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第六章 秘伝と知己の集い
279 土地の見回り
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翌日、大学の講義は午後からのため、午前中は土地神の加護範囲を実際に見て確認してみることにした。
大体、一校区分。
住宅街が密集した場所はあるが、畑や田んぼといった農地が広がる場所もある。
この辺りは、昔は二つの校区に分かれていたが、子どもも少なくなり、一つになったらしい。よって、広さはかなりある。
「午前だけでは四分の一くらいだな……」
《我らを使えば良いだろう》
今日は、人型の珀豪が不満げにだが、ついてきている。今回は高耶自身で回ることに決めたのだ。自分で確認したいというのもあるが、一番の理由はこれだ。
「実際に見て確認したいんだよ。あと……姿消すのを最近忘れるだろ。そろそろ、見た目を気にしてくれ……家の近所なら、もう警戒されないけどなあ、この辺じゃあ多分、職質かけられるぞ」
視える人にしか視えないように出来るのだが、最近は姿を見せるのが普通になり過ぎて、意識しないと見える方に調整してしまうのだ。だからといって、犬の姿でも良くない。
《ふむ……職質……心配ない。自信を持って『主夫である』と答えよう》
「信じてくれるといいな……」
ロックな見た目で、聞かれても何をしているのか答えられない状態になるのだ。それも、何かを感じ取ろうと不意に宙を見たり、路地裏を覗き込んだらすることになる。
間違いなく不審者扱いされるだろう。仕事スタイルの高耶でも、場合によっては危ないのだから。一人でというのは良くないと思い、今回は珀豪を連れて来たというわけだ。
《……こういうのも久しぶりだ……》
「何か言ったか?」
路地を覗き込んでいた高耶が、小さく呟いた珀豪を振り返る。
《む……警察は近くに居ないようだ》
「そうか」
珀豪は誤魔化した。自分たちを使わないということに不満げな珀豪だが、内心は久し振りに高耶と二人だけになれたことを喜んでいるのだが、表情からそれを読み取ることは出来なかった。
「ん?」
そこで、高耶が不意に気になったのは、小さな神社だ。
土地神の守護範囲ではあるが、その中にも神社はいくつかある。彼らは土地神とは役割が違う。ただし、広い土地を守護する土地神の力を増幅し、広めることで、自分たちの役割の助けとしている。とはいえ、土地神にとっては必要な存在だ。
その神社の力が弱っているようだった。
《これはまた……辛うじて掃除だけは定期的にやっている程度の状態だな……》
「ああ……なるほど……この辺りも甘くなっているのか……」
神社の周りを回ってみることにした。
《む……なるほど。管理できる者が不在か》
本来ならば、社を管理する家がある。だが、それが上手く引き継げなかったのだろう。
「地域活動として、町内会とか子ども会が境内の掃除をするのが当たり前だから、誰が管理している社か分からなくなったんだろうな……」
掃除するのは、昔から決められた地域活動の一つで、疑問に思うことなくきちんと受け継がれているが、それまでだ。社の管理までは出来ていなかったりする。
「特に、若い人が多くなったからな……世代の入れ替えで、正しく社自体を管理できる人がいない時期が出たりするんだろ……それで、土地神の力が上手く広がらず、まばらになっている」
《薄くなる場所があれば、それは問題だな……》
「ああ……」
スマホで地図を確認すると、近くに公園がある。これも、こうした社の力を弱めてしまった要因だろう。
「昔と違って、神社に遊びに来る子どももいないだろうしな……」
公園がない時代だってあった。そうした頃は、神社の拓けた場所や、裏の雑木林などで遊ぶのが当たり前だった。だが、きちんと整備された公園が出来たことで、子どもたちの遊ぶ場所もそちらに移っていったのだ。
《最近の子らは、潔癖な所もある。まあ、親が嫌がるからだろうが、草むらや林の中に入る者も少ないようだ。汚れても良いそれ専用の服を用意せねば嫌なようでな。そのまま洗濯機に入れたくないのだろう》
「……なるほど……」
考え方がまさに主夫だった。
「これくらいの神社だと、周りが雑木林になってるしな……」
参道沿いに木々が植わっているのを見る。子どもは虫が好きだったりするが、親が嫌がればその辺に連れて来たりもしないだろう。
「人が出入りするだけでも違うんだがな……」
《うむ……こうして見ると……ここから加護の繋がりのある家は少ないな》
珀豪は、周りの家を見回す。
この神社に出入りした者が暮らす家。そこには、この神社から繋がりの糸が伸びているのが視えていた。
高耶も同じように視えるようにする。そうすると、蜘蛛の糸のように、フワリとたわみながら揺れる糸が幾つか視えた。
「……細いな……」
《うむ。今にも切れそうだな。アレか、掃除した者たちだな》
「月一か二ヶ月に一回くらいの頻度だろうしな」
家々に力も届かず、力が弱り、土地神の力を広めるどころか、存在を安定させるために吸収している状況のようだ。
「これは……少し考えないとな……影喰いが多すぎる。少し浄化する必要もありそうだ」
澱んだ気を漂わせる家が多いのも気になったが、路地や家の玄関脇などに、かなりの数の影喰いの存在を確認できた。
土地神の力がきちんと届いていない証拠だ。
悩んでいれば、珀豪が周りをゆっくりと見回して提案した。
《この辺りに神木があるといいのだがな。というか、無いのがおかしいのではないか?》
神木としてある木は、効率よく土地神の力を受け取り、それを広める大事な中継地だ。神社の力が弱まっても、それがあれば問題はなかったはず。
「……確かに……なんでだ? 距離的にもあるべき……まさか……」
《まあ……切り倒された可能性は高いな》
「……場所……確認するか……」
