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最終章 一度目のその先へ
エピローグ1
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あれからしばらく余震と呼ばれる揺れは何度か起きたが、あの日のような大きな揺れが来ることはなかった。
映像により首都の惨状を目のあたりにした地方の貴族たちは、すぐに支援物資や人材を首都に送ってくれたので、復興も思ったより早く進んでいる。
せっかく整えた街がきれいに流されてしまったのは残念だったが、あの大災害で死者がほとんどでなかったことは奇跡だった。
あの謎の光は、あの海岸にいた者だけでなく、逃げ遅れた者、建物の崩壊で下敷きになっていた者さえ全て雑木林まで飛ばしたのだ。
ただ、全員が助かったわけではない、皆の証言からあの光の奇跡の前に息絶えたものは、飛ばされることはなかった。
それでも人々はあの奇跡に感謝した。そしてそれを行ったであろう英雄を称え賞賛しようと探したが、いまだ、それを行ったと名乗りでるものは現れず、またそんな奇跡のような魔法を使えるものも見つかってはいなかった。
☆──☆
「ユアンとキールは飛行石を持っていたが、皆を連れて飛べるほどの魔力はない」
「他の魔法師たち同様アレクもクリスも皆を連れて逃げ出すことは不可能と判断し、最後まで堤防の維持に魔力を注いでいた」
事情聴取という名の、安否確認で城に呼ばれたユアンたちは、全員で首を捻った。
「じゃあ誰があれだけの魔法を使ったんだ」
「目撃者の話だと光が飛んでいった方向にユアンたちが倒れていたというから」
光という言葉にクリスに視線が集まる。
「ぼ、僕も最後は気を失っていたんで違います」
「じゃあまさか……」
次にメアリーを見る。
「私はそんな大魔法使えません」
確かにメアリーの魔法力はあがったとはいえ、軽いけがを治す程度だ。
「まあ、でも大きな被害もでずに、ほとんどの人が助かったんだからいいじゃないですか」
ユアンが場を和まそうとにこやかにそう言った。
「まあそうなんだが」
「そうですわね」
レイモンドとローズマリーはそう言ったが立場上、できることなら原因解明をしておきたいようだった。
「念のためですわ」
「一国の王太子として、やはり大きな魔法が使われたかもしれないという事実を見過ごすわけにはいかないので、考えられることは一応調べておきたいんだ」
なぜかその視線は真っすぐにユアンを捉えていた。
気がつけばレイモンドとローズマリーだけではない、みなもチラチラとユアンの方を気にしている。
「えっ? なんですかみんな?」
レイモンドが机に置かれていたベルを鳴らすと、ずっと控えていたのだろう、隣の部屋から神官らしき男が一人部屋に入って来た。
「ユアン君、すまないが、君のギフトを調べさせてもらうよ」
「えっ、僕には何のギフトも……」
「レイモンド様、まさかユアンを閉じ込めたりしませんよね」
メアリーが不安げに言葉を発した。
「安心しろ、どんな結果であれ、ユアン君に悪いようにはしない。ただユアン君のギフトが危険なものなら、それなりの対処はさせてもらうかもしれないが」
「それなりって」
「…………」
「メアリー、落ち着いて、ユアン様はこの国救世主かもしれないのよ、どんあ結果がでても私が守るわ」
ローズマリーが力強くメアリーの目を見て頷く。それにメアリーが少しだけ安堵の表情を見せる。
肝心のユアンを取り残し、どんどんそうして話が進んでいく。
「あの、なにを」
「ユアン君も気になるだろう、君がその、一度、戻った理由も。もしかしたら今回の光の奇跡も、実は君のギフトかもしれないと」
蘇りのことについて言葉を濁しながらそう言ったレイモンドの言葉で、初めてユアンは自分が疑われていることに気がついて、顔から血の気が引いた。
みんなを助けた光の飛行ギフトや蘇りがもしなんらかのギフトだと判明したら、本当に教会に閉じ込められたりしないだろうか。
いやそれどころかそんなわけのわからない奇跡を二回も起こしているのだ、いったいどんなギフトなのか、もし奇跡を自在に起こせるようなギフトだったら、いくら王太子や王太子妃がかばってくれても本当にいままで通りの生活はできるのだろうか。
「大丈夫、この者はもう教会を引退している、ここで見たものは墓までもっていってくれる」
レイモンドにそう紹介された神官は朗らかな笑顔で頷いた。
「大丈夫だって、いざとなれば俺たちがどこか追手の届かない場所まで逃がしてやる」
「追ってって……」
他人事だと思ってアスタがニヤニヤと笑う。本当は一番ギフトを知られてはいけない人物かもしれない、すごいギフトが見つかったら、また実験だなんだとモルモットにされそうだ。
「さぁ、ユアン様こちらに」
それを言ったら、アスタと同じぐらい、研究馬鹿なローズマリーまで、まるで悪魔の誘惑のように手招きをしている魔女に見えてきた。
「メアリー」
助けを求めるようにメアリーを見たが、メアリーはすでにレイモンドとローズマリーの説得に落ちてしまっていた。
「キール、ルナ」
「お兄様、素敵です、救世主だなんて」
「そうだ、ユアンはすごいやつだと俺は知っていたぞ」
なぜかすでにあのピンチを救った救世主はユアンだとばかりに、その結果によっては大変なことになるかもしれないのに、不安がるどころか期待に満ちた目でユアンを見詰めている。
「クリス……」
まあどちらかと言えば教会側だから期待は薄かったが、案の定申し訳なさそうに目をそらされた。
「アンリ先輩、アレク先輩──」
最後の綱とばかりに声をかけたが、アンリは大きなお腹をさすりながら頑張れと目で訴え、アレクは、大丈夫だと爽やかな笑顔を送って来た。
