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第十章 嫁sの実家

10ー10 ウェイン家 その二

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 トゥワルパ族の流行り病の原因は変性ウェルシュ菌だ。
 食物を通じて腸内に入った変性ウェルシュ菌が悪さを働き、かなりの確率で腸内でガス壊疽を起こし、死に至らしめている。

 トゥワルパ族に張り付けていたδ型ゴーレムからの報告があって、この一族に致死性の病気が発生していることを初めて知り、感染防護の措置を講じた上で俺が秘かに現地に診に行き、患者等から種々の検体を採取した。
 その検体を分析するのは流石に俺の手には余るから、地球世界の病原菌研究所に持ち込んで検査させたのだ。

 一か月近くかかって研究所の職員がようやく突き止めてくれたのが、地球世界にも存在するウェルシュ菌による症状とわかったのだ。
 因みに地球世界の一か月なので、ホブランド世界では実質二日もかかっていないし、このころには俺がある特殊なチートを使えるようになっていて、地球世界とホブランド世界の時間軸については余り問題にしなくてもよくなっていた。。

 但し、こいつは地球世界ではこれまで発見されていない亜種のウェルシュ菌であり、かなり強烈な物らしい。
 そもそもウェルシュ菌は、地球世界でも至るところで食中毒を引き起こしているんだが、俺が持ち込んだ奴はどうもホブランド世界のウェルシュ菌が突然変異を起こした奴らしく多少性質が違っているのと毒性がかなり強いことが判明している。

 そうした特殊な検体を俺が持ち込んだことが公になると、地球世界でも大騒ぎになることが目に見えている。
 従って、そうした検体を持ち込んだこと、検査したこと、検査の結果などについて、これに携わった全員の記憶を俺のチート能力で消し去っているので、今後この件が地球世界で問題になることは無いはずだ。

 そもそものウェルシュ菌は、トゥワルパ族が飼っている鶏が宿主となっていたものだ。
 その肉や卵を食べたものが感染している状況であり、また、発症者の世話を焼く人物が糞便に触れたりすること等で感染が広まり、感染症に疎いトゥワルパ族の集落ではその連鎖は増えこそすれ消えてはいないのだ。

 俺は、バジャに対して、飼育している家畜の中に潜む小さな生き物がヒトの体に入って悪さを働いているとの推測(実際には既に確認されている結論)を話し、まずは流行り病に掛かった者に与えるべき対抗薬を渡した。
 この対抗薬も実は地球世界の研究員に圧力をかけて俺のチート能力と合わせて作り上げたものだ。

 俺がいくらチート能力を持っていても、頭で理解していない物を具現化するのは困難なんだ。
 その対抗薬とは別に、飼育しているヤギ及び鶏に与える薬も同様に開発させていたから、それも使用方法を教えてバジャに渡したのだった。

 渡した対抗薬の分量は、かなり多く見積もって渡している。
 元々、ウェルシュ菌は酸素の少ないところを好む嫌気性の病原体だ。

 変性ウェルシュ菌はそれに輪をかけており、標高1500m以下の高度ではおそらく繁殖できないと推測されている。
 少なくとも地球に持って行ったサンプルは一気圧の元ではすぐに死に絶えていた。

 そのために俺は三度もホブランドと地球を行き来してサンプリングをする羽目になったくらいであり、気圧差にようやく気づいて初めて研究が進んだのだ。
 取り敢えず、必要量を患者に与え、余剰分は予防のためにそれ以外の里人に与えるよう指示をした。

 また感染予防のための手洗いの励行と、吐しゃ物や糞便処理に際して直接触れないように注意することなどの注意事項を説明しておいた。
 バジャは、俺の言うことを素直に聞き、盛んにメモを取っていた。

 尤も、彼らの文字は非常に簡易なものであり、表現力に乏しいのだが、それでも自分が人に説明できるだけの情報は書き留めることができたらしい。
 特に交易に連れてきていた感染者(未発症)二人については、恐らく高度の低いファーリングトンに来たことで健康体に戻る可能性が非常に高いのだが、それでも念のため薬の処方をその場で実践させ、ついでに手洗いや病人の面倒を見る際の注意事項についても訓練させた。

 バジャとその仲間達が全員理解したようなので、今回の俺のファーリングトン訪問の目的は達成された。
 俺が放置していたならば、トゥワルパ族は変性ウェルシュ菌の猛威で絶滅していただろう。

 この菌の特殊なところは、高山でのみ発症し、低地の住民には影響を与えないことだから、現状のままならば、トゥワルパ族以外の者には感染しないはずだ。
 俺としては、純朴なトゥワルパ族を助けてやりたかったし、将来的に突然変異で低地に住む者でも罹患するようになる恐れも否定できず、早期にウェルシュ菌の根絶を図っておきたかった。

