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ドワーフの魔術師とエルフ
第28話 カニパーティー
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数日後。
「エルドワ旅団に指名依頼がきています」
冒険者ギルドに行き、炎の針を生やしたハリネズミの素材の査定をしてもらっていると、ある女性職員にそう言われました。
「これが終わったら向かいます」
「分かりました」
査定を終え、職員に声をかけました。個室に案内され、指名依頼、つまりメモリからの依頼の具体的説明をされます。
「――ということですが、お受けしますか?」
「はい」
「ああ、もちろん」
正式に依頼を受注し、準備をします。
「地図を見た限り、一ヵ月ほどの旅になりそうだな。しかも、街にはあまりよれなさそうだ」
「肉は現地調達にしますか?」
「干し肉は買っておこう」
パンと干し肉、お酒を買い込みます。宿に戻り、荷物を整理しました。
「セイラン。そっちの巾着袋に食料入りますか?」
「まだ少し空きはあるが、入らないのか?」
「結構パンパンで」
セイランが見た目よりも多くの物が入る魔術を組み込んであるトランクの中身を覗いてきます。呆れたようにため息を吐きました。
「酒に魔法書と魔術具だらけじゃないか。旅の身なのだ。もっと断捨離しろ。酒と魔法書はともかく、魔術具は捨てろ。殆ど失敗作だろう。捨てろ」
「失敗作を捨てるなんてありえません!」
暇さえあれば作っている魔術具。その殆どは失敗作です。想定とは違う性能を発揮するものばかりで、役に立つか立たないかでいえば彼女のいう通りガラクタなのでしょう。
しかし、その失敗こそが魔術の価値なのです。
「ったく。この依頼が終わったら、断捨離するからな」
「嫌です! なら、新しいトランクの魔術具を作りますよ!」
「そう簡単に作れる物ではないだろう」
「作ってみせます!」
セイランの巾着袋に食料を押し付けました。
そして翌日、王都を出発します。
目指すは王都の南にある魔境、クラッベ平原の奥地です。
Φ
九つの月が照らす夜の平原。
「セイランのバカ! アホ! 枯れ葉っぱ!」
「なんだとっ!」
私たちは物凄い数のカニの大群に追いかけられていました。体長四メートルあるカニから、三センチメートルほどの小さなカニまで、ぱっと見た感じ数千匹以上はいます。
「ホント、マジで、なにしてくれてるんですかっ!」
「あ、アタシは今日の食料を調達しようとしただけで! だいたい、お前が美味い甲羅酒飲みたいっていうからっ!」
「私のせいにしないでください! そこらカニで十分だったはずです! なんであのカニを狙ったんですか!」
「だ、だってカルキオーノだぞ! 世界一美味いと言われている月蟹だぞ! 生で食いたいに決まっているだろう!」
「葉っぱはなんで生食になると後先考えなくなるんですかっ!」
王都を出て一週間。早足で移動した事もあり、既にクラッベ平原にたどり着いていました。
そして平原の奥を目指して四日ほど歩いていたのですが、この魔境平原は多種多様のカニの魔物が多く生息していました。
じゃあ、せっかくだしカニパーティーでもするかということになり、色々な種類のカニの魔物を少しずつ狩っていたのですが、セイランがあるカニの魔物に手を出したのです。
体長二メートルほどのそのカニ、月蟹カルキオーノは月光の如く美しい甲羅をもち、他のカニたちに守られていました。姫ですね。
明らかに手を出せば、他のカニたちから反撃を貰うのは必至でした。
なのに、この葉っぱは手を出したのです。バカです。
そして、この結果。怒り狂った多種多様のカニの魔物たちに襲われていました。
触れると爆発する泡や高圧縮して放たれた水など、カニたちが繰り出す攻撃を避けます。
「ひっひぃ!! 追い付かれます!」
「ドワーフは本当に足が遅いな!」
「遅くありません! 足が短くて、移動に少し時間がかかるだけです!」
「それを遅いと言うんだ! チッ、追い付かれる。グフウ、我慢しろ!」
「おわっ」
セイランが私を右脇に抱えました。
「お、重っ」
「そりゃあ当り前ですよ! 貴方と同じくらいの体重はありますって」
「アタシはこんなに重くないぞ! 本当だぞ! 重くないぞ!」
「そんな虚勢はいいですから、もっと早く走れないのですかっ?」
「無茶言うな! っというか、こういう時こそお前の魔術だろう! どうにかならないのか!?」
「蒔いた種は自分で刈り取ってください!」
「無為な殺戮はエルフの主義に反する!」
ああ、もう! 勝手ですね!
