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第四章 絢爛のスクールフェスタ

第315話 衣装作り開始

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 模様替えした生徒会室の紹介を簡単に終えた後、僕たちは生徒会の仕事とRe:bertyリバティの曲と衣装を準備する班に分かれて活動することにした。

 エステアによると、生徒会全体としての忙しさは、出店やイベント計画者からの相談が始まった頃になるらしい。それまでは、リゼルとグーテンブルク坊や、マリーはリリルルを交えてダンスパーティーの準備に取り組み、ヴァナベルとヌメリンは経験を活かして飲食店出展者のアドバイスに回るということになった。

 ホムはエステアを補佐し、学内の巡回へと向かい、僕とアルフェは衣装の製作に取り組むべく、メルアと共にアトリエへと移動する。

「いや~! アルフェちゃん、凄いよね! あの衣装はアルフェちゃんにしか作れないデザインだってマリーもびっくりしてたよ~」

 先行して昼休みにデザインを共有していたので、メルアが廊下を歩きながら率直な感想を教えてくれる。

「そんなに?」

 デザインだけならデザイナーでも作れると豪語していたマリーの発言からは、俄に信じがたい感想だったせいか、アルフェは言葉少なに問い返した。

「うん! だってあの、いかにもお人形さんみたいなかわい~衣装、師匠が選ぶなんて絶対なさそうだもん!」

 メルアがそう言いながら僕の顔を覗き込んでくる。浄眼を細めてにっと笑っているメルアは、僕の反応を楽しんでいる様子だ。

「まあそうだろうね。自分で選ぶなら、今までと同じ傾向を選ぶと思うよ」

 誤解のないように言葉を選びながら、僕はゆっくりと応える。

「だけど、アルフェが僕のことを考えながらデザインしたと聞いたなら、話は別だ。僕だって不思議に思うくらい、あのデザインに惹かれたんだからね」
「あ~、これが愛の力かぁ~」

 メルアが身体を左右に揺らしながら悶えるように天井を仰ぐ。

「大好きなリーフのかわいいところ、いっぱい見せたいって気持ちが伝わって嬉しいよ、ワタシ!」

 アルフェが同じように身体を揺らしながら僕と手を繋ぎ、指先を絡めてくる。

「あとは僕が着こなせるか、だけどね」
「絶対似合うように作るから、大丈夫!」

 アルフェは自信たっぷりにそう応えると、僕の手をぎゅっと握りしめた。

「で、今日は型紙を取れればいいんだっけ?」
「そうだね。さすがに布地の手配までは間に合わ――」

 アトリエの扉の鍵を回しながら問いかけたメルアは、僕の返事ににやりと笑って中を見せつけるように大きく扉を開いた。

「それが、間に合っちゃってるんだなぁ~!」
「す、すごーい!」

 アルフェが大声を上げるのも無理もない。アトリエの作業台の上には、アルフェのデザイン画から取り出したかのような、全く同じ柄の布地が整然と並べられていたからだ。しかも業務用と思しき縫製魔導器ミシンが五台ほど並べられている。

「これって、もしかしなくても縫製魔導器ミシン?」
「そーそー! 磁力操作魔法マグネトロンで地道にやってもいいんだけど、単純作業みたいなところはこれで自動化してもいいかなって、マリーが。まあ、好みもあるだろーし、使っても使わなくても」

 アルフェの問いかけにメルアが頷き、上着の形に切った小さめの布地を広げて見せる。

「最新型なんだけど、これって要するに磁力操作魔法マグネトロンを高速化させるところを液体エーテルで補えるんだよね。魔法を作動した後は、そのままこの縫製魔導器ミシンが自動でやってくれるってわけ。こんなふうに」

 メルアが型紙通りに切った布地を縫製魔導器ミシンにセットする。

「じゃあ、スタート♪」

 楽しげに宣言して縫製魔導器ミシンにエーテルを流すと、磁力操作魔法マグネトロンが発動し、高速での縫製が始まった。

「わ、すごい……」

 アルフェが目を見開いて、縫製魔導器ミシンの動きを追っている。縫製魔導器ミシンは母上のものを見たことがあるわけだが、磁力操作魔法マグネトロンが自動化されて縫製に応用されているのは初めて見る。僕は興味を持って、その機構と仕組みに目を凝らした。
 そうこうしているうちに、小さな上着はあっという間に縫い終わり、メルアが自慢げに縫製魔導器ミシンから取り出した上着を高々と掲げた。

「まー、うちのへっぽこデザインでもこれぐらいはやってくれるよ。さっきも言ったように、細かいところは手縫いに負けちゃうけどね」
「でも、これでかなりスピードアップできる!」

 アルフェが興奮した様子で小刻みに跳ね、メルアもそれに頷く。

「やっぱ新曲の時間はしっかり確保してほしーしね。っちゅーわけで、うちはししょーの超絶技巧を拝ませてもらおうかと!」

 ああ、メルアがアトリエについてきたのは、やはりそちらが目的だったようだ。考えてみるまでもなく、鍵は僕も持っているので、わざわざ生徒会ではなく僕たちについてくるというのは、メルアなりに絶対に外せない理由があるからなのだろう。当然それは彼女の中の優先順位の上位にある、錬金術への好奇心だ。

「そうだね。布をどれだけ使うかわからないし、アルフェが型紙を用意する間に、布に魔墨で簡易術式を書いていこうか」
「先に書いちゃっていいの? 折り曲げてもいいとは思うけど、裁断したりするし、そうしたら途中で切れちゃったりしないかな?」

 アルフェが心配そうに僕を見つめる。その質問は当然想定していたので、僕は微笑んだ。

「平気だよ。感情だってひとつじゃないからね、幾つもの複雑に絡み合う感情を受け止められるように、たくさん受容体となる術式を用意するつもりだったから」

 設計図はまだ僕の頭の中にしかないけれど、描きながら増やして行けば問題ないだろう。個人の感情は分類としては喜怒哀楽に大別出来るけれど、その大きさや深さ、幅は人によってまるで違う。

 感情豊かなアルフェを見ていて思うが、いつも嬉しそうにしているアルフェでも、とびきり嬉しそうにしているときはやはり傍で見ている僕も感じ方が違う。それを、布地を媒介した錬金術でどう表現出来るかが、僕の腕の見せどころなのだ。

「ちゅーても、エーテルを受容する感じになるんだよね? それだけで行ける?」
「まあ、ベースはエーテルなんだけれど、脈拍と鼓動、汗なんかもヒントになるだろうから、可能な限り詰め込んでみるよ。布地の裏に目立たないように組み込みたいんだけど、乾くと透明化する魔墨はあるかな?」
「そう言われると思ってそっちも準備済みだよ! うちってなんて出来る弟子!」

 メルアが得意気に胸を張り、魔墨の入った真新しい瓶を見せてくれる。

「君は本当に素晴らしい弟子だよ、メルア」

 魔墨を受け取りながらそう伝えると、メルアは満面の笑みを見せて、胸の前で拳を強く握りしめた。

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