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第三章 第五節 エンマアイの記憶
第648話 サイトー、すみやかな排除を頼む
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サイトーは運転手の肩の横から前方にむけて銃を構えた。
ひとり先頭を進む草薙はエア・バイクをAIにゆだねて攻撃に専念すべくマジカル・ソードを引き抜いていた。
網膜デバイス上で、中央の後部シートに座っているヤマトの姿を映像で確認する。
「サイトーさん。こちらを気にしなくていいよ」
ヤマトが背中越しに声をかけてくる。
「いつも草薙大佐に叱られているでしょ。注意を向けようとした方向の肩がわずかに動くって」
ヤマトはバイクの後部シートについている背もたれに、深くからだを沈みこませていてリラックスした様子だった。この状況でひとにかまっていられる胆力に驚く。
バイクは床から50センチほどを保ったまま、ゆっくりと前進していった。
ひとつめの角にさしかかる。
『通路両側の部屋からは怪しいシグナルは検知されません』
隊員のひとりが脳内通信で報告すると、草薙が噛んで含めるように言った。
『了解。だがAIの検査結果を鵜呑みにするな。魔法少女はAIを出し抜く力をもっている。参考程度にとどめろ』
ひとつめの角を曲がろうとしたとき、草薙が身構えたのがわかった。計測装置に33メートルと表示された先に人影があった。
『サイトー、すみやかな排除を頼む』
レーダースクリーンに見える人影をカメラで補足する。それは女性だった。うろたえた様子で、通路の両側の部屋のドアをまさぐるように探している。瞬時にAIが彼女の姿から名前と生体ID、隊員IDを表示する。
『助けてください。わたし取り残されてしまったんです。開けてください』
脳内にその女性の声が飛び込んでくる。とてもか細い声、憐れなほど声が震えている。
草薙のエア・バイクが通路の角を曲がる。すぐにサイトーのバイクが続く。
通路の角から現れたエア・バイクに女性の目が見開かれた。なにが自分の身におきようとしているのか理解したようだった。
『わたし、ちがうんです。まちがえて……』
女性は助けを乞うように、前によろよろと歩み出した。
サイトーは引金をひいた。
頭から赤い血の花がパッと咲いたかと思うと、血飛沫が脳漿の一部と一緒に後方へ飛び散った。女性のからだが一瞬棒立ちになり、そのままうしろにどうと倒れた。
『後方部隊は通り抜けるときに、死体を破壊するように』
草薙が達し事項を告げると、頭が天井につくぎりぎりまでエア・バイクを上昇させて、女性の死体の上方の空間をとおりすぎた。それに続く前衛の2台とヤマトを乗せた中央のバイクもおなじように車体を上昇させる。
サイトーは女性の上を通るとき、バイクのステップ越しに死体を見おろした。放った弾丸は眉間の中央を撃ち抜いていた。カッと見開かれた目は涙に濡れており、頬につたい落ちた涙の筋はまだ乾いていなかった。だがその目から完全に生気はうしなわれており、その目から涙が流れることがなくなったことはわかる。
『お嬢さん、すまんね。運が悪かったのさ』
サイトーはこころのなかで呟いた。
が、その瞬間、おんなの目がまたたいた。
ひとり先頭を進む草薙はエア・バイクをAIにゆだねて攻撃に専念すべくマジカル・ソードを引き抜いていた。
網膜デバイス上で、中央の後部シートに座っているヤマトの姿を映像で確認する。
「サイトーさん。こちらを気にしなくていいよ」
ヤマトが背中越しに声をかけてくる。
「いつも草薙大佐に叱られているでしょ。注意を向けようとした方向の肩がわずかに動くって」
ヤマトはバイクの後部シートについている背もたれに、深くからだを沈みこませていてリラックスした様子だった。この状況でひとにかまっていられる胆力に驚く。
バイクは床から50センチほどを保ったまま、ゆっくりと前進していった。
ひとつめの角にさしかかる。
『通路両側の部屋からは怪しいシグナルは検知されません』
隊員のひとりが脳内通信で報告すると、草薙が噛んで含めるように言った。
『了解。だがAIの検査結果を鵜呑みにするな。魔法少女はAIを出し抜く力をもっている。参考程度にとどめろ』
ひとつめの角を曲がろうとしたとき、草薙が身構えたのがわかった。計測装置に33メートルと表示された先に人影があった。
『サイトー、すみやかな排除を頼む』
レーダースクリーンに見える人影をカメラで補足する。それは女性だった。うろたえた様子で、通路の両側の部屋のドアをまさぐるように探している。瞬時にAIが彼女の姿から名前と生体ID、隊員IDを表示する。
『助けてください。わたし取り残されてしまったんです。開けてください』
脳内にその女性の声が飛び込んでくる。とてもか細い声、憐れなほど声が震えている。
草薙のエア・バイクが通路の角を曲がる。すぐにサイトーのバイクが続く。
通路の角から現れたエア・バイクに女性の目が見開かれた。なにが自分の身におきようとしているのか理解したようだった。
『わたし、ちがうんです。まちがえて……』
女性は助けを乞うように、前によろよろと歩み出した。
サイトーは引金をひいた。
頭から赤い血の花がパッと咲いたかと思うと、血飛沫が脳漿の一部と一緒に後方へ飛び散った。女性のからだが一瞬棒立ちになり、そのままうしろにどうと倒れた。
『後方部隊は通り抜けるときに、死体を破壊するように』
草薙が達し事項を告げると、頭が天井につくぎりぎりまでエア・バイクを上昇させて、女性の死体の上方の空間をとおりすぎた。それに続く前衛の2台とヤマトを乗せた中央のバイクもおなじように車体を上昇させる。
サイトーは女性の上を通るとき、バイクのステップ越しに死体を見おろした。放った弾丸は眉間の中央を撃ち抜いていた。カッと見開かれた目は涙に濡れており、頬につたい落ちた涙の筋はまだ乾いていなかった。だがその目から完全に生気はうしなわれており、その目から涙が流れることがなくなったことはわかる。
『お嬢さん、すまんね。運が悪かったのさ』
サイトーはこころのなかで呟いた。
が、その瞬間、おんなの目がまたたいた。
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