私は杖に魔力を注ぎながら六つの魔術陣を展開し、詠唱します。
「〝天は隠れて地に満ちる。世界は閉ざされ全てを見失え――迷霧〟」
五感を鈍らせ、魔力探知を妨害する霧を発生させます。
「ぐっ」
事前に準備をしていなかったため、魔術の発動による情報負荷が大きくなり、頭痛が襲ってきます。
それを堪えて、霧を操作して数千を超えるカニの群れ全てを霧で覆います。
「セイラン、走り抜けてください!」
「ああ!」
セイランが豪速で平原を疾駆しました。十分くらいして立ち止まります。
私を降ろしてふぅ、とため息を吐いたセイランが後ろを見やります。
「……ここまでくれば流石にもう大丈夫だろう」
「そういうのを『ふらぐ』というらしいですよ」
「どこの言葉だ?」
「師匠の言葉です」
魔力探知をします。
「……一応、探知範囲内にはいないようですね」
「そうか。なら、ここでカニパーティーをするか」
そう言って、セイランは左手に持っていた巾着袋から、色々なカニを取り出しました。その中にはキラキラと輝く五十センチメートルほどのカニが三匹いました。
「……セイラン? このカニは?」
「ん? ああ、星屑蟹だ。月蟹には及ばないが、美味いらしいと姉さんたちが言っていてな。一度食べてみたかったのだ。特に足を生で食うのが絶品だとかで――」
「いや、そうじゃなくて、それって月蟹のすぐ近くにいたやつですよね」
「そうだ。月蟹の子どもだ。群れで行動するんだ」
「えっ」
「ん?」
顔を見合わせます。
私の胡乱な目に気がついたのか、セイランは安心しろと言わんばかりに頷きます。
「大丈夫だぞ。問題ない」
「何が」
「月蟹の数だ。そもそもその地域に一匹しかいないのだ。特別なフェロモンを出していてな。自分が死ぬまで他の星屑蟹が成体にならないようにしているのだ。そしてその月蟹が死ぬと、ある一匹の星屑蟹が月蟹となって同様のフェロモンを出す」
セイランはニッと笑いました。
「つまり、原理的に星屑蟹は残り一匹になるまで狩っても問題ないというわけだ。あと、ギルドの規約では星屑蟹の狩猟を禁止してはいなかった――」
「そういうことじゃないんですよ! どう考えても、その星屑蟹もあのカニたちの保護対象ですって! 絶対に私たちを血眼に探してますよ!」
「だ、大丈夫だろう。所詮カニだ。災害級でもないし、アタシたちを見つけることはできないはず。それに見つかっても今回みたいに逃げ切れるだろう。うん」
「それを『ふらぐ』って言うんですよ! まったく」
深々とため息をつきました。
とはいえ、既に狩ってしまったものは仕方ありません。喰らって糧とするだけです。
ということで、カニパーティー!
