アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア

文字の大きさ
上 下
161 / 396
第三章 暴風のコロッセオ

第161話 ライル・グーテンブルクの懸念

しおりを挟む
 午後の選択授業の後、夜食の材料の下見のために商店街へと向かった。

 今日の選択授業は、先週自分たちが提出したレポートを名前を伏せてランダムに査読し合うというもので、なかなか興味深い知見が得られた。僕の飛雷針についてコメントしてきた生徒は、簡易術式のルーン文字に最新の『新字』を提案した上、簡略化と威力の増強について考察してくれていたのには驚いた。前世の手癖もあって、つい旧字を使ってしまうところがあるので、もう少し新しい研究結果は採り入れておきたいところだな。

 アルフェとホムはそれぞれ模擬戦がメインになったらしく、二人ともクレイゴーレムを相手に魔法と機兵でそれぞれ戦ったそうだ。

 アルフェはリリルルとまた一番にクレイゴーレムを倒したらしく、次からはリリルル以外と組むことになったらしい。リリルルは二人一組から離れることを断固拒否したので、三人一組のところを二人一組というハンデを負うことになったそうだ。

 それでもリリルルのことだから、あっさりとクレイゴーレムを倒せるようになるんだろうな。

 ホムはファラとの模擬戦でコツを掴んだらしく、クレイゴーレムを一番に倒したと喜んでいた。二番目にクレイゴーレムを倒したのは意外にもヴァナベルだったそうだ。ファラは、模擬戦で魔眼の力を使いすぎてかなり消耗したようだが、それでも三番目にクレイゴーレムを撃破したらしい。

 機兵適性値は、やはり数値だけでは見えて来ないものも、かなりあるようだな。機体との相性も強くかかわってくるだろうし、ここはホム専用機を作るのも良さそうだ。

「楽しみだね、武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯」
「そうだね。あの適性値なら、ホムとファラはまず選抜されるだろうし」

 武侠宴舞ゼルステラ・カナルフォード杯は、全学年で三人一組、14チームが選抜される。慣習として生徒会がシード枠で入るため、合計15チームによるトーナメント戦で優勝を決めるのだ。

「去年は、エステアさんとメルアさんたちのチームが優勝したんだって」
「前年度の優勝者で現生徒会長か、きっと手強い相手になるだろうね」
「どんな相手であろうとも、マスターのために負ける訳には参りません」

 ファラとの戦いでホムは手応えを感じている様子だ。三人で談笑しながら歩いていると、見覚えのある人影が向こうから走ってくるのが見えた。

「おーい! リーフ!」
「あ、ライルくんとジョストくん!」

 ああ、誰かと思えばグーテンブルク坊やとジョストか。入学式から結構経つが、こうして顔を合わせるのは久しぶりだな。

 クラス対抗の模擬戦では、もしかすると僕のフレアレインで再起不能にした可能性があるから、こうして顔を合わせるのは少々気まずい気もするが……。

「レギオンの模擬戦、凄かったな!」

 クラス対抗模擬戦のことなど、すっかり忘れているかのようにグーテンブルク坊やは、開口一番そう言って息を弾ませた。

「ホムが機兵に乗れるなんて知らなかったぞ」
「まあ、実際に機兵に乗るのは今日が初めてだからね」

 僕の答えにグーテンブルク坊やが目をまんまるに見開く。こういう顔に出やすいところは、大きくなっても変わらないものらしい。

「嘘だろ……。初めてであんなに動かせるもんなのか……?」
「マスターがそのように造ってくださいましたので」
「そうなのか!?」

 グーテンブルク坊やがそう言いながら、僕を見つめてくる。

「錬成過程で調整出来るんだよ。まあ、それ相応の錬成陣は、必要だけれど」

 そう。僕はホムの錬成時にかなりこだわって外見などもしっかりと作り込んだのだ。かなり時間はかかってしまったが、ホムの出来には我ながら満足しているし、ホムの成長もとても嬉しい。

「昔っから変わったヤツだと思ってたけど、やっぱり凄いんだな、お前……」

 おやおや。普通に振る舞っていたつもりだったが、グーテンブルク坊やはそんなふうに僕を見ていたらしい。なんだか複雑な気分だ。

「ライル様のご発言は、褒め言葉ですので」

 僕が戸惑っているのが伝わったのか、ジョストが補足してくれた。褒めたつもりだったのだとわかって、少しほっとした。

「……で、なんの用だい?」
「いや、間近であの模擬戦を見たら、なんかこう感想っていうかさ、なんか伝えておかないといけない気がしたんだよ」

 グーテンブルク坊やは相変わらず興奮した様子で僕とホムを見比べている。ファラがもしここに居たら、握手でも求めかねない勢いだな。それくらい、衝撃的だったということなのだろう。だとしたら、僕たちへの注目度はどれほどのものなのだろうか。

「適性値100ってことは、今度の武侠宴舞ゼルステラへの出場は確実だろ?」
「まあ、そうなるだろうね」
「そのことなんだが――」

 そこまで言って、グーテンブルク坊やがふと押し黙った。

「ちょっと待ってくれ」

 話を遮り、グーテンブルク坊やはいそいそと身体の向きを変えて僕たちから離れる。

「……マスター、あれを」

 視線を感じると思えば、A組のリゼルがこちらを蔑むような目で一瞥して通り過ぎていくところだった。幸い、同じクラスのグーテンブルク坊やには気づいていない様子だ。

「……悪かったな」

 リゼルが去るのを待ってから、グーテンブルク坊やが、こちらに向き直った。

「構わないよ。クラス対抗戦のこともあるだろうし、僕たちと話をしているのをよく思わない相手もいるだろうからね」
「ああ……」

 実際、グーテンブルク坊やがこうして話しかけてくるとは僕自身思ってもみなかったのだから、僕の攻撃を食らった生徒の反感もかなりのものだろう。

「実はそれで、俺はともかく、クラス委員長のリゼルは、かなり根に持ってるんだよ。取り巻きの中には、F組の亜人たちをこの学園から追い出すなんて、言ってるヤツらもいる」

 グーテンブルク坊やが、周囲を伺いながらそっと教えてくれる。

武侠宴舞ゼルステラを雪辱戦の舞台だと考えてるかもしれないし、そもそも出場出来ないようになにかされるかもしれない。とにかく、気をつけてくれよ」
「ご忠告ありがとう。でも、僕には目的があるからここを出て行ったりはしないよ。もちろん、追い出されたりもしない」

 そもそも前世の僕グラスはちょっとやそっとの嫌がらせには慣れているし、仲間はずれにされたところでなんとも思わない性格なのだ。今は、大切なアルフェと家族のホムがいるからまた違うものの、そもそも他人からどう接されようと結果を出せば良いと思っている節がある。まあ、その結果でさえ、以前の中間成績発表のように教頭に捏造されるようでは困ってしまうのだけれど。

「マスターはわたくしがお守りしますので」
「そうだな。ホムが強いことは証明されてるわけだし、下手に手出しはしてこないか」

 ホムの落ち着いた発言を聞いて、グーテンブルク坊やは少し安心したように胸を撫でた。

「よし、行くぞ、ジョスト」
「はい、ライル様」

 伝えたいことを言い終えたグーテンブルクが、ジョストを伴って去って行く。A組や他の貴族の目があるだろうし、あまり目立ちたくはないんだろうな。

 ふと周囲を見れば、生徒会長のエステアとルームメイトのメルアが、この前と同じようにカフェのテーブルでシフォンケーキと紅茶を優雅に楽しんでいた。

しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

処理中です...