《うむ。それならば、果泉を喚ぶか?》
「……そうしよう……」
時間がかかりそうだった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
大体、一校区分。
住宅街が密集した場所はあるが、畑や田んぼといった農地が広がる場所もある。
この辺りは、昔は二つの校区に分かれていたが、子どもも少なくなり、一つになったらしい。よって、広さはかなりある。
「午前だけでは四分の一くらいだな……」
《我らを使えば良いだろう》
今日は、人型の珀豪が不満げにだが、ついてきている。今回は高耶自身で回ることに決めたのだ。自分で確認したいというのもあるが、一番の理由はこれだ。
「実際に見て確認したいんだよ。あと……姿消すのを最近忘れるだろ。そろそろ、見た目を気にしてくれ……家の近所なら、もう警戒されないけどなあ、この辺じゃあ多分、職質かけられるぞ」
視える人にしか視えないように出来るのだが、最近は姿を見せるのが普通になり過ぎて、意識しないと見える方に調整してしまうのだ。だからといって、犬の姿でも良くない。
《ふむ……職質……心配ない。自信を持って『主夫である』と答えよう》
「信じてくれるといいな……」
ロックな見た目で、聞かれても何をしているのか答えられない状態になるのだ。それも、何かを感じ取ろうと不意に宙を見たり、路地裏を覗き込んだらすることになる。
間違いなく不審者扱いされるだろう。仕事スタイルの高耶でも、場合によっては危ないのだから。一人でというのは良くないと思い、今回は珀豪を連れて来たというわけだ。
《……こういうのも久しぶりだ……》
「何か言ったか?」
路地を覗き込んでいた高耶が、小さく呟いた珀豪を振り返る。
《む……警察は近くに居ないようだ》
「そうか」
珀豪は誤魔化した。自分たちを使わないということに不満げな珀豪だが、内心は久し振りに高耶と二人だけになれたことを喜んでいるのだが、表情からそれを読み取ることは出来なかった。
「ん?」
そこで、高耶が不意に気になったのは、小さな神社だ。
土地神の守護範囲ではあるが、その中にも神社はいくつかある。彼らは土地神とは役割が違う。ただし、広い土地を守護する土地神の力を増幅し、広めることで、自分たちの役割の助けとしている。とはいえ、土地神にとっては必要な存在だ。
その神社の力が弱っているようだった。
《これはまた……辛うじて掃除だけは定期的にやっている程度の状態だな……》
「ああ……なるほど……この辺りも甘くなっているのか……」
神社の周りを回ってみることにした。
《む……なるほど。管理できる者が不在か》
本来ならば、社を管理する家がある。だが、それが上手く引き継げなかったのだろう。
「地域活動として、町内会とか子ども会が境内の掃除をするのが当たり前だから、誰が管理している社か分からなくなったんだろうな……」
掃除するのは、昔から決められた地域活動の一つで、疑問に思うことなくきちんと受け継がれているが、それまでだ。社の管理までは出来ていなかったりする。
「特に、若い人が多くなったからな……世代の入れ替えで、正しく社自体を管理できる人がいない時期が出たりするんだろ……それで、土地神の力が上手く広がらず、まばらになっている」
《薄くなる場所があれば、それは問題だな……》
「ああ……」
スマホで地図を確認すると、近くに公園がある。これも、こうした社の力を弱めてしまった要因だろう。
「昔と違って、神社に遊びに来る子どももいないだろうしな……」
公園がない時代だってあった。そうした頃は、神社の拓けた場所や、裏の雑木林などで遊ぶのが当たり前だった。だが、きちんと整備された公園が出来たことで、子どもたちの遊ぶ場所もそちらに移っていったのだ。
《最近の子らは、潔癖な所もある。まあ、親が嫌がるからだろうが、草むらや林の中に入る者も少ないようだ。汚れても良いそれ専用の服を用意せねば嫌なようでな。そのまま洗濯機に入れたくないのだろう》
「……なるほど……」
考え方がまさに主夫だった。
「これくらいの神社だと、周りが雑木林になってるしな……」
参道沿いに木々が植わっているのを見る。子どもは虫が好きだったりするが、親が嫌がればその辺に連れて来たりもしないだろう。
「人が出入りするだけでも違うんだがな……」
《うむ……こうして見ると……ここから加護の繋がりのある家は少ないな》
珀豪は、周りの家を見回す。
この神社に出入りした者が暮らす家。そこには、この神社から繋がりの糸が伸びているのが視えていた。
高耶も同じように視えるようにする。そうすると、蜘蛛の糸のように、フワリとたわみながら揺れる糸が幾つか視えた。
「……細いな……」
《うむ。今にも切れそうだな。アレか、掃除した者たちだな》
「月一か二ヶ月に一回くらいの頻度だろうしな」
家々に力も届かず、力が弱り、土地神の力を広めるどころか、存在を安定させるために吸収している状況のようだ。
「これは……少し考えないとな……影喰いが多すぎる。少し浄化する必要もありそうだ」
澱んだ気を漂わせる家が多いのも気になったが、路地や家の玄関脇などに、かなりの数の影喰いの存在を確認できた。
土地神の力がきちんと届いていない証拠だ。
悩んでいれば、珀豪が周りをゆっくりと見回して提案した。
《この辺りに神木があるといいのだがな。というか、無いのがおかしいのではないか?》
神木としてある木は、効率よく土地神の力を受け取り、それを広める大事な中継地だ。神社の力が弱まっても、それがあれば問題はなかったはず。
「……確かに……なんでだ? 距離的にもあるべき……まさか……」
《まあ……切り倒された可能性は高いな》
「……場所……確認するか……」
《うむ。それならば、果泉を喚ぶか?》
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