黒の瞳の覚醒者

一条光

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番外編~フィオ・ソリチュード~

アリス

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「私もここで寝るの……?」
「ええそうですよ」
「そう……」
「ってアリスちゃんなにしてるんですか……」
「は? 寝ていいんでしょ?」
 絨毯の隅で丸くなったアリスに顔を曇らせたリオが問いかける。
 アドラでは私たちは人間じゃなかった。
 私は他より多少マシな扱いだったかもしれないけど、それでもまともな人間の生活なんてしてなかった。
 だから行動の意味は分かるけど、分かるけど……。

「来て」
 いちいちリオ達の顔を曇らせるのは許せない。
「ちょ、どこ行くのよ!? やっぱり外なの?」
「ワタルの所に行く」
「はぁ!? なんで男の部屋に――嫌よっ」
「うるさい」
 布団で簀巻きにして最後に口を塞ぐ。
「ふぃ、フィオちゃん何してるんですか!?」
「大丈夫、布団で包んだから寒くない」
「い、いえそういう問題ではなくて……」
「ワタルの所で寝る」
 戸惑うリオ達をおいて簀巻きを引き摺りながら部屋を出た。

「むぐーっ!」
「ああいうの、やめて、混ざり者の当たり前はみんなにとって当たり前じゃない。あなたの言動でいちいちみんなを悩ませないで」
「…………」
「みんな優しいからあなたの言動でいちいち私たち混ざり者の過去を考える、余計な気遣いをさせないで」
 暴れてた簀巻きは大人しくなって叫ばなくなった。
 
 ワタルの部屋に着くと簀巻きを絨毯の上に転がす。
 布団は重ねて巻いたし寒くはないはず……ワタル起きたら怒るかな……?
 でも他に思いつかなかった。
 まだ何するか分からないし、寝る時くらいは拘束しておく方が楽。
 簀巻きを覗き込むとアリスは赤い顔をしてぎゅっと目を閉じて耳の辺りまで布団に潜り込んでる。
 息苦しくはないはずだけど……少しだけ緩めて調整し直しておく。
 ワタルが起きる前に起きて解けばいいよね。
「まぁ、いいか」
 私がベッドに上がり込んだ時の軋んだ音に簀巻きが跳ねた。
「なに?」
「むぐむぐ、むぐー」
「分からない」
 それだけ言って布団に潜り込んだ。
 ここに来るまでの廊下が寒かったからワタルの熱が充満した布団の中は心地良い。
 安心する……これならすぐ寝れそう――。

「なにこれ……」
「主ぃ~……そんなとこをまさぐっては……」
 ベッドの中には既にクーニャが潜り込んでた。
 この手触り……裸なんだけど……まぁいつもの脱ぎ癖だろけど。
「主ぃ~」
 むぅ、渡さない。
 クーニャと取り合うようにしてワタルにしがみついてるうちに意識は眠りに落ちていった。

「主、寒い。布団を戻せ」 
 底冷えするような寒さに襲われてあたたかい微睡みから覚めた。
 起きたワタルが布団をはぐったみたいでクーニャは熱を求めてワタルの腰に回した腕に力を込めてる。
「クーニャ、なんで全裸なんだ?」
「何かを身に着けていると眠れぬのでな、寝る時くらいは脱いでも良いとリオにも言われておる」
 言ってたけど、ワタルの部屋ではするなとも言ってたんだけど……。
「それに、主は女子の裸、好きであろう?」
「……嫌いとは言わないが、全部脱げばいいってものじゃない――じゃなくて起きたんだから何か着ろ」
 着ろと言いつつもワタルの視線はクーニャの体に向けられてる。
 なんかすごくムカつく、クーニャの裸を見るくらいなら私を見て欲しい。

「ワタル、ならこれでいい?」
「ぶっ!? なんでフィオまで脱いでだ!? ……そうだな、うん。ニーソを残してるのはいいな、でも服着ような? 風邪ひくし目のやり場に困るから」
 そう言うとワタルは掛け布団で私を包み込んだ。
 勝った。
 クーニャの時より顔が赤くなったし視線は忙しなく彷徨ってるし褒められた。

「というかフィオ、アリスはどうした? 寝る時はそっちに居るって話だったろ?」
「主よ、そこに変な物が転がっておる」
 しまった……簀巻き忘れてた。
「むぐーっ、んむーっ!」
「…………おはよ、何やってるんだ? 趣味なの?」
 ワタルは困惑しながらも挨拶をして猿轡を外してる。
 怒るかな……。
「どんな趣味よ!? 自分で縛れる訳ないでしょ! 寝てたらフィオに簀巻きにされてここに連れてこられたのよ!」
「フィオ…………」
 頭痛でもしたように頭に手を当ててワタルが視線を送ってくる。
 真っ直ぐ見れなくて目を逸らした。

