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第十二章 異世界探訪

12ー17 クィンテス その三(戦の兆し)

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 俺はクィンテスで色々な方法で不老若しくは長寿のための方法を研究している。
 δ型ゴーレムを使役して、クィンテス世界のあらゆる場所から水を集め、食糧素材を集め、ついでに空気までも集めさせている。

 研究をする場所は、ルバーシュ医療・薬剤所兼住居になっている中古物件の建物の地下だ。
 以前の所有者が倉庫に使っていた地下室はあったのだが、作りが悪くてそのままでは使えないから、地中30mのところに新たに研究棟を作ってそこで夜のお仕事だな。

 昼間は、医療・薬剤所の正業で忙しいんだ。
 アンドロイドの看護師や医療技師はいるんだが、名目上彼らには医療行為はさせられない。

 彼らにも医療知識は与えているから、俺と同程度の外科的医療はできるんだぜ。
 尤も、彼らに魔法は扱えないから治癒魔法は無理だ。

 物理的攻撃力なら百人の兵士でも相手にできるんだが、病原菌が相手では、正確な診断と的確な診療行為が必要になる。
 それでも、緊急の場合は無理にでも医療行為をさせることも考えている。

 とにかく例の疫病が流行ってからは、医療・薬剤所に来る患者数が激増したからな。
 朝の9時に開所して夜7時まで、昼休みのわずかな休憩時間を除いては働きどおしだぜ。

 1時間に診られる患者数なんてたかが知れている。
 まぁ、エリアヒールを使って一挙に治療することもできないわけじゃないんだが、魔法の無い世界では目立ちすぎるから流石にできない。

 治癒魔法を使うにしても、個々の患者に対してこっそりと魔法をかけるだけの話だな。
 患者一人に対して診療時間が5分から10分としても、1時間に6人から12名程度。

 8時間で診療をこなせる人員が、50名から90名前後。
 目一杯頑張っても一日に百人前後が精一杯なんだ。

 野戦病院的な施設で看護師までフルに使って専従で疫病対策をやっていた時とは違う。
 患者数が増えた今では止むを得ず予約制をとっている。

 電話が無いからな、整理券を発給して後日に来てもらう方式だ。
 尤も、命に関わる急患の場合は別なので、受付の看護師にはその辺のトリアージをやってもらっている。

 急患の場合は予約や整理券に関わらず優先させているんだ。
 それでもこれだけ名が売れると、毎日ルバーシュ医療・薬剤所が戦場になっている。

 そうして夜は、俺の時空間で適宜休息しながら不老や長寿の研究だな。
 そんな中で気になる情報が入ってきた。

 ロバーナ連邦が在るイラゴラス大陸の南方に存在するクレボナス大陸には、ドルザック原理主義共和国が存在し、イラゴラスとクレボナス両大陸間にあるデカルボ海に位置するマリドール諸島の領有権を巡って数十年前から紛争を続けている。
 今現在は、マリドール諸島の7割を占める北部島域をロバーナ連邦が、残り三割の南部を占める島嶼をドルザック原理主義共和国が領有している。

 これまでは紛争をあまり拡げないようにと自重してきたロバーナ連邦のおかげで紛争が左程には拡大していない。
 これまでの客観的な総合力では、ロバーナ連邦を100の戦力とすれば、ドルザック原理主義共和国の戦力は60をやや上回る程度に過ぎなかった。

 但し、最近になってドルザック原理主義共和国側が極端な軍事費投入によりそのバランスを崩そうとしてきたのである。
 特に海軍力の増強に力を入れ始めて、数年前から秘密裏に超ド級戦艦を建造し始めていた。

 地球の19世紀後半から20世紀初頭の文明とは言いつつも、地球とは異なる進化をしているので、必ずしも同程度の科学文明を持っているわけではないんだ。
 原油が重質油系統を産出するために、重油及び軽油で駆動する機関の開発が進み、ガソリン機関は未開発の状態だ。

 ために陸上交通では未だに石炭を炊いて走る蒸気機関車が主流だ。
 軽油を用いたディーゼル機関も一応は開発されているが、非常に高価につくために軍事利用が主である。

 石炭ボイラーによる蒸気機関が進展した所為で、タービン機構も開発されており、一部の軽量軍艦には使用され始めたのだが、軍艦の主流はいまだにレシプロ機関である。
 ところがドルザック原理主義共和国は、大規模な予算を投じて重油炊きボイラーとタービン機関を製造し、大型軍艦の速力を上げることに成功したのだった。

 その上でこれまで排水量で1万トン程度の戦艦を、4万トン近くの排水量にまで大型化し、搭載武器も二連装の長射程砲を搭載することにしたのである。
 これまでのレシプロ駆動の戦艦の主砲は、言ってみれば明治時代の戦艦三笠の主砲程度。

 既存戦艦の速度はせいぜい18ノット程度、同じく主砲で40口径30センチ(正確には29.8センチだった)、射程12キロ、副砲で40口径15センチ(正確には14.9センチだ)砲、射程10キロ程度なんだ。
 炸薬火薬量も30センチ徹甲弾で20キロ未満、りゅう弾砲で40キロ未満というところだな。

