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番外編~フィオ・ソリチュード~
変化
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「踏み込みが甘い、基礎的な速度も足りてない、ティナの能力は切る動作が必要になる、ならその動作は誰よりも速くないと簡単に後手に回る」
「む~、フィオより速くなんてそうそう出来ないわよ!」
「出来るようにする為の訓練」
「それはそうなのだけど……装備に頼るのは情けないけれど剣を新調した方がいいかしら……」
ワタルの訓練の後にティナの訓練を開始して一時間くらい、完封し続けてるせいかティナのやる気が落ちてきた。
「それは一つの手段、でも――」
「分かってるわ、地力を付けないと結局置いていかれるだけだもの、好きな人の為なのだからボヤいてばかりはいられないわね、もう一度お願い」
ティナは決して弱くはない、私から見た普通のエルフを基準にすれば今は中の上……? 多く見積もって上の下……?
エルフで一番強いのはナハトだろうからやっぱり今は中の上辺りかな。
怠け癖と経験不足が解消されれば戦闘に必要な感覚は鋭いからナハトにも十分追いつける。
「もっと判断を速く、跳ぶ前に移動先を決めてしまうなら消えるのはもっと速くないとダメ」
「分かってるっ」
距離を詰めようと踏み込んだ私から逃げる為に空間を切り裂いて跳んだ。
跳ぶ前に移動先を決めないといけない性質上不意打ち出来る位置は限られるし空間の裂け目に入ったらこっちの様子が見えないのも分かってる。
だからすぐに出て来ないなら距離を取る為の移動、そしてさっきティナが見てたのは……この辺りに――。
「きゃっ!? なんで移動先が分かるのよぉ……」
当たりをつけた場所を蹴り抜いた瞬間ティナが現れて受け身も取れないまま吹っ飛んだ。
「何か理由がない限りは消えた後は早く出た方がいい、ティナの視線から移動先を予測して待ち構えやすい、初見なら相手は戸惑うかもしれないけど何度か見たら対応はそんなに難しくない」
「うぅ……色々自信が無くなるわ」
「速度さえ上げれば問題ない」
「それってフィオより速くって事でしょう?」
「戦争に出てきた魔物は私より速かったってワタルが言ってた。なら最低でも私と同程度の剣速は出せないと駄目、じゃないと――」
「ワタルを危険に晒すかもしれないから留守番、よね……はぁ、ありがとうフィオ、今日はここまででいいわ、剣速を上げる為の素振りをしてから戻るから先に戻っていて」
「……大丈夫?」
「ええ、見ないふりをしていた問題点を指摘されてようやくやる気になったわ、何が何でもワタルの迷惑にならない水準まで上げてみせるわ」
「ん」
早く戻ろう、ティナの訓練に付き合ってたからアリスがずっとワタルと一緒だし。
急いでワタルの部屋に戻ったけど誰も居なかった。
私たちの部屋に居るのかな……?
アリスをみんなと仲良くさせようとしてるふしがあったし。
「リオ……? 何かあったの?」
私たちの部屋に戻ってみるとそこにはリオだけが居てベッドで蹲って涙を流してた。
「なんでも……ないんです」
違う、そんな事ない。
凄く苦しくて辛そう、ワタルの行方が分からなくなってる時とはまた違うけど、辛い思いをしてるのは分かる。
「私……何も出来ない……?」
リオはいつも傍に居てくれる。
私だってリオの為に何かしたい。
「……いいえ、傍に居てください」
リオは私を抱き寄せてきつく抱きしめてきた。
「どうしたの?」
「アドラに戻ってから……少し思い出してしまうようになってしまって……」
「何を……?」
「私の、住んでいた町の事です」
っ! そうだ、リオの町は盗賊が、私たちが襲った。
そして向かった村を同じ盗賊が襲ってた。
思い出さないはずがない。
「ごめん、なさい……」
「どうしてフィオちゃんが謝るんです? フィオちゃんは誰も殺してないんでしょう?」
「それでも私は盗賊だった、リオの町以外では殺しもした、誰かの平穏を壊す事に何も感じてなかった」
リオは言葉を返さず私を抱きしめる腕に力を込めた。
私は変わった。
でも過去は変わらない。
ワタルもリオも普通に――ううん、凄く大切に接してくれる。
でも私は……二人が想像もつかないほどの数を殺してる。
これは後悔……?
