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第6章 お披露目
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ホールに満ちていた騒めきがどよめきへと変わった。
館の主人、正装に身を包んだノワール公爵と夫人が並んで入ってくる。
人々の視線はその背後、嫡男のフェールにエスコートされる女性に集まっていた。
お披露目には白いドレスを着用する事が習わしとなっている。
その習慣通り、純白のドレスの長い裾にはよく見ると白い糸で花柄の刺繍が施され、真珠が散りばめられている。
大きく開いた背中にまでかかる、結い上げられた黒髪に結ばれた白いリボンには、紫色の唐草模様が刺繍されていた。
アクセサリーはシンプルだったが、見た事がないほど大粒の真珠が胸元と耳を飾っており、手の込んだドレスと共に公爵家の力を誇示している。
だが何より人々の目を引いたのは彼女の容姿だった。
この国では黒髪はノワール公爵家にしかおらず、しかも女性は彼女が初めてだという。
濡れたように輝く黒髪と、同じ色の長い睫毛の下に覗く青灰色の瞳は宝石のような輝きを持ち、きめ細やかな乳白色の肌は彼女を飾る真珠よりも艶やかで。
紅を引いた形の良い唇は微笑を浮かべている。
兄や父に似た端正な面立ちは華やかというよりも控えめだったが、内側から滲み出る美しさが彼女を覆っているようだった。
「まあ…綺麗…」
「なんと美しい…」
「さすがノワール家の秘宝だな」
「まるで女神…夜に輝く月の女神のようだ…」
ため息とともに聞こえて来るロゼへの称賛の中に『月の女神』という言葉が聞こえ、ホールの隅で見守っていたルーチェは思わず声のした方を見た。
会話をしていた一団の表情を見るに、彼らは素直にロゼを称賛しているようだった。
確かにロゼは太陽よりも月が似合う。
今日のために磨き上げたその姿は女神のように美しい。
だが、賛辞なのだけれどどうしても…月の女神という言葉は不幸なあの人と重なってしまい、素直に喜べない。
(セレネも…最初はこんな風に称賛されていたのかしら…)
魔女と呼ばれ恐れられる前は、彼女も女神と謳われていたのだ。
ルーチェが五百年前の事に思いを馳せていると、公爵一家は舞台のように一段高くなった場所の中央へ立った。
「今宵は多くの方々にお集まりいただき、感謝する」
公爵のよく通る声がホールに響く。
「娘は長く領地で療養していたが、ようやく公の場に出られるまで回復したため今宵の場を用意させて頂いた。———ロゼ」
公爵の言葉にロゼは一歩前へと出ると完璧な姿勢でカーテシーを披露した。
「ロゼ・ノワールと申します。未熟ではございますがお見知りおきをお願いいたします」
「声まで美しい…」
「とても病気だったとは思えないほど綺麗だわ…」
ざわめくその様子や言葉からはロゼへの好意しか感じられない。
———良かった。
この世界に戻って半年で身につけたとは思えない、公爵令嬢として文句ないロゼの所作にルーチェはほっと胸を撫で下ろした。
「…さて、娘の本復は喜ばしいが…」
公爵は大袈裟にため息をついた。
「早速目をつけ、あっという間に娘の心を奪った者がいる」
公爵が視線を送った先から現れた、白い騎士の正装に身を包んだヴァイスがロゼの隣へ立った。
天青石のブローチで留めたスカーフには、青と灰色の糸でロゼのリボンと同じ模様の刺繍が施されている。
どちらもロゼが自分で刺繍したものだ。
「我が国軍は情報収集と行動力に優れているのは周知だが…まさかそれで我が娘を取られるとは思いもよらなかった」
やや芝居がかった公爵の口調と嘆きに会場からどっと笑いが起きた。
宰相家の娘と将軍家の子息の噂は既に社交界中に知れ渡っていた。
お披露目の前に婚約者がいる事は珍しくないが、ロゼの場合はその存在を知られる事なく領地に籠り続けていた事になっているのだ。
そのロゼと、女嫌い、社交嫌いで有名な第二騎士団長がどういう経緯で出会ったのか。
それは社交界の恰好の話題であったし、下衆な噂もあるとの話だった。
「国防は次代も安泰だろうが、親として子の未来は不安が多い。どうか娘ロゼと婚約者のヴァイス・アルジェント、二人を温かく見守り支えてやってほしい」
わあっと歓声と拍手が上がり、温かな祝福の空気が会場内を満たした。
館の主人、正装に身を包んだノワール公爵と夫人が並んで入ってくる。
人々の視線はその背後、嫡男のフェールにエスコートされる女性に集まっていた。
お披露目には白いドレスを着用する事が習わしとなっている。
その習慣通り、純白のドレスの長い裾にはよく見ると白い糸で花柄の刺繍が施され、真珠が散りばめられている。
大きく開いた背中にまでかかる、結い上げられた黒髪に結ばれた白いリボンには、紫色の唐草模様が刺繍されていた。
アクセサリーはシンプルだったが、見た事がないほど大粒の真珠が胸元と耳を飾っており、手の込んだドレスと共に公爵家の力を誇示している。
だが何より人々の目を引いたのは彼女の容姿だった。
この国では黒髪はノワール公爵家にしかおらず、しかも女性は彼女が初めてだという。
濡れたように輝く黒髪と、同じ色の長い睫毛の下に覗く青灰色の瞳は宝石のような輝きを持ち、きめ細やかな乳白色の肌は彼女を飾る真珠よりも艶やかで。
紅を引いた形の良い唇は微笑を浮かべている。
兄や父に似た端正な面立ちは華やかというよりも控えめだったが、内側から滲み出る美しさが彼女を覆っているようだった。
「まあ…綺麗…」
「なんと美しい…」
「さすがノワール家の秘宝だな」
「まるで女神…夜に輝く月の女神のようだ…」
ため息とともに聞こえて来るロゼへの称賛の中に『月の女神』という言葉が聞こえ、ホールの隅で見守っていたルーチェは思わず声のした方を見た。
会話をしていた一団の表情を見るに、彼らは素直にロゼを称賛しているようだった。
確かにロゼは太陽よりも月が似合う。
今日のために磨き上げたその姿は女神のように美しい。
だが、賛辞なのだけれどどうしても…月の女神という言葉は不幸なあの人と重なってしまい、素直に喜べない。
(セレネも…最初はこんな風に称賛されていたのかしら…)
魔女と呼ばれ恐れられる前は、彼女も女神と謳われていたのだ。
ルーチェが五百年前の事に思いを馳せていると、公爵一家は舞台のように一段高くなった場所の中央へ立った。
「今宵は多くの方々にお集まりいただき、感謝する」
公爵のよく通る声がホールに響く。
「娘は長く領地で療養していたが、ようやく公の場に出られるまで回復したため今宵の場を用意させて頂いた。———ロゼ」
公爵の言葉にロゼは一歩前へと出ると完璧な姿勢でカーテシーを披露した。
「ロゼ・ノワールと申します。未熟ではございますがお見知りおきをお願いいたします」
「声まで美しい…」
「とても病気だったとは思えないほど綺麗だわ…」
ざわめくその様子や言葉からはロゼへの好意しか感じられない。
———良かった。
この世界に戻って半年で身につけたとは思えない、公爵令嬢として文句ないロゼの所作にルーチェはほっと胸を撫で下ろした。
「…さて、娘の本復は喜ばしいが…」
公爵は大袈裟にため息をついた。
「早速目をつけ、あっという間に娘の心を奪った者がいる」
公爵が視線を送った先から現れた、白い騎士の正装に身を包んだヴァイスがロゼの隣へ立った。
天青石のブローチで留めたスカーフには、青と灰色の糸でロゼのリボンと同じ模様の刺繍が施されている。
どちらもロゼが自分で刺繍したものだ。
「我が国軍は情報収集と行動力に優れているのは周知だが…まさかそれで我が娘を取られるとは思いもよらなかった」
やや芝居がかった公爵の口調と嘆きに会場からどっと笑いが起きた。
宰相家の娘と将軍家の子息の噂は既に社交界中に知れ渡っていた。
お披露目の前に婚約者がいる事は珍しくないが、ロゼの場合はその存在を知られる事なく領地に籠り続けていた事になっているのだ。
そのロゼと、女嫌い、社交嫌いで有名な第二騎士団長がどういう経緯で出会ったのか。
それは社交界の恰好の話題であったし、下衆な噂もあるとの話だった。
「国防は次代も安泰だろうが、親として子の未来は不安が多い。どうか娘ロゼと婚約者のヴァイス・アルジェント、二人を温かく見守り支えてやってほしい」
わあっと歓声と拍手が上がり、温かな祝福の空気が会場内を満たした。
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