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第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
第73話 龍対蜂
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デランやユリーシャ達一番隊は軌道エレベータの直下にまで進軍していた。
「ここまで行けるなんてね」
「思ってもみなかったか?」
デランの問いかけにユリーシャに微笑む。
「そうね。ここまできたらいけるところまでいってみたいわね」
「もちろんだぜ。狙うは大将首だ!」
デランはそびえる軌道エレベーターの山々へ剣をかざす。その中の一つは遥か上空ではヴァ―ランスが撃ち放ったバスタービームライフルの光によって、軌道エレベーターは両断されていたが。
「そうはさせるかッ!!」
金色の鳥を模したマシンノイドが怒声を飛ばして舞い降りる。
「なんだ、あれは?」
「クリュ・オルニス。この軌道エレベーターを防衛長官を務める男ラルサスの機体よ」
「なるほど、大将首ってわけだ」
デランは目をギラつかせる。
「目にもの見せてやる!」
クリュ・オルニスを駆るラルサスは翼に備え付けられた六連の銃身を向ける。
「ファイアッ!」
ビーム砲の一斉発射がレジスタンスへ放たれる。
ドシャン!!
三体のソルダを撃ち抜く。
「後退して! 奴の火力は半端じゃないわ!!」
ユリーシャは指示を出す。
「おじけづいてるんじゃねえ!」
高速戦闘機ともいうべきシュヴァルを駆る二番隊隊長コンサキスが前に出る。
「コンサキス隊長!」
「奴は俺が倒す!」
シュヴァルはブースターを点火させて、クリュ・オルニスへ突撃する。
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
装備したビームガンで弾幕を張って、接近する。
「フン!」
クリュ・オルニスの操者の鼻を鳴らす声が地上のデランにまで伝わってくる。
翼に備え付けられたクリュ・オルニスのブースターが噴射され、旋回する。
「何!?」
あっさりとクリュ・オルニスはシュヴァルの背後へ回り込む。
「なめるなぁぁぁぁッ!!」
しかし、そこはさすがにレジスタンスの隊長を張っているだけあって、クリュ・オルニスに攻撃される前にビームガンで応戦する。
「少しはやるようだな、愚民の分際で」
「なんだとぉぉぉぉッ!!」
コンサキスは怒りで猛突進する。
それをクリュ・オルニスは優雅に交わす。
高速機動が売りのシュヴァルだが、クリュ・オルニスの前では軽くあしらわれている。背面のブースターの高出力に翼のスラスターによる姿勢制御。この二つにより、空中で高速を超える超速機動を実現させている。
もちろん、操者による技量差も大きい。
「あしらわれてやがる……・!」
デランはクリュ・オルニスとシュヴァルの戦いを見てそう評する。
「悠長に観戦してる暇がないわよ」
ユリーシャが促す。
二機の戦いが空中で繰り広げられている最中に、クリュメゾン軍のソルダやシュヴァリエが集結してくる。
「わかってるって!」
デランは剣を構える。
「くッ!」
その一方でシュヴァルはどんどんクリュ・オルニスに追い詰められていく。
ビームガンを腕ごと翼のビームで撃ち落とされ、背面のブースターを爪を模したメタルブレードで斬り裂かれる。
「これでわかったか、力の差が?」
「ちくしょう!」
シュヴァルのコンサキスは悪態をつくが、実力差は厳しく、とうとうビームの砲身を操縦席へ向けられる。
「――よけられない!」
やられると確信し、ビーム砲を撃たれる直前であった。
バキュゥゥン!!
