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旅路と再会の章

対岸の火事でいたいから、いっそ人工的に崖なんぞ作るのはいかがでしょうか?③

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 ファルファラにとって呪いは未知なるものだ。ナラルータ国が使う魔法とは根本的に違うため、解析することもできない。

 なによりルゲン帝国は好戦的なくせに、呪いに関しては閉鎖的なため資料が手元にほとんどない。

 ただまったく無知というわけではない。

 ファルファラが知っているのは、ナラルータ国のように魔法を扱う専門職があるように、ルゲン帝国にも呪いを扱う専門家ーー呪術師がいるということ。

 呪術師は常に呪いの力を自分の身体に取り込むために、作為的に揉め事を起こす厄介な存在だ。

 ルゲン帝国とナラルータ国の国境にはもちろん関所はある。しかしどこにでも抜け道はある。

 特に北方の雪山は密入国するのには、うってつけの場所だ。そして一度入国を許してしまえば、呪いをばらまかれてもナラルータ国ではもう対処することができない。

 そこまで考えて、ファルファラはおずおずと口を開く。

「あ、あ、あの……グロッソさん。ちょっと北方の領地のことで……しょ、少々、教えて欲しいことがあるのですが……その、聞いても良いですか?」

 これから聞くことがとても失礼だということを知っているファルファラは、つい癖で指をモジモジしてしまう。

 対してグロッソは何の警戒心も持つこと無く「もちろん構いません。どうぞ」と続きを促す。

「え……えっと……あのですね……失礼を承知で伺いますが、ルゲン帝国からの亡命者をこっそり受け入れたりとかは……あったり、なかったり……その」
「ありますよ」
「そうなんですか!?」

 あっさり答えたグロッソに、ファルファラは目を丸くした。ビックリし過ぎて噛まずに言えた自分にビックリする。

「そんなに驚くことですか?一応、ルゲン帝国の亡命者を保護するのは合法ですし、その都度、陛下には報告を入れてます。もちろんその中には亡命者を装った暗殺者もいましたので、それ相応の処分を……あ、いえ失礼。とにかく受け入れはしますが、適切な対応をしています」
「そ、そうですか……うーん」

 グロッソを疑うつもりはないが、呪術師かどうか判断できるかは怪しいものだ。

 ファルファラとて、会ったことも見たこともないのだから一発で見付ける自信は無い。

 そんなふうにファルファラが顎に手を当て、うーんうーんと唸っていれば、向かいに座るグロッソはすぐに察したようで……

「もしかしてファルファラ嬢は呪術師を警戒なさってますか?」
「へ!?……あ、まさにその通りなんです」

 目を丸くしつつも大きく頷くファルファラに、グロッソは眉を寄せた。

 まるで見たくないものを思い出したような表情だ。

「あれらは身体に刺青があります。聞き出した情報によれば、彼らは呪いを身体に受け入れると、入れ墨が浮き上がるそうです。その数こそが強さの証だとか。ですので亡命者は例え女子供でも、一旦身体検査をして確認します」

 どうやって聞き出したか気にはなるところだが、呪術師の知識が増えて何よりだ。

 それと亡命者か暗殺者かの判別も徹底していて何よりだ。

 ルゲン帝国の御家芸である呪いについては、グロッソの指示で塞き止めてくれているのがわかった。つまり今のところそこまで懸念要素ではない。

 だがしかし、ルゲン帝国の内情が血生臭いことには変わらない。

 ならここは<碧眼の魔術師>が更に塞き止め強化をするのが最善だろうと、ファルファラは判断する。

「あ、あの……グロッソさん。諸々のお話を聞いて私、一つ提案したいことがあります」
「何でしょう」

 これから言うことは咄嗟の発案ではあるが、かなりの名案だとファルファラは自信を持っている。

 だからピシッと背筋を伸ばして口を開く。

「ルゲン帝国の内情が落ち着くまで、関所以外の場所全てを断崖絶壁するのはどうでしょうか?私、地形変動魔法は得意ですので、一人でできますし」

 ーーそうすれば一先ず呪術師の侵入は防ぐことができる。

 そう思って、絶対に頷いてくれると思って、ファルファラは自信満々に提案したのだが、返って来たのは望まぬものだった。

 ……一度も噛まず、どもらなかったというのに。

「お気持ちだけ受け取らせていただきます」

 やんわりと断わられたファルファラは、しゅんと肩を落とした。

 あと「何言ってんだお前」と、呆れた目を向けるラバンの視線がやけに胸に刺さって痛かった。
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