大失恋した稀代の魔術師は、のんべんだらりと暮らしたい

当麻月菜

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旅路と再会の章

大ヒット商品”金の兎”、アナログ派に敗北す

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 侵入禁止の崖を作るという案が却下されファルファラはがっくり肩を落としてしまったが、馬車は順調に北上していく。

 気付けばもうこの旅も、一ヵ月が経過しようとしていた。

 あれだけ出発前に不安を覚え、実際、険悪な空気に耐え切れず御者席に逃亡しかけたファルファラだったが、アレ以降、ラバンとグロッソは決して仲良くとは言い難いが、派手な衝突は無い。

 時折ラバンの失礼な物言いにグロッソが青筋立てたりするけれど、その回数も次第に減った。グロッソがラバンの態度に慣れたのか、一々突っかかっても無意味だと諦めたのか。

 大変気になるところではあるが、兎にも角にも予想以上に旅は快適だった。



「ーーあの……グロッソさん、街道を逸れたようですが……ど、どこかに立ち寄るのですか?」

 窓をぼんやり見ていたファルファラは、異変に気付いてグロッソに問い掛けた。

 ちょっと嚙んでしまったけれど、これでも随分すんなり質問できた方だ。

 それは一か月以上ファルファラと共に過ごしているグロッソもわかっているようで、特に気にすることなく質問に答える。

「はい。ちょっと北方に戻る前に情報収集しようと思って。ルンタ村はご存知でしょうか?」
「ルン……ルン……ルンタ、ルン」

 聞き覚えがあるが、すぐに思い出せないファルファラは、村名をぶつぶつと呟く。

 横から「おや。お嬢。ずいぶん楽しそうですね」とラバンが口出しするが、記憶を探るファルファラの耳には届かない。

「……ん?……あ、ああ……ギルド村ですか」

 待つことしばしば。記憶を手繰り寄せたと同時に、グロッソが頷いた。

「そうです。そこのギルドマスターとちょと知り合いで。ルゲン帝国の最新の情報を仕入れてから戻ったほうが良いと判断しました」
「た、確かに……そうですね。でも……あの……グロッソさんは”金の兎”は使わないんですか?」

 ”金の兎”とは通信用の魔道具のこと。

 届けたい座標を事前に登録するか、もしくは届けたい人の魔力を事前に認識させることによって、書面のやり取りが迅速にできる優れもの。

 見た目も可愛らしく、富裕層だけではなく庶民でも頑張れば手が届く価格設定であるため、今ナラルータ国で一番熱い商品だ。

 そして、何を隠そう”金の兎”を開発したのは、ファルファラである。

 コミュ障のくせに何を作ってるんだとツッコミを入れたくなるが、センティッドに半ば脅され作ったのだから仕方が無い。

 でも完成度は素晴らしく、そして人気商品になってファルファラは密かにご満悦だったりする。

 しかしグロッソは首をフルフル横に振った。

「必要ないので、持ってません」

 がーん。

 という気持ちは、隠した。

 でも強制的に王宮内魔道具商品開発部に所属しているファルファラとしては、是非ともその理由を聞きたい。

「あ……あの、グロッソさんは、どうして必要ないんですか?」

 なるべく刺にならぬようさりげなく尋ねてみれば、グロッソは生真面目な表情でこう返答した。

「重要な情報ほど、直接出向き、相手の表情を読み取らなければなりませんから」
「そう……ですか」

 この言葉で、グロッソが友好的な性格ではないことを知る。

 なぜなら””金の兎”は、重要書類のやり取りではなく、個人間の手紙のやり取りに使うのが主な用途だから。

(グロッソさんとの共通点がまた増えたな)

 言葉選びが苦手なところ。無意味な手紙のやり取りを好まないところ。

 人はそれを欠点とも呼ぶが、ファルファラとすれば逆に親近感がわく。

「あのね……ラバン、私ね、なんだかこの旅が楽しくなってきた」

 つい嬉しくて、ファルファラはラバンの袖を掴んで呟く。

「そうですか。私もそこそこ楽しいですよ、お嬢」

 そう言ったラバンの視線は、ファルファラではなくグロッソに向かっていた。

 対して視線を向けられたグロッソは、明らかに不愉快そうに窓に目を向けた。
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