クリュ・オルニスの背後からビームへ放たれた。
「があああッ!」
大型の翼に傷がつき、落下するが、旋回して持ち直す。
「何だ、何が起きた? 援軍か?」
クリュ・オルニスがビームを撃たれている。
そのビームを放っているもとを目で追っていく。
「――海賊船!?」
ピコン
通話ウィンドウが開く
『健闘しているな、コンサキス君』
「副団長? こんなときになんだ?」
『そう血気にはやるな。今海賊船が見えているだろ?』
レジスタンス副団長のガグズは落ち着いた面持ちで諭すように言う。
「ああ、あれは一体なんだ!?」
『味方だ。たった今団長は宇宙海賊と同盟を組むことを決断した』
「何だと!?」
『加えて、南のメランノトス軍もだ』
「それは本当か!? メランノトスはクリュメゾンへ侵略しに来た敵国なんだぞ! ましてや俺達が憎む皇族が指揮してるんだぞ!!」
『団長の決断だ。我々は従うだけだ』
「くっ……!」
コンサキスは歯ぎしりし、納得がいかないと意思表示する。
『それがこの国の解放につながる。私はそう信じているがね』
ガグズからの通話はそれで途切れる。
「三連ビーム砲、四番、五番は金ピカの鳥に向けろ。残りは眼下の敵へのけん制だけでいい」
「充填完了しました」
「よし、三連射だ!」
流れるような息の合ったやり取りで、ザイアスは号令をかける。
すると宇宙海賊船ボスランボの砲門がクリュ・オルニスへ景気よく発射される。
「ミサイルも使え!」
「了解だ! 聞こえたか、砲座野郎! 撃てえ」
リピートが激を飛ばす。
「反撃の間を与えるな。ビームの充填が済み次第、もう一発撃て」
「了解です」
リィータがレバーを押し、ビームを発射する。
「すげえ……」
その様を見て、ダイチは思わず呟く。
ヴォーランスとフォルティス・デュオは海賊船に回収され、ダイチ達は艦橋へと招待された。
ザイアスは俺達の戦いを見せてやると言ってくれたのだが、さっそくその戦いの凄まじさをいきなり見せつけられた。
(あの機体……ジェアン・リトスとかよりもよっぽど速くて強いはずなのに、あっさり追い込んでいる……!)
それは、的確な指示、迅速な発射の号令、相手の動きを先読みしたかのような正確な砲撃が合わさって成せる業であった。敵は反撃の糸口すらつかめぬまま、ただただ逃げるだけで精一杯だ。
「今だ、スナイパー!」
そこでザイアスは指示を飛ばす。
バキュゥゥゥン!!
船のデッキから紫色のレーザー砲が発射される。
それは、一直線にクリュ・オルニスの翼を完璧に捕らえて貫いた。
「よっしゃ、やったぜ! さすがスナイパーだぜ!」
リピートが指をパチンと鳴らす。
「スナイパー?」
「デッキに立っている彼のことです」
ダイチの疑問にリィータが答え、ウィンドウを開く。
そこに映し出されたのは海賊船のデッキに立ち、狙撃銃を構えるマシンノイドの姿であった。
「狙撃特化のジルウェットとそれに乗っているキルリッヒさんは超一流のスナイパーなんです」
「ああ、すげえぜ。一撃で仕留めちまった」
「ま、ひとえに俺の采配もあるがな」
ザイアスは自慢げに言う。
「わかってるって、キャプテンも十分凄いぜ」
ダイチは素直に称賛する。
「さてと、防衛長官も倒したことだし、――あとは奴だけか」
ザイアスが言ったように、レジスタンス、宇宙海賊、南のメランノトス軍が同盟を結んだことで、軌道エレベーターの防衛軍は次々と破れていった。
ただこの機に乗じて、軌道エレベーターの物資を狙って機会を伺っていた輩がいた。東のクローアナ軍であった。
東部都市領主サレア・アンビュラスは女性でありながら、強かでチャンスを逃さない執念深さを持っており、三軍の同盟を結び、進軍したのを不利だと判断し、クローアナ軍の侵攻を一時停止した。
それは同盟軍と防衛軍が戦いあって、互いに疲弊したところを殲滅する。いわゆる漁夫の利を狙っていた。
「サレア様、南軍の侵攻が予想以上の勢いを見せています」
参謀女官が報告してくる。
「それはわかっている。何故そこまでの勢いを得たのか、お前にわかるか?」
「宇宙海賊やレジスタンス……それに、軌道エレベーターを破壊したあの光……不測の事態が多すぎましたが、それらを好機と見たのでしょう」
「手をこまねいたのが仇になってしまったか。私の浅慮が招いた結果だ。諸君らにはすまないと思っている」
「いえ、まだ負け戦と決まったわけではありません」
「そうだな。南軍が防衛長官を倒した時、あるいは南軍が敗れた時こそが攻め時だ」
ピコン!
