておくには、末恐ろしい淑女レディーだぜ。戦女神ワルキューレもかくやってやつだな」

 そう言いながらも、剣先は油断なく僕の喉元を指しています。ここまで隙がない相手は、北部エリクシアで会ったルース・ダ・ルーアLuz da luaのアーネストさん位です。残念ながら僕の剣の実力では、男に勝つことは難しいようです。

 天羽々斬あまのはばぎりさやに収めて、収納した僕をみて、男は残念そうに言いました。

「なんだよ、これから面白くなるっていうのに、もう降参か?」

「……そういう訳にはいかない上に、残念ながら僕個人の好みで戦って負けるわけにはいかないんですよっ」

 加速を使って、瞬時に男の至近距離へと入った僕は、右掌を男のお腹に当ててつぶやきます。剣で勝てないからといって、引く事はできませんよ。戦う手段がなくなったわけでは無いのですから。

しょう

 僕の呟きと共に、右掌で魔力波による衝撃をくわえます。僕が消えた瞬間に、後ろに飛び退って距離をとろうとした男ですが、掌が触れた瞬間に放たれた魔法による衝撃はかわせません。物理的な打撃と、魔力波による攻撃技術をくわえた魔法拳ですが、こちらは見たことが無いようですね。
 男はガクリと片膝をつきますが、その目は驚きの表情を浮かべてはいますが、戦意を失った様子はありませんね。

「「おかしら!!」」

 二人の部下が声を上げ駆け寄ろうとしますが、男に止められます。男の口から、赤いものが一滴流れますが、男は左手でそれをぬぐって立ち上がります。

「おかしいですね。手加減したつもりはなかったのですが、とっさになにかしましたね?」

 とは言え、僕の純魔力を身体に波状に叩き込みましたから、魔法を使おうとしても魔力の流れがかき乱されたはずですので、しばらくは魔法は使えないはず。
 いまの防御手段が、体術によるものだったとしても、軽減できてもダメージをなくすことはできないようですからね。

「ふん、これだから魔法使いってやつは気に入らないんだ。折角面白くなってきたっていうのによぉ」

 吐き捨てるように言った男の言葉に、僕も心から同意しますよ。

「あなたの言葉を否定はしませんよ。でも、僕の目的は海賊頭と参謀の討滅です。剣での勝負にこだわって、目的をないがしろにする心算はありません」

 再度の加速で男の左横に回り込み、右回し蹴りを放ちます。

「がはっ」

 お腹に命中した蹴りの為に、身体を大きく『く』の字に折りながらも、男は左手の短剣で僕の首筋を狙ってきました。
 男の左腕を両手で捕まえて、蹴り足を引き戻す動作で勢いをつけながら、トンッと左足で床を蹴ると、軽い僕の身体は宙に浮いた状態になります。右脚をそのまま相手の左腕に絡めて、振り上げた左踵で男の左顔面に踵落としを入れました。

 『ゴキャッ』と何かが折れる音が響きます。背の大きい人は、普段頭部に攻撃を受ける事はないでしょうから、大きなダメージを期待したいところです。
 くの字に折れていた男の身体は、蹴られた事により姿勢を立て直す方向に動きますが、さすがに頭部を蹴られた衝撃で身体が大きく揺らいでいます。

 このまま男が倒れれば関節技に入れますが、体格差があるのでまだ男の体力を削り切れてない状態では不安が残ります。

さい

 掴んだ両手で、男の左腕に魔法拳を叩き込み、左腕の骨を砕きます。その後、両手を離して身体を半回転。床に着地した僕は再び距離をとりました。
 男は揺らいだ身体を、レイピアを床に突き立てて杖代わりにして姿勢を立て直します。左手のマンゴーシュは、床へと音を立てて落下し転がりました。
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