丁寧に下処理をして、焼いたり茹でたりして食べます。
「うまっ! なんですか、これ! ちょー美味しいです!」
星屑蟹のミソも美味しかったですが、そこに清酒を入れて火であぶるとめっちゃ美味しいです。
おでん屋の小人から甲羅酒はとても美味しいとは聞いていましたけど、ここまで美味しいとは。
「グフウ! これ食えこれ食え! 星屑蟹を生足だ! ちょー美味いぞ!」
「いただきます!」
ん! 美味い! 舌の上でとろけてしまうのかと思うほど柔らかで、それでいて味が濃厚です。ほっぺたとおひげがとろけ落ちてしまいそうです。
なんか、凄く気分がよくなってきました。
「アッハッハッハ~! 美味い美味い~! アタシも酒飲ませてくれ~!」
「だめですよ~。また暴れまわって周りに危害が及んでしまいます~」
「今はお前しかいないのだから、いいだろう~!」
「……もうしょうがないですね~。ちょっとだけですよ~」
ふわふわとした気分でセイランに甲羅酒を渡します。
「「かんぱ~い!」」
肩を組んで笑いながら、カニパーティーをしました。
Φ
「ッ」
ズキズキと痛む頭を抑えて飛び起きました。
九つの月の位置を確認した限り、そう時間は経っていないようです。せいぜい十分ほど。
隣にで大の字で寝ていたセイランを急いで起こします。
「セイラン。セイラン、起きてください! ヤバいです!」
「ん……あともうすこ……ッ!」
むにゃむにゃと口を動かしたセイランですが、次の瞬間飛び起きました。
「アタシたち、寝ていたのかッッ!」
「そのようです」
いくらカニパーティーで気分が高揚していたとはいえ、魔境で結界も見張りもたてずに寝るほど気を抜いていたわけではありません。
「……どうする、グフウ?」
「どうもこうも逃げるに決まっているでしょう」
「だよな」
私たちの周りには沢山のカニがいらっしゃいました。
たぶんですが、星屑蟹です。あれが発する匂いか何かでゆっくりと眠らされたのでしょう。途中でふわふわした気分になっていたのはそれが原因です。
そして眠っている間に他のカニたちが私たちを囲ったというわけです。
近くに転がった酒瓶や鍋など、カニパーティーの残骸を見やりながら、杖を握ります。
「準備はできていますか?」
「ああ。もちろんだ」
私は六つの魔術陣を展開し、詠唱します。
「〝天は隠れて地に満ちる。世界は閉ざされ全てを見失え――迷霧〟」
霧を発生させます。
同時にカニたちが襲ってきますが、素早く酒瓶などのゴミや鍋などを巾着袋に突っ込んだセイランが私を小脇に抱えて高く跳びます。
「〝大地の楔よ。我を解き放て――浮遊〟。〝風の衣よ。自由の翼を与え給え――飛翔〟」
私は飛行魔術を行使して空中に浮かび、セイランは風の魔法で空中に立ちます。
空中にいればカニたちが襲ってこない……なんてことはありません。まして、〝迷霧〟が二度も通用するほど生易しくもありませんでした。
彼らは一瞬で霧を吹き飛ばして自分たちの体を使って巨大な柱を作り、それをよじ登って私たちへと迫ってきます。
「セイランが『ふらぐ』を建てたせいです。恨みますよ」
「悪いって。謝る。だが、星屑蟹は美味かっただろう?」
「……まぁ」
私たちは執念深く追いかけてくるカニから夜明けまで逃げ続けました。
「エルドワ旅団に指名依頼がきています」
冒険者ギルドに行き、炎の針を生やしたハリネズミの素材の査定をしてもらっていると、ある女性職員にそう言われました。
「これが終わったら向かいます」
「分かりました」
査定を終え、職員に声をかけました。個室に案内され、指名依頼、つまりメモリからの依頼の具体的説明をされます。
「――ということですが、お受けしますか?」
「はい」
「ああ、もちろん」
正式に依頼を受注し、準備をします。
「地図を見た限り、一ヵ月ほどの旅になりそうだな。しかも、街にはあまりよれなさそうだ」
「肉は現地調達にしますか?」
「干し肉は買っておこう」
パンと干し肉、お酒を買い込みます。宿に戻り、荷物を整理しました。
「セイラン。そっちの巾着袋に食料入りますか?」
「まだ少し空きはあるが、入らないのか?」
「結構パンパンで」
セイランが見た目よりも多くの物が入る魔術を組み込んであるトランクの中身を覗いてきます。呆れたようにため息を吐きました。
「酒に魔法書と魔術具だらけじゃないか。旅の身なのだ。もっと断捨離しろ。酒と魔法書はともかく、魔術具は捨てろ。殆ど失敗作だろう。捨てろ」
「失敗作を捨てるなんてありえません!」
暇さえあれば作っている魔術具。その殆どは失敗作です。想定とは違う性能を発揮するものばかりで、役に立つか立たないかでいえば彼女のいう通りガラクタなのでしょう。
しかし、その失敗こそが魔術の価値なのです。
「ったく。この依頼が終わったら、断捨離するからな」
「嫌です! なら、新しいトランクの魔術具を作りますよ!」
「そう簡単に作れる物ではないだろう」
「作ってみせます!」
セイランの巾着袋に食料を押し付けました。
そして翌日、王都を出発します。
目指すは王都の南にある魔境、クラッベ平原の奥地です。
Φ
九つの月が照らす夜の平原。