分からない、でも――ヴァイス達とやっていた事が、一緒に居た事が、今更凄く不快。
私は血に穢れてる、それでもみんなと一緒に居たい、ここに居たい、ここだけが私にとって唯一無二の大切な居場所。
私もリオの、みんなの傍に居たいよ。
私もリオを抱きしめ返した。
「でも今のフィオちゃんは違います。最初はワタルの為だけだったのかもしれないけど、でも今のフィオちゃんは誰かの為にも頑張れる娘ですから泣かなくてもいいんですよ」
「泣いて、ない……リオの方が泣いてる」
「今は悲しくて泣いてるんじゃないですよ、フィオちゃんが傍に居てくれるから――嬉し泣きです」
「私、も……」
しばらく私たちは抱き合ったまま泣いた。
「どうして一人で泣いてたの?」
ワタルなら私なんかよりもっと……。
「……戦争から帰ってからワタル思い詰めた表情をする事が増えていますから、あまり心配をかけたくなかったんです。ただでさえワタルは私が故郷を離れる事になったことを気にしていましたし……私、今は本当に幸せなんです。でもふと思い出して、きっと父も母も苦しんだはずです、なのに私だけ救われてこんなに幸せなんて――」
「良いに決まってる」
「でも……」
「私はお父さんもお母さんも分からない、でも大切な人の幸せを願うのが普通って分かるから、分かるようになったから、だから……えっと……リオに笑って欲しい」
「そうですね……生き残ったからには精いっぱい笑って生きていかないと心配させてしまいますよね、ありがとうフィオちゃん」
すごく穏やかな、私の大好きな笑顔だった。
「今日はこっちで寝るのね……」
「文句でもあるの?」
また簀巻きにしてしまいたいけどリオが駄目って言うから仕方なくアリスと同じベッドで寝る事になった。
こっちで寝るならリオの隣がよかったのに……。
「文句は、ないけど……また夜這いに行くとかだったら一人で行ってほしいわ」
『夜這い!?』
「フィオお前ワタルを襲ったのか!?」
「ズルいわフィオ! そういう事ならどうして私も誘わないのよ!」
「女子が男子を襲うなど……はしたないのじゃ! フィオもティナみたいに変態だったのじゃ!?」
「フィオさんまさか今までもワタル様の部屋に行っていたのはそういう……?」
アリスが変な事を言ったせいでナハトとティナに睨まれた。
「もうみなさんフィオちゃんがそんな事するはずないじゃないですか、いつもみたいにただ甘えてただけのはず――」
「でもフィオもそっちの角のも裸だったわ――」
「フィオちゃん? クーニャちゃん?」
リオが怖い…………。
「もうクーニャちゃんは何度言ったら分かるんですか! ワタルの前で脱いだら駄目って何度も言いましたよね!? フィオちゃんも結婚前の女の子が軽々しく裸を見せるなんて!」
「主のぬくもりを感じるには素肌の方が良いであろうが、主が催せば尚良いが――」
クーニャの馬鹿――。
「ク~ニャちゃ~ん?」
かつてないほどリオが怖い……普段なら張り合うなりしてくるティナとナハトも黙り込んで知らんぷりを決め込んでる。
「そういえば主は裸だけではつまらぬと言っておったな、主が催す服はあるか?」
「クーニャちゃんっ!」
「な、なんだ、ま、待て、よせ――」
その後深夜までクーニャはこっぴどく叱られた。
いつも通り一緒に寝てただけって分かってもらえたけど私も女の子の振る舞いについて色々言われた。
「はいアリスちゃん」
「このスープ何? 泥?」
朝の食卓でお味噌汁を目の前に出されたアリスが怪訝そうな顔をする。
少し睨むけどもうめんどくさくて私はさっさと朝食に手を付ける。
お味噌汁あったかい……今日のは貝のやつ、前に殻から外すのを手こずったせいか今日のは殻から外れた身だけが入ってる。
寒いからみんなもお味噌汁から手をつけててそれが余計にアリスを不思議がらせてる。
「泥じゃなくて味噌っていう日本の調味料を使った汁物だ。そういえばナハトも最初は泥とか言ってくれたな」
「わ、忘れてくれ、今では朝食に味噌汁が無いと調子が狂うくらいに馴染んでいるのだ」
あの時の事をからかわれたナハトは慌てて今はどれだけ日本食が好きか説明してる。
「そうよね~、特に寒い日はあたたまるし具材で風味も変わって色々楽しめるから私もお味噌汁は好きよ」
「アリスさんこちらの卵焼きも食べてみてください、たらこがぷちぷちで美味しいですよ」
見た事無い食べ物と混ざり者だとされる事のなかった対応にアリスは目を丸くしてる。
まだ戸惑ってるけど、それでもみんなの厚意をちゃんと受けようとしてる。
少しは警戒を緩めてもいいかな……?
