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第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
第72話 宇宙海賊、レジスタンス、東軍の三軍会議
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ここは海賊船の格納庫。
ちゃっかりといつの間にか乗り込んだイクミと眼鏡の少年は以前、ザイアスやリピートに頼み込んで格納庫に保管していたある機体を調整していた。
「状況が目まぐるしく動きよるな~」
「ゆ、愉快そうに言わないでよ……!」
楽しそうにしているイクミを眼鏡の少年が諫める。
「ホンマに愉快やからしょうがないやろ。ほおわはん、いやロバルトはん」
「本名で呼ぶなぁッ!」
ロバルトは叫ぶが、イクミはお構いなしだ。
「さあて、そろそろウチも出るか」
ゴォン!
イクミがそう言うと、格納庫を揺るがす。
その機体は、木星のシュヴァリエに比べるとやや小振りだが、図太い両手足と見るからに頑強そうな胴体から余程の重量感が伺える。
「うんうん、ちゃんと修理できとるみたいやな。いけるで、リピートはん!」
イクミはチャンネルを開いて、艦橋にいるリピートへ呼びかける。
『お前、本当に出るのか?』
リピートは確認する。その声色には多少の心配が混ざっていた。
「愚問やな。これだけ面白い状況になってるんやで。出なければ一生の悔いやで!」
『そこまで言うなら止めねえがな。死ぬんじゃねえぞ』
イクミは親指を立てる。
「生きてなんぼやからな! 必ず生きて帰るで!」
『オーケーだ、ハッチ開けるぞ』
ズダン!
格納庫のハッチが開き、木星上空に吹き荒れる暴風が流れ込んでくる。
「さあいくで! スーパーロボット、フォルティス・デュオのお披露目やー!!」
その逆風を押し返すように名乗りを上げて、ブースターを点火し、格納庫から飛び出す。
「まったくバカが……」
格納庫にある固定ベルトで吹き飛ばされないようにして、イクミの出撃を見守っていたロバルトはぼやく。
「任務を忘れてやしないだろうな」
勢いよくブースターを吹かして、雲海を突き抜ける。
前回からさらに二基増やして、合計四基のブースターの加速力は凄まじく僅か数分で雲海を突き抜けてしまう。
「待ってろよ、ダイチはん!」
それだけの加速を発揮したのは、苦境に陥っているダイチを助けたいがためであった。
三軍を騒然とさせた光は消えた。
そこに巨大すぎる光や軌道エレベーターに対して、あまりにも小さなヴァ―ランスが一機だけポツンと浮かんでいた。
「う、く……!」
強すぎる光を目の当たりにして、目をやられていたが、ようやく回復して開けてみる。
「――!」
目にした光景に息を呑む。
軌道エレベーターがえぐられ、横一文字に二つに両断されている。
さっきまで上がったり降りたりして、雲海を突き抜けていた巨大な建造物が見るも無残に破壊されている。
「一体、何が起きて……?」
こんがらがりそうな頭を呼び起こして、思い出してみる。
シュヴァリエにウイングを撃ち抜かれて、背中を焼け付く痛みがまだ残っている。
腕を動かすと、痛んだがなんとか飛べる。
試しに半壊した軌道エレベーターを回ってみる。あれだけ雄大にそびえ立っていただけにその破壊の爪痕は凄まじい。
「こいつでやったのか……?」
ダイチはヴァ―ランスが手にしているバスタービームライフルを見る。
ライフルの銃身は焼け焦げているが、原形は留めている。このライフルから撃ちだされたビームがシュヴァリエを撃ち抜き、あまつさえこの軌道エレベーターを撃ち貫いた。
たかだが十五メートルしかないヴァ―ランスの腕から撃ち放ったライフルが直径数キロにも及ぶ軌道エレベーターを破壊した。その事実に恐怖した。
これはそんな恐ろしい兵器だったのか。いや、違う。
あの光はライフルからだけじゃなくてもっと身近から放たれていた。
「フルート……!」
ダイチは膝上に乗ったままのフルートへ呼びかける。
「そなた、無事であったか……」
フルートは項垂れて弱々しく言う。
「お前こそな。無事でよかった」
「フフ、少しチカラを使いすぎたわ……」