通話ウィンドウが女性士官が報告に入る。
『報告します。防衛長官ラルサスが駆るクリュ・オルニスが撃墜されました』
「ほう……」
サレアはこれに驚嘆する。
「思っていたよりも早かったな」
『撃墜したのは宇宙海賊です』
「宇宙海賊……! この戦場に介入したことから只者ではないとは思っていたが……!」
「それがどうも動きが妙なのです」
「妙というのは?」
「海賊はレジスタンスや南軍を一切攻撃せずに進軍しています。そのレジスタンスや南軍もクリュメゾン軍だけを攻撃しています」
「何……?」
サレアはスクリーンに映し出されたマップでクリュメゾン軍、南軍、レジスタンス、宇宙海賊、そして、自軍である東軍の戦況を見つめる。
「もしや……彼らは手を組んだのか!」
三軍が足並みを揃えているかのような戦いぶりにサレアはそう推察する。
「ですが、まさかそんなはずは……!」
参謀女官はその考えを否定する。
「それを確かめるためにも今から打って出る必要がある。どちらにせよ軌道エレベーターは重要な戦力拠点になる。むざむざ宇宙海賊に渡すつもりはない」
サレアは緑の昆虫を模した機体ヴェール・アヴェイユのブースターを点火させる。
「はい!」
参謀女官やその親衛隊達を中心に東軍は進撃する。
「きたか!」
その進撃の気配をツァニスを瞬時に感じ取る。
『サレアのようだな』
「奴とは俺が決着をつけます。グレイルオス様!」
『その名は捨てたと言ったはずだ』
「そうでした、キャプテン・ザイアス!」
ツァニスはすぐさま訂正する。
『それで結構。おぜん立ては俺が整えてやる!』
そう言うと、海賊船は砲弾をクリュメゾン軍に叩き込む。
「感謝します!!」
ツァニスはそう答えて、ヴィラージュ・オールとともに突き進む。
「いくぜえええええ、オォォォォォル・ドラゴォォォォン!!」
ケラウノス――神の雷を纏った黄金の竜ともいうべきマシンノイドが東軍を蹴散らしていく。
「ツァニス・ダイクリアか!」
ガチィィィィン!!
ヴィラージュ・オールとヴェール・アヴェイユが刃を交わす。
「緑色の虫……サレアか!」
「これは蜂というものだ、金メッキのトカゲが!」
「これは竜ってんだ!!」
ヴェール・アヴェイユから放たれるレイピアの突きをヴィラージュ・オールの槍で受ける。
「おおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ツァニスとサレアのケラウノスが機体を通して炸裂する。
ゴロゴロゴロゴロ!!!
そのあまりの凄まじさに周囲の機体やヒトは衝撃で吹き飛ばされる。
「トネールランス!!」
ツァニスが雷神の槍を見舞えば
「アングルジョーヌ」
サレアはレイピアで返す。
黄金の竜・ヴィラージュ・オール。
緑色の蜂・ヴェール・アヴェイユ。
この二機による戦いは、一国を治める領主に相応しい戦いぶりであった。
ズゴォォォォォン!!
雷鳴は轟き、稲妻は撒き散らされる。
「派手にやりやがるな……!」
海賊船の艦橋からその戦いを見るザイアスはニヤリと笑う。
「あれが領主同士の戦いなのか……!」
ダイチは呆然と稲妻の迸りを見上げる。
脳裏に宇宙港での戦いがよぎる。
あの時は、圧倒的なまでの暴風と稲妻にただ吹き飛ばされないよう、生き残るだけで精一杯だった。それがこの海賊船にいるとその心配がまったくない。
戦いからかなり離されているということもあるが、それ以上にこのキャプテン・ザイアスの傍にいるということで無意識のうちにここが最も安全だと思えた。
強いのはもちろんのことだが、何故だかそれ以上に彼の内にある何かがダイチをその気にさせた。
「お前はどっちが勝つと思う?」
不意にザイアスはダイチに振ってくる。
「どっちが勝つって……」
いきなりだったので、ダイチは困惑する。
「俺にはわからねえ」
それだけしか答えられなかった。何しろ、二人の戦いは桁外れで周囲の軌道エレベーターの外壁を余波だけでえぐるほどなのだ。雷鳴が轟き、雷光が閃いたと思ったら、迸る稲妻によってこの船まで震わされる。それだけ凄まじい衝撃があの戦いの中心では起こっているということだ。
「まあ、そんなとこだろうな」
「あなたはどっちが勝つと?」
「さあな」
ザイアスはフッと、とぼけたように笑う。
(いや、本当はわかってるんじゃないのか……)
ダイチはそう思ったが、教えて欲しいとまでは思わなかった。
今はただあの二人の戦いを見ていたかった。
(少しずつ、だけど……)
何かが見えてきたような気がする。
ズゴォォォォォン!!