 とりあえずの目的が達成できたので、その後は少し交易市を覗き、珍しい植物で薬草に使えるものなどをトゥワルパ族から購入して、俺はファーリングトンを去ることにした。
 帰りもキャタピラー車両による移動だが、リジェルは下りの方に随分と神経を使って運転をしていた。

 余程のことが無ければ事故らない代物に作っているのだが、やはり路面状態の酷い急な坂道などは恐怖を覚えるものらしい。
 俺たちは暗くなる前に麓の町で野営している伴の者達と合流した。
 
 その日は久しぶりに部下達と野営だ。
 とは言いながら、拡張した貨物車の中が空なのでそこに二段ベッドを据え付けての車中泊であり、幕舎で寝起きする野営とは一味異なる。
 
 余り贅沢をさせてもいけないのだが、俺が同行するときは冷暖房完備の車中泊となるし、料理も俺が持参しているものを放出するからそれなりに部下たちも期待しているはずだ。
 但し、行軍訓練の際は俺が付いて行ってもこんな贅沢はさせないんだぜ。
 
 まぁ、たまには贅沢もいいだろう。


 ◆◇◆◇◆◇

 それから二月ほどして、ウェイン子爵から手紙と荷が届いた。
 トゥワルパ族の間で流行っていた病が、俺が与えた薬で消えたようだ。

 無論、それまでに死んだ者が一割ほどもいるのだが、少なくとも彼らの全滅は避けられたようだ。
 バジャがファーリングトンの代官に事の顛末を話し、代官を通じて俺にお礼の品を渡してほしいと託送を依頼した品物があったのだ。

 代官は、領主であるウェイン子爵に報告し、同時にトゥワルパ族のお礼の品をリューマ辺境伯にお届け願いたいと申し出たようだ。
 バジャがお礼の品として託送したのは、俺が交易市で購入した珍しい植物であり、かなり大量であった。

 そうしてまた、燃えるように真っ赤な玉石も同時に送ってきていた。
 この玉石はトゥワルパ族の英雄に与えられる一族の誉れの石だった。

 高山に住み着いて長い歴史のある一族だが、これまで掘り出されたものが三つしかない代物であり、一族の宝とでも言うべき品である。
 正直なところ、δ型ゴーレムからの情報でその由来を知っているだけに、そのまま受け取って良いものかどうか迷ったが、誠実な彼らのお礼の気持ちを拒否することはできないだろう。

 それゆえに、俺からお返しとして領内の特産物を送り、トゥワルパ族に届けられるよう手配をした。
 この縁が元で、カラミガランダとファーリングトンの間に定期便ができたのは一年後のことである。

 ウェイン子爵に許しを貰って、麓の町バワバンダと交易地ファーリングトンの間の道路整備を行ったのだ。
 このためにカラミガランダからファーリングトンまで馬なし馬車が走れるようになったのだ。

 トゥワルパ族の集落までの道路の整備は敢えて手控えている。
 彼らの集落への行き来が簡単になると、彼ら一族の安寧を脅かすことにもつながるからだ。

 いずれにせよ、一年に二度、お中元とお歳暮(ホブランド世界にそのような風習は無い)代わりにカラミガランダから領内の特産品を積んだ輸送車が走ることになった。
 勿論、トゥワルパ族の産品がその輸送車に積まれて戻ってくることになるし、当然のことながらウェイン子爵にも同じものは届けているぞ。

 その後も、トゥワルパ族は、俺を通じつつもウェイン子爵に忠誠を尽くしたのである。
 ウェイン子爵も彼らの特殊能力を認め大事にしたので、ウェイン子爵の三代後までこの良好な関係は続いた。

 後にウェイン家三代目当主が伯爵に陞爵し、領地を変わったことでその蜜月関係はやや薄れたが、ファーリングトンを領有する領主がその後を引き継いだので、俺が隠遁生活を始めるまで特に問題は生じなかった。
 それはほぼ60年後になるのだが、俺が隠遁してからの出来事については関知していない。


 ◆◇◆◇◆◇ 閑話 地球での過ごし方 ◇◆◇◆◇◆

 俺の場合、時折は地球世界にも戻るんだが、俺の正体というか、本名を知る者は、地球には既に居ない。
 地球世界での仮の名前はある。

 地球世界では、もうかれこれ十回以上も俺のチート能力で出生国やら住所それに名前を変えているんだ。
 まるでどこやらの秘密諜報員みたいだなと時々思うよ。

 そう言えば、ついに地球人類は火星に到達したんだぜ。
 月面基地はルナ・シティと呼ばれ、一万人以上の人が生活し、働いているようだ。

 既に承知しているとは思うが、ホブランド世界と地球世界とでは時間の進み方が違う。
 ホブランド世界で1日を過ごすと、概ね20日と数時間が地球世界では過ぎている。

 俺がホブランド世界へやってきて、既に5年(ホブランド時間)ほどになる。
 ホブランド世界の一年は480日だから、地球では俺が消えてからもう130年ほどが過ぎているんだ。