フルートはダイチの背中へもたれかかる。
「おい」
「大丈夫じゃ、少し眠いだけじゃ……」
そう言って、スゥっと寝息を立てる。
「フルート、やっぱりお前が……」
冥皇としてのチカラの一端があの光なのか。
敵どころか軌道エレベータを両断せしめた文字通り神の威光ともいうべき光であった。
以前、ダイチはその光に救われたことがあった。
あの時は地球の温かみに満ちた光だった。さっきのはそれとはまったく違う灼熱の光だった。
どちらも冥皇のチカラなのか。そもそも冥皇とは一体何なのか。冥王星に行けばそれがわかるのか。
(いや、今はそれどころじゃないな)
ダイチは気を引き締める。
ぼんやりとしかけた意識を現実へ引き戻す。今はフルートを守って、この場を離脱する。
三百六十度見渡せるモニターを見回し、近くに敵はいない。レーダーを確認する。レーダーに敵は映っているものの、散発的で隙間が大きい。
この隙間を目指せば離脱できる。
「く……!」
身体に痛みが走り、疲労で力が入らない。
それに連動してヴァ―ランスのブースターの出力が上がらない。片翼になっているせいでバランスもとりづらい。
雲海へ伸びている上は宙に浮いているにもかかわらず落ちてくる気配が無い。だけど、グズグズしてはいられない。いつ落ちてきてもおかしくないし、敵がやってくるかもしれない。
ここは戦場で、決して安全な場所ではないのだから。
「頼む……! もう少しだけもってくれ……!」
自分に、そして、ヴァ―ランスに言い聞かせるように呟く。
フルートを守るために。自分を守るためにチカラを使ってくれたこの幼い少女の為に。
ピコン
『ダイチはん! 無事かいな!?』
「イクミ!?」
いきなり通信ウィンドウが開いて、大声で呼びかけられる。
次の瞬間に、いきなり巨大なマシンノイドが目の前にやってくる。
「こ、こいつは……!?」
『そや! ウチの最高傑作黒鉄のスーパーロボット、フォルティス・デュオや!!』
「おお!? って、そんな名乗りはいいんだよ、何しに来やがった!?」
ダイチはディスプレイを叩く。
平時だったら、間違いなく心揺さぶられてたであろうが、今は非常事態。呑気に心ときめかせている場合じゃないのだ。
『何しにって連れないな。せっかくダイチはんを助けにきたっちゅうのに』
「助けに?」
イクミがそう言うとフォルティスはヴァーランスを抱えて飛ぶ。
「おお!」
身体を支えてくれたおかげでバランスが安定して、まっすぐ飛べるようになった。
『どんなもんや?』
「ああ、これは助かったぜ。このまま離脱してレジスタンスと合流だ」
『チッチッチ、その前にいくところがあるでーダイチはん』
「ん?」
「海賊船や。キャプテン・ザイアスからのご招待やで」
ダイチは沈黙した。
こうなったら成り行きに任せるしかないかもしれない、と、急転し続ける状況に対してそう思った。
「東部国家都市クローアナの領主ツァニス・ダイクリアだ」
「クリュメゾン解放レジスタンス軍団長ギルキス・ダイタミア」
「宇宙海賊ボスランボ船長キャプテン・ザイアスだ」
ボスランボの艦橋のモニターにツァニスとギルキスの通話ウィンドウが隣合うように開かれている。
「奇妙な取り合わせだな」
ギルキスがぼやく。
「これもまた縁ってやつだ」
「その縁はあなたが結んだものじゃありませんか。一体何を企んでいるんですか?」
ツァニスはザイアスに問いかける。
(領主のツァニスが海賊に敬意を払っている……)
そのやり取りを見て、ギルキスはわずかばかりの驚きを抱く。
皇族は自分達こそが最も優れた人種だという思い込みがあり、それだけに他のヒトを見下す傾向が強いという。皇族と対等に接するのは同じ皇族だけ。それだけ誇り高い人種が、ただの宇宙海賊に敬意を払う。ただそれだけだがギルキスには信じ難い光景であった。
「一つ提案がある」
ザイアスは不敵に笑い、告げる。
「宇宙海賊ボスランボ、レジスタンス、東軍の一時同盟を組もうじゃないか」
「「なに!?」」」
ギルキスとツァニスは揃って驚きの声を上げる。
「それは一体何の冗談だ?」
ギルキスは問いかける。
「冗談でこんなことは言わない
「冗談としか思えませんがね。レジスタンスとはクリュメゾンの領地を巡る敵同士、同盟を組む相手に相応しくありません」
ツァニスはザイアスに向かって言うが、ギルキスは見下された面持ちになる。
「……こちらとて同じ意見だ。レジスタンスは皇族の支配体制を打倒するために結成した組織、その皇族と同盟を組むなどあり得ない」
ギルキスはツァニスを睨み、ザイアスに向かって言う。
「………………」
「………………」
ギルキスとツァニスは黙して睨み合う。お互いに敵意を隠すことなく。
「ま、お前達の気持ちはよおくわかったぜ」
「キャプテン・ザイアス、この同盟の話はお断りする」
ギルキスはザイアスの提案を拒否する。
「だがよ、ギルキス団長。あんたの目的は何だ?」
「それは皇族の支配体制の打倒、といったはずだ」
「それだけじゃないだろ――ブランフェール収容所、お前らの攻撃目標だろ?」
ギルキスは目を見張る。
「何故、それを?」
「驚くほどのことではあるまい。新領主ファウナの横暴ともいえる宣言、レジスンタスの理念、進軍模様を考えれば自ずと見えてくる」
「……宇宙海賊にしては大した慧眼だな」
「生き抜くためには必要なものなんでな。そして、俺達の目的とも一致している」
「なに?」
「俺達の目的は捕らえられた火星人達の救出だ」
「どういうことだ? お前達宇宙海賊が火星人を救出したところで何の益があるというのだ?」
「それはレジスタンスにも同じ事が言えるんじゃないか?」
「我々レジスタンス発足の理念は理不尽な皇族の支配の打倒であり、その支配の犠牲者をこれ以上出さないこと。それは他の国の民であろうと火星人であろうとも変わらない。ゆえに見捨ててはおけない」
「それは俺達も同じだ」
「何?」
「………………」
これにはツァニスも驚き、ザイアスを見つめる。
「俺達宇宙海賊も理不尽にヒトが殺されることは許せない。なんとしてでも阻止して救出する。それがこの戦場に介入した理由だ」
「あなたがそのようなことをおっしゃるとは意外です」
ツァニスは敬意を込めて発言する。
「意外だったか。今の俺はあくまで宇宙海賊キャプテン・ザイアス。そして進路を遮るものはなんであれ突破する。それがたとえお前だとしてもな、ツァニス・ダイクリア」
「……!」
ザイアスの稲妻で射貫くような鋭い眼光に、ツァニスはたじろぐ。
(この男、只者ではないな……)
ギルキスもその眼光に冷や汗を流す。
「さて、今ここで決めてもらおうか。俺達と敵対するか、」
「脅迫、ですか?」
「そう受け取ってもいい。こちらとしては友好的に行きたいところなんだがな」
ザイアスはフッと笑う。
「………………」
ツァニスはザイアスにたじろぎつつも、その眼を見つめて思考する。
「流れ星を見たのです」
ツァニスは落ち着きつつも力のこもった口調で答える。
「この戦場で力強く光輝く星を。
俺にはそれが天啓に思えてならなかった。そうして、あなたがやってきた。
――これが天の采配だとするなら、私は従うことにする。
何よりもあなたと敵対するなどと考えただけで恐ろしいことですから」
「いい判断だ。やはり、お前に持ち掛けて正解だった」
ザイアスとツァニスは微笑みを交わす。
「そういうわけだ、ギルキス団長。お前はどうする?」
「皇族と手を組むことはレジスタンスの理念に反する」
「ほう」
「だが、キャプテン・ザイアス。あなたは別だ。理不尽に捕らえられた火星人を救出する、あなたの言葉は信じられる」
「フフ、賢明な判断だ。レジスタンスとはいえ、クリュメゾン軍とやりあっているだけのことはあるというわけか」
「そちらも音に聞こえた宇宙海賊としての力、存分に見せていただこう」
「ああ、戦場でな」
ザイアスは通信士達に目配せする。
そして、海賊船からビーム砲が同盟締結の祝砲のように発射される。
ちゃっかりといつの間にか乗り込んだイクミと眼鏡の少年は以前、ザイアスやリピートに頼み込んで格納庫に保管していたある機体を調整していた。
「状況が目まぐるしく動きよるな~」
「ゆ、愉快そうに言わないでよ……!」
楽しそうにしているイクミを眼鏡の少年が諫める。
「ホンマに愉快やからしょうがないやろ。ほおわはん、いやロバルトはん」
「本名で呼ぶなぁッ!」
ロバルトは叫ぶが、イクミはお構いなしだ。
「さあて、そろそろウチも出るか」
ゴォン!
イクミがそう言うと、格納庫を揺るがす。
その機体は、木星のシュヴァリエに比べるとやや小振りだが、図太い両手足と見るからに頑強そうな胴体から余程の重量感が伺える。
「うんうん、ちゃんと修理できとるみたいやな。いけるで、リピートはん!」
イクミはチャンネルを開いて、艦橋にいるリピートへ呼びかける。
『お前、本当に出るのか?』
リピートは確認する。その声色には多少の心配が混ざっていた。
「愚問やな。これだけ面白い状況になってるんやで。出なければ一生の悔いやで!」
『そこまで言うなら止めねえがな。死ぬんじゃねえぞ』
イクミは親指を立てる。
「生きてなんぼやからな! 必ず生きて帰るで!」
『オーケーだ、ハッチ開けるぞ』
ズダン!
格納庫のハッチが開き、木星上空に吹き荒れる暴風が流れ込んでくる。
「さあいくで! スーパーロボット、フォルティス・デュオのお披露目やー!!」
その逆風を押し返すように名乗りを上げて、ブースターを点火し、格納庫から飛び出す。
「まったくバカが……」
格納庫にある固定ベルトで吹き飛ばされないようにして、イクミの出撃を見守っていたロバルトはぼやく。
「任務を忘れてやしないだろうな」
勢いよくブースターを吹かして、雲海を突き抜ける。
前回からさらに二基増やして、合計四基のブースターの加速力は凄まじく僅か数分で雲海を突き抜けてしまう。
「待ってろよ、ダイチはん!」
それだけの加速を発揮したのは、苦境に陥っているダイチを助けたいがためであった。
三軍を騒然とさせた光は消えた。
そこに巨大すぎる光や軌道エレベーターに対して、あまりにも小さなヴァ―ランスが一機だけポツンと浮かんでいた。
「う、く……!」
強すぎる光を目の当たりにして、目をやられていたが、ようやく回復して開けてみる。
「――!」
目にした光景に息を呑む。
軌道エレベーターがえぐられ、横一文字に二つに両断されている。
さっきまで上がったり降りたりして、雲海を突き抜けていた巨大な建造物が見るも無残に破壊されている。
「一体、何が起きて……?」
こんがらがりそうな頭を呼び起こして、思い出してみる。
シュヴァリエにウイングを撃ち抜かれて、背中を焼け付く痛みがまだ残っている。
腕を動かすと、痛んだがなんとか飛べる。
試しに半壊した軌道エレベーターを回ってみる。あれだけ雄大にそびえ立っていただけにその破壊の爪痕は凄まじい。
「こいつでやったのか……?」
ダイチはヴァ―ランスが手にしているバスタービームライフルを見る。
ライフルの銃身は焼け焦げているが、原形は留めている。このライフルから撃ちだされたビームがシュヴァリエを撃ち抜き、あまつさえこの軌道エレベーターを撃ち貫いた。
たかだが十五メートルしかないヴァ―ランスの腕から撃ち放ったライフルが直径数キロにも及ぶ軌道エレベーターを破壊した。その事実に恐怖した。
これはそんな恐ろしい兵器だったのか。いや、違う。
あの光はライフルからだけじゃなくてもっと身近から放たれていた。
「フルート……!」
ダイチは膝上に乗ったままのフルートへ呼びかける。
「そなた、無事であったか……」
フルートは項垂れて弱々しく言う。
「お前こそな。無事でよかった」
「フフ、少しチカラを使いすぎたわ……」
フルートはダイチの背中へもたれかかる。
「おい」
「大丈夫じゃ、少し眠いだけじゃ……」
そう言って、スゥっと寝息を立てる。
「フルート、やっぱりお前が……」
冥皇としてのチカラの一端があの光なのか。
敵どころか軌道エレベータを両断せしめた文字通り神の威光ともいうべき光であった。
以前、ダイチはその光に救われたことがあった。
あの時は地球の温かみに満ちた光だった。さっきのはそれとはまったく違う灼熱の光だった。
どちらも冥皇のチカラなのか。そもそも冥皇とは一体何なのか。冥王星に行けばそれがわかるのか。
(いや、今はそれどころじゃないな)
ダイチは気を引き締める。
ぼんやりとしかけた意識を現実へ引き戻す。今はフルートを守って、この場を離脱する。
三百六十度見渡せるモニターを見回し、近くに敵はいない。レーダーを確認する。レーダーに敵は映っているものの、散発的で隙間が大きい。
この隙間を目指せば離脱できる。
「く……!」
身体に痛みが走り、疲労で力が入らない。
それに連動してヴァ―ランスのブースターの出力が上がらない。片翼になっているせいでバランスもとりづらい。
雲海へ伸びている上は宙に浮いているにもかかわらず落ちてくる気配が無い。だけど、グズグズしてはいられない。いつ落ちてきてもおかしくないし、敵がやってくるかもしれない。
ここは戦場で、決して安全な場所ではないのだから。
「頼む……! もう少しだけもってくれ……!」
自分に、そして、ヴァ―ランスに言い聞かせるように呟く。
フルートを守るために。自分を守るためにチカラを使ってくれたこの幼い少女の為に。
ピコン
『ダイチはん! 無事かいな!?』
「イクミ!?」
いきなり通信ウィンドウが開いて、大声で呼びかけられる。
次の瞬間に、いきなり巨大なマシンノイドが目の前にやってくる。
「こ、こいつは……!?」
『そや! ウチの最高傑作黒鉄のスーパーロボット、フォルティス・デュオや!!』
「おお!? って、そんな名乗りはいいんだよ、何しに来やがった!?」
ダイチはディスプレイを叩く。
平時だったら、間違いなく心揺さぶられてたであろうが、今は非常事態。呑気に心ときめかせている場合じゃないのだ。
『何しにって連れないな。せっかくダイチはんを助けにきたっちゅうのに』
「助けに?」
イクミがそう言うとフォルティスはヴァーランスを抱えて飛ぶ。
「おお!」
身体を支えてくれたおかげでバランスが安定して、まっすぐ飛べるようになった。
『どんなもんや?』
「ああ、これは助かったぜ。このまま離脱してレジスタンスと合流だ」
『チッチッチ、その前にいくところがあるでーダイチはん』
「ん?」
「海賊船や。キャプテン・ザイアスからのご招待やで」
ダイチは沈黙した。
こうなったら成り行きに任せるしかないかもしれない、と、急転し続ける状況に対してそう思った。
「東部国家都市クローアナの領主ツァニス・ダイクリアだ」
「クリュメゾン解放レジスタンス軍団長ギルキス・ダイタミア」
「宇宙海賊ボスランボ船長キャプテン・ザイアスだ」
ボスランボの艦橋のモニターにツァニスとギルキスの通話ウィンドウが隣合うように開かれている。
「奇妙な取り合わせだな」
ギルキスがぼやく。
「これもまた縁ってやつだ」
「その縁はあなたが結んだものじゃありませんか。一体何を企んでいるんですか?」
ツァニスはザイアスに問いかける。
(領主のツァニスが海賊に敬意を払っている……)
そのやり取りを見て、ギルキスはわずかばかりの驚きを抱く。
皇族は自分達こそが最も優れた人種だという思い込みがあり、それだけに他のヒトを見下す傾向が強いという。皇族と対等に接するのは同じ皇族だけ。それだけ誇り高い人種が、ただの宇宙海賊に敬意を払う。ただそれだけだがギルキスには信じ難い光景であった。
「一つ提案がある」
ザイアスは不敵に笑い、告げる。
「宇宙海賊ボスランボ、レジスタンス、東軍の一時同盟を組もうじゃないか」
「「なに!?」」」
ギルキスとツァニスは揃って驚きの声を上げる。
「それは一体何の冗談だ?」
ギルキスは問いかける。
「冗談でこんなことは言わない
「冗談としか思えませんがね。レジスタンスとはクリュメゾンの領地を巡る敵同士、同盟を組む相手に相応しくありません」
ツァニスはザイアスに向かって言うが、ギルキスは見下された面持ちになる。
「……こちらとて同じ意見だ。レジスタンスは皇族の支配体制を打倒するために結成した組織、その皇族と同盟を組むなどあり得ない」
ギルキスはツァニスを睨み、ザイアスに向かって言う。
「………………」
「………………」
ギルキスとツァニスは黙して睨み合う。お互いに敵意を隠すことなく。
「ま、お前達の気持ちはよおくわかったぜ」
「キャプテン・ザイアス、この同盟の話はお断りする」
ギルキスはザイアスの提案を拒否する。
「だがよ、ギルキス団長。あんたの目的は何だ?」
「それは皇族の支配体制の打倒、といったはずだ」
「それだけじゃないだろ――ブランフェール収容所、お前らの攻撃目標だろ?」
ギルキスは目を見張る。
「何故、それを?」
「驚くほどのことではあるまい。新領主ファウナの横暴ともいえる宣言、レジスンタスの理念、進軍模様を考えれば自ずと見えてくる」
「……宇宙海賊にしては大した慧眼だな」
「生き抜くためには必要なものなんでな。そして、俺達の目的とも一致している」
「なに?」
「俺達の目的は捕らえられた火星人達の救出だ」
「どういうことだ? お前達宇宙海賊が火星人を救出したところで何の益があるというのだ?」
「それはレジスタンスにも同じ事が言えるんじゃないか?」
「我々レジスタンス発足の理念は理不尽な皇族の支配の打倒であり、その支配の犠牲者をこれ以上出さないこと。それは他の国の民であろうと火星人であろうとも変わらない。ゆえに見捨ててはおけない」
「それは俺達も同じだ」
「何?」
「………………」
これにはツァニスも驚き、ザイアスを見つめる。
「俺達宇宙海賊も理不尽にヒトが殺されることは許せない。なんとしてでも阻止して救出する。それがこの戦場に介入した理由だ」
「あなたがそのようなことをおっしゃるとは意外です」
ツァニスは敬意を込めて発言する。
「意外だったか。今の俺はあくまで宇宙海賊キャプテン・ザイアス。そして進路を遮るものはなんであれ突破する。それがたとえお前だとしてもな、ツァニス・ダイクリア」
「……!」
ザイアスの稲妻で射貫くような鋭い眼光に、ツァニスはたじろぐ。
(この男、只者ではないな……)
ギルキスもその眼光に冷や汗を流す。
「さて、今ここで決めてもらおうか。俺達と敵対するか、」
「脅迫、ですか?」
「そう受け取ってもいい。こちらとしては友好的に行きたいところなんだがな」
ザイアスはフッと笑う。
「………………」
ツァニスはザイアスにたじろぎつつも、その眼を見つめて思考する。
「流れ星を見たのです」
ツァニスは落ち着きつつも力のこもった口調で答える。
「この戦場で力強く光輝く星を。
俺にはそれが天啓に思えてならなかった。そうして、あなたがやってきた。
――これが天の采配だとするなら、私は従うことにする。
何よりもあなたと敵対するなどと考えただけで恐ろしいことですから」
「いい判断だ。やはり、お前に持ち掛けて正解だった」
ザイアスとツァニスは微笑みを交わす。
「そういうわけだ、ギルキス団長。お前はどうする?」
「皇族と手を組むことはレジスタンスの理念に反する」
「ほう」
「だが、キャプテン・ザイアス。あなたは別だ。理不尽に捕らえられた火星人を救出する、あなたの言葉は信じられる」
「フフ、賢明な判断だ。レジスタンスとはいえ、クリュメゾン軍とやりあっているだけのことはあるというわけか」
「そちらも音に聞こえた宇宙海賊としての力、存分に見せていただこう」
「ああ、戦場でな」
ザイアスは通信士達に目配せする。
そして、海賊船からビーム砲が同盟締結の祝砲のように発射される。
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ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
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