稲妻が閃く。
「――!」
ダイチはその中で見えた。
緑の鎧に稲妻を纏い、光り輝く蜂の一突きが黄金の竜の鱗を貫く場面を。
「竜が、負けた……!?」
「いや、まだだな!」
ザイアスがそう言うと、竜からまた稲妻が迸った。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
叫びがここまで届いたような気がする。
そうして、貫かれた竜の装甲の内側から雷光が閃き、中から青年が現れる。
「あれが、南国の領主ツァニス・ダイクリア。現木星皇の息子だ」
「現、木星皇……!」
その言葉にとてつもない重みとともに、凄みすら感じた。
ツァニスの槍から放たれた雷が、緑の蜂の装甲をはがし、槍がさらに貫く。
貫かれた蜂の中から女性が現れる。
「そして、あいつが東国の領主サレア・アンビュラス。同じく現木星皇の娘だ」
「あの人も木星皇なのか……」
「ま、いってみれば姉弟喧嘩みたいなもんだ」
「きょ、姉弟喧嘩……」
ザイアスの物言いに、ダイチは呆気にとられる。
随分とスケールの大きな姉弟喧嘩だと思った。とても、喧嘩という枠組みにいれていいほどの規模じゃない。
しかも、あの二人はただ戦っているのではない。
お互いの持ちうる力、地位や名誉、そして、意地と誇り、命すらも賭けているように見えてならなかった。
ツァニスの槍とサレアの剣がぶつかり合う。
ズゴォォォォォン!!
一際強い光に辺りは包まれる。
ダイチはたまらず、目を覆う。
「く……!」
目を開けた次の瞬間に、戦いの決着が見えた。
竜の化身ともいうべきツァニスの槍がサレアの身体を貫いた。
「ツァニスが勝ったか」
「キャプテン、やっぱりわかってたんじゃないか?」
「さあな。勝負は時の運というしな」
ザイアスは不敵に笑う。
「ここまで行けるなんてね」
「思ってもみなかったか?」
デランの問いかけにユリーシャに微笑む。
「そうね。ここまできたらいけるところまでいってみたいわね」
「もちろんだぜ。狙うは大将首だ!」
デランはそびえる軌道エレベーターの山々へ剣をかざす。その中の一つは遥か上空ではヴァ―ランスが撃ち放ったバスタービームライフルの光によって、軌道エレベーターは両断されていたが。
「そうはさせるかッ!!」
金色の鳥を模したマシンノイドが怒声を飛ばして舞い降りる。
「なんだ、あれは?」
「クリュ・オルニス。この軌道エレベーターを防衛長官を務める男ラルサスの機体よ」
「なるほど、大将首ってわけだ」
デランは目をギラつかせる。
「目にもの見せてやる!」
クリュ・オルニスを駆るラルサスは翼に備え付けられた六連の銃身を向ける。
「ファイアッ!」
ビーム砲の一斉発射がレジスタンスへ放たれる。
ドシャン!!
