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第六章 秘伝と知己の集い
278 神からの激励
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それは、明らかに実体のない鳥だ。ゆらゆらと体が陽炎のように揺らめいて見える。
「っ!!」
「っ……」
杉と修が驚くが、声は上げなかった。近付くことさえ畏れ多いと本能的に感じたのだ。
その鳥は、ピアノにとまった。
高耶がその鳥を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「かなり回復されたようで安心しました」
《うむ……世話になった》
「できることをしたまでです」
真っ直ぐに見つめ合う。
鳥の姿はこの神の仮の姿の一つだ。円な瞳は金に光っていた。
《……》
「まだ何か私に出来ることがありますか」
高耶には、求められているのがわかった。だが、土地神にも多少の個性の違いがある。傲慢に、当たり前のように命じ、利用する場合もあれば、この神のように、頼むことに迷いを持つ場合もある。
もちろん、高耶のように、様々な神と関わって来なければ、それを察することなどできない。人と同じように個性があるなんて普通は考えたりしないだろう。
《……良いのか……》
「もちろんです。私が出来ることならば」
《……そうか……頼みがある》
「はい」
神は、ついっと窓の外へ目を向け続けた。
《……今更ながらに気付いたのだ……孤独な者らが多過ぎる。幼い子らまで闇を抱えるようになった……素直に泣けぬ者たちの闇が……集まり出している。やがて、闇の穴を穿つだろう……》
「……」
高耶は同じように外へ目を向けた。感覚を土地神に寄せていく。
《わかるか……》
「ええ。人が増えたのもあるでしょうが……家の数が異様なのかもしれませんね……最近は世帯を分けます。二世帯、三世帯が当たり前だった頃とは時代が変わりました」
土地神の感覚では、その変化が唐突に起こったように感じたのだろう。だが、これを感じたということは、土地神はこの中心となる学校の子ども達だけでなく、周りの、全ての土地まで意識をきちんと広げたということ。
《うむ……世界が変わるのは仕方あるまい……しかし、なぜ不安定な方に進んだのか……理解できん》
「確かにそうですね。便利な方へと緩やかに変化し、発展していくべきものが……不自由な方へ進んでいる。おかしなものです」
《子どもは多くの者の手を借りて大きくなるものだ。子どもの無邪気さ、笑顔が年老いた者たちの心も支え、心を埋めていた》
子どもは両親にとっては、金銭面でも負担になる。その負担を負担とも思わない心の余裕を、祖父母達が作ってくれていたのだ。そして、それがなければ近所の人たちが、その役割を知らず果たしていた。
けれど、どちらも疎遠になる今の時代。負担ばかりが増え、それを誤魔化すことも、解消することも難しくなった。
《自ら心の闇を晴らす手段を失くすなど……愚かなことだ……》
「ええ……」
《ましてやそれを、子どもらにも強いている……》
「はい……」
どうすることもできないもどかしさを土地神から感じた。本来、見守るだけ、土地を守ることが役割。それ以上の関わりを、持とうとする土地神は少ない。
守護するのは土地だけだ。そこに住む者たちまで守護する必要はない。もちろん、そこに住む者たちが幸福や満足感を得られれば、それだけ土地の力として返ってくる。必要はないが、不必要だと切り捨てることでもなかった。
《……子どもらには笑っていて欲しい……それには、寂しさを元にして巣食った闇を少しでも薄める必要がある……》
「はい……」
《……一人でも多くの子ども達に……光を……家族の絆を感じさせてやってくれ……》
何を、どうやってというのは、高耶には通じている。
「……全力を尽くしましょう。きっと、その日は賑やかになりますよ」
《うむ……期待している》
「はい」
ふわりと羽ばたき、鳥の姿の土地神は、開け放たれた窓から出て行き、その姿は煙がかき消えるように見えなくなった。
「「……」」
「すみません。驚かせましたね」
「い、いえ……」
杉は、まだ呆っと窓の外を見ながら呟いて返す。しかし、修はエリーゼや高耶の式達を見ているため、切り替えが早かった。
「い、今のは土地神様ですか?」
「ええ。どうやら激励に来てくださったみたいですね。土地のためにも、成功させて欲しいそうです」
「……神さまに激励されるなんて……っ、頑張らないと!」
「そうですね。校長先生が戻って来たら、今後の予定を立てましょう。忙しくなりますよ」
さすがに、土地神に頼まれてしまっては、高耶も中途半端では終われない。なんとしても、子ども達が楽しんで成功させ、そんな子ども達を父兄達に見せることまで見届ける必要がありそうだ。
そして、心に留めるのは土地神が言った『闇が集まり出した』ということ。