「ワタルの部屋に行くって言ったら嫌って言ったから……私だって好きで連れてきたんじゃない。一緒に居ないと駄目ってワタルが言うから……仕方なく」
 あのままリオ達と一緒に居たら毎回みんなの顔を曇らせる事になってた。
 ワタルが連れてきたんだしある程度の常識を教え込ませてほしい。
「はぁ……でも縛り上げることないだろ。アリスはもう敵じゃないんだぞ?」
「……でも、信用出来ない。それに嫌い」
 簡単に信用なんて出来ない、警戒させる為に私を付けてるんだからやり方くらい私の自由、寝てる時に何するか分からない、攻撃すればワタルが怒る、なら何も出来ないように縛ってしまうのがお互い負担はない。
 寒くないようにちゃんと布団を重ねて巻いたし。

 簀巻きから開放されたアリスは布団を被って部屋の隅へ逃げていった。
「アリス~? 元気出せ……そうだ、今日は散歩がてら町を観光してみるか?」
「観光…………?」
「遊びに行こうってこと」
「遊びに? そんなの許されるわけ……そうか、ここはアドラじゃないんだった…………」
 一瞬ワタルの表情も曇ったけど、それを振り払ってこっちに視線を向けてきた。

「フィオ達も行くか?」
 やっぱりそうなるよね……ワタルと出掛けるのは嬉しいけど、アリスあれと一緒は……。
「主が行くなら儂は行くぞ」
 クーニャもここでの生活にはまだ馴染みがないからかすごく嬉しそうに即答した。
「私は…………」
 切っ掛けさえあれば仲良くなれるんじゃないかと思って誘ってみたがフィオが見せたのは不満そうな渋い顔、視線を俺とアリスの間で彷徨わせる。この顔をする理由にやきもちも含まれているんだろう。やきもちを妬かれるのは嫌じゃないがアリスと打ち解けさせたい今は困りものだな。
「……行く」
 迷った挙句に視線を俺へと向け、手を取ってそう言った。チラリとアリスを窺うと嬉しそうに笑ってる。俺が見ている事に気が付いて慌てて布団を被りなおしてそっぽを向いた。
「ほれほれ、そっぽ向いてないで出掛けるぞ」
「ひゃぁ!? ちょ、ちょっと、引っ張らないで。一人で歩けるから手を握るなぁ」
 文句を言いつつも幾分嬉しそうな顔をするアリスを連れて駆け出したワタルを追って部屋を出た。

 町に繰り出したものの何か目的があったわけじゃないみたいで適当に歩き回って目についた屋台やお店に入って買い食いを繰り返す。
 アリスは終始戸惑ってたけど今は渡されたものを素直に受け取って口へ運んでる。
「いや~、冬と言ったら肉まんやおでんだよなぁ。こっちでこれだけ美味い物があるとは思わなかった」
「これは美味いな。ぷるぷるとろとろでほどよい食感がなんとも……人間とはこれほど素晴らしい物を作り出す種族であったか」
 串に刺して煮込んだやつを気に入ったみたいでクーニャさっきから何度もワタルにねだって屋台とワタルの間を行き来してる。

「大袈裟だな。アリスはどうだ?」
「悪くない。でもさっきのくれーぷ? の方が甘くて美味しかった」
 アドラで混ざり者が甘味なんて口にすることはほぼ無い。
 自生してる果実を食べるくらい、だからかアリスは甘いものを食べた時すごく嬉しそうな顔をしてた。 
 ワタルの視線に気付くとなんでもないふりを装うけど、それでも口に運ぶ手が止まる事はなかった。

「そっか、なら次はお菓子屋を探すか。日本から持ってきたグミも底を突いたし、フィオもグミ要るだろ?」
「ん。いっぱい欲しい」
 そういえばそうだった、日本あっちに行った時に沢山買ってくれたけど私もワタルも一度に結構頬張るから減りが早くてこの前底をついたんだった。
 日本のほど美味しいのがあるか分からないけど買い置きは沢山ほしい。