三体のソルダを撃ち抜く。
「後退して! 奴の火力は半端じゃないわ!!」
ユリーシャは指示を出す。
「おじけづいてるんじゃねえ!」
高速戦闘機ともいうべきシュヴァルを駆る二番隊隊長コンサキスが前に出る。
「コンサキス隊長!」
「奴は俺が倒す!」
シュヴァルはブースターを点火させて、クリュ・オルニスへ突撃する。
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
装備したビームガンで弾幕を張って、接近する。
「フン!」
クリュ・オルニスの操者の鼻を鳴らす声が地上のデランにまで伝わってくる。
翼に備え付けられたクリュ・オルニスのブースターが噴射され、旋回する。
「何!?」
あっさりとクリュ・オルニスはシュヴァルの背後へ回り込む。
「なめるなぁぁぁぁッ!!」
しかし、そこはさすがにレジスタンスの隊長を張っているだけあって、クリュ・オルニスに攻撃される前にビームガンで応戦する。
「少しはやるようだな、愚民の分際で」
「なんだとぉぉぉぉッ!!」
コンサキスは怒りで猛突進する。
それをクリュ・オルニスは優雅に交わす。
高速機動が売りのシュヴァルだが、クリュ・オルニスの前では軽くあしらわれている。背面のブースターの高出力に翼のスラスターによる姿勢制御。この二つにより、空中で高速を超える超速機動を実現させている。
もちろん、操者による技量差も大きい。
「あしらわれてやがる……・!」
デランはクリュ・オルニスとシュヴァルの戦いを見てそう評する。
「悠長に観戦してる暇がないわよ」
ユリーシャが促す。
二機の戦いが空中で繰り広げられている最中に、クリュメゾン軍のソルダやシュヴァリエが集結してくる。
「わかってるって!」
デランは剣を構える。
「くッ!」
その一方でシュヴァルはどんどんクリュ・オルニスに追い詰められていく。
ビームガンを腕ごと翼のビームで撃ち落とされ、背面のブースターを爪を模したメタルブレードで斬り裂かれる。
「これでわかったか、力の差が?」
「ちくしょう!」
シュヴァルのコンサキスは悪態をつくが、実力差は厳しく、とうとうビームの砲身を操縦席へ向けられる。
「――よけられない!」
やられると確信し、ビーム砲を撃たれる直前であった。
バキュゥゥン!!
クリュ・オルニスの背後からビームへ放たれた。
「があああッ!」
大型の翼に傷がつき、落下するが、旋回して持ち直す。
「何だ、何が起きた? 援軍か?」
クリュ・オルニスがビームを撃たれている。
そのビームを放っているもとを目で追っていく。
「――海賊船!?」
ピコン
通話ウィンドウが開く
『健闘しているな、コンサキス君』
「副団長? こんなときになんだ?」
『そう血気にはやるな。今海賊船が見えているだろ?』
レジスタンス副団長のガグズは落ち着いた面持ちで諭すように言う。
「ああ、あれは一体なんだ!?」
『味方だ。たった今団長は宇宙海賊と同盟を組むことを決断した』
「何だと!?」
『加えて、南のメランノトス軍もだ』
「それは本当か!? メランノトスはクリュメゾンへ侵略しに来た敵国なんだぞ! ましてや俺達が憎む皇族が指揮してるんだぞ!!」
『団長の決断だ。我々は従うだけだ』
「くっ……!」
コンサキスは歯ぎしりし、納得がいかないと意思表示する。
『それがこの国の解放につながる。私はそう信じているがね』
ガグズからの通話はそれで途切れる。
「三連ビーム砲、四番、五番は金ピカの鳥に向けろ。残りは眼下の敵へのけん制だけでいい」
「充填完了しました」
「よし、三連射だ!」
流れるような息の合ったやり取りで、ザイアスは号令をかける。
すると宇宙海賊船ボスランボの砲門がクリュ・オルニスへ景気よく発射される。
「ミサイルも使え!」
「了解だ! 聞こえたか、砲座野郎! 撃てえ」
リピートが激を飛ばす。
「反撃の間を与えるな。ビームの充填が済み次第、もう一発撃て」
「了解です」
リィータがレバーを押し、ビームを発射する。
「すげえ……」
その様を見て、ダイチは思わず呟く。
ヴォーランスとフォルティス・デュオは海賊船に回収され、ダイチ達は艦橋へと招待された。
ザイアスは俺達の戦いを見せてやると言ってくれたのだが、さっそくその戦いの凄まじさをいきなり見せつけられた。
(あの機体……ジェアン・リトスとかよりもよっぽど速くて強いはずなのに、あっさり追い込んでいる……!)
それは、的確な指示、迅速な発射の号令、相手の動きを先読みしたかのような正確な砲撃が合わさって成せる業であった。敵は反撃の糸口すらつかめぬまま、ただただ逃げるだけで精一杯だ。
「今だ、スナイパー!」
そこでザイアスは指示を飛ばす。
バキュゥゥゥン!!
