アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

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第三章 暴風のコロッセオ

第160話 機兵演習

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 演習場に移動したホムとファラの動きは、非常に自然だった。ファラはともかく、ホムは機兵操縦の経験そのものが初めてなわけだが、僕のアーケシウス操縦の記憶を共有していることもあり、全く違和感なく自分の手足のようにレギオンを動かしている。

「いきなり接近戦って訳じゃないよな?」
「それでは、わたくしが有利ですので、間合いは必要かと」
「にゃはっ、よく分かってるぜ。じゃあ、こうするか」

 ホムとファラの声が拡声器を通じて聞こえてくる。操縦槽のホムの様子を映像盤で見る限り、笑顔に近い表情をしていた。だが、その目は真剣そのもののようだ。

 会話の後、ホムとファラは互いに少し離れた位置で機体を停止させた。

「準備が出来たら、いつでも始めてちょうだいね~!」

 間近でその戦いを見ようとしてか、箒に乗ったマチルダ先生が二機の頭上を旋回しながら告げる。二機のレギオンはそれぞれに頷くような仕草を見せたかと思うと、機体が前傾姿勢を取るように緩やかに傾いだ。

「ほう。もう走らせるか」

 二機の姿勢で次の動きを予測したタヌタヌ先生が、感嘆の声を漏らす。それと同時に、二機が大股で数歩踏み出した。緩やかだが美しい姿勢は、まるで機体の動きが自分に馴染んでいるのを確認しているかのようだ。その動きが滑らかになったと僕が感じた直後、ホムは一気に速度を上げてファラの機体に接近した。

「はぁああっ!」

 ナックルを装備したホムが左右の拳を振るう。

「にゃはっ! そう来るよなぁ!」

 ファラは両手に装備した小剣でホムの拳を、素早く受け流していく。魔眼を発動させているらしく、その動きには全く無駄がない。

 接近して打ち合う二機の間で、ナックルと小剣が細かな火花を散らしている。打ち合うたびに、甲高い金属音が周囲に鳴り響き、息つく間もないホムの猛攻と、それに全く怯まずに冷静に攻撃をさばくファラの動きにみんなが目を瞠っている。



「……ファラ殿は凄いでござるなぁ」

 腕組みをしたアイザックが唸るように呟く。

「だね。ホムも凄いけど、ファラの繊細な操縦には感服する。なんでレギオンであそこまでの操縦が出来るのか後で聞かなくちゃ」

 アイザックの呟きにロメオが早口で応じる。二人とも二機のレギオンの動きを見逃すまいと、目を見開いて模擬戦に魅入っている。

「見ただけでわかるものなのかい?」

 ホムもかなり善戦しているが、操縦においてファラが特に優れているようには感じられない。双方互角の戦いか、魔眼がある分、ファラが有利に見えるせいなのではないだろうか。

「拙者、模擬戦や機兵競技には目がないでござる」
「そもそも、ナックルと剣では相性がよくないんだよ」

 ロメオも頷き、早口で説明してくれる。

「大体、小剣などは打撃によって折れるリスクがあるでござる。それを、ああして刃の部分を使って敢えて打撃を受け、衝撃をいなすという精度はとんでもない繊細さを求められるのでござるよ」

 なるほど、この攻防が成立している背景には、そうした事情があるのか。魔眼があるにせよ、アイザックとロメオの説明によれば、ファラの操縦精度はとんでもないレベルに達しているわけだ。

「もっと言うなら、レギオンは設計が古くてこうした細かい動きには向かないんだ。僕なら、出力に物を言わせて力で押すね」

 操縦はできないものの、ロメオも機体の特性はかなりしっかりと把握しているようだ。そういえば、武器庫の装備も斧のような重量のある武器に偏っていたような印象があるな。

「戦争当時のレギオンは、斧を標準装備にしていたんだ。斧なら振り下ろすだけで済むし、動きが単純だからレギオンには合っているんだ」

 ロメオの補足を聞いてかなり合点が行った。ならば、武器選択の時点で、打撃に特化したナックルを選んだホムはかなり有利なのではないだろうか。

 それが機兵適応力の影響なのか、それとも元々打撃系の技を得意とすることによるものなのかはわからないが。

「おおっと! 戦況が動くでござる!」
「ファラが攻撃に転じてる!」

 ひとときもその戦いから目を離さずに、興奮のまま叫ぶアイザックとロメオのお陰で、僕にもかなり状況が見えてきた。

 ファラは魔眼を使ってホムの攻撃を読み、機体を先んじて動かすことでホムの攻撃に対応している。だが、それはまだほんの準備運動だったのだ。ファラがホムの攻撃を読み、それを越える攻撃を繰り出すところからが、ファラの『真の実力』だ。

「さすがですね、ファラ様」
「にゃはっ! 避けらてるけどな」

 ホムも持ち前の反射神経を発揮して、機体を素早く動かし、ファラの攻撃に合わせて後退させる。だが、互いの間合いを探るような真似はせず、あくまで打ち合いながらの攻防を続けている。