 むっ……アリスが変な顔して見てくる……子供っぽいって思われてる?
 あの味と食感を知ったらアリスだってそんな顔してられなくなる。
「グミってのはフィオの好物の菓子なんだ。おーい、クーニャー、次はお菓子屋を探すぞー」
「なぬ!? 待て主、儂はまだおでんを食べたい」
「あんまり買い占めると屋台のおっさんが困るだろ。気に入ったならリオ達に頼んでみたらいいだろ」
「ぬ~……仕方ない。迷惑を掛けて主に変な評判が立っても困るからな、この一串で最後にしよう」
 最後にするって言いながらも串を銜えて屋台の前から動こうとしないとドラゴン……リオ達が作ったらもっと美味しくなるからって言い聞かせてワタルがクーニャを引き摺って歩き出した。

「ほれアリス」
「なによこれ?」
「何ってお小遣いだけど……あ、少なかったか?」
 違う、というか多過ぎる。
 生活に必要なものは大体城から支給されてて使う機会があんまりないからって金貨をそんなに……買い食いさせるだけなら銀貨を少しで足りるのに、早速甘やかしてる……。
 まぁワタルが貰ってるものだから使い方は自由だけど、なんか釈然としない。

「ん~、焼き菓子とかは多いのにグミってあんまないんだな、聞いた所でまだ行ってないのはあと一軒だな……あるといいな」
「ん」
 グミは欲しいけどワタルと色んな所に出歩けるのも楽しかったから買えなくてもいいかも。

「フィオ……いくらなんでも買い過ぎだろ」
「このくらい普通」
 何軒も回ったのになかなか置いてる店がなかったのが悪い、みんなと一緒に食べたいしせっかくあったんだからいっぱい買っておかないと困る。
 戦利品を袋から出して一つ口に放ってみる。
 ん~……味は悪くないけど、弾力とかは日本のやつの方がいいかも、やっぱり日本はなんでもすごい。
 リオ達ってグミ作れるかな……。
「確かにこれは美味しいからこれくらい普通かも」
「! 分かるの?」
 グミ好き仲間がこんなとこに――。
「う、うん。いつでも食べれるように手元に置いておきたいって思うわ」
 でもアリスこれか……。

「次はどこに行くの?」
「日本区画だな。美緒たちの住むとこは粗方完成したらしいから見に行こうと思ってな」
 美緒たちの家完成したんだ。
 あの村の人たちの生活が落ち着けばワタルの心配事も少しは減るよね。
「にほん区画ってなに?」
「俺たち異界者の国が日本な、その区画は日本建築が並んでて異界者とかその子孫が住む事になってる。そこに友達が居てな」
 アドラに居る時は異界者としか知らなかったから日本って言葉を不思議そうに咀嚼してる。

 町を歩いて進んでいくと町並みが変化してワタルのおばあさんの家に似た建物が一気に増えてきた。
 本当に日本に来たみたい……ヴァーンシアでこんな景色を見るなんて不思議。
「変わった形の建物ね。異世界はこういう建物が多いの?」
「ん~、今はこんな感じの建物はまばらだな。残ってる所には残ってるだろうけど、今は――ほぶっ!?」
 町を眺めながら歩いているとワタルの頭に雪玉が降ってきた。
 あの三人の悪戯か……美緒も元気になったのかな? ワタルが喜ぶからそうだといいな。

「あっはっはっはっはっはっは、大当たり~。航おかえりー! 強いくせにこんなのも避けられないの~?」
「雪積もってるのに屋根なんか登ったら危ないぞー」
「平気平気~。よっと、ほらね」
 美空は二人を抱えて屋根から飛び降りて問題ないとばかりに胸を張ってる。
「知らない娘連れてる……航って女好きだよね」
 ワタルは不本意そうにしてるけどその通りだと私も思う、最初は私とリオだけだったのにいつの間にか……まぁ家族は嬉しいけど。

「やっぱりそうなんだ。あなたの知り合いって女ばかりだからそうだと思った」
 何を勘違いしたのかアリスは身を守るように後退った。
「お兄さん私たちと一緒に雪遊びしませんか?」
「いいけど、どう分けるんだ?」
「そっちの人は普通の人ですか?」
「アリスはフィオと同じくらいだとも思ってくれ」
 む……アリスこれと同じくらいとは心外、あの時の動きとスヴァログを捕獲した事から考えれば確かに強いとは思うけど、それでも私はこんなのに負けない。