 そこに射程で二倍強の性能を有する連装36センチ砲4基を搭載し、炸薬火薬量は若干減ったものの新型火薬の採用で破壊力が増した徹甲弾を使用し、25ノット以上の高速で動き回れる巨大な戦艦が出現したなら相手になる方は非常に困るだろうな。
 海上での砲撃戦は中々当たらないというのが常識ではあるけれど、日本海海戦ではびっくりするぐらい日露で差があった。

 おそらく砲身の工作精度から見てロバーナ連邦の海軍戦闘艦は、ドルザック原理主義共和国の新型艦に比べて8対1ぐらいの割合で劣勢だと思う。
 5隻の主力艦が束になっても1隻の新型艦に勝てないと俺は見ている。

 ドルザック原理主義共和国の新型艦は装甲を厚くしているので、威力の低い30センチ砲では仮に砲弾が届いても相手の装甲を破壊できない可能性が高い。
 その逆にロバーナ連邦の既存艦は、新型艦の主砲で簡単に打ち抜ける紙装甲なのだ。

 これでは戦闘になれば勝てるはずもない。
 しかもドルザック原理主義共和国は国家予算が崩壊するほどの巨費を投入して一気に三隻も新造艦を建造した。

 ロバーナ連邦もドルザック原理主義共和国で大型戦闘艦を建造していることは察知していても、その詳細までは知らないでいる。
 そうして当該新型戦艦は相次いで竣工し、ドルザック原理主義共和国海軍は秘密裏に試運転を開始した。

 もちろん俺のδ型ゴーレムは詳細に試験結果を報告してきており、ドルザック原理主義共和国の将官も知らないような新型艦の構造上の欠陥も知らせてきた。
 ドルザック原理主義共和国の軍部は取り敢えずマリドール諸島北部の島嶼域を制圧し、その足でロバーナ連邦の軍港があるハフリードとロバーナ連邦の最大貿易港であるジャコダルを破壊することに主眼を置いているようだ。

 ロバーナ連邦の主要港湾に海岸砲台はあるけれど、砲台の射程距離は約12キロ程度なので、新型艦搭載の36センチ砲でアウトレンジから攻撃されれば手も足も出ないことになる。
 因みに軍港であるハフリードには12の砲台が設置してあるが、ジャコダルには6砲台しか設置されていない。

 ドルザック原理主義共和国海軍の思惑では、マリドール諸島北部の島嶼域に駐留するロバーナ海軍第二艦隊を撃破し、余勢を駆ってハフリードとジャコダルを攻撃する予定なのだ。
 生憎と、ドルザック原理主義共和国軍も上陸してロバーナ連邦の首都に侵攻するほどの陸戦軍事力はないんだ。

 従って、ロバーナ連邦の海軍を痛めつけれるだけ痛めつけて、マリドール諸島の領有権を確保するとともに、自国に有利な条件で講和条約を締結、巨額の賠償金を手に入れる心づもりのようだ。
 新型戦艦三隻が健在であれば確かにロバーナ連邦の海軍に勝ち目はないだろう。

 ドルザック原理主義共和国の新型戦艦に対抗して同様の戦闘艦を建造するにしても最低でも数年は必要だろうな。
 特に、新開発のタービン機関や高出力ボイラーの製造、大型口径の主砲などの開発にはかなりの試行錯誤の時間が必要だろう。

 まぁ、俺が手掛けるならばすぐにでも作れるんだが・・・・。
 さてさて、一体この紛争にどこまで介入するかだな。

 余り無駄な血を流させたくはないんだが、・・・。
 仮にそれなりの力で抑え込んだにしても、いずれは狂信者どもの反感を抑え込めなくなるのは間違いない。

 ヴェルタ神教の原理主義派は、古典に回帰すべしとの教えを頑固に守る狂信者の群れなんだ。
 その信徒たちが国名に原理主義を掲げるぐらい経典に忠実であるということだ。

 彼らの経典では、男尊女卑が明確に詠われており、他のヴェルタ神教の派閥の存在を認めない。
 従って、クレボナス大陸においても周辺国家と常に紛争を引き起こしている無頼の国家なのだ。

 国家主席はヴェルタ神教原理主義派の総主教であり、神の啓示と称して周辺国家への侵略を正当化し、征服を企てている。
 マリドール諸島の併合もその政策の一環なのだ。

 神がかりの狂信者については、過去の日本にも一向一揆等で有名だが、最近では地下鉄サリン事件のオ○ム真理教もあったな。
 俺の感覚ではとにかくめんどい奴らというイメージしかない。

 今現在の総主教も神の啓示と偽って周辺地域の征服を企てているだけのただの愚か者だ。
 神への崇拝は形だけ、中身が伴っていないことはδ型ゴーレムの情報で把握している。

 この総主教なる男を排除しても別の誰かが取って代わるだけだから、もっと根本的にどうにかしなければならないのだけれど、どうすべきか。
 それが問題だな。

 まぁ、巨額の建造費をかけた新型戦艦を潰せば、それだけで次年度からの予算が回らなくなるはずだけれど、無辜の民草が居るならば可哀そうというところかな?

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 8月10日イラゴナスをイラゴラスに修正しました。

  By サクラ近衛将監
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