船のデッキから紫色のレーザー砲が発射される。
それは、一直線にクリュ・オルニスの翼を完璧に捕らえて貫いた。
「よっしゃ、やったぜ! さすがスナイパーだぜ!」
リピートが指をパチンと鳴らす。
「スナイパー?」
「デッキに立っている彼のことです」
ダイチの疑問にリィータが答え、ウィンドウを開く。
そこに映し出されたのは海賊船のデッキに立ち、狙撃銃を構えるマシンノイドの姿であった。
「狙撃特化のジルウェットとそれに乗っているキルリッヒさんは超一流のスナイパーなんです」
「ああ、すげえぜ。一撃で仕留めちまった」
「ま、ひとえに俺の采配もあるがな」
ザイアスは自慢げに言う。
「わかってるって、キャプテンも十分凄いぜ」
ダイチは素直に称賛する。
「さてと、防衛長官も倒したことだし、――あとは奴だけか」
ザイアスが言ったように、レジスタンス、宇宙海賊、南のメランノトス軍が同盟を結んだことで、軌道エレベーターの防衛軍は次々と破れていった。
ただこの機に乗じて、軌道エレベーターの物資を狙って機会を伺っていた輩がいた。東のクローアナ軍であった。
東部都市領主サレア・アンビュラスは女性でありながら、強かでチャンスを逃さない執念深さを持っており、三軍の同盟を結び、進軍したのを不利だと判断し、クローアナ軍の侵攻を一時停止した。
それは同盟軍と防衛軍が戦いあって、互いに疲弊したところを殲滅する。いわゆる漁夫の利を狙っていた。
「サレア様、南軍の侵攻が予想以上の勢いを見せています」
参謀女官が報告してくる。
「それはわかっている。何故そこまでの勢いを得たのか、お前にわかるか?」
「宇宙海賊やレジスタンス……それに、軌道エレベーターを破壊したあの光……不測の事態が多すぎましたが、それらを好機と見たのでしょう」
「手をこまねいたのが仇になってしまったか。私の浅慮が招いた結果だ。諸君らにはすまないと思っている」
「いえ、まだ負け戦と決まったわけではありません」
「そうだな。南軍が防衛長官を倒した時、あるいは南軍が敗れた時こそが攻め時だ」
ピコン!
通話ウィンドウが女性士官が報告に入る。
『報告します。防衛長官ラルサスが駆るクリュ・オルニスが撃墜されました』
「ほう……」
サレアはこれに驚嘆する。
「思っていたよりも早かったな」
『撃墜したのは宇宙海賊です』
「宇宙海賊……! この戦場に介入したことから只者ではないとは思っていたが……!」
「それがどうも動きが妙なのです」
「妙というのは?」
「海賊はレジスタンスや南軍を一切攻撃せずに進軍しています。そのレジスタンスや南軍もクリュメゾン軍だけを攻撃しています」
「何……?」
サレアはスクリーンに映し出されたマップでクリュメゾン軍、南軍、レジスタンス、宇宙海賊、そして、自軍である東軍の戦況を見つめる。
「もしや……彼らは手を組んだのか!」
三軍が足並みを揃えているかのような戦いぶりにサレアはそう推察する。
「ですが、まさかそんなはずは……!」
参謀女官はその考えを否定する。
「それを確かめるためにも今から打って出る必要がある。どちらにせよ軌道エレベーターは重要な戦力拠点になる。むざむざ宇宙海賊に渡すつもりはない」
サレアは緑の昆虫を模した機体ヴェール・アヴェイユのブースターを点火させる。
「はい!」
参謀女官やその親衛隊達を中心に東軍は進撃する。
「きたか!」
その進撃の気配をツァニスを瞬時に感じ取る。
『サレアのようだな』
「奴とは俺が決着をつけます。グレイルオス様!」
『その名は捨てたと言ったはずだ』
「そうでした、キャプテン・ザイアス!」
ツァニスはすぐさま訂正する。
『それで結構。おぜん立ては俺が整えてやる!』
そう言うと、海賊船は砲弾をクリュメゾン軍に叩き込む。
「感謝します!!」
ツァニスはそう答えて、ヴィラージュ・オールとともに突き進む。
「いくぜえええええ、オォォォォォル・ドラゴォォォォン!!」
ケラウノス――神の雷を纏った黄金の竜ともいうべきマシンノイドが東軍を蹴散らしていく。
「ツァニス・ダイクリアか!」
ガチィィィィン!!
ヴィラージュ・オールとヴェール・アヴェイユが刃を交わす。
「緑色の虫……サレアか!」
「これは蜂というものだ、金メッキのトカゲが!」
「これは竜ってんだ!!」
ヴェール・アヴェイユから放たれるレイピアの突きをヴィラージュ・オールの槍で受ける。
「おおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ツァニスとサレアのケラウノスが機体を通して炸裂する。
ゴロゴロゴロゴロ!!!