「闇の穴を穿つ……か……」
これは簡単なことではないのかもしれない。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「っ!!」
「っ……」
杉と修が驚くが、声は上げなかった。近付くことさえ畏れ多いと本能的に感じたのだ。
その鳥は、ピアノにとまった。
高耶がその鳥を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「かなり回復されたようで安心しました」
《うむ……世話になった》
「できることをしたまでです」
真っ直ぐに見つめ合う。
鳥の姿はこの神の仮の姿の一つだ。円な瞳は金に光っていた。
《……》
「まだ何か私に出来ることがありますか」
高耶には、求められているのがわかった。だが、土地神にも多少の個性の違いがある。傲慢に、当たり前のように命じ、利用する場合もあれば、この神のように、頼むことに迷いを持つ場合もある。
もちろん、高耶のように、様々な神と関わって来なければ、それを察することなどできない。人と同じように個性があるなんて普通は考えたりしないだろう。
《……良いのか……》
「もちろんです。私が出来ることならば」
《……そうか……頼みがある》
「はい」
神は、ついっと窓の外へ目を向け続けた。
《……今更ながらに気付いたのだ……孤独な者らが多過ぎる。幼い子らまで闇を抱えるようになった……素直に泣けぬ者たちの闇が……集まり出している。やがて、闇の穴を穿つだろう……》
「……」
高耶は同じように外へ目を向けた。感覚を土地神に寄せていく。
《わかるか……》
「ええ。人が増えたのもあるでしょうが……家の数が異様なのかもしれませんね……最近は世帯を分けます。二世帯、三世帯が当たり前だった頃とは時代が変わりました」
土地神の感覚では、その変化が唐突に起こったように感じたのだろう。だが、これを感じたということは、土地神はこの中心となる学校の子ども達だけでなく、周りの、全ての土地まで意識をきちんと広げたということ。
《うむ……世界が変わるのは仕方あるまい……しかし、なぜ不安定な方に進んだのか……理解できん》
「確かにそうですね。便利な方へと緩やかに変化し、発展していくべきものが……不自由な方へ進んでいる。おかしなものです」
《子どもは多くの者の手を借りて大きくなるものだ。子どもの無邪気さ、笑顔が年老いた者たちの心も支え、心を埋めていた》
子どもは両親にとっては、金銭面でも負担になる。その負担を負担とも思わない心の余裕を、祖父母達が作ってくれていたのだ。そして、それがなければ近所の人たちが、その役割を知らず果たしていた。
けれど、どちらも疎遠になる今の時代。負担ばかりが増え、それを誤魔化すことも、解消することも難しくなった。
《自ら心の闇を晴らす手段を失くすなど……愚かなことだ……》
「ええ……」
《ましてやそれを、子どもらにも強いている……》
「はい……」
どうすることもできないもどかしさを土地神から感じた。本来、見守るだけ、土地を守ることが役割。それ以上の関わりを、持とうとする土地神は少ない。
守護するのは土地だけだ。そこに住む者たちまで守護する必要はない。もちろん、そこに住む者たちが幸福や満足感を得られれば、それだけ土地の力として返ってくる。必要はないが、不必要だと切り捨てることでもなかった。
《……子どもらには笑っていて欲しい……それには、寂しさを元にして巣食った闇を少しでも薄める必要がある……》
「はい……」
《……一人でも多くの子ども達に……光を……家族の絆を感じさせてやってくれ……》
何を、どうやってというのは、高耶には通じている。
「……全力を尽くしましょう。きっと、その日は賑やかになりますよ」
《うむ……期待している》
「はい」
ふわりと羽ばたき、鳥の姿の土地神は、開け放たれた窓から出て行き、その姿は煙がかき消えるように見えなくなった。
「「……」」
「すみません。驚かせましたね」
「い、いえ……」
杉は、まだ呆っと窓の外を見ながら呟いて返す。しかし、修はエリーゼや高耶の式達を見ているため、切り替えが早かった。
「い、今のは土地神様ですか?」
「ええ。どうやら激励に来てくださったみたいですね。土地のためにも、成功させて欲しいそうです」
「……神さまに激励されるなんて……っ、頑張らないと!」
「そうですね。校長先生が戻って来たら、今後の予定を立てましょう。忙しくなりますよ」
さすがに、土地神に頼まれてしまっては、高耶も中途半端では終われない。なんとしても、子ども達が楽しんで成功させ、そんな子ども達を父兄達に見せることまで見届ける必要がありそうだ。
そして、心に留めるのは土地神が言った『闇が集まり出した』ということ。
「闇の穴を穿つ……か……」
これは簡単なことではないのかもしれない。
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