「セイランのバカ! アホ! 枯れ葉っぱ!」
「なんだとっ!」
私たちは物凄い数のカニの大群に追いかけられていました。体長四メートルあるカニから、三センチメートルほどの小さなカニまで、ぱっと見た感じ数千匹以上はいます。
「ホント、マジで、なにしてくれてるんですかっ!」
「あ、アタシは今日の食料を調達しようとしただけで! だいたい、お前が美味い甲羅酒飲みたいっていうからっ!」
「私のせいにしないでください! そこらカニで十分だったはずです! なんであのカニを狙ったんですか!」
「だ、だってカルキオーノだぞ! 世界一美味いと言われている月蟹だぞ! 生で食いたいに決まっているだろう!」
「葉っぱはなんで生食になると後先考えなくなるんですかっ!」
王都を出て一週間。早足で移動した事もあり、既にクラッベ平原にたどり着いていました。
そして平原の奥を目指して四日ほど歩いていたのですが、この魔境平原は多種多様のカニの魔物が多く生息していました。
じゃあ、せっかくだしカニパーティーでもするかということになり、色々な種類のカニの魔物を少しずつ狩っていたのですが、セイランがあるカニの魔物に手を出したのです。
体長二メートルほどのそのカニ、月蟹カルキオーノは月光の如く美しい甲羅をもち、他のカニたちに守られていました。姫ですね。
明らかに手を出せば、他のカニたちから反撃を貰うのは必至でした。
なのに、この葉っぱは手を出したのです。バカです。
そして、この結果。怒り狂った多種多様のカニの魔物たちに襲われていました。
触れると爆発する泡や高圧縮して放たれた水など、カニたちが繰り出す攻撃を避けます。
「ひっひぃ!! 追い付かれます!」
「ドワーフは本当に足が遅いな!」
「遅くありません! 足が短くて、移動に少し時間がかかるだけです!」
「それを遅いと言うんだ! チッ、追い付かれる。グフウ、我慢しろ!」
「おわっ」
セイランが私を右脇に抱えました。
「お、重っ」
「そりゃあ当り前ですよ! 貴方と同じくらいの体重はありますって」
「アタシはこんなに重くないぞ! 本当だぞ! 重くないぞ!」
「そんな虚勢はいいですから、もっと早く走れないのですかっ?」
「無茶言うな! っというか、こういう時こそお前の魔術だろう! どうにかならないのか!?」
「蒔いた種は自分で刈り取ってください!」
「無為な殺戮はエルフの主義に反する!」
ああ、もう! 勝手ですね!
私は杖に魔力を注ぎながら六つの魔術陣を展開し、詠唱します。
「〝天は隠れて地に満ちる。世界は閉ざされ全てを見失え――迷霧〟」
五感を鈍らせ、魔力探知を妨害する霧を発生させます。
「ぐっ」
事前に準備をしていなかったため、魔術の発動による情報負荷が大きくなり、頭痛が襲ってきます。
それを堪えて、霧を操作して数千を超えるカニの群れ全てを霧で覆います。
「セイラン、走り抜けてください!」
「ああ!」
セイランが豪速で平原を疾駆しました。十分くらいして立ち止まります。
私を降ろしてふぅ、とため息を吐いたセイランが後ろを見やります。
「……ここまでくれば流石にもう大丈夫だろう」
「そういうのを『ふらぐ』というらしいですよ」
「どこの言葉だ?」
「師匠の言葉です」
魔力探知をします。
「……一応、探知範囲内にはいないようですね」
「そうか。なら、ここでカニパーティーをするか」
そう言って、セイランは左手に持っていた巾着袋から、色々なカニを取り出しました。その中にはキラキラと輝く五十センチメートルほどのカニが三匹いました。
「……セイラン? このカニは?」
「ん? ああ、星屑蟹だ。月蟹には及ばないが、美味いらしいと姉さんたちが言っていてな。一度食べてみたかったのだ。特に足を生で食うのが絶品だとかで――」
「いや、そうじゃなくて、それって月蟹のすぐ近くにいたやつですよね」
「そうだ。月蟹の子どもだ。群れで行動するんだ」
「えっ」
「ん?」
顔を見合わせます。
私の胡乱な目に気がついたのか、セイランは安心しろと言わんばかりに頷きます。
「大丈夫だぞ。問題ない」
「何が」
「月蟹の数だ。そもそもその地域に一匹しかいないのだ。特別なフェロモンを出していてな。自分が死ぬまで他の星屑蟹が成体にならないようにしているのだ。そしてその月蟹が死ぬと、ある一匹の星屑蟹が月蟹となって同様のフェロモンを出す」
セイランはニッと笑いました。
「つまり、原理的に星屑蟹は残り一匹になるまで狩っても問題ないというわけだ。あと、ギルドの規約では星屑蟹の狩猟を禁止してはいなかった――」
「そういうことじゃないんですよ! どう考えても、その星屑蟹もあのカニたちの保護対象ですって! 絶対に私たちを血眼に探してますよ!」
「だ、大丈夫だろう。所詮カニだ。災害級でもないし、アタシたちを見つけることはできないはず。それに見つかっても今回みたいに逃げ切れるだろう。うん」
「それを『ふらぐ』って言うんですよ! まったく」
深々とため息をつきました。
とはいえ、既に狩ってしまったものは仕方ありません。喰らって糧とするだけです。
ということで、カニパーティー!