「……くっ」

 ファラが攻撃に転じ、手数が増えてきたことで、ホムの両腕は大幅に防御に回されることになった。だが、ホムは先ほどから、機体の左足にかなり重心をかけているように見える。

 多分、機体にかなり馴染んできたことで、バランスが取れると確信して蹴りを攻撃に加えるつもりだろう。

 小剣対ナックルでは、攻撃は上半身に集中する。意識外からの蹴りが入ることで、ファラの魔眼がどこまで反応できるかも見物かもしれないな。

「はぁあああっ!」

 ホムが数歩引いて機体を捻り、渾身の一打を繰り出す。

「にゃはっ! わかってるとは言え、重いな!」

 ファラが両腕でその攻撃を受けた次の瞬間。

「っ!」

 ホムが左足に重心をかけ、鋭い蹴りを繰り出した――ように見えたが、実際には僕の知るホムの蹴りとは随分違ったものになった。

「っと、危なっ!」

 ファラは難なくそれを見極めて飛び退いてかわす。両手以外にも足が使えるのはホムのアドバンテージで、良い判断だと思ったが、やはり機兵にまだ慣れていないせいか、自分の肉体との感覚の乖離が問題になっているのかもしれないな。

 生身のホムの動きを反映出来ていたのなら、もっと鋭い蹴りを放てたはずだと思うと、かなり惜しい気がする。もしかするとレギオンの機体特性と関連があるのかもしれないし、後できちんと調べておこう。

「お互い機体にも慣れてきたよな! ガンガン攻めるぜ!」

 ファラが体勢を立て直し、ホムの機体に斬り付けていく。

「はっ!」

 ホムはテンポ良く攻撃を防御しながら、カウンターで蹴りと打撃を繰り出していくが、ファラは全くものともしない。

「にゃはっ! それくらいはお見通しだぞ」

 カウンターを狙うのは悪くない策ではあるが、攻撃を防いでから反撃に回る分、手数が限られてしまう。今のファラであれば、魔眼を行使しなくてもホムの攻撃パターンを覚えてしまっているはずだ。

「よし、次で決めるぜ」

 調子を上げてきたファラが、興奮に息を弾ませている。

「望むところです」

 だが、ホムも決して負けてはいない。

 二機は再び激しい打ち合いを始めた。今度はホムも、攻撃を食らう覚悟で突っ込んでいく。

「凄い戦いでござる。本当に次の一手で決まってしまうでござるよ」
「あぁ~、どうしよう! 模擬戦なのにこんな凄い戦いが見られるなんて!」

 どちらが勝っても負けても、間違いなくF組や見学している生徒たちは二人を祝福するだろう。そんな戦いが目の前で繰り広げられている。

 ホムもファラもほとんど無言で、拡声器からは荒い息遣いが響いてくるばかりだ。

 不意に激しく打ち合っていたホムが機体を捻り、大きく振りかぶってファラを攻めた。

「おっと!」

 ファラはバックステップでそれを難なく回避する。

「ホムちゃん!」

 大きく振り抜いたホムの拳が宙を切り、アルフェの悲鳴が響く。攻撃を躱されて無防備な体勢になったホムに、ファラは容赦なく小剣を繰り出した。

「これで終わりだ!」
「そうはさせません!」

 無防備に見えたホムが、鋭く叫ぶ。次の瞬間、ホムの機体が軽く沈んだかと思うと、襲いかかったファラの機体に踏み出し、がら空きだったはずの背中が体当たりを浴びせた。

鉄山靠てつざんこう……」

 忘れもしない、タオ・ラン老師の技だ。

 ファラはそれを辛うじて避けたが、ホムが噴射式推進装置バーニアを起動させて追撃する。

「にゃ!? そんなんアリかよ!?」

 ファラは避けることを諦め、小剣をクロスして防御の姿勢を取ったが、ホムの勢いは衰えず、弾かれた小剣が宙を舞った。

 防御の姿勢を崩され、その場に仰向けに倒れたファラの機体に、ホムの一打が入る。

「わたくしの勝ちです」
「にゃはっ、負けたぜ」

 ホムの声にファラの声が重なったその瞬間、横倒しになった二機に惜しみない拍手が送られた。

 攻撃が見切られるなら、見切られたとしても避けられない攻撃を加えればいい。ここでタオ・ラン老師の技を入れてくるのが、ホムらしいな。見事な作戦勝ちだ。

「すげー! すげーな、お前ら!」

 ヴァナベルが興奮を隠しきれず、飛び跳ねながら拍手している。アイザックとロメオは二人の戦いによほど感動したらしく、抱き合って喜んでいた。

 F組のみならず、見学していたクラスメイトも興奮に沸き立ち、遠くで機兵操縦実習をしているA組の視線もこちらに向いているようだ。

 これは、8月に行われる武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯への期待がますます高まるだろうな。F組から優勝者が出るようなことがあれば、それこそヴァナベルが宣言していたような亜人差別も表向きは撤廃が検討されるかもしれない。

 まあ、身分による差別が根強く残ることは、どうしようもないことだけれど。それでも、この学園がみんなにとって過ごしやすくなるのは、僕にとっても望ましいことだ。
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