「さあ、なにも怖がることはありませんわ」
ローズマリーがニコリとそう言った。
映像により首都の惨状を目のあたりにした地方の貴族たちは、すぐに支援物資や人材を首都に送ってくれたので、復興も思ったより早く進んでいる。
せっかく整えた街がきれいに流されてしまったのは残念だったが、あの大災害で死者がほとんどでなかったことは奇跡だった。
あの謎の光は、あの海岸にいた者だけでなく、逃げ遅れた者、建物の崩壊で下敷きになっていた者さえ全て雑木林まで飛ばしたのだ。
ただ、全員が助かったわけではない、皆の証言からあの光の奇跡の前に息絶えたものは、飛ばされることはなかった。
それでも人々はあの奇跡に感謝した。そしてそれを行ったであろう英雄を称え賞賛しようと探したが、いまだ、それを行ったと名乗りでるものは現れず、またそんな奇跡のような魔法を使えるものも見つかってはいなかった。
☆──☆
「ユアンとキールは飛行石を持っていたが、皆を連れて飛べるほどの魔力はない」
「他の魔法師たち同様アレクもクリスも皆を連れて逃げ出すことは不可能と判断し、最後まで堤防の維持に魔力を注いでいた」
事情聴取という名の、安否確認で城に呼ばれたユアンたちは、全員で首を捻った。
「じゃあ誰があれだけの魔法を使ったんだ」
「目撃者の話だと光が飛んでいった方向にユアンたちが倒れていたというから」
光という言葉にクリスに視線が集まる。
「ぼ、僕も最後は気を失っていたんで違います」
「じゃあまさか……」
次にメアリーを見る。
「私はそんな大魔法使えません」
確かにメアリーの魔法力はあがったとはいえ、軽いけがを治す程度だ。
「まあ、でも大きな被害もでずに、ほとんどの人が助かったんだからいいじゃないですか」
ユアンが場を和まそうとにこやかにそう言った。
「まあそうなんだが」
「そうですわね」
レイモンドとローズマリーはそう言ったが立場上、できることなら原因解明をしておきたいようだった。
「念のためですわ」
「一国の王太子として、やはり大きな魔法が使われたかもしれないという事実を見過ごすわけにはいかないので、考えられることは一応調べておきたいんだ」
なぜかその視線は真っすぐにユアンを捉えていた。
気がつけばレイモンドとローズマリーだけではない、みなもチラチラとユアンの方を気にしている。
「えっ? なんですかみんな?」
レイモンドが机に置かれていたベルを鳴らすと、ずっと控えていたのだろう、隣の部屋から神官らしき男が一人部屋に入って来た。
「ユアン君、すまないが、君のギフトを調べさせてもらうよ」
「えっ、僕には何のギフトも……」
「レイモンド様、まさかユアンを閉じ込めたりしませんよね」
メアリーが不安げに言葉を発した。
「安心しろ、どんな結果であれ、ユアン君に悪いようにはしない。ただユアン君のギフトが危険なものなら、それなりの対処はさせてもらうかもしれないが」
「それなりって」
「…………」
「メアリー、落ち着いて、ユアン様はこの国救世主かもしれないのよ、どんあ結果がでても私が守るわ」
ローズマリーが力強くメアリーの目を見て頷く。それにメアリーが少しだけ安堵の表情を見せる。
肝心のユアンを取り残し、どんどんそうして話が進んでいく。
「あの、なにを」
「ユアン君も気になるだろう、君がその、一度、戻った理由も。もしかしたら今回の光の奇跡も、実は君のギフトかもしれないと」
蘇りのことについて言葉を濁しながらそう言ったレイモンドの言葉で、初めてユアンは自分が疑われていることに気がついて、顔から血の気が引いた。
みんなを助けた光の飛行ギフトや蘇りがもしなんらかのギフトだと判明したら、本当に教会に閉じ込められたりしないだろうか。
いやそれどころかそんなわけのわからない奇跡を二回も起こしているのだ、いったいどんなギフトなのか、もし奇跡を自在に起こせるようなギフトだったら、いくら王太子や王太子妃がかばってくれても本当にいままで通りの生活はできるのだろうか。
「大丈夫、この者はもう教会を引退している、ここで見たものは墓までもっていってくれる」
レイモンドにそう紹介された神官は朗らかな笑顔で頷いた。
「大丈夫だって、いざとなれば俺たちがどこか追手の届かない場所まで逃がしてやる」
「追ってって……」
他人事だと思ってアスタがニヤニヤと笑う。本当は一番ギフトを知られてはいけない人物かもしれない、すごいギフトが見つかったら、また実験だなんだとモルモットにされそうだ。
「さぁ、ユアン様こちらに」
それを言ったら、アスタと同じぐらい、研究馬鹿なローズマリーまで、まるで悪魔の誘惑のように手招きをしている魔女に見えてきた。
「メアリー」
助けを求めるようにメアリーを見たが、メアリーはすでにレイモンドとローズマリーの説得に落ちてしまっていた。
「キール、ルナ」
「お兄様、素敵です、救世主だなんて」
「そうだ、ユアンはすごいやつだと俺は知っていたぞ」
なぜかすでにあのピンチを救った救世主はユアンだとばかりに、その結果によっては大変なことになるかもしれないのに、不安がるどころか期待に満ちた目でユアンを見詰めている。
「クリス……」
まあどちらかと言えば教会側だから期待は薄かったが、案の定申し訳なさそうに目をそらされた。
「アンリ先輩、アレク先輩──」
最後の綱とばかりに声をかけたが、アンリは大きなお腹をさすりながら頑張れと目で訴え、アレクは、大丈夫だと爽やかな笑顔を送って来た。
「さあ、なにも怖がることはありませんわ」
ローズマリーがニコリとそう言った。
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