丁寧に下処理をして、焼いたり茹でたりして食べます。
「うまっ! なんですか、これ! ちょー美味しいです!」
星屑蟹のミソも美味しかったですが、そこに清酒を入れて火であぶるとめっちゃ美味しいです。
おでん屋の小人から甲羅酒はとても美味しいとは聞いていましたけど、ここまで美味しいとは。
「グフウ! これ食えこれ食え! 星屑蟹を生足だ! ちょー美味いぞ!」
「いただきます!」
ん! 美味い! 舌の上でとろけてしまうのかと思うほど柔らかで、それでいて味が濃厚です。ほっぺたとおひげがとろけ落ちてしまいそうです。
なんか、凄く気分がよくなってきました。
「アッハッハッハ~! 美味い美味い~! アタシも酒飲ませてくれ~!」
「だめですよ~。また暴れまわって周りに危害が及んでしまいます~」
「今はお前しかいないのだから、いいだろう~!」
「……もうしょうがないですね~。ちょっとだけですよ~」
ふわふわとした気分でセイランに甲羅酒を渡します。
「「かんぱ~い!」」
肩を組んで笑いながら、カニパーティーをしました。
Φ
「ッ」
ズキズキと痛む頭を抑えて飛び起きました。
九つの月の位置を確認した限り、そう時間は経っていないようです。せいぜい十分ほど。
隣にで大の字で寝ていたセイランを急いで起こします。
「セイラン。セイラン、起きてください! ヤバいです!」
「ん……あともうすこ……ッ!」
むにゃむにゃと口を動かしたセイランですが、次の瞬間飛び起きました。
「アタシたち、寝ていたのかッッ!」
「そのようです」
いくらカニパーティーで気分が高揚していたとはいえ、魔境で結界も見張りもたてずに寝るほど気を抜いていたわけではありません。
「……どうする、グフウ?」
「どうもこうも逃げるに決まっているでしょう」
「だよな」
私たちの周りには沢山のカニがいらっしゃいました。
たぶんですが、星屑蟹です。あれが発する匂いか何かでゆっくりと眠らされたのでしょう。途中でふわふわした気分になっていたのはそれが原因です。
そして眠っている間に他のカニたちが私たちを囲ったというわけです。
近くに転がった酒瓶や鍋など、カニパーティーの残骸を見やりながら、杖を握ります。
「準備はできていますか?」
「ああ。もちろんだ」
私は六つの魔術陣を展開し、詠唱します。
「〝天は隠れて地に満ちる。世界は閉ざされ全てを見失え――迷霧〟」
霧を発生させます。
同時にカニたちが襲ってきますが、素早く酒瓶などのゴミや鍋などを巾着袋に突っ込んだセイランが私を小脇に抱えて高く跳びます。
「〝大地の楔よ。我を解き放て――浮遊〟。〝風の衣よ。自由の翼を与え給え――飛翔〟」
私は飛行魔術を行使して空中に浮かび、セイランは風の魔法で空中に立ちます。
空中にいればカニたちが襲ってこない……なんてことはありません。まして、〝迷霧〟が二度も通用するほど生易しくもありませんでした。
彼らは一瞬で霧を吹き飛ばして自分たちの体を使って巨大な柱を作り、それをよじ登って私たちへと迫ってきます。
「セイランが『ふらぐ』を建てたせいです。恨みますよ」
「悪いって。謝る。だが、星屑蟹は美味かっただろう?」
「……まぁ」
私たちは執念深く追いかけてくるカニから夜明けまで逃げ続けました。
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プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
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