 22世紀も半ばの地球は色々問題も抱えているが、まぁまぁ、何とか耐えているかな?
 地球温暖化も多くの国の協力で、極地に新型の冷凍装置を設置することで徐々に緩和を進めている。

 どうも急速に極地の氷生成を進めてしまうと氷河期が来てしまうらしい。
 今のところは極地に徐々に氷を生成することで、海進を防ぎ、海底に沈みこむ極地の海流が止まらないようにしているんだそうだ。

 海はものすごく大きな蓄熱器だからな。
 地球時間で70年以上も前には、二酸化炭素等の排ガスによる温暖化以上に、海水温度の上昇が問題になったのだ。

 一時期、極地の氷のかなりの量が融けてしまい、深層海流すらも温度が上がってしまうと地球の温暖化に歯止めが利かなくなる恐れがあったようだ。
 急遽、核融合プラントを含む巨大な冷凍装置を北極と南極に国際協力で建造し、極地に氷が戻るようにしたようだぜ。

 俺ならさしづめ魔法でやることになるかもしれんが、正直なところ、どこまでやっていいのか加減がわからんな。
 やりすぎると氷河期の再来だ。

 余り、地球世界には干渉しないようにしているんだが、俺の甥っ子や姪っ子の子孫達には時折注意を振り向けているよ。
 但し、それまで厄介だったのは、地球で過ごす時間が余り十分にとれないことだった。

 ホブランド世界でのおよそ二時間の不在で地球世界では約40時間ほど、三時間では61時間近くの時間が取れるんだ。
 しかしながら、最近では周囲に俺の能力を隠したままで、二時間とか三時間という時間の確保が次第に難しくなっているんだ。

 独り身だった頃は、結構自由に時間をとれたんだが、複数の嫁sと子供を持つ身では、一時間程度の時間を作るのさえ結構苦労している始末だよ。
 で、遅まきながら、ちょっと色々試行錯誤をしてみることにした。

 俺の生み出す亜空間はかなりチートにできている。
 区画を指定して時間を停止し、遅延させ、あるいは進めることもできる。

 単純に言えば、遅延空間に俺が入ると、周囲の世界の時間が飛ぶように過ぎてしまう。
 逆に時間の促進空間に俺が入ると、周囲の世界がスローになって時間の進み方が遅れるんだ。

 この促進度(時間の進め具合)は俺が任意に調整できるから、例えば300倍に時間を進めるように設定すると、俺が5時間を亜空間で過ごしても周囲の世界は1分しか過ぎていないということが起こり得る。
 こういった促進時間の亜空間はアリスの蘇生に際して使ったし、発酵製品や醸造などにも利用はできるんだ。

 少なくとも俺の領地で醸造している味噌やら醤油やらは、今でこそ地元産業として定着しているけれど、大元は俺の亜空間内で促成醸造して生み出したものなんだ。
 で、この促進時間の亜空間から、亜空間ごと地球へ転移できないかどうかを試してみた。

 俺が亜空間に居ながらの転移なので、亜空間内部に居る状況には変わらないんだが、地球世界へ転移した影響かどうか、亜空間内部の時間の促進度合が300倍から一気に15倍ほどに減少していることに気づいたよ。
 そこで俺が亜空間から地球世界に出ると、普通に地球世界の時空系に戻ることになった。

 地球世界で24時間ほど普通に過ごして、元の促進時間の亜空間に入ったままホブランド世界に転移すると、亜空間内の促進度は300倍に戻った。
 そうして俺が亜空間からホブランド世界に出ると、いつものホブランドの生活時間に戻っていた。

 本来ならば、地球で24時間ほど過ごしたことで、ホブランド世界では1時間強ほど経過している筈なんだが、実際には14秒ほどしか経過していなかった。
 正直なところ理屈はわからん。

 しかしながら、どうやら俺は、道理に物凄く反するような方法で、必要とする任意の時間だけ地球世界に滞在することができるようになったらしい。
 単純に言って、促進時間を千倍にして同じ方法で行き来すれば、地球に10日滞在しても、40秒程度の時間差でホブランドに戻って来られる。

 1万倍なら4秒余り、100万倍ならもうそれこそ一瞬だよね。

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