「ねぇフィオ、ここの人間はみんなああなの……?」
「私はここしか知らないけどみんな優しい、混ざり者とか区別しない」
「そう、なんだ……私、ここに居ていいの?」
「…………あなたを押さえられるのは私かワタル、あとはナハトくらい、危険人物の居場所はここだけ、他所に行きたかったら早く普通を覚えて」
私はアリスが好きじゃない。
ワタルを殺そうとしたし、それがなくなっても今度はワタルがアリスを見るようになったりしたら面白くない。
でもきっとアリスはこの居場所のあたたかさに心を揺り動かされてる。
好きにしていいって言われたらここを選ぶ、それほどにワタル達との生活はアドラで生きてきた混ざり者には衝撃的で、あたたかくて、優しくて、心地良くて、魅力的な居場所――。
「普通を覚えたら……出て行かないと、いけないの……?」
「……知らない、自分で考えて」
これはやきもき、ワタルがアリスやクーニャを構うからもやもやしてる八つ当たり。
「私――混ざり者は人間の命令を聞くことばかりだった。だから、それ以外の事をしたフィオが羨ましくて許せなかった」
「……」
「でもここは、私も人間にしてくれて……フィオが軍を抜けた理由がちょっと分かったわ」
抜けた理由は任務の失敗だけど、巡り巡ってワタル達に出会えたから間違いではないのかな……。
「私ここ好きよ、あいつはもう戦わなくていいって言ってたけど……私戦うことしか、殺す事しか知らない、だから――ここを守る為に戦いたい、どうせあなた達また魔物と戦ったりするんでしょ?」
「……魔物が襲ってきたらワタルは殲滅の為に動くと思う」
ワタルはすぐに危険に飛び込んで行ってしまうから、アリスが本当にワタルの為に戦うなら良い戦力なるけど……。
「そう、なら私も手伝うわ、せ、世話になりっぱなしって変な感じだし、私に出来るのはそのくらいだもの」
「そう……」
ワタルはどう思うんだろう……?
アリスを普通の人間にしたかったみたいだけど……あぁでも、混ざり者が守りたいなんて思うほど普通になったのを喜ぶのかな。
「む~、フィオより速くなんてそうそう出来ないわよ!」
「出来るようにする為の訓練」
「それはそうなのだけど……装備に頼るのは情けないけれど剣を新調した方がいいかしら……」
ワタルの訓練の後にティナの訓練を開始して一時間くらい、完封し続けてるせいかティナのやる気が落ちてきた。
「それは一つの手段、でも――」
「分かってるわ、地力を付けないと結局置いていかれるだけだもの、好きな人の為なのだからボヤいてばかりはいられないわね、もう一度お願い」
ティナは決して弱くはない、私から見た普通のエルフを基準にすれば今は中の上……? 多く見積もって上の下……?
エルフで一番強いのはナハトだろうからやっぱり今は中の上辺りかな。
怠け癖と経験不足が解消されれば戦闘に必要な感覚は鋭いからナハトにも十分追いつける。
「もっと判断を速く、跳ぶ前に移動先を決めてしまうなら消えるのはもっと速くないとダメ」
「分かってるっ」
距離を詰めようと踏み込んだ私から逃げる為に空間を切り裂いて跳んだ。
跳ぶ前に移動先を決めないといけない性質上不意打ち出来る位置は限られるし空間の裂け目に入ったらこっちの様子が見えないのも分かってる。
だからすぐに出て来ないなら距離を取る為の移動、そしてさっきティナが見てたのは……この辺りに――。
「きゃっ!? なんで移動先が分かるのよぉ……」
当たりをつけた場所を蹴り抜いた瞬間ティナが現れて受け身も取れないまま吹っ飛んだ。
「何か理由がない限りは消えた後は早く出た方がいい、ティナの視線から移動先を予測して待ち構えやすい、初見なら相手は戸惑うかもしれないけど何度か見たら対応はそんなに難しくない」
「うぅ……色々自信が無くなるわ」
「速度さえ上げれば問題ない」
「それってフィオより速くって事でしょう?」
「戦争に出てきた魔物は私より速かったってワタルが言ってた。なら最低でも私と同程度の剣速は出せないと駄目、じゃないと――」
「ワタルを危険に晒すかもしれないから留守番、よね……はぁ、ありがとうフィオ、今日はここまででいいわ、剣速を上げる為の素振りをしてから戻るから先に戻っていて」
「……大丈夫?」
「ええ、見ないふりをしていた問題点を指摘されてようやくやる気になったわ、何が何でもワタルの迷惑にならない水準まで上げてみせるわ」
「ん」
早く戻ろう、ティナの訓練に付き合ってたからアリスがずっとワタルと一緒だし。
急いでワタルの部屋に戻ったけど誰も居なかった。
私たちの部屋に居るのかな……?