「なら分けないとですね。私と美緒ちゃんが交互に指名していくってことでどうですか?」
「まぁそれでいいか」
 絶対ワタルと同じ組に――。
「美緒と愛衣を狙う場合はちゃんと加減するように。特にフィオとアリスな」
 とか思ってたら見事に分けられてしまった……。
 こうなったらアリスを速攻で倒して私の方が強いって証明する!
「なんでこんな子供の遊びに付き合わないといけないのよ」
「まぁまぁ、遊びに出掛けたんだからこういうのもありだろ」
「自分だって子供じゃん。背なんて私の方がちょっと高い位だし」
 そういえば……私も三人より背が小さい……年下なのに。
「子供じゃないわよガキんちょ」
「あたし達だってもう子供じゃないし!」
 ッ! 久々に可愛いじゃなくて小さい子供って馬鹿にされた気がして雪玉をワタルに投げつけた。
「ぐはっ!? げほっげほっ……おいまだ始まってないぞ! というかアリスは同じチームだろうが!」
『なんかムカついた』
 アリスと声が重なったのもムカついた。
「勝った方はお兄さんにお願いを聞いてもらえるという事で開始~!」
 っ!? ワタルがお願いを聞いてくれる!?
 勝つ!

「チッ」
 駆けながら雪を掴んで握り込む。
 なかなかよく動く……確かにこれなら私の後任をしててもおかしくはない。
 それでもまだ動きが甘いッ!
 屋根の上を駆けるアリス目掛けて雪玉を同じ軌道で三連射する。
「なかなかやる」
 振り返る事なく雪玉を躱してかわりを投げ返してくる。
 でもこの程度問題なく躱せる。

「食らいなさい、乱れ雪花」
 ひときわ雪が積もった屋根に陣取って雪玉を無数に投げてくる。
「三段撃ち」
 数は多いけど私に当たる軌道は少ない、連射した一撃目で被弾するものを排除して二撃目三撃目でアリスを狙ったけど同じように対応して潰された。
 でもそれを狙ってた。
 握りを甘くして衝突した瞬間激しく弾けた雪に紛れてアリスに迫って――。

「はいそこまで、お前らやり過ぎだ。どうすんだこれ」
 あとちょっとでアリスを仕留める、その刹那にワタルが私たちの襟首を掴み上げた。
 そしてようやく周りに目を向けて気がついた。
 完成した綺麗な町並みが雪玉で穴ぼこだらけに…………。
「ワタル……ごめんなさい」
「はぁ……よしよし、他の人たちにも謝りに行くぞ」
 もっと怒るかと思ったけど頭を撫でて謝りに行くように促された。

「ほら、アリスも行くぞ」
 声をかけられてアリスはびくりと跳ねた。
 あぁ……まぁ、混ざり者に与えられる罰を考えればあの怯え方は分かる。
 私は殆ど受けた事はないけど、鞭打ち、爪剥ぎ、罰を与える相手が悪ければ指を折られる。
 水責めをされて死んだって話も聞いた事がある。
「……怒、らないの? お仕置きは? ひぁ!?」
「たてたて、よこよこ、まるかいてちょん! はいお仕置き終わり。謝りに行くぞ」
 そんな話はワタルにしたことはないけど何かを察したのか少し笑うとアリスの頬を軽く引っ張る罰を与えた。
「…………こ、こんなのがお仕置き!? お仕置きってもっと殴るとか蹴るとか鞭打ちとかあなたの能力を使うんじゃないの?」
「そんな事するかよ。悪気があった訳じゃなくて遊んでただけなんだから……やり過ぎは反省してほしいが――って、どした?」
「……変な人、これだけ壊したら怒り狂って相応の罰を与えるのに」
 これだけ壊すような事をした事があるの……? そういえば初めて会った時も暴れてたような気がするけど、学習しない馬鹿なの……?

「なに笑ってるんだよ」
「私、笑ってる?」
「ああ、ちゃんと反省はしないとダメなんだぞ~。これでもちっとは怒ってるんだからな」
 甘い罰に笑顔が消えないアリスの頬をワタルがみょんみょんして遊んでる……むぅ、私にはしなかったのに。
「怖くない、それに痛くもないわ」
「怖くて痛いのが好みか?」
「そんな事ない! ……これでいい。これならいくらでも怒られてあげるしお仕置きだって受けるわ」
「あのなぁ……そもそも怒られたりお仕置きされるような事をすんなよ」
「あなたの手、優しい」
「ん?」
 たぶんワタルには聞こえない呟き……ワタルのばか、そんな事ばっかりしてたらどんどんアリスにとっても特別になっちゃう。
「わ、分かってるわよ。気を付ける、ごめんなさい。これでいいでしょ?」
「ああ、じゃあ家壊した事を謝りに行くぞ。壊したとこ直してもらわないと」
 工事をしてた覚醒者に頭を下げて回って壊してしまった所の修繕をしてもらった。
 小さな雪玉での損壊だったけど壊れた所が多くて結構怒られてその度にワタルも一緒に謝ってくれた。
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