27 / 38
旅路と再会の章
大ヒット商品”金の兎”、アナログ派に敗北す
しおりを挟む
侵入禁止の崖を作るという案が却下されファルファラはがっくり肩を落としてしまったが、馬車は順調に北上していく。
気付けばもうこの旅も、一ヵ月が経過しようとしていた。
あれだけ出発前に不安を覚え、実際、険悪な空気に耐え切れず御者席に逃亡しかけたファルファラだったが、アレ以降、ラバンとグロッソは決して仲良くとは言い難いが、派手な衝突は無い。
時折ラバンの失礼な物言いにグロッソが青筋立てたりするけれど、その回数も次第に減った。グロッソがラバンの態度に慣れたのか、一々突っかかっても無意味だと諦めたのか。
大変気になるところではあるが、兎にも角にも予想以上に旅は快適だった。
「ーーあの……グロッソさん、街道を逸れたようですが……ど、どこかに立ち寄るのですか?」
窓をぼんやり見ていたファルファラは、異変に気付いてグロッソに問い掛けた。
ちょっと嚙んでしまったけれど、これでも随分すんなり質問できた方だ。
それは一か月以上ファルファラと共に過ごしているグロッソもわかっているようで、特に気にすることなく質問に答える。
「はい。ちょっと北方に戻る前に情報収集しようと思って。ルンタ村はご存知でしょうか?」
「ルン……ルン……ルンタ、ルン」
聞き覚えがあるが、すぐに思い出せないファルファラは、村名をぶつぶつと呟く。
横から「おや。お嬢。ずいぶん楽しそうですね」とラバンが口出しするが、記憶を探るファルファラの耳には届かない。
「……ん?……あ、ああ……ギルド村ですか」
待つことしばしば。記憶を手繰り寄せたと同時に、グロッソが頷いた。
「そうです。そこのギルドマスターとちょと知り合いで。ルゲン帝国の最新の情報を仕入れてから戻ったほうが良いと判断しました」
「た、確かに……そうですね。でも……あの……グロッソさんは”金の兎”は使わないんですか?」
”金の兎”とは通信用の魔道具のこと。
届けたい座標を事前に登録するか、もしくは届けたい人の魔力を事前に認識させることによって、書面のやり取りが迅速にできる優れもの。
見た目も可愛らしく、富裕層だけではなく庶民でも頑張れば手が届く価格設定であるため、今ナラルータ国で一番熱い商品だ。
そして、何を隠そう”金の兎”を開発したのは、ファルファラである。
コミュ障のくせに何を作ってるんだとツッコミを入れたくなるが、センティッドに半ば脅され作ったのだから仕方が無い。
でも完成度は素晴らしく、そして人気商品になってファルファラは密かにご満悦だったりする。
しかしグロッソは首をフルフル横に振った。
「必要ないので、持ってません」
がーん。
という気持ちは、隠した。
でも強制的に王宮内魔道具商品開発部に所属しているファルファラとしては、是非ともその理由を聞きたい。
「あ……あの、グロッソさんは、どうして必要ないんですか?」
なるべく刺にならぬようさりげなく尋ねてみれば、グロッソは生真面目な表情でこう返答した。
「重要な情報ほど、直接出向き、相手の表情を読み取らなければなりませんから」
「そう……ですか」
この言葉で、グロッソが友好的な性格ではないことを知る。
なぜなら””金の兎”は、重要書類のやり取りではなく、個人間の手紙のやり取りに使うのが主な用途だから。
(グロッソさんとの共通点がまた増えたな)
言葉選びが苦手なところ。無意味な手紙のやり取りを好まないところ。
人はそれを欠点とも呼ぶが、ファルファラとすれば逆に親近感がわく。
「あのね……ラバン、私ね、なんだかこの旅が楽しくなってきた」
つい嬉しくて、ファルファラはラバンの袖を掴んで呟く。
「そうですか。私もそこそこ楽しいですよ、お嬢」
そう言ったラバンの視線は、ファルファラではなくグロッソに向かっていた。
対して視線を向けられたグロッソは、明らかに不愉快そうに窓に目を向けた。