アリスをみんなと仲良くさせようとしてるふしがあったし。
「リオ……? 何かあったの?」
私たちの部屋に戻ってみるとそこにはリオだけが居てベッドで蹲って涙を流してた。
「なんでも……ないんです」
違う、そんな事ない。
凄く苦しくて辛そう、ワタルの行方が分からなくなってる時とはまた違うけど、辛い思いをしてるのは分かる。
「私……何も出来ない……?」
リオはいつも傍に居てくれる。
私だってリオの為に何かしたい。
「……いいえ、傍に居てください」
リオは私を抱き寄せてきつく抱きしめてきた。
「どうしたの?」
「アドラに戻ってから……少し思い出してしまうようになってしまって……」
「何を……?」
「私の、住んでいた町の事です」
っ! そうだ、リオの町は盗賊が、私たちが襲った。
そして向かった村を同じ盗賊が襲ってた。
思い出さないはずがない。
「ごめん、なさい……」
「どうしてフィオちゃんが謝るんです? フィオちゃんは誰も殺してないんでしょう?」
「それでも私は盗賊だった、リオの町以外では殺しもした、誰かの平穏を壊す事に何も感じてなかった」
リオは言葉を返さず私を抱きしめる腕に力を込めた。
私は変わった。
でも過去は変わらない。
ワタルもリオも普通に――ううん、凄く大切に接してくれる。
でも私は……二人が想像もつかないほどの数を殺してる。
これは後悔……?
分からない、でも――ヴァイス達とやっていた事が、一緒に居た事が、今更凄く不快。
私は血に穢れてる、それでもみんなと一緒に居たい、ここに居たい、ここだけが私にとって唯一無二の大切な居場所。
私もリオの、みんなの傍に居たいよ。
私もリオを抱きしめ返した。
「でも今のフィオちゃんは違います。最初はワタルの為だけだったのかもしれないけど、でも今のフィオちゃんは誰かの為にも頑張れる娘ですから泣かなくてもいいんですよ」
「泣いて、ない……リオの方が泣いてる」
「今は悲しくて泣いてるんじゃないですよ、フィオちゃんが傍に居てくれるから――嬉し泣きです」
「私、も……」
しばらく私たちは抱き合ったまま泣いた。
「どうして一人で泣いてたの?」
ワタルなら私なんかよりもっと……。
「……戦争から帰ってからワタル思い詰めた表情をする事が増えていますから、あまり心配をかけたくなかったんです。ただでさえワタルは私が故郷を離れる事になったことを気にしていましたし……私、今は本当に幸せなんです。でもふと思い出して、きっと父も母も苦しんだはずです、なのに私だけ救われてこんなに幸せなんて――」
「良いに決まってる」
「でも……」
「私はお父さんもお母さんも分からない、でも大切な人の幸せを願うのが普通って分かるから、分かるようになったから、だから……えっと……リオに笑って欲しい」
「そうですね……生き残ったからには精いっぱい笑って生きていかないと心配させてしまいますよね、ありがとうフィオちゃん」
すごく穏やかな、私の大好きな笑顔だった。
「今日はこっちで寝るのね……」
「文句でもあるの?」
また簀巻きにしてしまいたいけどリオが駄目って言うから仕方なくアリスと同じベッドで寝る事になった。
こっちで寝るならリオの隣がよかったのに……。
「文句は、ないけど……また夜這いに行くとかだったら一人で行ってほしいわ」
『夜這い!?』
「フィオお前ワタルを襲ったのか!?」
「ズルいわフィオ! そういう事ならどうして私も誘わないのよ!」
「女子が男子を襲うなど……はしたないのじゃ! フィオもティナみたいに変態だったのじゃ!?」
「フィオさんまさか今までもワタル様の部屋に行っていたのはそういう……?」
アリスが変な事を言ったせいでナハトとティナに睨まれた。
「もうみなさんフィオちゃんがそんな事するはずないじゃないですか、いつもみたいにただ甘えてただけのはず――」
「でもフィオもそっちの角のも裸だったわ――」
「フィオちゃん? クーニャちゃん?」
リオが怖い…………。
「もうクーニャちゃんは何度言ったら分かるんですか! ワタルの前で脱いだら駄目って何度も言いましたよね!? フィオちゃんも結婚前の女の子が軽々しく裸を見せるなんて!」
「主のぬくもりを感じるには素肌の方が良いであろうが、主が催せば尚良いが――」
クーニャの馬鹿――。
「ク~ニャちゃ~ん?」
かつてないほどリオが怖い……普段なら張り合うなりしてくるティナとナハトも黙り込んで知らんぷりを決め込んでる。
「そういえば主は裸だけではつまらぬと言っておったな、主が催す服はあるか?」
「クーニャちゃんっ!」
「な、なんだ、ま、待て、よせ――」
その後深夜までクーニャはこっぴどく叱られた。
いつも通り一緒に寝てただけって分かってもらえたけど私も女の子の振る舞いについて色々言われた。
「はいアリスちゃん」
「このスープ何? 泥?」
朝の食卓でお味噌汁を目の前に出されたアリスが怪訝そうな顔をする。
少し睨むけどもうめんどくさくて私はさっさと朝食に手を付ける。
お味噌汁あったかい……今日のは貝のやつ、前に殻から外すのを手こずったせいか今日のは殻から外れた身だけが入ってる。
寒いからみんなもお味噌汁から手をつけててそれが余計にアリスを不思議がらせてる。
「泥じゃなくて味噌っていう日本の調味料を使った汁物だ。そういえばナハトも最初は泥とか言ってくれたな」
「わ、忘れてくれ、今では朝食に味噌汁が無いと調子が狂うくらいに馴染んでいるのだ」
あの時の事をからかわれたナハトは慌てて今はどれだけ日本食が好きか説明してる。
「そうよね~、特に寒い日はあたたまるし具材で風味も変わって色々楽しめるから私もお味噌汁は好きよ」
「アリスさんこちらの卵焼きも食べてみてください、たらこがぷちぷちで美味しいですよ」
見た事無い食べ物と混ざり者だとされる事のなかった対応にアリスは目を丸くしてる。
まだ戸惑ってるけど、それでもみんなの厚意をちゃんと受けようとしてる。
少しは警戒を緩めてもいいかな……?
「ねぇフィオ、ここの人間はみんなああなの……?」
「私はここしか知らないけどみんな優しい、混ざり者とか区別しない」
「そう、なんだ……私、ここに居ていいの?」
「…………あなたを押さえられるのは私かワタル、あとはナハトくらい、危険人物の居場所はここだけ、他所に行きたかったら早く普通を覚えて」
私はアリスが好きじゃない。
ワタルを殺そうとしたし、それがなくなっても今度はワタルがアリスを見るようになったりしたら面白くない。
でもきっとアリスはこの居場所のあたたかさに心を揺り動かされてる。
好きにしていいって言われたらここを選ぶ、それほどにワタル達との生活はアドラで生きてきた混ざり者には衝撃的で、あたたかくて、優しくて、心地良くて、魅力的な居場所――。
「普通を覚えたら……出て行かないと、いけないの……?」
「……知らない、自分で考えて」
これはやきもき、ワタルがアリスやクーニャを構うからもやもやしてる八つ当たり。
「私――混ざり者は人間の命令を聞くことばかりだった。だから、それ以外の事をしたフィオが羨ましくて許せなかった」
「……」
「でもここは、私も人間にしてくれて……フィオが軍を抜けた理由がちょっと分かったわ」
抜けた理由は任務の失敗だけど、巡り巡ってワタル達に出会えたから間違いではないのかな……。
「私ここ好きよ、あいつはもう戦わなくていいって言ってたけど……私戦うことしか、殺す事しか知らない、だから――ここを守る為に戦いたい、どうせあなた達また魔物と戦ったりするんでしょ?」
「……魔物が襲ってきたらワタルは殲滅の為に動くと思う」
ワタルはすぐに危険に飛び込んで行ってしまうから、アリスが本当にワタルの為に戦うなら良い戦力なるけど……。
「そう、なら私も手伝うわ、せ、世話になりっぱなしって変な感じだし、私に出来るのはそのくらいだもの」
「そう……」
ワタルはどう思うんだろう……?
アリスを普通の人間にしたかったみたいだけど……あぁでも、混ざり者が守りたいなんて思うほど普通になったのを喜ぶのかな。
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