そのあまりの凄まじさに周囲の機体やヒトは衝撃で吹き飛ばされる。
「トネールランス!!」
ツァニスが雷神の槍を見舞えば
「アングルジョーヌ」
サレアはレイピアで返す。
黄金の竜・ヴィラージュ・オール。
緑色の蜂・ヴェール・アヴェイユ。
この二機による戦いは、一国を治める領主に相応しい戦いぶりであった。
ズゴォォォォォン!!
雷鳴は轟き、稲妻は撒き散らされる。
「派手にやりやがるな……!」
海賊船の艦橋からその戦いを見るザイアスはニヤリと笑う。
「あれが領主同士の戦いなのか……!」
ダイチは呆然と稲妻の迸りを見上げる。
脳裏に宇宙港での戦いがよぎる。
あの時は、圧倒的なまでの暴風と稲妻にただ吹き飛ばされないよう、生き残るだけで精一杯だった。それがこの海賊船にいるとその心配がまったくない。
戦いからかなり離されているということもあるが、それ以上にこのキャプテン・ザイアスの傍にいるということで無意識のうちにここが最も安全だと思えた。
強いのはもちろんのことだが、何故だかそれ以上に彼の内にある何かがダイチをその気にさせた。
「お前はどっちが勝つと思う?」
不意にザイアスはダイチに振ってくる。
「どっちが勝つって……」
いきなりだったので、ダイチは困惑する。
「俺にはわからねえ」
それだけしか答えられなかった。何しろ、二人の戦いは桁外れで周囲の軌道エレベーターの外壁を余波だけでえぐるほどなのだ。雷鳴が轟き、雷光が閃いたと思ったら、迸る稲妻によってこの船まで震わされる。それだけ凄まじい衝撃があの戦いの中心では起こっているということだ。
「まあ、そんなとこだろうな」
「あなたはどっちが勝つと?」
「さあな」
ザイアスはフッと、とぼけたように笑う。
(いや、本当はわかってるんじゃないのか……)
ダイチはそう思ったが、教えて欲しいとまでは思わなかった。
今はただあの二人の戦いを見ていたかった。
(少しずつ、だけど……)
何かが見えてきたような気がする。
ズゴォォォォォン!!
稲妻が閃く。
「――!」
ダイチはその中で見えた。
緑の鎧に稲妻を纏い、光り輝く蜂の一突きが黄金の竜の鱗を貫く場面を。
「竜が、負けた……!?」
「いや、まだだな!」
ザイアスがそう言うと、竜からまた稲妻が迸った。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
叫びがここまで届いたような気がする。
そうして、貫かれた竜の装甲の内側から雷光が閃き、中から青年が現れる。
「あれが、南国の領主ツァニス・ダイクリア。現木星皇の息子だ」
「現、木星皇……!」
その言葉にとてつもない重みとともに、凄みすら感じた。
ツァニスの槍から放たれた雷が、緑の蜂の装甲をはがし、槍がさらに貫く。
貫かれた蜂の中から女性が現れる。
「そして、あいつが東国の領主サレア・アンビュラス。同じく現木星皇の娘だ」
「あの人も木星皇なのか……」
「ま、いってみれば姉弟喧嘩みたいなもんだ」
「きょ、姉弟喧嘩……」
ザイアスの物言いに、ダイチは呆気にとられる。
随分とスケールの大きな姉弟喧嘩だと思った。とても、喧嘩という枠組みにいれていいほどの規模じゃない。
しかも、あの二人はただ戦っているのではない。
お互いの持ちうる力、地位や名誉、そして、意地と誇り、命すらも賭けているように見えてならなかった。
ツァニスの槍とサレアの剣がぶつかり合う。
ズゴォォォォォン!!
一際強い光に辺りは包まれる。
ダイチはたまらず、目を覆う。
「く……!」
目を開けた次の瞬間に、戦いの決着が見えた。
竜の化身ともいうべきツァニスの槍がサレアの身体を貫いた。
「ツァニスが勝ったか」
「キャプテン、やっぱりわかってたんじゃないか?」
「さあな。勝負は時の運というしな」
ザイアスは不敵に笑う。
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