気付けばもうこの旅も、一ヵ月が経過しようとしていた。
あれだけ出発前に不安を覚え、実際、険悪な空気に耐え切れず御者席に逃亡しかけたファルファラだったが、アレ以降、ラバンとグロッソは決して仲良くとは言い難いが、派手な衝突は無い。
時折ラバンの失礼な物言いにグロッソが青筋立てたりするけれど、その回数も次第に減った。グロッソがラバンの態度に慣れたのか、一々突っかかっても無意味だと諦めたのか。
大変気になるところではあるが、兎にも角にも予想以上に旅は快適だった。
「ーーあの……グロッソさん、街道を逸れたようですが……ど、どこかに立ち寄るのですか?」
窓をぼんやり見ていたファルファラは、異変に気付いてグロッソに問い掛けた。
ちょっと嚙んでしまったけれど、これでも随分すんなり質問できた方だ。
それは一か月以上ファルファラと共に過ごしているグロッソもわかっているようで、特に気にすることなく質問に答える。
「はい。ちょっと北方に戻る前に情報収集しようと思って。ルンタ村はご存知でしょうか?」
「ルン……ルン……ルンタ、ルン」
聞き覚えがあるが、すぐに思い出せないファルファラは、村名をぶつぶつと呟く。
横から「おや。お嬢。ずいぶん楽しそうですね」とラバンが口出しするが、記憶を探るファルファラの耳には届かない。
「……ん?……あ、ああ……ギルド村ですか」
待つことしばしば。記憶を手繰り寄せたと同時に、グロッソが頷いた。
「そうです。そこのギルドマスターとちょと知り合いで。ルゲン帝国の最新の情報を仕入れてから戻ったほうが良いと判断しました」
「た、確かに……そうですね。でも……あの……グロッソさんは”金の兎”は使わないんですか?」
”金の兎”とは通信用の魔道具のこと。
届けたい座標を事前に登録するか、もしくは届けたい人の魔力を事前に認識させることによって、書面のやり取りが迅速にできる優れもの。
見た目も可愛らしく、富裕層だけではなく庶民でも頑張れば手が届く価格設定であるため、今ナラルータ国で一番熱い商品だ。
そして、何を隠そう”金の兎”を開発したのは、ファルファラである。
コミュ障のくせに何を作ってるんだとツッコミを入れたくなるが、センティッドに半ば脅され作ったのだから仕方が無い。
でも完成度は素晴らしく、そして人気商品になってファルファラは密かにご満悦だったりする。
しかしグロッソは首をフルフル横に振った。
「必要ないので、持ってません」
がーん。
という気持ちは、隠した。
でも強制的に王宮内魔道具商品開発部に所属しているファルファラとしては、是非ともその理由を聞きたい。
「あ……あの、グロッソさんは、どうして必要ないんですか?」
なるべく刺にならぬようさりげなく尋ねてみれば、グロッソは生真面目な表情でこう返答した。
「重要な情報ほど、直接出向き、相手の表情を読み取らなければなりませんから」
「そう……ですか」
この言葉で、グロッソが友好的な性格ではないことを知る。
なぜなら””金の兎”は、重要書類のやり取りではなく、個人間の手紙のやり取りに使うのが主な用途だから。
(グロッソさんとの共通点がまた増えたな)
言葉選びが苦手なところ。無意味な手紙のやり取りを好まないところ。
人はそれを欠点とも呼ぶが、ファルファラとすれば逆に親近感がわく。
「あのね……ラバン、私ね、なんだかこの旅が楽しくなってきた」
つい嬉しくて、ファルファラはラバンの袖を掴んで呟く。
「そうですか。私もそこそこ楽しいですよ、お嬢」
そう言ったラバンの視線は、ファルファラではなくグロッソに向かっていた。
対して視線を向けられたグロッソは、明らかに不愉快そうに窓に目を向けた。
0
お気に入りに追加
301
あなたにおすすめの小説
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる