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第6章 お披露目

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「さすが宰相閣下。名演説だね」
いつの間にかルーチェの隣にランドが立っていた。
普段は着崩したラフな恰好だが、流石に今日は髪をきっちり後ろに流して正装を着こなしている。

(すっかり忘れてたけど…この人も攻略対象なのよね)

前世での大学の准教授を思い出すからか肩書きのせいか、先生のように思っていたけれど。

(美形オーラが凄いわ…)

「何?」
まじまじとランドを見つめるルーチェの視線に気づいて、ランドは首を傾げた。

「いえ…ちゃんとした姿になると見違える…いえその」
「はは、よく言われるよ。でもこういう堅苦しい服は苦手なんだよね」
首元のタイを緩める仕草をしながらランドは言った。

「ルーチェは一人なの?家族も来るんじゃなかったっけ」
「その予定でしたが…昨日の面会で力尽きてしまったようで…」

ルーチェを婚約者にしたいとユークから正式に申し込まれ、今日のお披露目に合わせて田舎から両親と兄を呼んでいた。
昨日は殿下と両陛下、そしてルーチェが養子に入る事になるアズール公爵家の方々との面会があったのだが。
まさか王宮に働きに行った娘が王太子や公爵家の人間と親しくしているとは知らず、更に王太子の婚約者となるとは想像すら出来なかった家族たちの驚きは尋常ではなく。
王都に来ることすら滅多にない彼らは錚々たる顔ぶれとの面会ですっかり疲れ切ってしまった。
仕方なく今日のお披露目への出席は諦めたのだ。


「そうなんだ。新しい家族とは一緒にいなくていいの?」
ランドが視線を送った先には、壇上での挨拶を終えた宰相とロゼがアズール公爵と息子のオリエンスと挨拶を交わしている。

「まだ公になっていませんから…」
「でも一人でいて大丈夫?変な男に声掛けられたりしていない?」
「大丈夫です」
ルーチェは握り拳を上げた。
「いざとなったらこれがありますし」
「…それを使うのは殿下だけにしておいて欲しいな」
「そうですか?」
未来の王妃が武闘派だとは…なるべく知られたくない事だ。


「フラーウム公爵」
宰相がロゼを連れてやってきた。

「本日はおめでとうございます」
和かな笑顔でランドは祝いの言葉を述べた。
「公爵にはとても世話になった。これからも頼むよ」
「はい」

「ルーチェ」
宰相はルーチェに向いた。
「君がいなければロゼはどうなっていたか。本当に感謝する」
「いえそんな…私はただ一緒にいただけで…」

「それが一番嬉しいの」
ロゼはそう言ってルーチェの手を取った。
「ひかりがこの世界に来てくれて、本当に感謝しているわ」
「ロゼ…」
「会う時間は減ってしまうでしょうけれど、これからもよろしくね」
「ええ…よろしくね、ロゼ」
ルーチェはアズール家へ移り、王妃教育が始まる。
これから忙しくなるだろう。



「あの女性は誰だ」
宰相たちが去っていくのを見送っていたルーチェの耳に声が聞こえてきた。

「ノワール家の方々と親しそうだが」
「ずいぶんと美人だな」
「でも見た事がないわ」
「あのドレス…とても上等だわ」
「ネックレスの細工も見事ね…」
「まさかフラーウム公爵の…?」

「ああ、ロゼの次は君の番だね」
同じく声が聞こえたのだろう、ランドがルーチェを見て笑みを浮かべた。
「ロゼ以上に噂が飛び交うだろうし、大変だと思うよ」
「…はい」
公爵家の養女になるとはいえ、元は子爵令嬢が王太子の婚約者になるのだ。
風当たりも強いだろう。

「君が色持ちである事を明かして、二百年前の王妃の事も明らかにすれば歓迎されるだろうけど。どうする?」
この国では魔力持ちは特別視される。
子爵令嬢のルーチェがユークの両親である国王と王妃にあっさり受け入れられたのも、魔力持ちである事と二百年前の話をランドが両陛下に説明したからだ。
今その事を知っているのは五家の人間だけだが、他の貴族や国民にも明かせば同様に身分になど些細な事となるだろう。

「…でも明かすのは、私が魔力を持っている事だけですよね」
「渡り人である事は知られたくなければ伏せていいよ」
「いえそうではなくて…セレネやカレンの事は…」
「———それは陛下の意向によるけれど、まず明かせないだろうね」

「…そう…ですよね」
「まあでも、殿下の代になって色持ちの存在に頼らずとも国を強固に出来れば…彼女たちの存在と犠牲があった事を明かせるかもしれないね」
ランドの言葉にルーチェは目を見開いた。

「あ…」
「国を良くできるか、変えられるか。全ては我々次第だ」
ランドはルーチェに笑顔を向けた。
「未来の王妃として頼りにしてるよ」

「はい…頑張ります」
ルーチェも笑顔を返して頷いた。
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