秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
279 / 463
第六章 秘伝と知己の集い

279 土地の見回り

しおりを挟む
翌日、大学の講義は午後からのため、午前中は土地神の加護範囲を実際に見て確認してみることにした。

大体、一校区分。

住宅街が密集した場所はあるが、畑や田んぼといった農地が広がる場所もある。

この辺りは、昔は二つの校区に分かれていたが、子どもも少なくなり、一つになったらしい。よって、広さはかなりある。

「午前だけでは四分の一くらいだな……」
《我らを使えば良いだろう》

今日は、人型の珀豪が不満げにだが、ついてきている。今回は高耶自身で回ることに決めたのだ。自分で確認したいというのもあるが、一番の理由はこれだ。

「実際に見て確認したいんだよ。あと……姿消すのを最近忘れるだろ。そろそろ、見た目を気にしてくれ……家の近所なら、もう警戒されないけどなあ、この辺じゃあ多分、職質かけられるぞ」

視える人にしか視えないように出来るのだが、最近は姿を見せるのが普通になり過ぎて、意識しないと見える方に調整してしまうのだ。だからといって、犬の姿でも良くない。

《ふむ……職質……心配ない。自信を持って『主夫である』と答えよう》
「信じてくれるといいな……」

ロックな見た目で、聞かれても何をしているのか答えられない状態になるのだ。それも、何かを感じ取ろうと不意に宙を見たり、路地裏を覗き込んだらすることになる。

間違いなく不審者扱いされるだろう。仕事スタイルの高耶でも、場合によっては危ないのだから。一人でというのは良くないと思い、今回は珀豪を連れて来たというわけだ。

《……こういうのも久しぶりだ……》
「何か言ったか?」

路地を覗き込んでいた高耶が、小さく呟いた珀豪を振り返る。

《む……警察は近くに居ないようだ》
「そうか」

珀豪は誤魔化した。自分たちを使わないということに不満げな珀豪だが、内心は久し振りに高耶と二人だけになれたことを喜んでいるのだが、表情からそれを読み取ることは出来なかった。

「ん?」

そこで、高耶が不意に気になったのは、小さな神社だ。

土地神の守護範囲ではあるが、その中にも神社はいくつかある。彼らは土地神とは役割が違う。ただし、広い土地を守護する土地神の力を増幅し、広めることで、自分たちの役割の助けとしている。とはいえ、土地神にとっては必要な存在だ。

その神社の力が弱っているようだった。

《これはまた……辛うじて掃除だけは定期的にやっている程度の状態だな……》
「ああ……なるほど……この辺りも甘くなっているのか……」

神社の周りを回ってみることにした。

《む……なるほど。管理できる者が不在か》

本来ならば、社を管理する家がある。だが、それが上手く引き継げなかったのだろう。

「地域活動として、町内会とか子ども会が境内の掃除をするのが当たり前だから、誰が管理している社か分からなくなったんだろうな……」

掃除するのは、昔から決められた地域活動の一つで、疑問に思うことなくきちんと受け継がれているが、それまでだ。社の管理までは出来ていなかったりする。

「特に、若い人が多くなったからな……世代の入れ替えで、正しく社自体を管理できる人がいない時期が出たりするんだろ……それで、土地神の力が上手く広がらず、まばらになっている」
《薄くなる場所があれば、それは問題だな……》
「ああ……」

スマホで地図を確認すると、近くに公園がある。これも、こうした社の力を弱めてしまった要因だろう。

「昔と違って、神社に遊びに来る子どももいないだろうしな……」

公園がない時代だってあった。そうした頃は、神社の拓けた場所や、裏の雑木林などで遊ぶのが当たり前だった。だが、きちんと整備された公園が出来たことで、子どもたちの遊ぶ場所もそちらに移っていったのだ。

《最近の子らは、潔癖な所もある。まあ、親が嫌がるからだろうが、草むらや林の中に入る者も少ないようだ。汚れても良いそれ専用の服を用意せねば嫌なようでな。そのまま洗濯機に入れたくないのだろう》
「……なるほど……」

考え方がまさに主夫だった。

「これくらいの神社だと、周りが雑木林になってるしな……」

参道沿いに木々が植わっているのを見る。子どもは虫が好きだったりするが、親が嫌がればその辺に連れて来たりもしないだろう。

「人が出入りするだけでも違うんだがな……」
《うむ……こうして見ると……ここから加護の繋がりのある家は少ないな》

珀豪は、周りの家を見回す。

この神社に出入りした者が暮らす家。そこには、この神社から繋がりの糸が伸びているのが視えていた。

高耶も同じように視えるようにする。そうすると、蜘蛛の糸のように、フワリとたわみながら揺れる糸が幾つか視えた。

「……細いな……」
《うむ。今にも切れそうだな。アレか、掃除した者たちだな》
「月一か二ヶ月に一回くらいの頻度だろうしな」

家々に力も届かず、力が弱り、土地神の力を広めるどころか、存在を安定させるために吸収している状況のようだ。

「これは……少し考えないとな……影喰いが多すぎる。少し浄化する必要もありそうだ」

澱んだ気を漂わせる家が多いのも気になったが、路地や家の玄関脇などに、かなりの数の影喰いの存在を確認できた。

土地神の力がきちんと届いていない証拠だ。

悩んでいれば、珀豪が周りをゆっくりと見回して提案した。

《この辺りに神木があるといいのだがな。というか、無いのがおかしいのではないか?》

神木としてある木は、効率よく土地神の力を受け取り、それを広める大事な中継地だ。神社の力が弱まっても、それがあれば問題はなかったはず。

「……確かに……なんでだ? 距離的にもあるべき……まさか……」
《まあ……切り倒された可能性は高いな》
「……場所……確認するか……」
《うむ。それならば、果泉を喚ぶか?》
「……そうしよう……」

時間がかかりそうだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

【完結】妹は庶子、文句があるか? 常識なんてぶっ飛ばせ!

青空一夏
ファンタジー
(ざまぁ×癒し×溺愛) 庶子として公爵家に引き取られたアメリアは、 王立学園で冷たい視線に晒されながらも、ほんの少しの希望を胸に通っていた。 ――だが、彼女はまだ知らなかった。 「庶子」の立場が、どれほど理不尽な扱いを受けるものかを。 心が折れかけたそのとき。 彼女を迎えに現れたのは、兄――オルディアーク公爵、レオニルだった。 「大丈夫。……次は、俺が一緒に通うから」 妹を守るためなら、学園にだって入る! 冷酷なはずの公爵閣下は、妹にだけとことん甘くて最強です。 ※兄が妹を溺愛するお話しです。 ※ざまぁはありますが、それがメインではありません。 ※某サイトコンテスト用なので、いつもと少し雰囲気が違いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...